演奏開始
今回は、途中でエセル→マリアーノと視点が変わります。
変更するところには、”※”が入っているためご注意ください。
無人島とはいえ、魔物の気配すらない…?
陸上及び水上の移動を経て、私達4人はムジカ・デラフィーネが安置されていた無人島に到達していた。陸に降り立って感じたのが、魔物の気配が全くないことだ。
「おかしいわね…。以前、勇者一行が訪れた際はある程度魔物が生息していたって話よ」
「彼らが一度倒したとはいえ…不思議だ。この島はどの国の管轄ではないから、冒険者や一般市民が上陸するはずもないだろうし…」
スルタンやザックを私と同じことを考えていたようで、次々にこの無人島の印象を語っていた。
「勇者一行に恐れをなして、寄り付かなくなったのか…。いずれにせよ、警戒は必要じゃが作業をするにはうってつけの環境かもしれんな!」
事態をポジティブに見るマリアーノが、スルタンやザックの会話に入ってくる。
この前の一件で、マリアーノは身内を一人亡くしているのに…。彼は、精神が強いんだな…!
私は、いつも通りの態度で仲間に接するマリアーノを見て、自分も見習わなければと考えたのである。
一方で私は、自分の弱さを思い知らされる。この無人島へ”宙に浮く板“に乗って移動していた際、フレイプから預かった魔晶石を使う機会があった。それはまさに、各国の要人が集まる会議が無事開催され、”魔王や魔族と接触した唯一の人族“として魔晶石を通じて証言したことだ。
バッシュ辺りから話は既に通っていたようで、発言を求められるまで特に問題は生じなかった。各国要人の視線が少し怖かったが、何とか話せる範囲での事を語った。私が魔族と繋がっていない証明も兼ねて亮が魔王の中に存在する事も話したため、私は心臓が締め付けられるような想いで語ったのは今でも覚えている。
今は兎に角、私ができることを全うしなくては…!!
しかし、今の私達にはやらなければならない事がある。そのため、弱音を吐くのはここまでにしようと思い、3人と一緒に無人島の中心部へと脚を進めた。
「割れた銅像…?」
「あの中心に、ムジカ・デラフィーネが置かれていたって事ね」
脚を進めた私達4人は、島の中心部ともいえる場所に到達していた。
これといった建造物はなく、草の生えていない場所に片手で持てるくらいの小さな銅像が割れた状態で散乱していたのである。
ザックは解らないようだが、魔法使いである私はすぐに気づいた。とはいえ、”本来のエセル“が持つ知識だが、この世界における旧いお宝が風とかで飛ばされないよう安置するために魔力の籠った銅像を周囲に配置する事がある。その銅像を壊せばお宝を持ち出せるが、あの魔王ディーフラッツの魔力を封じていた楽譜だ。銅像とて、簡単に壊せたという訳ではないだろう。
「天候も今日は良さそうだし…。ちゃちゃっと始めてしまいましょう!」
「そうじゃな!」
そう切り出したスルタンの腕の中には、今回のムジカ・デラフィーネ破壊に必要な“名もなき楽譜”が握られていた。
私が使える収納魔法から、古代楽器やら楽譜やらを出して演奏の準備を始める。
スルタンが持つ“名もなき楽譜”は、本来はスルタンの故郷であるエルフの里に置いてありかつ楽譜解読をしていた楽譜の一つだ。そして魔王戦の際、私が運命の女神・ウルヴェルドの加護を経て手元に持てるようにした楽譜である。
あれが、ラレクとやらが作曲した”名もなき楽譜“…
スルタンがユーフォニアムを吹く準備をしているのを私が視界に留めた際、”本来のエセル“が脳裏で呟いていた。
ただし、私も楽器を演奏する準備をしていたため、彼女の声に応える事はできなかったのである。
「…さて!各々、楽器の準備はできたかしら?」
数分後———楽器をすぐにでも演奏できる状態になったところで、スルタンが私達に声をかける。
私はアルトサックス。スルタンは、ユーフォニアム。ザックはギターに模した古代楽器をそれぞれ手にしていた。
「…じゃあ、“私の楽譜”も出すわ」
皆の用意が整ったのを確認した私は、収納魔法でムジカ・デラフィーネの楽譜を取り出した。
ムジカ・デラフィーネの破壊に伴い、私達の役割分担はこうだ。私がムジカ・デラフィーネの曲をアルトサックスで演奏し、それに重ねるようにしてスルタンとザックがユーフォニアムとギターで名もなき楽譜を演奏する。それによって、ムジカ・デラフィーネで使える全ての音魔法を無効化することだ。それが終わり次第、楽譜を火で燃やす。
本来はそこにマリアーノによるドラムが加わる予定だったが————先の魔王戦で彰彦が“表”に出るのが大変になって深い眠りに入ってしまったため、彼だけは演奏できない。代わりに、マリアーノには周囲に敵が現れた時のための対応という護衛的な役割を買って出てくれた。
幸い、私もザックもスルタンも…。拍を刻むのは普通にできるので、打楽器が不在でも大丈夫でしょう…!
