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他の転生者と共にいざ、音楽の旅へ行きませう  作者: 皆麻 兎
ムジカ・デラフィーネ編

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最初で最後のアンサンブル

今回、視点が途中からエセル→スルタンに変わります。

変更地点で”※”が記載されているので、注意してご覧ください。


マリアーノが追っ手らしき魔族との交戦が始まり、同時に私達3人による演奏は続く。


 譜読みした時から長いなとは思ったけど…。いざ演奏してみると、やっぱりきつい…!!


私は、身体でリズムを刻みつつアルトサックスを演奏しながら、想いの丈を心の中で吐露する。


私が担当するムジカ・デラフィーネの楽譜。元はどの楽器で演奏する楽譜(もの)かは不明だが、ページ数でいうとB5用紙8枚近くあるだろう。これは、紙の表裏どちらにも音符が記載された状態におけるページ数だ。私が経験した事のある吹奏楽の楽譜で、B5用紙6枚分くらいの曲で演奏時間が約11分の(もの)がある。そのため、ムジカ・デラフィーネはそれよりも長い楽譜である事が推察できるのだ。


 ザックは弦楽器(ギター)なのでまだいいけど…。管楽器(サックスとユーフォ)である私とスルタンは、かなりしんどいわね…!!


 自分の譜面を見つつ、同時に向い合せで“名もなき楽譜”を演奏するザックやスルタンを私は一瞥する。


しかし、そんな弱音を吐く訳にはいかない。

この楽譜が存在する限り、魔王は自身の魔力を取り戻すことを諦めないだろう。仮に魔族以外の者に渡ったとしても、世界を死に至らしめる音魔法が楽譜に暗号として盛り込まれている以上悪用されかねない。だからこそ、この楽譜は”存在してはいけない楽譜“なのだ。

そして今現在において、ムジカ・デラフィーネの効力を無効化して破壊できるのは、私達の徒党(パーティー)にしかできないだろう。

それをよく理解していた私達は、演奏しつつも緊張していた。


「…!!」


マウスピースを加えているので声は出せないが、その後垣間見た光景に対して私は目を見開いて驚く。


演奏している傍らで、私の脳裏には転生前の記憶がまるでスライドショーのように浮かんでいた。


 これは、もしや寛の…!?


起きている事に対して、ずっと黙っていた”本来のエセル“も反応を示していた。


 予想はしていたけど…。まさか、本当に“見せてくる”なんて…!!


想定内の出来事とはいえ、いざ起きると不快感がまず現れる。


音魔法の聖地である村にて村長からムジカ・デラフィーネを作曲したユミルドの話を聞いた際、思い当たるような事を言っていた。

ユミルドが転生者であった可能性や、ムジカ・デラフィーネを作り上げてから死亡したこと。そこから、この曲には怨念ともいえるような負の魔力が染みついてしまったのだ。ましてや、私達がしようとしている事は楽譜の破壊。もしムジカ・デラフィーネに意思があったとしたら、私達の行為を止めさせようと妨害するような動きを見せる可能性はあるだろう————無人島(ここ)へ向かっている時に、仲間達(みんな)と話していたのだ。


 負けて…たまるか…!!


ムジカ・デラフィーネが見せる場面の中には当然、かつての夫・亮と過ごしてきた幸せな日々も含まれている。

最近まで魔王に転生した彼を見ていただけに、胸を切り裂かれそうな気持ち悪さを私は覚える。しかし、負ける訳にいかない———そう強く誓った私は、屈せずに演奏を続けていた。


 …?


私が懸命に演奏する様子を”本来のエセル“は黙ったまま見守っていたが、不意に違和感を彼女は覚える。

今は(わたし)が“表”に出て肉体を動かしているので、“内側”にいるエセル本人が“違和感”を覚える事はないはずだ。

しかしその違和感は、神々の悲願が叶いそうな一方で悪い結末の序章となっているのであった。



 あともう少し…!!


最初で最後のアンサンブルが続く中、私————スルタンは演奏の手ごたえを感じていた。


“名もなき楽譜”は、ムジカ・デラフィーネを破壊するためにユミルドの双子の弟・ラレクが作曲した代物だ。そのため、曲の長さはムジカ・デラフィーネと同様の長さでページ数も多い。しかも3楽章構成のため、各章の速さが異なる。


 ぶっつけ本番なのに、エセルもザックも頼もしいわ…!!


