告白
「心優菜の彼氏カッコイイね」
そう言われる事が多い私の彼氏の来夢小学三年から高校卒業まで野球を続けて来た来夢は日焼けをしていて筋肉質。更には小顔で目もキリッとしていて鼻筋が通っている。毎日会っていてもカッコイイなって私も思う。でも来夢には致命的な欠点があった。
その致命的な欠点とは異世界転生恐怖症なのだ。
最初に聞いた時私は意味が分からなかった。真面目な顔で異世界転生恐怖症なんだと言われてバカな事を言ってるって笑ってしまった。
どんなに明るく冗談だよね?って聞いても来夢の表情が和らぐ事はなかった。
両親が大の異世界転生が題材のアニメが好きで小さい頃から一緒に見させられていた事、両親の口癖が「異世界に転生されるぞ」だという事。言われ続けている内に本当にいつか異世界転生されるかもしれないと本当に思い始めた事をこの世の終わりみたいな顔で話してくれた。
さすがにこれは本当の話しなんだって思わされた。来夢は異世界転生恐怖症なのだと。
だからと言ってじゃあ別れよっかなんて事はもちろん言わない。その事を来夢に言ったけど、元カノも元々カノも来夢の恐怖症が原因で別れたらしい。だから今回は先に言っておこうってなったらしい。
でも言われた時には来夢と付き合って一週間経っていた。先に言うならもっと早い方が良くない?って聞いたらせめて一週間でも付き合いたかったからって言われて可愛いって思った。
「でもさ、転生って死んだ時に使う言葉じゃなかったっけ?」
「そうだけど、俺からしたら異世界に飛ばされた時点で死んだも同然だから転生も転移もまとめて異世界転生って言ってる」
「私が異世界転生されたら助けに来てくれる?」
軽い気持ちで聞いた言葉に来夢は石の様に固まってしまった。
「その時考えていい?」
付き合って一週間で私の為に自分が一番怖いと思っているものに立ち向かうってのは無理だよなって事は理解出来るから怒ったりはしない。
「いいよ。でも私が異世界に行った後だったら来夢が来るか来ないか分かんないままだね」
「じゃあそれまでに考えとく」
「異世界行く前提になってない?」
「あっ、ホントだ。気付いてなかった。行かないのが一番だな」
「とりあえず私も異世界転生について勉強しとくね」
「なんの為に?」
「うっかり来夢が異世界への扉開かない為に」
「あぁ、それは頼むわ」
あまりにも真面目な顔で言ったから私は笑いそうになった。でもただでさえすごく気にしているのに笑ったら余計に気にさせるかもしれないと思って必死に我慢した。
今まで異世界転生って言葉は聞いた事はあったけど、作品を読んだり見たりした事はなかった。
アニメの方が小説やマンガよりいいなと思って登録している動画サイトで異世界で検索すると想像を遥かに超える作品数が出て来た。
これ全部見てたらおばあちゃんになっちゃうって本気で思った。流行ってるのは知ってたけど、まさか異世界を題材にしたアニメがこんなにあるなんて。
どうせなら面白い方がいい。こういう時はリンリンだ。リンリンはサークルの先輩で自他共に認めるアニメオタクだ。
電話したら出てくれたけど、出先っぽくて急ぎじゃないからって言ったけど、どうしたの?って聞かれたから用件を伝えた。
「それ急用じゃん。でもミユミユ親に見させられたアニメ以外見た事ないって言ってたのに急にどうした?」
ミユミユとはもちろん私の事。来夢の事はライライと呼ぶ。気に入ったキャラクターのマネをしてそんな呼び方をする。
「んー、なんか見たい気分になったんだよね」
リンリンは年上だけど敬語を使うと怒る。人類みんな友達みたいな考え方をしている。
「最高の気分じゃん」
深くツッコんで来ない所がいい。理由よりも私がアニメに興味を持ったって所が最重要事項の様だ。
「異世界なら何でもいいんだよね?」
「うん、でも出来ればウェブフリで見れるやつがいい。後、ランキング形式で送ってくれると助かる」
「トップ100ぐらい?」
「飛ばし過ぎ。まずは10ぐらいでお願い」
「了解。100ってなると私も悩む。これは50位かな?いや、51位かもって」
100位までお願いって言ったらリンリンは徹夜してでも考えてくれると思う。
「また後で送るね」
「よろしく」
トップ10って言った瞬間に作品が頭の中に浮かんでいたのか三分後にはメッセージが送られて来た。
1位の作品から見る事にする。こうして私の異世界の勉強が始まった。