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他の転生者と共にいざ、音楽の旅へ行きませう  作者: 皆麻 兎
ムジカ・デラフィーネ編

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逃れられない運命

「そして…ムジカ・デラフィーネの破壊が無事に終えた後、貴女には逃れられない運命(さだめ)が待っています」

「え…?」


魔王戦の際———運命の女神・ウルヴェルドと再会した折に、今のような台詞(ことば)を言われていた。


最初の方では、亮が覚えていた旋律が“名もなき楽譜”の一部だろうと判明した事で喜んでいたが、その台詞(ことば)を皮切りに私の心臓の脈が跳ねた。


「…先も述べた通り、私はその者自身の運命が変わるような直接的な干渉は禁じられています。ただし…此度、創世神より命じられたムジカ・デラフィーネの破壊を達成できた暁には…。として、ユヴェル様より“ある運命”だけは伝えても良いと許しを得ました。聞くか聞かないかは、貴女の自由ですが……聞きますか?」

「うーん…」


ウルヴェルドの突然の申し出を聞いた私は、その場で腕を組んで考え込む。


 …私は、どちらでも構わない。失うものがない現在(いま)、如何なる吉凶が起きようとも驚きはしない…。


 そか…。そうね、あんたも私と同じこと考えていたんだね


脳裏では、”本来のエセル“が(わたし)に語りかけていた。一方の私も、地球で一度死んだ身の上。しかも、転生後は希望も絶望も味わったため、この先何が起きても驚かないだろうと結論を出し、閉じていた口を開く。


「…聞くわ、ウルヴェルド。“未来(さき)を教えてもらえる”なんて一生に一度、あるかないかの出来事だしね!」

「…わかりました」


私の返答を聞いたウルヴェルドは、苦笑いを浮かべながらその先を話してくれた。


彼女は己が司る“運命”でも具体的には伝えられないため、わかりやすい概要的な部分で私達(エセル)に今後何が起きるのかを教えてくれた。その内容とは、“無事にムジカ・デラフィーネの破壊を終えた後に、再び魔王に囚われる”との事だった。

この話を聞いた時はまだ魔王戦の真っ最中だったので、「また!!?」と思わず声に出してしまったのである。


「如何なる方法で囚われるか…は、定かではありません。ただ、今度は逃げる事も許されない状況になるでしょう」

「ムジカ・デラフィーネがなくなってしまえば…。私の価値は、“亮の(つがい)”である事のみになってしまうものね」


語るウルヴェルドは平然としていたが、その端々で複雑そうな眼差しをしていた。


 下手したら、またザック達が私を助けにきてしまう…?


私は自分がどうなるかの恐怖よりも、「自分の為にまた仲間が傷つくのではないか」という方が正直怖かった。


 私としても、皆…特にザックには、幸せになってもらいたい。だとすると…


私が考え事をしていると、本来のエセルも呟いていた。


「内容にもよりますが、定められた運命を変える事は容易ではありません。しかし、“未来(さき)を知ることができた”という事は、それに向けて“準備”ができる事を指すのではないですか?」

「準備…」


ウルヴェルドが私に語りかけると、私は何かに気が付いたような表情(かお)になる。

それを目にした女神は、黙ったまま首を縦に頷いた。


「貴女が私の愛し子である事を彼の者が知ったのであれば、おそらくは…。いえ、憶測でものを言うのは止めにしましょう」

「ウルヴェルド…?」


運命の女神は私に何かを告げようとしたが、途中で口にすることを止めた。

この時は、その“逃れられない運命”に向けてどう準備すべきかを考え始めていたため、ウルヴェルドが何を言おうとしていたのかを考える余裕が全くなかったのである。



そして、時は現在に戻る。


「このかんじ…。魔封じの術以外は、かけていなという事?」

「その通りですよ、エセル。魔王様の命ではありますが…わたしも、今の貴女には必要ないと思っています」


再び魔王城の廊下を歩く羽目になった私は、以前と比べるとかなり尖った態度になっていた。


私が黒い光に包まれて、魔王城へ瞬間移動させられた後————イルジオが今回の種明かしをしてくれたが、概ね私の予想通りだった。それは、私が初めて魔王城(このしろ)に連れてこられて“本来のエセル”との邂逅を果たした後に眠らされた際、万が一魔封じ及び縛魂の術が破られた時の対策を講じていた。その対策とは、“ある呪文”をパスワードとして瞬間移動魔法を発動すること。その発動を容易にできるように、私達(エセル)の魂にイルジオの魔力の痕跡らしきものを刻んでいたと彼は告げる。


 邂逅(あれ)以降、(わたし)とエセルの意思疎通が取れやすくなったのも…。“痕跡”をつけた後の、副作用的な現象(もの)だったなんてね…!


