向かう者と待つ者
今回は話の都合上、最初スルタン→エセルと視点が変わります。
変換点で、”※”を入れているため、注意してご覧ください。
…まるで、転生前に乗っていた電車や新幹線みたいよね…
移動のさなか、私———スルタンは、そんな事を考えていた。
今は、エルフの里を出発して魔王城を目指して移動している。目的地までの道のりは、かなり長い。正攻法でいけば到着まで一週間近くかかってしまうような距離だが、今回はエルフ族やドワーフ族。そして勇者一行の力を借りることで、2日かからずして到着しそうだ。
現在使用している移動手段は、マリアーノ達ドワーフが日常的に使用している土の精霊の力を宿した、地中に棲む生物による移動である。
以前、マリアーノとエセルがドワーフの村へ行く際も使用したらしいが、今回はその時使用した物とは違い、10人近く乗れる馬車くらい大きな生物だった。
遡る事、出発の前日―――――
「では、この後の流れを改めて確認しよう」
エルフの里でエセルを奪還する作戦会議をしていた際、勇者・バッシュの台詞を皮切りに諸々の確認が行われた。
まず、勇者一行の魔法使い・フレイプは、瞬間移動の魔法が使えるらしい。ただし、この瞬間移動魔法は魔力の消費が激しい。また、この後に起こりうる事を考慮した上で、ある程度の距離は魔法なしで向かわなくてはいけないのだ。
「まずは、ドワーフが日常的に利用している土の精霊達を使用した乗り物で所定の場所まで向かう。マリアーノ、手配の方は大丈夫そうか?」
「無論じゃ。そろそろ、待ち合わせの場所に定員12人用のやつが到着する頃合いじゃ」
バッシュは視線をマリアーノの方に向けると、彼は頷きながら答えた。
「…私や、そこのスルタン辺りも乗って大丈夫そう?」
「本来ならば、お断りなんじゃが…。今回は、特例で許可が出た。事態が事態であり、エセルが攫われた責はワシらドワーフにも少しあるからな」
「…そう」
すると、黙っていたフレイプが会話に入ってきた所で、マリアーノは少し渋そうな表情をしながら、魔法使いからの質問に答えたのである。
エセルの事もそうだけど…。義理堅いドワーフの事だから、マリアーノの身内であるパウラという女ドワーフが魔族に食い殺された敵討ちとかもあるのでしょうね…
私は、声に出してはいけない話題と解っていたので、心の中で呟いていた。
フレイプという女性は、私と同じエルフだが職業が違う。また、同族の冒険者をあまり見たことがなかったため、少し新鮮にも感じていたのである。
「そして、ある程度の場所へ移動後にフレイプの瞬間移動魔法を使って、魔王城の敷地端っこまで移動する。そして…」
「私の透明かつ魔力隠蔽をする魔法を使用し、敵にばれない様に中へ潜入します」
バッシュがテーブルに広げた地図を指さしながら説明し、次の段階を勇者一行の僧侶・アイウィッグが告げる。
この女性の魔力…相変わらず洗練されているわね…
私は、話を聞きながらそんな事を考えた。
魔法使いの方は違う職種だから曖昧だが、僧侶のアイウィッグならば、当人が僧侶としてどのくらいの実力を持っているのかが手に取るようにわかる。彼女は人間なので、生きている時間でいうと私の方が圧倒的に長い。それにも関わらず、内にある魔力や使える魔法の万能さを見るからに、かなりの才と努力を重ねてきたのがよくわかる。
作戦としては、①ドワーフの乗り物で所定の位置で移動後にフレイプの瞬間移動魔法を使用して魔王城の近隣に転移。②アイウィッグの透明かつ魔力隠蔽をする魔法で姿を見えなくして魔王城に侵入する③私・ザック・マリアーノの“ウルヴェルドサイド”がムジカ・デラフィーネの対応とエセルの救出④勇者一行が魔王と交戦といった具合だ。
勇者一行には転生者がいないため、ムジカ・デラフィーネについてはお手上げであること。逆に、私達3人は勇者一行と比べると冒険者としての格はそこまで高くなく魔王に勝てない可能性の方が高いため、役割分担というところだ。
