初ダンジョン
「ドワーフは手先が器用で武器防具を作ったりするから、マリアーノが戦士なのは何だか納得できるけど…。スルタンは、どうして僧侶になったの?」
この台詞は、応接室での会話を終えて翌日の夜に、私が発したものだ。
あれから、エルフのスルタンとドワーフのマリアーノと徒党を組む事になり、「お手並み拝見と戦い慣れをさせるために」というスルタンの提案からギルドから一つの依頼を請け負った。今は、その目的地付近で野宿をしているため、辺りは夜で真っ暗だ。
私達は、焚火を囲んで夕食にありつけていたのである。
「…“転生前のスルタン”と意思疎通ができないから、具体的な理由はわからないわ。ただ、エルフの同胞が言うには、「今後、僧侶としての力がどうしても必要になる瞬間が来る気がする」と、スルタン本人は言っていたみたいよ」
私の問いかけに対してスルタンは、少し罰が悪そうな表情で答えてくれた。
この世界においての僧侶は、天地創造の神・ユヴェルを信奉する。そのユヴェルが人族にもたらした聖典をもとに魔法を使うらしい。しかし、僧侶が使う魔法は私達魔法使いが使う魔法とは全く異なる形態のため、未だ謎が多いという。
所謂、第六感ってやつかしら…?転生前のスルタンが僧侶になるという強い意思があったおかげで、この徒党では攻守のバランスが取れているしね…
私は、話を聞きながらそんな事を考えていた。
というのも、今回4人になった事で、前衛2人と後衛2人と戦いにおいてとてもバランスのとれた徒党が組むことができたからだ。
「この世界を見守る神は多いが…おぬしら、よく覚えることができたなぁ…」
「…まぁ、前世の記憶が戻って旅立つまでに、ある程度時間が会ったからな…」
酒の入った小さな樽を片手に話すマリアーノに対し、保存食の乾パンを片手にザックも話す。
思えば、マリアーノ以外は3人とも転生後の魂になっているのって不思議なかんじがするなー…
そんなこんなで、私達の会話は弾む。
勿論、あまり夜更かしをすると翌日に響くため、食事を終えてある程度の会話をしてからすぐに就寝することになる。
そして、翌日―————————
「洞窟入るのって、初めてなのよねー…」
「洞窟での探索は、早い内に経験しておいた方がいいのよ。剣士だったら狭い道では剣をあまり大振りできないし、魔法使いは火の属性といった、洞窟崩落の危険性のある魔法が使えないという制約がかかるしね。この制約がかかった中でどれだけ依頼をこなせるか…覚えておけば、今後来るであろうギルドからの依頼もたくさんこなせると思うわ」
「成程…」
松明を持って奥へ進む中、呟いた私に対してスルタンによる説明が入り、それを聞いたザックは感心していた。
今回ギルドから請けた依頼は、“洞窟の奥に自生する特殊な花の採取と、奥へ進む道に出没する魔物の退治”だ。依頼人の事はギルドの決まり上教えてもらえないが、内容から察するに依頼人は薬師や薬草家といった薬や魔法薬を作る人間だろう。
ともあれ、洞窟の奥にしか咲かない花…少し興味あるかもな
松明の灯りを頼りに進む中、私はそんな事を考えていた。
「…おるな」
「マリアーノ…?」
奥へ進んでいくと、突如マリアーノが足を止めて声を潜める。
その声音を聞いた私は、自然と声が細くなっていた。
「あそこ…洞窟の天井付近に、たまっているわ…」
「あれは……蝙蝠…?」
実際は私達より少し離れたにいるが、洞窟の天井付近に纏わりついている存在―————————蝙蝠のようだが、私が知っている蝙蝠と何かが違う気がした。
「…あれはおそらく、吸血蝙蝠ね。単体で弱くても、集団で襲い掛かられると自分達より大きい馬のような動物の血を吸いつくすような魔物ね」
「え、結構やばくない…!?」
スルタンが魔物の話をしてくれた途端、敵の強さを聞いて私は少し鳥肌が立つ。
「…なぁ、エセル」
