戦いの前における
今回は、ザックの視点で話が進みます。
スルタンやマリアーノ達が熾烈な戦いを繰り広げる中、先へと進んだバッシュ・アイウィッグと俺——ザックは、魔王がいるとされる謁見の間へと向かっていた。
「あの2体の魔族を、あいつらが引き受けてくれたせいか…魔族や魔物の気配がほとんどないな」
『油断はするなよ、バッシュ。魔王のことだ、わざと我々を招き入れている可能性も高いからな。それと、剣士の小僧』
「…俺の事か?」
足早に進む中、バッシュとグンニルが語る。
不意に剣武神が、俺に対して声をかけてきた。
『今現在においてバッシュ以外で剣を持つのは、小僧しかいないだろう。…一応、伝えておくが、魔王はその出で立ちだけでも相手を震え上がらせるくらいの魔力と気迫を持つ。また、その瞳を真正面から見てしまうと、意思の弱い者は一瞬にして操られてしまうから注意せよ』
「わ…わかった」
グンニルが俺に対して一気に説明をしたので、一瞬だけ圧倒されてしまった。
以前に会ったトージンと比べると、随分話しやすい神様だな…
俺は、脚を進めながらそんな事を考えていた。
「…今のところ、魔力隠蔽をしている魔族の気配もないですし…。まもなく、謁見の間に着きそうです」
移動しながら話すアイウィッグの手には、ゲルトより引き継いだ魔王城の地図が握られていた。
そうして、周囲を警戒しつつ俺達は先へと急ぐ。
途中魔物に出くわして戦闘にはなったものの、勇者のバッシュや俺一人でも倒せるような雑魚がほとんどだった。
すんなり進めるところをみると…グンニルが言っていた魔王の性格も、あながちはずれではないかもな…
俺は、周囲を警戒しながら勇者一行の2人と共に魔王城を進んでいく。
それから、どのくらい魔王城の中を進んでいったのかはわからない。ついに、謁見の間があるとされる巨大な扉の前へたどり着いた。
「…開けるぞ」
緊張した面持ちをしたバッシュが一言呟いた後、俺と二人で巨大な扉を開く。
「!!!」
巨大な扉を開けて、中に入ると————そこは広い空間となっていて、中央の奥に玉座がある。そこから、気をしっかり持たなかったら押しつぶされるような圧力のようなものを俺は感じていた。
「…ようこそ、人族の諸君。といっても、まだ全員集合ではなさそうだがな」
魔王が一言口を開いたところで、俺達3人はその姿を目にする。
一見すると顔立ちは俺ら人族とさして変わらないが、頭には2本の太くて長い角があり、両腕や顕現したばかりだという左足は巨大な魔物のように大きいという歪な姿をしている。そして、その腕の中には少しうなだれたような表情をした人間の魔法使い———エセルがいた。
「エセル!!!」
「ザック…!!他の二人は…!!?」
俺は、「やっと逢えた」という想いと「早く助け出さなくては」という想いがぶつかり合い、すぐにでも剣で立ち向かいたかった。
しかしその心情を察したのか、アイウィッグが右手で俺を黙ったまま制止したのである。
「…他の魔族と交戦中だ。だが、じきに追いつく」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせた後、スルタンやマリアーノの事を彼女に伝えた。
二人が無事である事を聞いたエセルは、一瞬だけだが安堵の表情を見せていたのである。しかし、現状から察するにとても落ち着いていられる雰囲気ではないのだろう。
「せっかく我が城へ来てくれたのだ。まずはお互い、自己紹介とでもいこうか」
「正直、面倒だけど仕方ない。俺は、当代の勇者・バッシュだ。そんで、得物の聖剣…もとい、グンニルとは既に面識があるんだろ?」
「くく…そうだな。剣武神については、省略といこう」
魔王と勇者という相容れない存在の割に、彼らは飄々とした態度で自己紹介をしていた。
これから戦うってのに、なんて軽い挨拶…
俺やアイウィッグが名乗る中、このやり取りの軽さに少しだけ呆れていた。
