熾烈な戦い
今回は、最初にスルタン視点→マリアーノに変わります。
切り替わるとき、”※”が出てくるので注意してご覧ください。
「なんだって、俺が野郎と組まなくちゃいけねぇんだか…」
勇者バッシュや、僧侶のアイウィッグ。そして、ザックが先へと進んだ後、魔王城の少し広い建物の中には私——スルタンと、武闘家の青年・ゲルト。マリアーノとエルフの魔法使い・フレイプの4人が残った。
私達の視線の先には、2人の魔族が立ちはだかっていた。
流石、勇者一行の前衛ってところかしら。大魔族である四天王を前にしても、そんな軽口が叩けるなんて…
私は呆れが半分あったものの、もう半分はその度胸に感嘆していた。
「…ご心配なく。見た目は男だけど、中身はバリバリ20代の女子よ」
「…外見と中身が全く違いすぎるが…まぁ、いいか。さて、俺は生粋の前衛なんでサポート頼むよ。スルタンちゃん?」
多少の嫌味を込めた台詞を私が返すと、相手は更にからかうような口調で返してきた。
…ガキね。まぁ、少しでも緊張がほぐれたから良しとしようかしら
「…よろしくね」
クスッと笑いながら、私は返事をした。
その後、私達は敵を見据える。
「貴方達が、私と遊んでくれるのかしら?」
「そういう事になるな。まぁ、別嬪さんと遊べるのならば勇者に感謝かもな!」
「…私達は、早くエセルの元へ向かいたいの。だから、さっさと倒されちゃいなさい!」
余裕そうな笑みを浮かべるロキサーヌに対し、こちらも挑発するような態度で応える。
一見すると軽口を叩いているように見えるが、お互いに緊張感が走っていた。
そしてロキサーヌは、私を一瞥するなりため息をつく。
「私、美形の男の子が好きなんだけど…。そっちのエルフ君は、顔の割に何か嫌な雰囲気を感じるのよね…やっぱり、魔力のせいかしら?」
「さぁ…どうなんでしょうね?」
「まぁ、いいわ。私も命令を遂行しなくちゃいけないし…はじめましょうか…!!」
会話することを止めたロキサーヌは、攻撃の構えを取る。
私とゲルトも攻撃の構えを取り、戦いが始まるのであった。
敵の攻撃も速いけど、こっちもすごい…!!
その後、どのくらい時間が経過したかは定かではない。とにかく“烈風”の二つ名を持つロキサーヌは、真空の刃を使った魔法で猛攻撃を仕掛けてきた。私自身は結界魔法で物理攻撃を弾けるが、前衛であるゲルトはそうはいかない。
「”烈風“ってのも、伊達じゃねぇな…!!」
対するゲルトも負けていない。
紙一重ではあるが、敵が放つかまいたちを走り回りながら避けていた。
対象が動き回っていると、結界魔法をかけるのも一苦労ね…!!
私は、冷や汗をかきながらそんな事を不意に思う。
たくさん動いている味方に物理攻撃を弾く結界魔法をかけるのは困難で、どうしても360℃全身を覆いきれるという自信は今の自分にはない。そして、敵の攻撃を防ぐのに精一杯で攻撃を加えるのが難しい状態だ。
「ちょこまかと動くわねー…」
一方、攻撃がなかなか当たらない事で、ロキサーヌも苛立ちを見せていた。
「一旦、真空魔法止めたら?あんたが使える技は、それだけなんて事はないものね?」
「…小娘みたいな口調ね。このロキサーヌ様に向かって、無礼な口をきく男!」
私は、少しでも隙を作り出せないかと挑発してみたものの、返答に対してロキサーヌの方は隙がほとんど訪れない。
流石は、四天王って所かしら…。揺さぶりも効かなそうね…!兎に角、このままではらちが明かない…!!
そう思った私は、少し離れた所で戦うマリアーノやフレイプの方を見つめて大きく息を吸い込んだ。
「“納豆”!!!」
「あら…?」
私が大声でその単語を叫ぶと、何を指すか解らないロキサーヌは首を傾げる。
因みに、この世界には地球ではお馴染みの納豆は存在しない。よって、本来なら謎の言葉を口走ったと思われがちだろう。しかし、この単語を発したのには理由があった。
「…了解」
すると、離れた場所で魔法の詠唱をしていたフレイプが、クスッと笑いながら右手の人差し指を空中で一回りだけ回転させる。
その直後、私の目の前には以前訪れた遺跡で見つけたユーフォニアムに似た古代楽器が現れていた。いわずとしれた、エセルも使える収納魔法による現象。先程の納豆という単語は、楽器を出してもらうための合図だったのである。
「よっしゃ、頼むぜ…!!」
「初見だけど、いってみるわ…!!」
私が楽器を受け取ったのを見据えたゲルトは、再び敵の方へ走り出していく。
演奏体勢に入った私は、そのまますぐにマウスピースを口に当てて演奏を始めた。
※
音魔法を使い始めたか…!!
ユーフォニアムという地球の楽器に似た古代楽器から音が奏でた途端、ワシ——マリアーノはそれに反応した。
スルタンとゲルトがロキサーヌと戦う一方、ワシとフレイプはラゴウとの戦いを繰り広げていたのである。
「…成程、あれが音魔法というものか」
4本の剣を構えていたラゴウは、横目でスルタン達を一瞥していた。
ワシも同じ方角を見ると、そこには建物内を飛び交っていた真空の刃がほとんど消失していた。スルタンは演奏を続けているため、音魔法による部分的な属性に作用する魔封じの術かもしれない。
「よそ見しているとは、随分余裕があるんじゃな…!!」
「あぁ、これは失礼」
斧を持って飛び上がっていたワシは、勢いよくそれを振り下ろす。
しかし、敵の剣は見た目の細さに反してかなり硬く重い。ドワーフであるワシの攻撃だけでは、全くびくともしない。
「…!!」
すると、ワシの真横から鞭のように伸びる電撃がラゴウに向かって放たれる。
「私だって、早くうちのリーダーに合流したいのよ。だから、さっさと道を開けてほしいのよね」
そう言い放っていたのは、エルフの魔法使い・フレイプだった。
耳長族というのは、気に食わんが…。無詠唱をやってのける辺り、流石勇者一行の魔法使いというところか…!