「ザック、どうしたの?」
「あんたが使える魔法で、敵を眠らせる魔法ってあるのか?」
「あ、あるにはあるけど…」
「確かに、寝てもらった方が仕留めやすいかもな…」
しかし、ザックによる提案が、感じていた恐怖を和らいでいっている気がしたのである。
「そうね、動いている敵を仕留めるのは難しいし、エセルの飛び道具になりそうな魔法は洞窟での使用はご法度だし、良い案だと思うわ!」
すると、私やザックより経験豊富なスルタンが同調してくれたため、その案が採用されることになった。
実戦での使用は初めてだから…少し緊張するな…
そんな事を脳裏で一瞬考えた後、私は魔法使いの杖を取り出して敵を眠らせる魔法を行使する。
「おぉ、なかなか…!」
「魔法を行使するまでの時間が、だいぶ短めね…」
私が魔法を行使した瞬間を目の当たりにしたマリアーノやスルタンが、感心しながら見守っていた。
そうして私が唱えた魔法にかかった魔物達は、天井にぶら下がっていた関係で次々に地面へと落ち始める。表情こそわからないものの、動く気配がなかったため、魔法が効いたと思われる。
後々知る事になるが、魔法使いが魔法を行使するにあたって、詠唱から魔法の発言までの時間が短ければ短いほど優秀な魔法使いらしい。エセルに転生してからというものの、周囲の環境や魔法の行使自体に慣れる事を第一に考えていたため、詠唱のスピードまで気が回らなかったのかもしれない。
「普通の蝙蝠ならば、このまま放置しても問題ないが…。吸血蝙蝠は、人や家畜を襲う。卑怯かもしれんが、致し方ない。…ザック」
「あぁ、わかっている…」
吸血蝙蝠が全員寝たのを確認したマリアーノが、小声でザックに声をかける。
その後、マリアーノとザックの二人が各々の持つ得物で、眠りについた魔物にとどめをさす。
その血なまぐさい光景を、私とスルタンは遠目から見守っていた。
マリアーノは、ともかく…。まだ年若い雪斗にとって、魔物を殺す事は……どんな想いで剣をふるっているのかしら…
剣と斧で行う地道な作業を見て、私は物思いにふける。
当然このような手間をかけるのは、私の魔法だと、この洞窟を崩壊させる危険性が伴うからだ。
また、この光景を同じく見守っていたスルタンの表情も、どこか曇っていたのかもしれない。
しかし、マリアーノやザックの方をずっと見ていたため、背後からの気配に私達は気が付いていなかった。
「痛っ…!!?」
「!!エセル…!!!」
突然、私の首の後ろに痛みが走る。
位置的に私は見る事ができないが、スルタンが私の名前を呼んだ直後に感じた違和感によって何が起きたのかが悟る。
「やっ……離れな…さい…よっ…!!!」
私は、必死で私の首筋にくっつく物体をはがそうと動く。
私の首にくっついていたのは、先程魔法で眠らせたはずの吸血蝙蝠だった。魔法が効かなかったのか、あるいは一匹だけ離れた場所にいて偶然魔法にかからなかったのかはわからない。とにかく、自分の中にある血を吸われている事に対して、私は焦りと恐怖を感じる。
「皆、目を閉じて!!!」
「!!!」
スルタンが叫んだ直後、私やザック達は瞬時に瞳を閉じる。
すると、洞窟の空間内に眩い閃光が迸る。私達は目を閉じたので問題ないが、当の吸血蝙蝠はスルタンが放った閃光の光をもろに見てしまう。
「ザック、お願い!!」
眩しくて思わず私から離れた吸血蝙蝠を確認したスルタンは、ザックの名を呼ぶ。
その後はあっという間で、ザックは私の血を吸っていた吸血蝙蝠を一閃の元に下したのである。
「エセル、大丈夫!?」
「うーん…」
光が止んだ後、その場で膝をついた私の側にスルタンが駆け寄る。
吸血蝙蝠を全て片付けたザックやマリアーノも、私の近くへ寄ってくる。
「ちょっとふらつくけど、歩いたりできそうだから大丈夫…かな。スルタンが閃光魔法で魔物を引きはがしていなかったら、やばかったかも…」