…だが、魔王の圧力にも屈せず、あんな軽口を叩けるのだから…。伊達に勇者を名乗っていないという事だな
応える余裕はなかったが、俺の中にいる”本来のザック“が呟いていた。
また、お互いに自己紹介をしたのはまだ勇者一行と対面していなかったエセルの事もあるだろう。魔王がそこまで彼女の事を考えているか定かではないが、バッシュやアイウィッグがエセルを一瞥した事で自己紹介が一気にできたことはある意味良かったのかもしれない。
「さて、自己紹介が終わったところで…。魔王ディーフラッツ。俺達が魔王城に侵入した目的は、既によく解っているだろう?そこにいるエセルって娘を、彼らに返してやってほしい」
「…その様子だと、この娘を部下に拉致させた理由は聞いているのだろう?無論、それは無理な相談だ。最も、理由はわたしの完全復活以外にもあるがな…」
「…どういう意味だ」
自己紹介が終わってバッシュやディーフラッツが会話する中、後者が俺の方を一瞥してから述べた台詞に対し、訊き返した。
「くく…“その理由”は、エセルが一番よく解っているだろう。…話してやるといい」
「あんたなんかに言われずとも…!」
魔王はエセルの髪を指で触れながら、彼女に話すよう促す。
何故、魔王がこうも彼女に馴れ馴れしく触れるのかは解らないが、見ている内に不愉快な気分になっている自分がいた。
「一応訊いておきますが、エセルさん。貴女は、魔封じの術及び縛魂の術で身体の自由を奪われていますよね?…四天王である大魔族・イルジオの手で」
「えぇ」
「まさか、自らの意思で魔族達に協力しているなんて事もないですよね?」
「そうね」
すると、頃合いを見計らっていたのかアイウィッグがエセルにいくつか質問を投げかける。
対するエセルは、それに首を縦にして頷いていた。
返答した彼女は、不意に俺の方に視線を落としてから口を開く。
「ザック…。信じられないかもしれないけど、魔王…ディーフラッツの中には、私達と同じ転生者の魂が眠っているの。しかも…」
「!!?」
エセルの台詞を聞いた俺は、目を見開いて驚く。
一方で、“転生者”の意味を知らない勇者一行の二人は深刻そうな表情を浮かべながら、その会話を聞いていた。
「エセル…?」
話の続きを口にしようとしたエセルの身体が、小刻みに震えていた。
一見すると何かに恐怖して震えているようだが、その表情から察するに恐怖以外の感情がにじみ出ている。そんな彼女の側にいる魔王は、不気味な笑みを放ちながら俺達の会話に耳を傾けていた。
「転生前…もとい“異界からの来訪者”たる魂が………私の……夫…なのよ…!」
「なっ…!!?」
“異界からの来訪者”というバッシュらにも伝わる単語を使ったエセルは、驚愕の真実を伝えてきたのだ。
言葉の真意を理解したバッシュやアイウィッグも、目を見開いて驚いている。
勇者一行が倒すべき“敵”に…まさか、寛の夫だった魂が宿るとは…。なんと、残酷な運命…!!
この事態に対し、”本来のザック“もかなり驚いていたのである。
同時に、雪斗は寛が何故あんな悲痛な表情を浮かべているのかが唐突に理解した。
こんな運命を課した神様も神様だが、エセルの心情を無視して己の復活と野望のために操るなんて…!!
俺は、次第に怒りがこみあげてきたのであった。
いかがでしたか。
今回、他の回と比べると短めだったかもしれませんが、この続きを執筆していた際に「これは一度区切らないとかなり長くなる」と思い、ここで一区切りつけました。
言いにくい事を何とか口に出せたエセルは、ある意味グッジョブ。
そして、久しぶりの主人公登場という状態(笑)
次回は、まだ魔王サイドと勇者サイドによる会話はもう少し続きます。
そして、スルタンやマリアーノ達はザックらと無事に合流できるのか?
次回お楽しみに★
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