勇者一行との対談
今回は、ザックの視点で話が進みます。
エルフの里に魔族が襲撃し、俺————ザックとスルタンは、下半身に蜘蛛の身体を持つ女型の魔族との戦いを繰り広げる。
どちらも互角で、俺の剣やスルタンのサポートによって敵に対して多くの攻撃を当ててきた。しかし、四天王・“烈風のロキサーヌ”が上空で見守る中、決着はなかなかつかなかった。
「このまま持久戦に持ち込めば、魔族より体力の劣る人族の俺達は不利だ」と考えていた矢先、一人の青年による圧倒的な攻撃によって戦いは終わりを迎える。
その青年こそ、剣武神・グンニルによって選ばれ聖剣を操る者―――――当代の勇者・バッシュだった。
魔族の襲撃があってから、2日後———
「おう、今戻ったわい」
「マリアーノ…!!」
俺達の前には、エルフの使いと共にドワーフの村から戻ってきたマリアーノがいた。
彼が戻る前に寄越した手紙にはドワーフの村で起きた出来事の概要が書かれていたため、スルタンが今にも泣きそうな表情でマリアーノの元へ向かう。
「…すまん、二人とも。ワシがついていながら、こんな事になってしまって…」
「…いや。ドワーフの村も魔族に襲われてた上に、あんたの身内も…。とにかく、嘆くのはあとにしようぜ」
マリアーノもいつもの元気な口調ではなく、どこか落ち込んでいるように感じる。
概要の文にあった“エセルが魔族に攫われた”という内容も驚いたが、マリアーノの身内が殺されていたなんて…。何て声をかければいいか、俺にはわからねぇよ…
俺は、内心でそんな事を考えていた。
おそらく、スルタンも同じような事を考えていたであろう。そのため、マリアーノの前に立った後は特に責め立てる訳でもなく、スルタンは黙ったまま座り込んでいたのである。
「…お話し中、失礼するわ」
すると、スルタンの家の戸を数回程たたく人物が現れる。
俺達3人の前に現れたのは、エルフで魔法使いでもある女性だった。
「他へ出かけていたお仲間も戻ってきたようね。うちのリーダーが情報共有と今後の話がしたいので、里長の家へ来てほしいとのことよ」
「…わかったわ」
魔法使いの女性は俺らにそう告げると、すぐに外へ出て歩き出していく。
これから大事な話がある事をあらかじめ知っていたスルタンは、黙ったまま首を縦に頷く。
あの魔法使い…もそうだが、まさか以前俺達が参加した合同作戦の徒党の中に、勇者一行がいたとはな…
スルタンの家を出た俺・スルタン・マリアーノの3人は、魔法使いの女の後をついていくように里長の家まで歩き出す。
俺は、魔法使いの後ろ姿を見ながら、以前にも遭遇していた事を思い出していた。
今回現れた魔族を撃退した際に勇者一行の面子とは全員顔を合わせたが、その時はまだマリアーノがいなかったため、勇者一行が何故この里を訪れたのかは教えてもらえなかった。
“エセルが魔族に攫われた”という第一報を聞いた際、あの勇者達も動揺していた。…おそらく、ドワーフの村で起きた出来事も踏まえて俺達に話があったのかもしれないな…
あぁ…
すると、久しぶりに“本来のザック”が俺に語りかけてきていた。
いずれにせよ、エセルの事が最も気がかりだったため、雪斗の心中は全く穏やかではない。
里長の家に到着すると、そこには勇者一行が揃っていた。
こちらもマリアーノがドワーフの村から戻ってきたため、これで役者が全員揃ったというところか。
「この里へ到着した直後に少し話した通り、俺達は剣武神・グンニルの導きを経て運命の女神・ウルヴェルドに導かれた者達に会いに来た…という訳だ」
「…正確には、運命の女神・ウルヴェルドに導かれし者とは、今いないエセルの事じゃがな」
「…魔族によって攫われたという、君達の仲間の魔法使いか…」
話の進行役として、勇者である青年・バッシュが話を切り出す。
途中マリアーノが皮肉めいた台詞を告げると、彼は少し言葉を濁らせる。
