休息と情報共有。そして…
魔族の手から無事に助け出された私は、ザック達や勇者一行と共にエルフの魔法使い・フレイプの故郷であるエルフの里にたどり着いていた。
「何をするにも休息がまず大事」という事で、ここ5日間ほどは各々で心身共に休めていたのである。
エルフの里…というより、外観だけ見ると只人の村と大差ないなぁ…
滞在している間、私はふとそんな事を考えていた。
フレイプの故郷であるこの里は、数あるエルフの集落と比べるとかなり新しめの集落らしい。というのも、各地に暮らすエルフの中で、考え方の相違等で他の同胞から疎まれたり、里を飛び出して冒険者をしていた者といった「色々な里から抜けてきたエルフ」が集まって作られた里だからだ。
スルタンの故郷である里は、旧くから存在するためか森の精霊の恩恵をとてもよく受けているが、この里はあまり精霊の気配がない。ところが、この里に居を構えるエルフのほとんどが、外界を飛び回った経験がある。そのためか、只人やドワーフといった他種族の言語をよく知る者が多いため、コミュニケーションに関しては問題ないようだ。
この里が只人の村と似た雰囲気を感じるのは、そういった様々な価値観を持った者が集った故だろう。フレイプのような優秀な魔法使いがこの里出身なのも、何だか頷けるな
そ…そうね…
私が考え事をしていると、“本来のエセル”が私に語り掛けていた。
これまで、寛と本来のエセルは意思疎通ができなかったが———魔王城に軟禁されていた際、四天王の一人・眩惑のイルジオの魔法によって“本来のエセル”との邂逅を果たしていた。その結果というべきかわわからないが、ザックと雪斗のように”本来のエセル“と意思疎通ができるようになったみたいだ。
また、この静養している5日間の間にお互いによる情報共有や、私への説明が為された。
スルタンの故郷にも魔族の襲撃があり、その内1人の魔族を勇者・バッシュが撃破。マリアーノ合流から魔王城侵入。二手に分かれる事で、スルタンとマリアーノ。フレイプとゲルトが私を攫った魔族・ラゴウや四天王の一人・“烈風のロキサーヌ”を撃破。バッシュ・アイウィッグ・ザックによる魔王との死闘————と、私のいない所でかなり皆が奮闘してくれたのを改めて知ったのである。
同時に私は、可能な限り拉致された以降の事を話した。魔王に献上された後、亮がディーフラッツの中にいることを告げられ、ムジカ・デラフィーネの解読を無理矢理させられた事。魔王は“共存”を願っていたがために、“人類の数を可能な限り減らして支配する”という思考に走ってしまった事。また、イルジオによって“本来のエセル”と初めて会話したこと等を語った。
同時に、魔王が仕掛けた結界魔法に閉じ込められた際、現実世界においてはコンマ1秒ともいえる短い時間の間だけ運命の女神・ウルヴェルドと再会し、ちょっとした助言をもらった事も併せて伝えたのである。
私が魔族に拉致されていなければ、彰彦が眠りにつくこともなかったのかな…?
