エピローグ
物語の締めくくりは、ザックの視点になります。
エセルが黒い光に包まれた際、これが今生の別れになろうとは思いもしなかった。
彼女が落としていった魔晶石を俺——ザックとスルタン・マリアーノの3人で、記憶されている中身を確認したのである。
その魔晶石は音声だけを記録した物で、彼女は魔王戦の際にウルヴェルドと再会した事実は勇者一行がいた時に話してくれたが、あれには“続き”がある事を音声で伝えてきた。
「そんな…!!」
「いくらなんでも、残酷すぎじゃろうて…!!」
内容を聴いたスルタンやマリアーノは、顔を真っ青にして固まっていた。
その続きとは———方法はわからないが、いずれ自分が魔族に再び捕らえられる事。その後、二度と仲間達の元に戻れることはできないという“逃れられない運命”があるという話である。
何故、彼女達だけがこんな目に…!!
俺の脳裏では”本来のザック“が嘆くように呟いていたが、それについては雪斗も同感だった。
”本来のエセル“は、自分自身を無理矢理”裏“へ引っ込ませる事で転生者の寛を守った。そして寛は、俺達と共に旅をし、神々の悲願である”ムジカ・デラフィーネの破壊“を成し遂げた。本当ならば世界中の人々に感謝されこそすれ、まるで生贄として犠牲になるような最期になるなんてあんまりだからだ。
『そして、ウルヴェルド経由で“あの神様”からスルタンに伝言。…“もう目覚めてよいぞ”…ですって』
「…っ…!!?」
魔晶石から聴こえるエセルの音声は、何故かウルヴェルド経由で聞いた言伝をスルタンに伝えていた。
言伝を聴いたスルタンは、目を見開いて驚く。
「……スルタン……?」
黙り込んでしまったスルタンに対し、マリアーノが異変を察知したのか口を開く。
「…ようやく…」
「スルタン…!!?」
黙り込んでいたスルタンの声が聞こえたため、俺が顔を覗き込むと————そこには、いつも明るい美都紀の表情ではない別の“誰か”に変わっていた。
「ザックとマリアーノ…。いや、雪斗とマリアーノでいいのかな?一応、はじめまして。わたしが、“本来のスルタン・ガシエフ”です」
そう、ウルヴェルドからの言伝を聞いたのを引き金に“本来のスルタン”が“表”に出てきたのである。
今まで美都紀と意思疎通ができていなかったため、彼女も驚いたのだろう。
「美都紀は、ちゃんと“わたしたちの中”から声を出しています。なので、今までの事を話させてください」
俺達の不安を感じ取ったのか、彼は優しい口調で述べた。
目覚めたばかりである“本来のスルタン”は、驚愕の真実を告げる。
自身は、この世界でも数少ない“天地創造の神・ユヴェルの声を聴ける者”らしく、マリアーノと出逢うよりもっと以前からユヴェルより神託を受けていたらしい。
「僧侶としての修行を積み、“異界からの来訪者が現れる兆し”を感じたら“裏”へ引っ込んで眠りにつく事。そして、運命の女神・ウルヴェルドからの言伝を受け取るまで他の者と一切の接触を避けること」という内容だ。
詳細こそ教えてもらえかったらしいが、ウルヴェルドの加護を持つ“異界からの来訪者”———つまりエセルが、”逃れられない運命“を課せられている事も事前に知らされていたらしい。
「…美都紀も言っているが、わたしは長寿種のエルフです。エセルの事はわたしと美都紀でずっと憶えている事が、“真実を知っていて何もできなかった自分”の罪滅ぼしだと思っています」
「うむ……そうじゃな」
語るスルタンの瞳は、少し潤んでいた。
マリアーノも悲し気な表情で同調の意を示していたが、俺は何を口にすればいいかわからず黙ったままだったのだ。
こうして、俺達転生者4人による音楽の旅は幕を閉じたのである。
旅を終えた後、俺達は20年後辺りの再会を約束して別れた。
皆が、一時の休息が必要だと判断したからだ。何故20年という歳月かというと、エルフやドワーフは人間である俺より寿命が長い。エルフの平均寿命が900年。ドワーフの平均寿命が、300年くらいだと学院時代に習った記憶がある。そのため、スルタンにとっての“少し先”という感覚は、時間でいうと100年後くらいになるらしい。それだと、人間である俺が死んでいる可能性が高いので、まだ息災でいられそうな20年後にしたのだ。
そうして一度別れた後、俺は実家であるオーウェン伯爵家に帰還した。一度家を出た身の上である事も加えて伯爵家の三男なので、後継といった話にはならなかった。ただし、そこで世界情勢のあれこれを知ることとなる。
魔王復活については、各国が全世界に公表したようだ。それについては「魔王軍が再び復活する前に殲滅するべきだ」という意見や、「何か秘策があるかもしれないので下手に手を出さずに様子を見るべきだ」といった具合で様々な世論が展開していた。