「先に、一つ確認。…あんたたち4人は、私達3人や今いないエセルが”異界からの来訪者“であることを、知っているという認識でいいのよね?」
「…無論だ。グンニルから少しだけだが、聞いている」
真剣な眼差しでスルタンが口を開くと、彼女の向かいに座っていた勇者一行で武闘家と思われる青年が首を縦に頷いて答えた。
「ひとまず、ワシは先程こちらへ戻ってきた訳じゃし…。こちらの状況報告も兼ねて、お互いが持つ情報を共有せんかね?」
「了解した」
マリアーノが少し落ち着いた口調で話を切り出すと、バッシュはすぐに了承したのである。
こうして、各々が持つ情報共有や報告が始まる。
スルタンの方からは、この里で楽譜解読の作業を進めている中、行方不明だった魔族の四天王・“烈風のロキサーヌ”が部下の魔族や魔物を率いて遠距離魔法の魔法陣を経て里を襲撃したこと。そして、バッシュが蜘蛛の魔族・イレタを一刀両断の元に下した後、ロキサーヌが意味深な台詞を告げてから去っていった事を語った。
対するマリアーノは、ドワーフの村で起きた出来事を語る。
最初に届いた文に書かれたマリアーノの身内は元気そのものだったが、何とその身内は魔族がその人物に成りすましていたという。村を襲撃したラゴウという下半身が蛇の身体を持つ男型の魔族は、マリアーノと交戦。エセルのサポートで善戦していたものの、飛んできた剣をマリアーノが避けていた間に、エセルは隙を突かれて敵に捕まってしまう。そして、村民に化けていた魔族と共に、瞬間移動魔法を使って姿を消したらしい。
『ドワーフの村へ行ったという、坊や達のお仲間によろしくね』
エルフの里を去る時、ロキサーヌが俺達に告げていた台詞を、俺は思い出す。
「話を聞く限り…最初に届いた文とやらは、ドワーフに化けた魔族の仕業だろう。襲撃のタイミングからして、君達4人を分散させること…。分散させて、エセルって娘を確実に拉致するのが魔族達の目的だったんだろうな」
話を聞いていたバッシュは、そう分析していた。
この見解はおそらく、この場にいる全員がその結論に達していただろう。
「それにしても、魔族が人間を攫うなんて…前代未聞ですね。“食べるためではない”と敵は断言していましたが、本当のところは何が目的なのか…」
不意に、勇者一行の僧侶である女性が呟く。
学院時代、魔族は人族を食べること。持ち帰って食べるにしても、その場で命を奪ってから運ぶという生態を学んだことがあるため、今回の出来事は“異常事態”ともいえる。勇者一行も俺達も、何故エセルが攫われたのかという理由をその場で考えていた。
「音楽の……知識……?」
俺は、不意にその場で思いついた事を口にする。
すると、その場にいる全員の視線が俺へと向く。
「ザック…だっけ?そういえば、君らの徒党は“あの譜面の破壊”を旅の目的としているんだよね。…もしかして、攫われたエセルという娘は君らの中でも音楽への知識力が高い…ということか…?」
バッシュから問いかけられた俺は、黙ったまま首を縦に頷いた。
『…どうやら、我の嫌な予感は的中してしまったようだな』
「えっ…!!?」
すると突然、バッシュが腰に下げている聖剣が光りだし、声を発する。
この声の主が剣武神・グンニルである事はバッシュに初対面した際に聞いていたが、実際に話しているのを聞くのは初めてだったため、俺・スルタン・マリアーノの3人は目を丸くして驚く。
『勇者より話は聞いたとは思うが…。ウルヴェルドに導かれし者達よ、我こそが聖剣に宿る剣武神・グンニルだ』
「えっと…。これは、普通にお話ししてもよい…ということかしら?」
『…うむ、今回はかまわん』
聖剣より発する声の主は、俺達3人に対して改めて自己紹介をしてくれた。
そして、スルタンが神に話しかけてもいいか尋ねると、グンニルは承諾したのである。
…もしかしたら、今が非常事態だからかもしれない…?
