弱まる魔法
今回は、マリアーノ→エセルと視点が変わります。
変換地点にて”※”を表記しているので、注意してご覧ください。
彰彦…!!
マリアーノ…!!
彰彦がフレイプによる収納魔法で手にした小太鼓を歌いながら演奏した事で、ワシ———マリアーノは、イルジオにかけられた幻影魔法から何とか脱出する事に成功する。
「ぬぅぅ…!!!」
そして、すぐさま“表”に出てきたワシは、敵による拘束魔法を自力で抜け出そうと力を入れ始める。
「なっ…!!」
肩に力を入れてツタのような物体をワシが引きちぎると、それを目の当たりにしたイルジオが驚いていた。
「いてっ!!」
拘束魔法を逃れたワシは地面に無事着地するも、頭上から落ちてきた古代楽器が後頭部に当たる。
「痛い」と口にしながらも全然平気なのは、自身を含めてドワーフが石頭の者が多いが故の頑丈さがあるからだろう。
よかった、マリアーノ…。あとを…頼…む…
「…彰彦?」
地面に降り立ち再び斧を手にした時、脳裏に響いてくる彰彦の声が弱弱しく感じた。
しかし、まだ戦いが終わった訳ではないことから、ワシは改めて敵を見据える。
「音魔法の賜物…という事ですね。油断しました」
気が付くと、耳を抑えていた手を離したイルジオの姿があった。
「ならば、更なる幻影の世界へ誘…」
イルジオは再びワシに幻影魔法を使おうとしたが、成功しなかったのである。
その後の展開は、本当に一瞬だった。イルジオが幻影魔法を使おうとした刹那、彼の背後をフレイプによる閃光魔法が襲う。同じ術師なだけあってその攻撃魔法は瞬時に部分的な結界を張って凌いだものの———そちらの対応で手一杯だったイルジオは、間合いを詰めてきたワシの対応ができなかった。
一瞬で間合いを詰めて振り下ろしたワシの斧は、魔法を放とうとしていたイルジオの右腕を瞬く間に切断したのである。
「…全く、結界魔法で窒息死…なんて、性格悪すぎよ…」
そんな事を呟いていたのが、彰彦の音魔法で結界の威力が弱まり、自力で抜け出すことに成功したフレイプだった。
口調こそ威勢はあるが、やはり少し息切れしておるか…
ワシは、彼女の台詞とは裏腹に、窒息しかけた事でそれなりに息切れをしているのを感じ取っていたのである。
「流石のおぬしも、二対一では分が悪いかもしれんが…。こちらも、負けてられんからの。改めて、倒させてもらうぞい…!」
「………」
ワシは、斧を構えて敵の前に立つ。
一方で、イルジオの背後には戦闘態勢に入ったフレイプも立っている。そんなワシら2人を見据えた大魔族は、この後どうすべきか頭をフル回転し始めるのであった。
※
そうして、マリアーノ達が奮闘し同時刻における謁見の間では———私が、自身に起きた異変に気が付いていた。
もしかして…イルジオが私に施した術の効力が、弱まっている…?
私は、ムジカ・デラフィーネが置かれている机から離れてみようと自らの意思で足を動かす。すると、少しずつだが動かせるようになったのだ。同時に、“魔力が体の中を巡る”という、魔法使いが魔法を行使できる状態に少しずつ戻っているような感覚に陥る。
「出た…!」
「!!」
試しに基本的な魔法である、火の魔法を私は唱えてみた。
すると、威力はかなり小さいが火の玉が出現する。その火の玉はムジカ・デラフィーネに当たると、黒い結界のような光に飲み込まれて消えてしまう。しかし、その瞬間をこの場にいる全員が目撃していた。
「エセル…来い…!!!
「ザック…!!」
「させん…!!」
気が付くと、ザックが私に向かって手を伸ばしていた。
それに反応した私はその手を取ろうと走り出すが、当然そう簡単に上手くはいかないのが世の常である。
「これは…!?」
あともう少しでザックの手を取れそうだった辺りで、私達を何かが遮る。
黒い光を放つ物体は、私の四方八方を塞いでいた。
「…どうやら、そなたらの仲間によってイルジオが苦戦しているようだな。ムジカ・デラフィーネが使えないのは惜しいが…戦いが終わるまで、その結界魔法の中で待っているがいい」
「この…!!」
「あぁ。当然の事だが、その結界魔法は耐物・耐魔法結界故に、如何なる攻撃や魔法も弾いてしまう。まぁ、イルジオが使う術とは違って窒息死はせんがな」
少し息が上がりつつも、魔王が普段の口調に戻しながら話す。
私は咄嗟に魔法で結界魔法を解除しようとしたが、魔力を吸収してしまうと言われては成す術がない。
「魔王の魔力が戻る心配はなくなったけど、これじゃあ…!」
結界魔法に閉じ込められた私を目にしたスルタンが、舌打ちしてから話す。
ただし、結界魔法の中にいる関係でその声自体は聞こえていない。そのため、私は皆の唇の動きを読んで、何を話しているかを推測するしかなかった。
また、全身は顕現していない状態だが、ディーフラッツは片足だけでも器用に立ち上がっていた。
「囚われのお姫さんを助け出せないのは癪だが、おかげでこっちは魔王との戦闘に集中できそうだぜ!!」
「いくぞ、ゲルト!!」
一方、勇者一行の前衛二人は、この状態でも怯むことなく魔王に立ち向かう。
流石というべきではあるが、このまま長期戦に持ち込めば人族である私達の方が不利になる。
皆の足を引っ張ってしまって申し訳ない…!!ただ、今のうちに何か打開策を考えないと…!!