ザック…いや、今は雪斗か。彼が言っていた通り、寛は何も悪くない。全ては、寛を利用して完全復活を果たそうとした魔王ディーフラッツ。そして、奴に従う魔族達が悪いのだからな…
私が不意に弱音を吐くと、エセルはすぐに慰めの言葉をくれた。
魔王城を脱出した直後、全員が怪我は大小あれど五体満足だったので“無事に生きて帰ってこれた”と喜んだが、やはり悪い報せもあった。というのも、フレイプと一緒にイルジオと対峙していたマリアーノ。彼の内にいる彰彦が、しばらく“表”に出られなくなってしまったという事だ。
『彰彦曰く…イルジオの魔法で一度拘束された際、魂を分離する魔法を奴は使おうとしていたようなんじゃ。魔法行使は阻止できたももの、発動直前まで来ていた事で彰彦の魂に傷…もとい何かしらの不具合が生じたそうじゃ。故に、“しばらく打楽器を演奏したりできなくなると思う”とワシに伝えた後、応答しなくなってしまったんじゃ』
私の脳裏には、マリアーノが私達に向かって話してくれた内容が浮かんでいた。
マリアーノが言うには、イルジオの幻影魔法にかけられた彼を救うため、普段“表”に出てこない彰彦がかなり奮闘してくれたそうだ。そのおかげで、敵に深手を負わせられたという。
様々な情報が行き来した事で、私もある会話を思い出していた。
『イルジオ様。もし、この娘が魔王様の所有物でなければ…どうなっていたでしょうか?』
『…順当にいけば、わたしたち四天王が食い殺したでしょう。…もしくは、命知らずな魔族達がこの娘の奪い合いをしていたかもしれませんね』
「…っ…!!」
思い出した途端、私の全身に鳥肌が立つ。
今の会話は、私がドワーフの村で魔族に拉致され、魔王城に到着して間もないくらいに交わされたであろう会話だ。
ラゴウに気絶させられ抱きかかえられた私だったが、魔王城にたどり着いた辺りではうっすらと意識を取り戻していたのだ。とはいえ、“目を開けない方がいい”と直感で何か感じ取っていたのかもしれない。イルジオとラゴウが会話していた際は、瞳を閉じたまま聞き耳を立てていたという事になる。
また、私が軟禁されていた部屋に運び込まれるまでの間、私を抱きかかえたラゴウによる唾を飲み込む音を何度か耳にしていた。あれはおそらく、すぐにでも血肉を食らいたいが、私が魔王への献上品だったこともあって我慢していたからこその行動だったのかもしれない。
フレイプから聞いた話によると、魔族は魔力の“量”及び“質”も感知できるらしい。その中でも私は、魔力量は大して多くはないが、“質”は誰もが欲しがるほどの上等な魔力だとラゴウが告げていたようだ。
そして”本来のエセル“曰く、過去にウィザース家の先祖で魔族や魔物に襲撃されて食い殺された者が複数いたという話を父から聞かされていたらしい。その事実を知った寛は、それはウィザース家の者には時折、私達のように魔力の”質“が高い者が産まれるのではと仮説を立てたのである。
「今後、冒険の中で魔族や魔物の襲撃には気を付けてください」と、僧侶のアイウィッグからも忠告されたため、今後はより一層「自分の身は自分で守らねば」と強く想った瞬間だったのである。
魔王城から脱出して6日後———私達は、里の中にあるフレイプの自宅に集まっていた。
「さて!怪我や体力がだいぶ回復してきたところで、今後の話をしておこう」
そう切り出したのが、当代の勇者・バッシュだった。
この時、フレイプの自宅には私を含む徒党と、勇者一行が一堂に会していた。私以外は全員作戦会議で顔を合わせているのでなんてことないが、今回初めて全員集まる場にいる私は、すごく不思議な感覚をしていたのである。
「俺達4人は、あんたらの助言通りムジカ・デラフィーネの楽譜が封印されていた土地へ出向き、譜面を完全に破壊する事。なので、勇者一行とはここでお別れになるな」
「だな。勇者一行も、魔王との再戦もあることだし…」
今後の動きについてザックが発言し、それに対してバッシュは私の方を一瞥しながら言葉を紡ぐ。
「エセル」
「え…あ!なに…?」
不意にフレイプより声をかけられた私は、彼女の方を向いて返事をする。
「この静養期間中にも伝えたんだけど…。私達が魔王討伐へ再び行く際、貴女を連れていけない事はわかってちょうだいね」
「えぇ…。ごめんなさいね、無理言ってしまって…」
フレイプとの会話の中で、私は少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら述べていた。
フレイプから言われた内容については、思い当たることがある。それは、魔王ディーフラッツの中には私の転生前の夫・亮の魂が眠っているからだ。あの時の会話から察するに、亮は私と自分が共に在る事を望んでいる。最初は“魔王を説得するために同行したい”と勇者一行に提案したものの、即却下される。それは、私が魔王討伐に加わってしまうと、再び捕まって人質にされる可能性も捨てきれないからだった。