「魔王に関しては、魔力がなるべく回復していない事を祈るしかねぇな。なので気になるのは、四天王の残り二人の方か…」
「” 烈風のロキサーヌ”と、“眩惑のイルジオ”だな…」
作戦内容の確認を大体終えた所で、勇者一行の武闘家・ゲルトが懸念事項を述べると、ザックがそれに同調する。
私とザックが遭遇したロキサーヌは、二つ名にあるように風のごとく素早い動きを見せる大魔族。背中にある翼は飾りではなく空中をかなりのスピードで飛べるため、上空から襲い掛かられると厄介だ。
「ロキサーヌの方は、魔王城の中に忍び込んでしまえば上空からの襲撃は防げるだろう。むしろ、一番警戒すべきはイルジオの方だな…」
バッシュはその後、大魔族・イルジオの事を話してくれた。
武器を使った戦いはしないものの、幻影や縛魂。精神や肉体操作についての魔法のエキスパートである彼は、アイウィッグが使える魔力隠蔽の魔法を看破する可能性が高い。
また、攫われたエセルが自分の意思でムジカ・デラフィーネの楽譜解読をするとは思えないので、このイルジオによって操られている可能性は十分にあるとアイウィッグが指摘していた。
「フレイプも、君達の徒党にいる娘同様、収納魔法も使える。そのため、君達3人が持つ古代楽器を持っていこう。…いざという時に、音魔法が使えるように」
「えぇ、まかせて!」
バッシュの視線が私の方へ向いた時、「これは自分が言われていることだ」とすぐに理解した私は、返事をする。
フレイプ曰く、魔族で使える者はいないとされる音魔法は、敵が使う魔封じの術の影響を受けない可能性も高いらしい。また、古代楽器は音魔法の威力を増幅する機能もあるため、持って行って損はないとのことだ。
まぁ、あの村で音魔法の習得に一週間しか時間が取れなかったから、使える魔法も多い訳ではないけどね…
時は今に戻り、作戦会議時の会話を思い出していた私はそんな事を考えていた。
「スルタン!ザック!見えてきたぞい…!」
気が付くと、前方で立っていたマリアーノが一点を指さす。
因みに、元から乗り慣れているマリアーノはともかく、ゲルトも何故かこの乗り物では立って乗っていた。「ドワーフの乗り物を一度立って乗ってみたかったんだ」とか言っていたらしい。
ガキっぽいなー…
私はそんな事を考えながら、瞬間移動を実施する場所を視界に捉えていたのである。
「…では、瞬間移動魔法を使うわ。なので、皆なるべく近くに寄ってほしいの」
予定していた場所に到達し、フレイプが皆に声をかける。
私達が降り立った場所は、湖のある場所で周囲は大きな草が茂っている。瞬間移動魔法を使うに辺り、なるべく人目につきにくい場所であること。また、魔力を扱いやすい水の近くで行う事を条件に選んだ場所だった。
魔族に見つからないように魔力隠蔽の魔法をこの後使うとはいえ、これから向かう地は多くの魔族や魔物がいるであろう地。気を引き締めていかなきゃ…!!
私は、フレイプが魔法の詠唱をしている間にそんな事を考えていた。
すると、不意に近くにいたザックと視線が合う。彼も同じような事を考えていたのか、私の顔を見ると軽く首を縦に頷いていた。そうして、私達3人と勇者一行は、フレイプによる瞬間移動魔法にて魔王城へ転移する。
※
スルタン達が瞬間移動魔法で転移していた頃———魔王城にいた私は、ムジカ・デラフィーネの楽譜解読及び魔王・ディーフラッツとの“交流”とやらが続いていた。
「亮…!やめ…っ!!」
いつものように玉座に座る魔王の膝上に座らされる私だが、最近は亮が“表”に出てきて私と話す機会も増えてきていた。
彼は、ディーフラッツの大きな手で私の脚を触わる。魔王の大きな手なのでそれ以上の事はできないが、縛魂の術で抵抗ができない私は、成す術もなく好き放題に触られていた。
この世界で亮に逢えたのは、正直嬉しい。でも、こんな魔族の身体で触れられても…全く嬉しくないよ…!!