ワシは種族的には好きではないが、味方としてはこの魔法使いを頼もしく感じていた。
身近なところでいうと、ワシらの徒党にいる魔法使いはエセルだ。しかし、彼女は冒険者としての経験はワシやスルタンと比べると浅く、魔法使いとしての技能も平均的だ。彼女はどちらかというと、音魔法や音楽に関する知識の才に恵まれているのかもしれない。
「流石、勇者一行の魔法使い。なかなか強い魔力を持っているが…。残念な事に、わたしの好みの魔力ではないな」
「は…?」
剣をふるいながら、ラゴウは話す。
その言い方に対し、フレイプの表情が一瞬曇る。
「というか、お主の好みなんざワシらに話されても知らんわい!!」
ワシも、斧を振るいながら話す。
「その点、あのエセルという娘…。なかなか魅力的な魔力を持っているな」
「!!?」
ワシは敵の台詞なんて聞く耳持たずでいくつもりだったが、エセルの名前が出てきた事で反応する。
ワシの反応を見たラゴウは、一瞬不気味な笑みを浮かべてから口を開く。
「冥土の土産に、一つ教えてやろう。知っての通り、我々魔族は魔力感知にとても敏感な種族だ。故に、魔力量だけでなく魔力の“質”も把握することが可能だ」
「…随分、おしゃべりの好きな魔族ね。そんなの、とっくに知っている知識よ」
語りだすラゴウに対し、フレイプは冷たい視線を向けていた。
「とはいえ、魔力量が多いからといって“質”も良いという訳ではない。そこにいる、勇者一行の魔法使いのようにな」
「…何が言いたいんじゃ?」
ワシは、敵の真意がわからず次第に苛立ちが募り始める。
「一方…あの娘の魔力量は大したことないが、“質”の方はかなり上等だ。例えるならば、誰もが欲しがる禁断の果実みたいな魔力だろうな。…魔王様の所有物でなければ、わたしが骨の髄まで食い尽くしたかったが…残念だ」
「なっ…!!」
「マリアーノ!!!前…!!!」
不気味な笑みを浮かべながら語るラゴウに対し、ワシは背筋に悪寒が走る。
しかしその一瞬が命取りであり、フレイプがワシの名前を呼んでいなかったら決着は既についていただろう。
「痛つつ…」
一瞬で間合いを詰めてきたラゴウが剣を振り下ろし、その衝撃でワシの身体は建物の壁に吹っ飛んで衝突していた。
反射的に斧や両腕でガードしていなければ、今頃ワシの胴体は真っ二つになっていただろう。只人や耳長族と比べるとワシらドワーフは小柄な者が多いため、何かの衝撃によって吹っ飛ばされやすいという欠点がある。
体格的には、ワシが不利じゃろう。じゃが…!
不利な状況であろうと、負けられない理由はある。
ワシの脳裏には、魔族に食い殺された叔母・パウラの顔が浮かんでいた。
「…マリアーノ。君の中にいる“異界からの来訪者”は、“拍を刻む”事はできるかしら?」
「“拍”…?」
気が付くと、ワシの近くに寄ってきたフレイプが小声で耳打ちする。
ワシには何を意味するのかわからないが、ひとまず彰彦に聞いてみた。
そんなの、朝飯前だよ!!僕、転生前はこれでも打楽器やっていたんだから…!!
いつもは眠っていることの多い彰彦だが、今回ばかりはすぐに返事を返してくれた。
ワシは、大きく深呼吸してから口を開く。
「可能だそうじゃ」
「それはよかった。では、“中にいる君”には4拍子を刻んでもらっていいかしら?私が
“唄”を駆使した音魔法を放つから、4拍子に合わせてマリアーノは斧を振ってもらうの。…これならば、敵を攪乱させつつ攻撃を加えられると思うから…」
「…わかった。うまくいくか保証はできんが、やってみよう…!彰彦もだいぶ乗り気のようじゃしな…!!」
フレイプの作戦に同意したワシは、再び斧を握りしめて立ち上がる。
「作戦会議は終わったようだな。…再開しようぞ」
「望むところじゃ…!!」
ラゴウが再び前に立ちふさがり、ワシとフレイプはすぐに敵の方へと向き直る。
そうして、戦いが再開されるのであった。
いかがでしたか。
今回、本来ならば視点の切り替えの順番はザックだったのですが…。物語の展開上、彼をかっ飛ばしてスルタンやマリアーノ視点で話が進みました。
ようやくというか、かなり久しぶりに音魔法の登場。
ユーフォニアムを演奏できるスルタンは、楽器への移行は容易でしたが…マリアーノ自身は、楽器経験もなく音楽の知識が乏しいです。そのため、どうやって音魔法使わせようかと考えましたが…
まぁ、フレイプが多少なりと音魔法が使えること。彰彦が”拍を刻む”=”リズムをとる“事を得意としていることに感謝すべきかもです。
また、筆者の身の回りでいうと、やはりパーカッションともいう打楽器奏者の方はやはりリズムを刻むのが得意です。因みに、4拍子は例としては行進曲がそのリズムで演奏される曲ですごくわかりやすいかと。。。
さて、次回はバッシュと共に先へ進んだザック視点になる可能性高しです。
次回もお楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