私は、軽いめまいを感じながら答えた。
「貧血ね…。貧血の方は魔法では治せないけど、傷の方は治しておくわね」
「ありがとう…」
スルタンはそう述べると、すぐに治癒魔法をかけてくれた。
彼が唱えた閃光魔法と治癒魔法は、どちらも僧侶にしか使えない術。また、ある程度の鍛錬を積まないと覚えない魔法でもあるので、スルタンの優秀さを垣間見た瞬間だった。
「地図によると、あとはここを真っ直ぐ進めば例の花の場所にたどり着けるはずだ…。本当はエセルをこの場で待たせて、儂とスルタンで採りに行った方が早いが…それでもいいか?」
「そう…だね。少し休憩していようかな」
「…ならば、俺がエセルとここに残るよ」
マリアーノの提案に対し、最初は断ろうかと思ったが―――――――――――――誰かの肩を借りる可能性が高いし、足手まといにはなりたくない。そう感じた私は、彼の提案を受け入れる事にした。
幸い、ザックが私と待機すると提案してくれたので、独りで待つことにはならなそうだ。
「じゃあ、すぐ戻ってくるから待っていてね」
「う…うん…」
スルタンが私とザックにそう告げて歩き出したのだが、その時に何故か楽しそうな笑みを浮かべていた。
スルタン、どうしたんだろう…?
去っていくエルフとドワーフの後姿を見送った私は、首を傾げながら考え事をする。
「大丈夫…か…?」
「あー…」
ザックが緊張した表情で私に声をかけてきた瞬間、私は直感でスルタンが見せた笑みの理由を理解する。
私は別にどうって事はないけど…ザックは、思春期の男の子だものね…
私は、達観したような表情で彼を見据えてから口を開く。
「スルタンやザックのおかげで、大事には至らずにすんだよ。…ありがとうね」
スルタンの思惑はどうあれ、私はまず魔物を倒してくれたザックに礼を述べる。
「助けてもらうのが当たり前」と考えている女とは思われたくないし、相手を労う意味もこめた一言だった。
「あ、あぁ…よかった…よ」
私の微笑んだ表情を見たザックは、頬を真っ赤に染める。
そして、照れ隠しなのか、そっぽを向いてしまう。そんな彼を見た途端、「可愛い」と思ってしまう自分がいた。
「ん…?」
「ザック…?」
少しの間だけ沈黙が続いたが、ザックが何かを見つけた事で沈黙が破られる。
ザックは、吸血蝙蝠の死骸付近に何かを見つけて拾っていた。
「鉱石のかけら…か?何かが彫られている…」
「ザック、これって…!」
ザックが拾い上げた物を私も見た時、私達は目を見開いて驚く。
それは石みたいな手触りの鉱石で、その表面には“♭”の文字が彫られていた。
見つけたタイミングからして、吸血蝙蝠が口に咥える等して持っていたのかもしれない。
「地図によると、この洞窟には音楽要素がありそうな罠はないはずだし…」
「いずれにせよ、またどこかで使えるかもしれないから、持っていた方がいいかもね」
「そうだな」
私の考えに、ザックが同意する。
この時、流石に彼は私と二人っきりでいることをすっかり忘れているようだった。
その後、花を摘んだスルタンやマリアーノと合流した私達は、この洞窟を後にする。依頼達成をギルドへ報告しなくてはいけない事に加え、私の貧血も含めて一度体制を整えるため、私達は街へと引き返すのであった。
いかがでしたでしょうか。
今回は、4人パーティーになって初のダンジョンでした。
エセルのミスは、冒険者あるあるだろうかなと書いていた次第だす。
さて、今回見つけた鉱石は、違うダンジョンで使える可能性高い?
どういった場所で使うか今構想中なので、今後活躍を見せてくれると思います!
今回は音楽的な話はないですが、今後も少しずつある予定っすね
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します<(_ _)>




