息が合っている二人
「あの2人…初タッグだろうけど、息ピッタリだなー!何だかまるで、リズムに合わせて楽器を奏でる“プレイヤー”みたいにそっくりだ!」
「ワラセ!私達も負けてられないわね…!」
そう口にした武道家と僧侶は、動き出す。
ザックが妙な視線を感じてから数分後―――—————————今回の野外練習における課題の一つである、疑似魔物との戦闘が始まっていた。
狼か…。確か、獣族は炎が苦手なはず…!
そう思った私はすぐに詠唱し、炎の魔法が魔物達の目の前に立ちはだかる。
「グルルルル…」
「ザック、お願い…!」
「…承知!!」
炎でひるんだ所を私がザックに合図し、彼は疑似魔物の隙をついて剣で攻撃する。
ザックの剣劇で2・3匹ほどの獣が、斬られて飛ばされた後に動きを停止した。
どうやら疑似魔物は種類によって異なるが、一定の回数を生徒が攻撃すると自動的に動きが止まるよう魔法が組み込まれているようだ。
「エセル…後ろ…!!」
「…っ!!?」
ザックは息をあげた直後、エセルの後ろに狼の魔物が飛び掛かってきているのを目撃する。
途端に叫んだものの、彼の位置からは私の後ろにいる魔物まで剣が届かない。
「はっ!!!」
「ワラセ…!!」
魔物に攻撃されると思って瞬時に瞳を閉じたが―――――――――――私に攻撃が当たる事なく、ワラセの声を聞いた途端に瞳をすぐに見開いた。
大きな何かにぶつかる音が響いたと思い振り返ると、そこにはワラセによって飛び膝蹴りを食らわされて木に激突した魔物の姿があった。
無論、この一撃で疑似魔物の動きは停止している。
「ワラセ…ありがとう、助かったわ」
「なんの!俺達、今だけだが仲間だろ?こういう連携が、後の成績向上にも繋がるってのを把握しているしな!」
私が助けてくれたお礼を述べると、ワラセが満面の笑みで返してくれた。
…最後の方で少し打算が含まれていたような気がするけど…まぁ、合理的だしいいかな
私はこの時、ワラセの台詞を聞きながらそんな事を考えていたのである。
こうして、野外演習で課せられていた事を終わらせた私達は、教師陣が待つ所定の位置まで進んで演習を終了することとなる。
「何故、●●家の令嬢である私が、こんな天幕張った場所なんかで夜を明かさなくてはならないのよ!!」
「侯爵子息である俺様に、こんな庶民の飯食わせるなんて…!」
あれから全生徒が演習を合格で終わり、夜を迎えていた。
野外演習は終日行われるため、その日は学院が所持する森にて野営して一晩を明かす。今の台詞は、学院の料理人が用意した夕飯を食べながら話していたとある生徒達の会話だ。
転生者にとってはキャンプ…もといグランピングみたいなものだから、むしろ楽しいけど…。やっぱり、貴族の子息や令嬢にとっては大変な事なんだろうなぁー…
私はそんな彼らを見つめながら、夕食であるシチューを食べていた。
昼間の課題で合格はとったものの、この野営も集団生活の一部として一応は評価の対象となっているらしい。野営は庶民からすると普通かもしれないが、普段は実家でお抱えの料理人が作った美味しいコース料理等を食べ、お風呂の準備はもとい使用人が準備したふかふかのベッドでしか寝た事のない子貴族の息子女にとっては、野営というのは精神的に大変なのだろう。
とはいえ、そんな子息子女の生徒も多く在籍する学院では、彼らの事も鑑みている。
特別仕様の豪華な天幕付きのテントで夜を明かし、学院の食堂でも料理を振舞う料理人が調理済みのご飯を提供してくれるのだから、本来の野営と比べれば天国のような仕様だ。
「エセルとザックも、いいとこのお嬢様とお坊ちゃまなんだろ?他の子息子女みたいな文句は垂れたりしないんだな?」
「そうね。何だか、今の状況もすごく楽しんでいるように見えるし!」
「!」
夕飯のさ中、ワラセとターリアの台詞を聞いた私は、瞬きを数回する。
意表を突かれたような状態なので、私やザックは目を見開いて驚いているように見えたかもしれない。
「実家では、所謂ピクニック的な事をよくしていたから、大自然の中にいるのが慣れているのかも…!」
「あ、あぁ…。俺も、そんなかんじ…だな!」
私とザックは、しどろもどろになりながら答える。
咄嗟に言った台詞ではあるが、完全な嘘ではない。