数年後、冒険者を再開した俺の元に悲しい報せが来る。
その報せとは、今代の勇者・バッシュが不治の病でこの世を去ったのだ。幸い、バッシュは自身が勇者である事を大々的に公表していなかったらしく、真実を知るのは世界各国の重鎮と俺らの徒党だけだろう。
「グンニル曰く、彼はその実力を最大限に活かせば魔王を倒せたかもしれないくらい強い聖剣の使い手だったそうです。そして、魔王を完全に討ち果たせるのも聖剣のみ…。バッシュもきっと、無念だったと思います」
バッシュの訃報を報せてくれた僧侶のアイウィッグが、そんな台詞を俺にこぼしていた。
「バッシュの事は残念だったけど…。彼の遺言もあって、貴方達4人の功績については労うように言っておいたから…。その内、色々と動きがあるかもね」
「勇者の遺言…。ってか、“言っておいた”って随分軽いな!!」
その後、バッシュの葬儀に参列した際にエルフの魔法使い・フレイプが俺にそう教えてくれた。
「エセルの事も…スルタンから聞いたわ。いずれにせよ、貴方達4人は”己の使命を成し遂げた“のだから、もっと堂々としてもよいんじゃない?」
「あぁ…。ありがとうな、フレイプ」
俺とフレイプは、少し離れた場所で悲し気な表情を浮かべるアイウィッグやゲルト。そして、スルタンやマリアーノを見つめながらそんな会話をしていたのであった。
その後、俺達3人は自分達の故郷がある国の重鎮から恩賞を賜った。
そうして、俺達の功績は人々の間で語り継がれていく事となる。
真実を全て伝える訳にはいかないため、ある程度脚色した内容になったようだ。
『旧い時代に作られた負の遺産“ムジカ・デラフィーネ”。これを破壊すべく、運命の女神・ウルヴェルドの加護を得た”異界からの来訪者“である人間の魔法使いが、同じ”異界からの来訪者“である人間・エルフ・ドワーフを引き連れて音楽の旅へ出た。道中で様々な困難が襲い掛かるが、最終的に”ムジカ・デラフィーネの破壊“に成功。それによって、世界を死に至らしめる究極魔法が悪しき者の手によって行使される脅威は去った』———そんなおとぎ話のような実際の話が、後世へと伝えられるようになったのである。
「寛…。この魔王の身体が朽ちるまで、ずっと一緒だよ…」
その後、彼女達の魂はイルジオによって石人形の中に移されていた。
亮は、そんな魂だけの彼女に優し気な声で語り掛けるのが日課となっていた。
「……」
一方、エセルからの返答はない。
というよりは、魂だけの存在である彼女は精神感応魔法による脳内会話しかできないため、常人が彼女の声を耳にすることができないようだ。
エセルやバッシュを失った事は、俺達にとっても世界にとっても大きな痛手だった。
しかし、その悲しみを代償に世界が得たものは大きいだろう。音楽においては、これまで以上に各国が教育の現場で積極的に取り入れるようになり、これをまた学ぼうという姿勢になる人族が一気に増えた。また、名前こそ大々的に公表してはいないが、美都紀もその後古代楽譜の解読を進めたことで、音楽発展に大きく貢献したようだ。
また俺達に倣ってなのか、冒険者達の間でも異種族同士で徒党を組む奴らが急増したようだ。魔王や魔族が世界に与える脅威はまだ健在だが、音魔法はほとんどの魔族が使えないという事実も公表された事で、人族側も音魔法の研究に力を入れるようになったらしい。
人間である俺はその瞬間に直面する事はないだろうが、この未来において魔王が完全に討伐され、彼女達の魂が解放される日が来るかもしれない———そんな願望を抱きながら、俺・スルタン・マリアーノの3人はその先の人生を歩んでいくのであった。
<完>
いかがでしたでしょうか。
この回にて、この物語は終了となります。
ハッピーエンドには至らなったですが、「悪い事ばかりではない」という気持ちで書いていた次第です。
伏線回収できなかった話もありましたが、スルタンの事についてしっかりと書けたのはよかったと思っています。タイトルに”転生者”という単語が入っているので、スルタンだけ本来の彼が登場しないのもなんだかなーというかんじですかね。
また、物語のタイトルで「行きませう」とつけたのは、ムジカ・デラフィーネの歌詞に日本語が使われていたり、寛達主要キャラの前世が日本人だった事が由来しています。また、他で登場した転生者も皆日本人でしたね。
さて、長くなりましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
次回作の方は少し未定なので、その間はこれまでの作品の修正を行っていこうかなと考えています。
では、またどこかの作品でお目にかかれればと思います。
2025年10月8日 皆麻 兎