私は、一抹の不安を抱えつつも仲間達を信じようと心に誓う。
そうして楽譜を手にした私達は、音魔法の聖地である村で入手した地球でいう譜面台のような物に楽譜を置いて開いた。
「エセル…始めてくれ」
「えぇ」
全員が演奏する体勢に入った所で、ザックが私に声をかける。
私は、緊張した面持ちで首を縦に頷いた。
こうして、ムジカ・デラフィーネを破壊するため。そして、私達にとっては最初で最後になるであろうアンサンブルが開幕する。
※
演奏、ついに始まりおったな…!!
吹き出しはエセルによるアルトサックとやらのソロから始まり、そこからザックやスルタンのギターとユーフォニアムとやらの音が入ってきた。
ワシ———マリアーノは、いつでもすぐ戦えるよう斧を持った状態で待機していたのである。
また、ワシが皆を護衛するとはいえ、何事にもアクシデントは付き物。先日滞在していたエルフの里を出る際、エルフの魔法使い・フレイプより“対物対魔法結界を発動する魔法が組み込まれた魔晶石”を渡されていた。おそらく、魔族らの襲撃を予測しての事だろう。手際の良さとそんな石を作り出せる彼女に対しては、ある意味尊敬できる部分もありそうだ。
『あの“眩惑のイルジオ”には本当、嫌な想いをさせられたわ!もう徹底的に倍返ししてやらないと、気が済まない性格なのよね。魔法に関してだけの話だけど』
魔晶石をもらった際、ワシはフレイプが口にしていた台詞を思い返していた。
”嫌な想い“とは、十中八九”結界魔法に閉じ込められて窒息死させられそうになった事“じゃろうな…
ワシは一瞬遠い方に視線を向けていたが、魔法に対して貪欲な魔法使いらしい一面なのだろうと思うと不思議と面白く感じていたのである。おそらく、「耳長族でなければ友人になっても良い」と思えたくらいには————
「本当に、この場所で始めたようだな」
「!!」
すると、森の茂みの方から声が響いてきた。
ワシは、その声に反応して後ろを振り向く。
「やはり、現れおったな…」
そう呟くワシの瞳には、背丈はザックやスルタンくらいの背丈を持ち、頭に1本の角を持つ男の魔族が立っていた。
「イルジオ様曰く、楽器演奏の妨害対策として結界魔法とかを使用しているらしいから、皆殺しはできないし…。やっぱり、そこの女を拉致って魔王様にお返しするのが無難かなー…」
敵は、こちらの状況を伺いながらブツブツと独り言を呟いていた。
「解りきった事ではあるが…。今、ワシの仲間達が楽器演奏中でな。ワシとて無駄な殺生はしたくない。故に、このまま何もせずに帰ってくれるとありがたいんじゃがな」
「…はぁ?」
ワシは斧を構えながら交渉をしてみるが、敵は不機嫌そうにしかめっ面をそる。
ここ最近、それなりに強大な覇気を持つ魔族と対峙していたから、何だか拍子抜けなかんじじゃな…
ワシは、敵を観察しながらそんな事を思う。
イルジオは殺意やら覇気やらわかりにくくて気味が悪かったが、ラゴウ辺りはかなりの覇気を戦いのさなかで感じ取っていたからだ。
「おっさん、冗談は顔くらいにしとけよ!近隣にいたとはいえ、こちらはわざわざこんな島に来たんだ!手ぶらで帰れる訳ないだろうよ」
「では、仕方ないな。エセルを再び魔王に会わせる訳にはいかんので、害虫駆除とやらをさせてもらおうかのう…!」
その台詞を皮切りに、ワシは追っ手の魔族らしき奴との交戦が始まる。
“誰の配下”といった名乗りを相手はしてこなかったが、今はどの大魔族の配下であろうと関係ない。“ムジカ・デラフィーネの破壊”を実現するため、邪魔をする者は排除あるのみだからだ。
じゃが、楽器演奏をしているだけで、ワシらのやろうとしている事に気が付くものだろうか…?
一方で、ワシは腑に落ちない事が1つある。
それは、敵が如何にしてワシらが“ムジカ・デラフィーネの破壊を試みる冒険者”である事を見抜いたかだ。楽器演奏だけでは、それを成そうとしているか判るはずがない。しかし、仲間達を守るための戦いが始まってしまったため、ワシはその理由を深く考える余裕はない状態へ陥ったいたのである。
いかがでしたか。
いよいよ、エセル達の旅の終着点である”ムジカ・デラフィーネ破壊”の作業がスタートしましたね!
追っ手らしき魔族が現れたのが気になるところですが、演奏開始まで何事もなくてよかったと思います。あとは、無事に演奏しきれるかどうか…
次回をお楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




