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些細なこと

「撃ち方、やめー!!」


教師の一声によって、生徒達は魔法を放つのを止めた。


「魔法実技の授業って、術師としての優劣がわかるよなー!」

「1位の奴は座学の実力は大した事ないけど、身体動かすのが得意という事は…」

「魔法使いはやはり、実技と座学の両方できてなんぼだよなー」


魔法実技の授業内容はその時によって様々だが、一般的に多いのは一つの的に向かって魔法を当てる授業だ。

1列につき2・3人ごとの列を成して行うため、後ろで待機する生徒には待ち時間がある。すると、先に実施した生徒(もの)に対して陰口を言う生徒も多い。


 どこの世界に行っても、言う奴は言うんだよなー…


私は、そんな事を考えながら自分の順番を待っていた。

そして、私の順番が回ってくる。


 ここをこうして、こうやって…


私は、心の中で放つ魔法について想像をしながら魔力を練っていく。

試験ではないので気楽にやってもいいのだが、私は別の意味で緊張していた。


私の手から火の玉が放出され、的目掛けて一直線に走り出す。

的のど真ん中は無理だったが、的になっている木の板にある端っこの方に魔法を当てる事を成功した。

大きな息をもらした後、自分が並んでいた待機列へ戻る。

その際に陰口を小声で話していた生徒達を一瞥したところ、私に対して何かを言う生徒はいなかった。


 最も、“本来の実力”を出せば一発でど真ん中打ち抜けるだろうけどね…


というのも、本来のエセルは魔法と座学に関しては天才的な頭脳や才能を有する。

しかし、エセルの身体に転生後2・3日で気付いたのが、“エセルは意図的に自分の実力を偽っている”ようだった。

因みにウルヴェルドからの情報によると、転生者の魂が転生先の身体に定着した場合、転生前の魂が身体に残っていて意思疎通できるかどうかは五分五分らしい。


 本来のエセルに語りかけてみようと何度か試みたけど、できなかった。…という事は、私の中で眠っているのかもね…


そう思う中、面白いと思った事もある。それは、意思疎通ができないのに、本来のエセルの記憶や知識を探る事ができることだ。

この魔法実技の授業で魔力を抑え込んでいるのも、私が詠唱しようとした矢先に魔力を抑え込むプロセスが発動しているという事になる。


 転生前後の事も、何だか不可解だし…。今後、冒険者になる頃には色々判明しているといいな…


私は、転生したこのエセルという少女の底がまだわからないと感じながら、魔法実技の授業を終えるのであった。



「あ、オーウェン!」

「…ウィザースか」


放課後、ランチタイムを終えた食堂にて、私はザックに声をかける。


お昼休みを過ぎた後の食堂は、珈琲や紅茶。洋菓子等の飲食が可能なカフェとして営業している。18時頃まで営業しているため、こうして放課後にカフェで飲食しながら自習する生徒も少なくない。


「自習中に、ごめん!…相席、いいかな?」

「俺は別に構わないが…」


ザックの座る席まで来た私は、少し申し訳なさそうな口調で彼に相席をお願いする。


何故かというと、食堂の席が満席で空きがない―――――――――という訳ではないが、放課後なので同性の友人同士でティータイムをする生徒がいる一方、男女のカップルがデートと言わんばかりに二人で四人席等を独り占めしている割合が高いのだ。

そのため私は、ちょうど一人で二人席に座るザックに声をかけたのである。


「算術の課題…か?」

「うん、そう。ザックは…?」

「俺は、世界史のレポートだ」

「成程…」


お互いが何の科目を自習している。もしくは、しようとしているのかを確認した私達は、少し間だけ沈黙が続く。


「魔王は何故、人族と戦争を始めたんだろうな」

「え…?」

「いや、今世界史のレポートをやっていて思った事だ。…ウィザースは、どう思うか?」

「そうだなぁー…」


ザックはレポートを書く手を止めて、私に話しかけてくる。

そして、彼の問いかけに対して腕を組んで考え始めた。



この世界は、私達人間の他にもエルフやドワーフ・獣人といった多種族も多く存在する。そういった“ファンタジー世界に出てきそうな存在”はひとまとめに“人族”と呼ばれているらしい。

それに対して、人間を襲って食い殺す魔物を先祖に持つ存在が魔族。外見は人間にそっくりだが、頭に角があり耳が尖っていて爪がある。

そんな魔族達と人族は価値観の違い等から500年前くらいから戦争を始め、人族の数が大幅に減少した。そして、現代(いま)から100年ほど前に聖剣を携えた勇者が魔王を討ち取り、現在に至る―――――――――――――そういった歴史を、この学院では“世界史”として教えているのだ。


「…人と仲良くなりたかったか…。あるいは、価値観の相違なのかなと私は思うね」


私は、自身の顎に指をかけながらザックの問いかけに答える。


「そうだ。もしよければ、貴方の事をザックって呼んでもいいかな?私の事も、エセルでいいからさ」

「…承知した。では、エセル」

「何?」


私が彼のファーストネームを呼んでよいか確認したところ、ザックは了承してくれた。

お互いに呼んで大丈夫となったところで、ザックは私が書いている算術のノートに手を伸ばす。


「そこの表記、Cが大文字になっているぞ」

「うそ…って、あ…」


ザックが右手で指さした先を見てみると、確かに本来は小文字の“c”が大文字の“C”になっていた。


「…ありがとう、ザック。普段はそんなミスしないはずなんだけどな…」


ザックに指摘された私は、恥ずかしくて思わず赤面する。


因みに、私が書こうとしていたのは“cm”というアルファベット。

どういう訳かこの世界は、物の量を表す単位等は地球と同じなのである。



「大文字の“C”に小文字の“m”では、まるで“Cm(シーマイナー)”じゃないか…」

「…え…」


ザックは、少しだけ笑みを浮かべながらその場で呟く。

本来なら何てことない呟きだが、私はその台詞(ことば)を聞いた途端、目を丸くして驚く。


 Cm(シーマイナー)って、確か…


視線を自分のノートに落としていた私は、心の中である確信が生まれる。

そしてすぐに伏せていた顔をあげると、そこには目を見開いて固まっているザックの姿があった。


「ザック…。貴方は、もしや…」

「……悪ぃ…。トイレと他の用事を思い出したので、一旦帰るよ。またな…!」


私がその先を口にする前に、ザックによる今の台詞(ことば)で遮られてしまう。

そして自習に使っていたノートや教材を片づけた彼は、逃げるように食堂を足早に去っていった。


私は、その場で茫然としていたがすぐに我に返る。

そして、周囲を一旦見回した後、自習しながら飲んでいた紅茶を一口飲む。


 普段と違う口調…。もしかして、前世の記憶思い出したのかもな…


私は、内心でそんな事を考えていた。


本当に些細な事がきっかけだったが、これによって捜していた転生者の内一人が見つかったという事になりそうだ。


いかがでしたか。

まだまだ序盤なのであとがきで書ける事も多くないですが、今後登場するキャラについて。

エセルが探す転生者3人は、いずれも転生前に音楽に携わっていた人物です。

なので、今回のザックの件で彼が転生前に何の楽器をやっていたかは経験者の方はすぐにわかるでしょう。

残りの二人としては今の所、一人は管楽器。もう一人が打楽器というかんじでしょうか。


さて、本当に些細な事で前世の記憶を思いだすことになるとは思いもよらない出来事だったかもです。

次回もお楽しみに★


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。


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