私は、ユーフォニアムのマウスピースを加えながら思う。


初めてその曲を演奏する際、音符の配置や流れを見るために演奏者が必ず行うのが“譜読み”だ。私達3人や今は“表”に出ていない彰彦は経験者だから関係ないかもしれないが、楽器初心者だとこの“譜読み”の段階で、楽譜に音の読み方を記載したり強弱記号の位置を確認したりするようだ。本来アンサンブルは、本番前の合わせ練習は欠かせない。だが、今回はムジカ・デラフィーネという何も考えずに演奏する訳にいかない曲と合わせるため、ぶっつけ本番でやるしかなかったのだ。


 マリアーノは…。魔族が来ちゃっているけど、こっちに被害が出るほど苦戦はしていなそうね…!!


演奏中、一瞬の合間を見てマリアーノの方を一瞥する。

彼は斧を片手に、魔族と交戦していた。敵がこちらに近づいて来ないところをみると、私・エセル・ザックの3人が演奏の妨害対策を既にしていると見て警戒しているのだろう。


 そして、全ては、エセルのおかげって事よね…!


演奏中、私は法の神殿でエセルが経験した事が今活きている事を実感する。


というのも、法の神殿に呼び出された際に、エセルだけ転生前の記憶を一部思い出す必要があった。そこで寛の元夫である亮が覚えていた旋律が、今私が演奏している曲の一部だったことが判明したからだ。

現に旧い楽譜であることから、亮が記憶していた旋律部分の楽譜が破れていた。また、初めて楽譜を手に取った際も切れ端が残っていなかった事から、ダンジョン等で発見された時から紛失していたのだろう。今回のムジカ・デラフィーネの破壊に伴い、どちらの楽譜も全ページ演奏をしなくてはならない。そのため、エセルがその欠けた旋律部分を思い出してくれた事で、今アンサンブルが成功しているといっても過言ではないのだ。



その後、私達3人による演奏は続く。

ページも後半に差し掛かり、第3楽章の終盤———あと何小節で終わるというところまで来ていた。


「ぐあっ…!!」


マリアーノと交戦していた魔族の、苦悶の声が響く。


彼が持つ斧が敵の心臓部分を抉る———いわゆる致命傷を受けたためだ。


「こいつは……ここまでか…」

「…最期に言い残すことはあるか?」


斧を構えたマリアーノは、敵に対して言い残したことがあるかを訊く。

時と場合にもよるが、マリアーノも戦士である以上敵にとどめをさす際に、最期の一言は聞くようにしている。


「…じゃあ、一つだけ」

「なんだ」

「…“アレグロ”」

「……」


敵は最期に意味深な一言を告げ、マリアーノはとどめを刺した。

先の魔王城で戦った魔族(あいて)と比べると、そこまで苦戦する敵ではなかったことを幸いと思い、マリアーノはついに演奏し終えた私達に視線を移す。


「はぁ…はぁ…」


最後まで演奏しきった私達は、緊張の糸が途切れたのか————息があがっていた。


「光が…!!?」


気が付くと、私達の頭上には白い光と黒い光の塊が出現していた。

その2つの光は、うまい具合に混ざりあっている。その混ざりあった瞬間が、太極図に似ているような気がしたのは、私だけではないだろう。


「わっ…!!」


混ざりあった2つの光は、空高く舞い上がり霧散した。

その際に強い光を放ったため、私達4人は腕で()を覆ったのである。


「ついに…」


光が見えなくなると、不意にエセルが呟く。


「ついに私達…やったのね…!」

「えぇ。これで、この楽譜はただの紙切れよ…!!」


今のでムジカ・デラフィーネが持つ力が全て無効化した事を悟った私達は、お互いの手を取り合い喜んだ。


楽器を置き、お互いが喜びの抱擁をする。普段笑う事の少ないザックですら、朗らかな笑顔になりながらエセルを抱きしめていた。私も、マリアーノとハイタッチをして喜ぶ。


「…さて!無効化が完了したところで、あとはこの楽譜を燃やすだけじゃな…!」

「そうね!さっさとやってしまいましょう…!」


ひとしきり喜んだ後、エセルがムジカ・デラフィーネの楽譜を手に取り、木が生えていない場所へ移動した。


その理由は当然、木に火が飛び火して森が火事にならないようにするためだ。移動後、あらかじめ用意していた焚火用の木に対し、エセルが魔法で火を点ける。程よい焚火になった炎の中に、ムジカ・デラフィーネの楽譜を放り込んだ。


 雑魚みたいな魔族は現れたけど…無事、アンサンブルを成し遂げられてよかったわ…!


焚火の中で燃える楽譜を見守りながら、私はそんな事を考えていた。

大きなトラブルになる事なく、目的を果たしたのだ。達成感を感じるのと同時に、全員が疲労を感じていただろう。そのため、睡魔も押し寄せてきていたその時だった。


「エセル!!?」

「これが…!!?」


異変に気付いた瞬間、私やエセルが声を張り上げていた。


気が付くと、エセルの全身を黒い光が覆っている。ザックとマリアーノは驚きの余り声を失っていたが、私はエセルの名前を呼んでいた。


 エセルの内側から現れた…!!?という事は、あらかじめ仕組まれていた現象(もの)…!!?