内容は大体予想はできていたものの、改めて聞かされると苛立ちが募る。

態度が変化したのも、2度目という慣れや苛立ちが大きいだろう。


「くく…戻ったようだな」


そして、再び魔王ディーフラッツのいる謁見の間にたどり着く。

もうはじめましてではないため、魔王も慣れたような口調で話しかけてきた。


「…残念ながら、あんたの魔力を封じていたムジカ・デラフィーネは、もう存在しない。なので、私の利用価値はないはずでしょう?」

「くく…。初めて会った頃と比べると、口達者になったものだ」


相変わらず強気な態度をとる私だったが、慣れたとはいえやはり魔王が持つ雰囲気や魔力は強すぎておそろしい。

圧力(プレッシャー)に負けないよう強気で臨むしか、自分を保てないからだ。


「因みに、ムジカ・デラフィーネに関しては完全復活とはいかなかったが、そなたのおかげでかなり魔力が回復したのでな。()()()()()()()であの楽譜を使うつもりはないので、煮ようが焼こうが想定の範囲内だ」

「では、何故…」

「君が、俺の妻だからだよ。寛」

「…っ…!!」


私は、大体の答えは解っていても疑問形を崩す事はできなかった。


「そんな事はない」と自分に言い聞かせたかったからだろう。私が話そうとすると、“表”に出てきた亮が私の言葉を遮る。


「俺は、可能な限り寛と共に在りたい。…だが、君は人間。俺が魔族という時点で、“ずっと一緒にいる”のは無理だろう。そこでだ……“おいで”」

「亮…」


魔王の顔をしたかつての夫は、そう口にしながら私に手招きをする。


この瞬間目が合っていた事で、私の足は一人でに進みだしてしまう。今度は縛魂の術はかけられていないため、魔王本来の能力(ちから)だろう。亮も魔王も、お互いが持つ能力を存分に活かしているようだ。

玉座に座る魔王の側まで歩いてきた私に対し、亮はその大きな手で私の頬を優しく触れる。


「エセル…だったね。今の君が持つ身体は、魔族にとって希少な魔力を放っている事はディーフラッツから聞いたよ。それと、そこにいるイルジオって奴からの提案でもあるんだが…。“君達”の魂を別の物体(もの)に移し、その肉体を魔王ディーフラッツに捧げるなんていいんじゃないかなと思ったんだ」

「…!!!」


亮によるあまりにも恐ろしい提案を聞いた私は、驚きの余り声が出なかった。

同時に、血の気が引いたのか顔が真っ青になっていく。


 ()が正気じゃない…!!


 この男…正気の沙汰ではないな…!


私は、言い出した亮に対してかなり恐怖していた。

同時に、”本来のエセル“も亮の提案をありえないと考えたのだろう。


「良い考えだとは思わないか?心優しい(きみ)の事だ、共に冒険してきた仲間とやらの事も気にしているんだろう?…この提案を受け入れてくれれば、魔王も魔族も君の仲間を殺さずに済む。…そして、俺は君と死が訪れるまで永遠に一緒にいることができて、ディーフラッツは美味しい食事にありつける…。これならば皆がウィンウィンであり、誰も傷つかないんじゃないか?」


得意げに話す彼の瞳は、狂気に塗れている。


本当ならば否定しなくてはいけないところだが、今の私にそれはできなかった。

それは、互いが殺し合いをせずに済むという意味ではとても合理的であり、合理的な判断ができる私にとっては否定のしようがなかったからである。


 …これが、ウルヴェルドが言っていた”逃れられない運命“ってこと…


私の脳裏には、ウルヴェルドが口にしていた“運命”の二文字が浮かんでいた。

数秒間ほど、沈黙が続く。二人の魔族は、上等な魔力を持つ人間の魔法使いによる返答を黙ったまま待っていたのである。


「…答えは出たな?エセル」

「その提案………受け入れるしかないって事よね」

「くく…。賢明な判断だ」


いつの間にか“表”に出てきたディーフラッツの一言を受けて、私は諦めたかのように返答した。


ディーフラッツは、その大きな手に生えている爪で私の身体をなぞった。

魔族なだけあり、少し力を入れただけでも皮膚が裂けて血が出てしまいそうなくらい鋭い爪を持つ。


「くく…。それにしても、極上の餌が“彼女”の加護者(いとしご)であるとは、不思議な巡りあわせもあるものだ…」

「…以前、ウルヴェルドと再会を果たしていた時に話していた事があったけど、もしや…っ…!!?」


再び魔王は、私を膝上に乗せる。

身体に触れながら口にした台詞(ことば)に対して私が考えていた事を話そうとすると、ディーフラッツは私の話を遮るかのように唇へ口付けをしていた。


「…っ…ぁ…!!」


かなり深い口付けをした後、唇を離した魔王は話し出す。


「これからは、時間はいくらでもある。細かい事は、いずれな…。…イルジオ」

「…はっ」

「…例の物を準備しろ」

「御意」


魔王はイルジオに何かを命じ、それに応じた大魔族はすぐに謁見の間を後にした。


 …“彼ら”が、全てを終わらせてくれる事を祈るしかないわね。ともあれ…


この瞬間(とき)(わたし)と本来のエセルは同じことを考えていただろう。それは、自分達の大事な人々がこれからも寿命尽きるその瞬間(とき)まで、生き抜いてほしいという願いだった。


 皆、生きて幸せになってね…。そして……本当にごめんなさい…


私は、心の中で泣きそうになりながら、魔王にその身を委ねたのである。



ムジカ・デラフィーネが封印されていた無人島にて消えた後、私————エセル・サラ・ウィザースを見た者はいない。しかし、世界で回っている時間は決して止まらない。そして、音楽を知ろうとする冒険者達や、魔王を倒すべく動く勇者一行の脚も決して止まらないのであった。




いかがでしたか。

…なんて言える展開ではないですね。

これまで多くの小説を完結まで書ききりましたが、今まででもっともハッピーじゃないエンドを迎えちゃうかもです。ただ、ほとんどの伏線は回収できたはず…。

話の展開上、深堀できない話ができてしまいましたが、その辺りはご想像にお任せします。

ともあれ、次回はエピローグとなりますので、最後までお付き合い頂けると幸いです。


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。


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