私は、戦闘に加われない事が何とも歯がゆかったが、精神に少しでも余裕ができた今、この状況を何とかせねばと思い頭を巡らせる。
『エセル…』
「!!?」
すると突然、私の脳裏に声が響いてくる。
その声に聞き覚えはあったものの、「何故今聴こえるのか」という疑問が先に私の頭の中を占めていた。
「ようやく、直接交流できましたね」
「え…!!?」
意識が一瞬飛んでいた私は、ある女性の声で我に返る。
周囲に敵や仲間達の姿はなく、今いる空間は私と“彼女”しか存在しない場所といったところか。
「どうして、ウルヴェルドがここに…!!?」
私は、目の前に現れた女性の名を口にする。
転生者として覚醒する前に会って以来なので、かなり久しぶりの再会というべきか。いずれにせよ、どうして今このような状態になっているかが理解できない私は、混乱していた。
「…この空間で過ごす時間は、現実世界ではほんの一瞬ですが…。いずれにせよ、説明が必要そうですよね」
私に食い入るように訊かれたものの、運命の女神は動じることなく話し始める。
運命の女神であるウルヴェルドは、その役割から“生き物達の運命を大きく変える”ような干渉は禁止されているらしい。しかし、“ムジカ・デラフィーネの破壊”は創造神・ユヴェルより命じられた事であり、少しでも“その未来”に達するように尽力する必要もある。そのため、この空間を借りて、私の魂に“助言”程度の干渉をしに来たのだと説明してくれた。
「…あの譜面の破壊は、創造神から命じられていたのね」
話を聞いた私は、大きく頷きながら相槌を打っていた。
「えぇ。その具体的な理由は、私も存じません」
「…まぁ、それ以上の詮索はするつもりはないからいいけど…」
「ありがとうございます、寛。それでは、本題へと移りましょう」
寛からこれ以上の詮索がない事で安心したのか、ウルヴェルドの表情が少し柔らかくなっていた。
そうして一呼吸置いた女神は、再び口を開く。
「寛…いえ、便宜上今はエセルとしましょう。貴女達は今、魔王ディーフラッツとの戦いで苦戦を強いられているでしょう。楽譜の破壊に踏み切れる状態ではない…」
「そうよ。せっかく私にかけられた魔法が弱まったというのに、今度は魔王による妨害を受けている」
「魔王を倒せるか否か…。それは勇者を導くグンニルの領域故に、この先どんな結末が待っているかは解かりません。ただ、私が今言える事は…」
「言えることは…?」
ウルヴェルドの話に対して、私は食い気味に話を聞いていた。
彼女に訊きたい事は山ほどあるが、今はやはり「現状をどう切り抜けるべきか」が最重要項目なので、そのように食い気味になるのかもしれない。
「…トージンに託した、私からの伝言を覚えていますか?」
「伝言…」
ウルヴェルドが切り出した話は、思いがけない内容だった。
…確か、2つあったような…
私は、この時に法の神殿に訪れた時の事を思い出していた。
少しの間だけだが、私達2人の間で沈黙が続く。
「…転生前の記憶を、私だけが思い出さなくてはいけないこと。もう一つが、法の神殿にあった鏡で思い出した内容を覚えておくように…の2つ?」
「その通りです」
私はウルヴェルドが雷神・トージン経由で私達に託した言伝内容を述べると、ウルヴェルドは首を縦に頷いた。
「貴女の転生前の夫・亮…現在は、魔王ディーフラッツの身体に転生してしまった者が口ずさんでいた“音”。あれは旧き時代における、“とある曲”の一節なのですよ」
「“とある曲”…?」
私は、ウルヴェルドの台詞を聞いた途端、その言い回しに対して首を傾げる。
ムジカ・デラフィーネの事ならば、その名前を口にするだろうけど…。“とある曲”って、未だ私が知らない曲という事…?
私は、首を傾げながら考えていた。
「…貴女達が楽譜解読をする中で、見つけているかもしれません。その曲はおそらく、“運命の曲”と云えるかもしれません。また、エセルが覚えてくれていたフレーズを合わせれば、曲は完成となるでしょう。そして…」
「…!!!」
ウルヴェルドが語る中、最後の方を聞いた私は驚いていた。
そうして神との対談はこの後終わり、私の魂は現実世界へと引き戻されていくこととなる。
いかがでしたか。
彰彦の活躍で、マリアーノ復活!!
喜ばしい展開ですが、まだイルジオとの戦いは終わっていない?
エセルもせっかくかけられた魔法が弱まってきたのに、魔王から新たな魔法を使われるとは…。そして、かなりお久しぶりなウルヴェルド様。
彼女が最後の方の台詞で言った内容は、今後判明するでしょう。
バトルも後半に来ているかな?次回も楽しみ★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