私は魔法使いではないため、行使された魔法が誰のものかを判別する事はできない。しかし、周囲には魔族の気配はない。よって、はるか遠くからこの魔法を行使しているとなると、そのような芸当ができるのは一人くらいしか思いつかない。


『お疲れ様です、皆さん』

「この声は…」

「イルジオ…!!」


姿こそ現してはいないものの、エセルから発する黒い光を通じて響いてきたのは魔法のエキスパートである大魔族・イルジオの声だった。


『無事、ロキサーヌの部下が呪文を唱えてくれたようで安心しました』

「呪文って…まさか、先程の魔族が最期に口にした!!?」

『…その通りです』


イルジオの台詞(ことば)に対し、マリアーノが反応をする。


私・エセル・ザックの3人は聞き取れなかったが、マリアーノが先程魔族にとどめをさした際、謎の単語(ことば)を口にしていたようだ。同時に、この無人島に現れた魔族が”烈風のロキサーヌ“の部下だった事を知る。


『…では、術の効果がきれる前にお暇します。この娘、魔王様の許へ返させてもらいますよ』

「エセル…!!」

「皆…!!」


今の台詞を皮切りに、イルジオの声は聞こえなくなる。


しかし、黒い光はエセルを包み込んでしまう。外部からの物理攻撃及び魔法を無効化する魔晶石を使っていたにも関わらず魔法が行使されたという事は、魔王城にエセルが一度囚われていた際に仕込まれたとしかいいようがない。そして、最後の台詞でエセルも私達3人も、この後何が起こるかを悟っていた。

焦ったザックは、エセルに向かって手を伸ばす。


 エセル…!!?


しかし、当のエセルは驚いている節はあったが、怖がっている雰囲気はなかった。それどころか、口パクで何かを伝えようとしている。


 “生…き…て…”!!?


唇の動きから、何とかエセルが伝えようとしている内容を私は悟った。


最後にエセルが一瞬だけ笑みを見せると————彼女は、黒い光に包まれて消えてしまったのである。


「くそっ…!!!」


目の前で攫われた事によって、ザックは拳を強く握りしめていた。


「…まさか、エセルの体内に術を仕込んでいたとは…。じゃが、彼女のあの態度…」


マリアーノは、私の近くへ足を進めながら言葉を紡ぐ。


 やっぱり、マリアーノは気が付いたようね…


私は心の中で呟きながら、エセルの立っていた場所に落ちていた小さな魔晶石を拾う。

「再び攫われる」という恐怖は、誰しもが持ち合わせている感情だろう。しかしエセルは、自身に魔法が仕込まれていた事も含めて、驚きはしつつも怖がってはいなかった。もしかしたら、この展開を予測していたのかもしれない。


「まずは、この魔晶石を調べてみましょう。おそらく、これは…」


私はその先を口にすることなく、黙り込む。

そんな私を見たザックとマリアーノは、黙ったまま首を縦に頷いたのであった。


いかがでしたか。

怒涛の展開&音楽用語たくさんでしたね。

出てきた用語にかんしては、こんなかんじっす↓


●アンサンブル…木管楽器、金管楽器、弦楽器の複数の楽器で同時に演奏すること。2人以上の奏者が楽器の音色や特性を活かして、調和のとれた演奏をすること全般を指す

●アレグロ…イタリア語が語源で、スペルは”Allegro”。「速く、快速に」というテンポの指示語として使われる。


イルジオがどういうつもりでアレグロを使ったのかはわかりませんが、エセルが魔王城で軟禁されていた際にこの呪文を皮切りに瞬間移動の魔法が発動するよう仕込んだと思われます。

あと、ムジカ・デラフィーネのページ数や曲の長さについて例としてあげた曲は実在する曲を参考に書いてます。また、筆者自身もアルトサックスで演奏経験した事のある曲のため、その長さは身をもって知っているかんじっすね(笑)


これまでの伏線回収及び、まさかの再び捕まるという展開。ただ、前回と異なるのはエセル本人がこうなる事を予想していたような態度だった事。何故、事前に攫われるのを知っていたのかは次回以降になります。そういった事情につき、異変に気付いた際にエセルが口にした台詞は入力ミスではないのであしからず(”これが”という言葉の後に、”これが、再び自分を連れ去る要因か”と内心で考えていたと思います”)

せっかく、旅の目的である”ムジカ・デラフィーネの破壊”が無事済んだのに、また一難。とはいえ、物語終盤となり最後まで駆け抜けていこうと思いますので、次回もお楽しみに★


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。


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