俺は、一連の会話に耳を傾けながら、そんな事を考えていた。
「まぁ、珍しいこともあるもんだ。それじゃあ、グンニル。この前も言っていた、”嫌な予感“とは何を示しているのか、教えてもらえるか?」
『うむ』
バッシュに声をかけられたグンニルは、一度咳払いをしてから話し始める。
『お主ら3人が探し求めている“ムジカ・デラフィーネ”なる譜面…。現在、所在不明なのは把握しているな?』
「…あぁ。音魔法の聖地たる村で、その話は聞いた」
『…古代の楽譜とやらは、物によっては解読する事で効果を発揮する…それは、“ムジカ・デラフィーネ”も例外ではない』
「えぇ、そうよね」
グンニルからの問いに、俺やスルタンが答える。
…現に、スルタンが楽譜解読をこの里で行っているのは、新たな音魔法の発見のためでもあるからな。だが、剣武神は何故、わかりきったことを改めて訊くんだ…?
俺は、グンニルがどういった意図で俺達に質問をしているのかが解らなかった。
『…我は、何代にも渡って勇者一行の行く末を見守ってきた。故に、聞いて覚えていることができたのだが…』
グンニルは今の台詞を皮切りに、信じられないような事実を告げる。
ムジカ・デラフィーネを作曲したユミルドの弟・ラレクから、こう頼まれていたらしい。
「この先、ユミルド兄さんのように“異界からの来訪者”の知識を持ち、音楽の知識が豊富な者が現れたら、守ってやってほしい。魔王が復活しようとする際、魔力を取り戻すためにその者を利用しようと目論むだろうから」と—
「な…!!?」
グンニルが告げた内容に対し俺達はもちろんのこと、共に話を聞いていた勇者一行も目を丸くして驚いていた。
魔族達がエセルを攫ったのは…ムジカ・デラフィーネの楽譜解読を無理やり行わせて、魔王復活を果たすため…という事か…!!
これまで魔族が人族の国に潜り込んでいたのは、エセルのような者を捜し出すためという事だな…!!
敵の目的に気が付いた俺は、黙ったまま拳を強く握りしめる。同時に、俺の中にいる”本来のザック“も、これまでの事が一つに繋がったと確信したようだった。
「ムジカ・デラフィーネが原因で、作曲者ユミルドは死んだと云われているわ…。いずれにせよ、その娘を取り戻さないと魔王の封印された魔力が元通りになり、倒すのが困難になる…という事ね…!!」
深刻そうな表情をしながら、魔法使いの女性が呟く。
聞いたところ、勇者一行はやはり魔王討伐が旅の目的らしい。そのため、このままエセルが魔族に捕えられたままだと、彼らにとっても不利になるという事だ。そのため、お互いの目的のためにも、この後俺達は共同戦線を張ろうという話へ移行する事になるのであった。
いかがでしたか。
新章突入!
プロローグ及び、その他でちょいちょい出てきていた勇者一行を、ようやく主要メンバーと対面できた!!と、少しだけ感無量な皆麻でございます。
情報量が多い回でしたが、結論だけいうとエセルが魔族に捕らわれたままだと双方にとってよくないというところでしょうか。
次回はエセルの視点に戻り、攫われた後の事が描かれると思います。
ラゴウはイルジオの部下ですが、そのイルジオは魔王の命令で動いていました。という事は、エセルは魔王と対面させられるというところでしょうか。
尚、次回は衝撃的な真実が判明したりする予定につき、お楽しみに★
音楽関連の話、もう少ししたら載せられる…はず
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