実は、エセルの実家であるウィザース侯爵家の皆は使用人にこそ明かされていないものの、両親や兄弟姉妹は私がエセルの中に転生した元地球人・寛である事を把握しているのだ。
厳密に言うと、父が持つ“直感”で気付かれたというのが正しいだろう。
ある特定の分野で天才的な能力を持つ者が多いウィザース家なので、寛が本来のエセルと違うのをすぐに感じ取ったのだろう。
「家族にのみ、転生者である事を明かしても良い」とウルヴェルドに言われていたため、両親らの質問攻めに遭っても素直に答える事ができた。
そして、“転生者”の存在が元々認知されていた事と、ウィザース家ならではの頭の回転の速さで私の状況をいち早く理解してくれたという経緯がある。
「…エセル、ちょっといいか。話したい事があるんだが…」
夕食後、天幕の外で焚いている焚火近くにいた私に、ザックが声をかけてくる。
そして、彼の表情を見た途端、どんな話題が出るか私は容易に想像できた。
「…これは…?」
私が指を少し動かすと透明だが薄い膜のようなものが、私達の周囲を覆う。
それを目の当たりにしたザックは、首を傾げていた。
「…私を中心に、一定の範囲内で聴こえる音を聴こえづらくする結界魔法をかけたの。…他人に聞かれたくない内容の話でしょ?」
「…あぁ、そうだな。助かる…」
そう問いかけると、ザックは首を縦に頷く。
ほんの数秒程沈黙が続くが、その沈黙は私の方から破られる。
「ザックって、転生者よね?」
「エセルもだろ?」
お互い最初に切り出した台詞が同じだったため、私達はお互いの顔を見合わせる。
そうして面白くなって爆笑し、それ以後はお互いの転生前の話題に移る。
「転生前も、17歳の高校生だったのね!じゃあ、今と昔の年齢差はほとんどなくてよかったわね!」
「ってか、エセルは元アラサーかよ!!今と一回り以上、年齢差あるじゃねぇか!!外見詐欺…っ!!!」
「…これが日本での会話だったら、激怒したかもよー少年」
私は、冗談交じりで瞳を細めながらザックを睨み付けていた。
しかし、言葉とは裏腹に別に怒っている訳ではない。むしろ、転生前と転生後の年齢に差があるのだから仕方ないのだ。そして、それくらいで激怒するほど私も子供ではない。
高校でギターをやっていたという事実を含めると…。よかった、彼こそ“あたり”っぽいわね…
ザックと話ながらそう確信した私は、運命の女神・ウルヴェルドから言われた使命の事を彼に教えた。
「曲名口にしたらヤバいだろうから、言わないけど…。確かに、“その楽譜”の存在はザック本人から聞いたことがある。まさか、それを破壊するために選ばれたとは…」
使命の事を聞かされたザックは、私の話に対して同調の意を示す。
ここまでの会話でわかったのは、元地球人の高校生・雪斗がザックの前世に当たる。そして私との会話で前世を取り戻した彼が“表”に出てきた訳だが、本来の肉体の持ち主であるザックとは意思疎通が取れるらしい。
「元アラサーって事は…。この世界だと学院卒業して数年はまだ20代な訳だし、旅終わったら結婚相手決めなきゃならねぇんじゃね?」
ちょっと意地悪な笑みを浮かべたザックは、普段の大人びた雰囲気とは全く違い年相応の表情をしていた。
「…残念。私、転生前は既婚者だったよ?」
「はへ!!?」
転生前は独身だったのかと勘違いされている事を察した私は、すぐに切り返してみせた。
そして、私が既婚者である事を知ったザックはその後、挙動不審になっていたのである。
こうして、野外演習も無事終了して、私達は普段と何ら変わらない日常が戻ってくる。
学院で勉学に励みながら、実家では冒険者になるための準備や情報収集等は欠かせないといったところか。
そうして、残り1年半ほどの学院生活はあっという間に終わりを告げるのであった。
ひとまず、学院偏はここまで。
この序章では主要キャラ2人までしか登場しないので、1話ごとのページ数は短めだったのかもしれません。
はたして、寛が既婚者だと知った雪斗は今後、どういった対応をするのでしょうか(笑)
また、次章からは学院を卒業して、いよいよ旅立ちとなります。なので、残り二人の主要キャラも登場予定!
次回もお楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