「…連れていけない代わりに、嬢ちゃんに協力してもらう事はあるんだろ?アイウィッグ」
「…はい。魔王討伐を目的とする私達にとってエセルさんは、かなりの“重要人物”にあたる方ですしね」
「その件については、どれもエセルの方から出向く真似はせんでいいんじゃな?」
「そうだ。彼女の身の安全のためにも、離れた場所から助けてもらう事になりそうだ」
ゲルトやアイウィッグ。そして、マリアーノやバッシュらがそれぞれ話す。
私・ザック・スルタンは、それを黙ったまま聞いていた。
この日の対談において、私達が互いに共有した今後の話についてはこういった内容だった。
勇者一行は、今回の魔王城侵入で得た情報をとある親交が深い国の要人に伝える。その内容も踏まえて、エルフの長やドワーフの長といった各地のお偉いさんとの間で魔王復活を世論に伝えるか。どう対策を立てるかを会議して決めるようだ。
その辺りが確定したところで、バッシュ達は再び魔王討伐に向かうという。
一方私達は、フレイプの助言によって旅の目的である”ムジカ・デラフィーネの楽譜破壊“を楽譜がこれまで封印されていた無人島にて行うと確定した。当然の事だが、フレイプの故郷であるこの里やその周辺で”その作業“をする訳にもいかない。当然、只人の国やエルフの里・ドワーフの村付近で行う訳にはいかない事に加え、元々ムジカ・デラフィーネの楽譜が封印されていた無人島は、どこの国の領土でもない場所らしい。そのため、楽譜を封じておくことも破壊することもやり易いといえるだろう。
「エセル。貴女には、これを」
「これが、件の…」
話の途中、フレイプから一つの魔晶石を渡される。
受け取った途端、やはり今まで感じたことのないような魔力が宿っているのを私は体感していた。
「企業機密ってのもあるので、実際の開催日時は教えられないわ。でも、“貴女の出番”がきた際には、魔晶石が淡い紫色に光るから準備しておいて頂戴」
「ふーん…。これが、遠く離れた場所から声や姿を伝えられる力を宿した魔晶石なのね…」
私がフレイプから魔晶石を受け取っていると、スルタンが間に入って覗き込んでいた。
今回、私が勇者一行に協力する事———一つ目が、勇者一行や各国の要人が集う会議にて魔王についての証言をする事だ。ザック達や勇者一行は魔王と戦いはしたものの、ディーフラッツや他の魔族と最も長い時間を過ごしたのは私一人だ。だからこそ、少しでも魔族の情報を得たいという事だろう。それは、向こうから打診される前に自分から何かしら手伝おうと思っていたので願ったり叶ったりだ。
「エセルさん。この後、“記録”を録ってもいいですか?」
「…えぇ。お願いするわ」
フレイプの次は、少し申し訳なさそうな表情をしたアイウィッグが私に声をかけてきた。
対する私は、すぐに承諾をしたのである。
勇者一行に協力することの二つ目は、魔王もとい亮に向けてのメッセージを魔晶石に記録する事だ。これは、地球でいうところのビデオレターのような物だろう。音や映像を記録できる魔晶石を使い、亮へ向けてのメッセージ動画を録る。これをおそらく、魔王ディーフラッツとの再戦の際、彼に見せるのだろう。
敵が説得で応じてくれるはずもないだろうが、内に眠る亮に少しでも響かせるためだ。
寛はもう、ディーフラッツに近づけさせる訳にはいかない。しかし、亮の説得がうまくいけば魔王を倒す上で何か光明が差すかもしれない…って事よね。いずれにせよ、亮とちゃんとしたお別れができなかったので、良い機会かもな…
私は、複雑そうな表情をしながらアイウィッグに対して相槌を打っていたのである。
この対談を終えた私達は、昼食を皆で摂り楽しく過ごした。一時的な共闘だったとはいえ、少しの間だけでも仲間同士だったのだ。完全にとはいかなくても、かなり打ち解けたのだろう。その楽しいひと時を過ごした後、私達4人と勇者一行はそれぞれが果たすべき使命のために里を出発し、別れていくのであった。
いかがでしたか。
新章突入し、今回は一休みな回ですね。
何せ、前回まで熾烈な戦いを繰り広げていた訳ですし、休息は何より大事ですしね。
また、筆者としては共闘編の振り返りと今後エセル達や勇者一行がどう動くかの確認もできた回なので、音楽要素はなかったけど、内容の濃い回になったかなと。
次回から勇者一行は登場しないことになりそうですが、またどこかで話には出てくるかも?
さて、次回以降はせっかく手に入れたムジカ・デラフィーネの楽譜破壊に向けて本格的に動き出すでしょう。お楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