肉体の反応とは裏腹に、心の中で私は泣いていた。
ここ数日、心が壊れるのではないかというくらい同じような目に遭っているため「逃げだす」などといった強い意志はなくなり、すっかり心が折れていたのかもしれない。
「…これは…!?」
しかし突然、亮が私の胸にうずめていた顔をあげた。
その表情は、少し動揺しているようにも見える。
「…ディーフラッツ」
「……亮、何か感じたようだな」
亮が一言名を告げると、その一瞬で魔王が“表”に出てくる。
その場で数秒ほどディーフラッツは黙り込んだが、魔力が枯渇してきている私はその場の成り行きを見守っていた。
「イルジオ。それと、ロキサーヌ」
「はっ…」
魔王が四天王の名を呼ぶと、謁見の間に二人の魔族が現れた。
二人ともその場で膝まずいていたが、私は魔王の側にいたことから彼らを見下ろしているような体勢になっている。
「亮が、“異界からの来訪者”たる人族の気配を一瞬感じたそうだ。何か魔法を使ったのか、すぐに気配を感じられなくなったようだが…。イルジオ、そなたの魔力感知はどんな状態だ?」
「……恐れながら、侵入者の形跡はないですね」
「もしかして、魔力隠蔽の魔法を使ったのでしょうか…?」
「かもしれん」
ディーフラッツが侵入者の魔力を捕捉したかをイルジオに尋ねると、彼は首を横に振る。
同時に、ロキサーヌも会話に入ってきた。
亮を宿した魔王の場合、離れていても転生者の気配が探れるという事…!?
私は、彼らの会話に耳を傾けながらその驚異的な能力に戸惑いを感じていた。
同時に、嬉しさと戸惑いが同時に押し寄せてくる。
きっと、ザック達が来てくれたんだわ…!!ムジカ・デラフィーネの事もあるから、いずれは魔王と遭遇する可能性はあったものの…
私は、魔族に攫われた自分が情けなくて仕方なかった。ドワーフの村でもっと自分で何とかできれば、ラゴウに捕まる事はなかったかもしれない。そして、この後の戦いで私が足手まといになる可能性は高い。自責の念に捕らわれそうになったが、ある一つの疑問が生まれる。
それは、ザック達がどうやって魔王城までたどり着いたかだ。
ドワーフの村から魔王城に向かう際、ラゴウと共にいたという子供体型の魔族は、瞬間移動の魔法陣を使っていた。実際は魔法陣と同じ働きをする魔道具を使用したらしいが、それを使うということは、魔王城までかなり距離が離れているという事だ。
私達の徒党は、私はもちろん。スルタンも瞬間移動魔法は会得していない。
「…この娘の仲間だけで、魔王城にたどり着く事は不可能だろう。とすると…グンニルが絡んでいそうだな」
「魔王様、如何いたしましょう?」
「侵入者は、見つけ次第始末しろ。だが…勇者だけは、無理に殺さずともよい」
「それは…魔王様が、直接手を下されると…?」
「それもあるが…無駄に追い詰めると、魔族側が不利になる。特に、イルジオ。そなたは勇者とは戦うな」
「…御意」
魔王とイルジオの会話が続き、前者からの命令を受けたイルジオとロキサーヌは、深くお辞儀をして謁見の間から出ていく。
謁見の間には、私とディーフラッツだけが残されていた。
「ディーフラッツ…。グンニルって…もしかして、”剣武神・グンニル“…?」
「…いかにも」
「先程、“勇者”って単語も出てきたけど…」
二人だけになったところで、私は視線を少し上にあげながら魔王に話しかける。
同時に、私の心臓の鼓動が早くなっていた。
「くく…脈が早くなっているな。察しの通り、そなたの仲間達は剣武神・グンニルを宿した聖剣を持つ勇者一行とこの城に侵入したようだ」
「…!!」
ディーフラッツからの返答を聞いた私は、目を丸くして驚く。
本来だったら、「仲間達に手を出さないで!!」と叫びたかったが、心が折れかけていた私はそれを言う気力がなかった。というよりは、その台詞を告げても、魔王が聞き入れてくれるはずもない事が解っていたからだ。おそらく、中身がアラサー故の思考回路で、大人だからこそ半ば諦めているのだ。ザックのように若き10代であれば、そのような台詞を口にしていたかもしれない。
勇者一行がいるなら、大丈夫だとは思うけど…。皆死なないで…!!
私は魔王の腕の中で必死に願いながら、この後くるであろう報告を魔王と共に待つことになるのであった。
いかがでしたか。
活動報告に書きましたが、前回までの回を「真相編」と短めですがそこまでを1章分として、この回から新しい章となります。
今回、ようやく全員が話し出した勇者一行の面子。実は、勇者のバッシュ以外は当初名無しにしようかと考えていたのですが、やはり名前つけておいた方が書きやすい&読みやすいと思い、残りの3人の名前を今回初めて書きました。
バッシュもそうですが、全員がドイツ語が語源となっています。ドイツ語を使う事に特に意味はないですが、敢えて言うなら、この作品は音楽と関わりの深い作品なので、ドイツ語は切っても切れない関係かなぁと。
さて、次回からはついにザック達が魔王城に侵入。当然、魔族側も動きを見せます。
…バトルの予感?
次回もお楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




