穏やかな滞在
「お!マリアーノ、久しぶりじゃないか!…そちらにいる、只人の嬢ちゃんは…?」
「ワシの連れじゃ。紹介は後でとして、パウラはどうしておる!?」
あれからマリアーノの故郷でもあるドワーフの村に到着し、村の入口で見張りをしていたドワーフが彼に声をかけてくる。
マリアーノは、少し慌てているような口調だったが、見張りのドワーフは何故彼が慌てている雰囲気を出しているのか全く解らないような表情をしていた。
「パウラなら、普通に家で元気にしておるぞ?」
「へ…!?」
見張りのドワーフからの返答を聞いたマリアーノは、目を丸くして驚く。
私は、そんな彼らの会話を黙って聞いていたのであった。
「ワシじゃ、マリアーノじゃ!…パウラ、おるか!?」
「はいはーい!」
村に入ってからすぐに、マリアーノの叔父夫婦の家へ私達は向かった。
そうして到着するとすぐに、家の戸をたたく。すると、家の中から少し高めの声が響いてくる。
流石、ドワーフの村。家屋の高さが、ちょうど私の身長より少し高いくらいの大きさ…。となると、ザックあたりは頭ぶつけてしまいそう…
私は、家人が現れるまでの間に垣間見たドワーフの村ならではの光景に対し、仲間の顔が浮かんでいた。
因みに、ザックが私達4人の中で一番背が高く、その次がスルタン・私・マリアーノといったところだ。
「…おや、マリアーノ…かい。久しぶりだねぇー」
「旅の道中、耳長族の里に立ち寄っていた際にお主が倒れたという文をもらった。…どこも悪くないか…?」
「え…?あぁ、貧血でふらつきはしたけど、倒れるほどではなかったような…」
「…まぁ、よい。ホルディは、息災か?」
「えぇ、今日もバリバリ洞窟で仕事しているよ!」
「洞窟…?」
日常生活だとあまり聞かない単語が出てきたため、私は思わず会話に割り込んでしまう。
すると、パウラはようやく私の存在に気が付いたようだ。化粧していない事もあるが、少ししわの入った中年女性は、私を見上げながら口を開く。
「あんたの連れ…ってところかしら?ひとまず、玄関先でする話でもないし、二人とも入りな入りな!」
「お…お邪魔します…」
その後、この元気の良さそうな女性のドワーフは、私とマリアーノを家の中へ招き入れたのである。
「ワシは、ホルディ・オチョア。ほんで、こちらが家内のパウラだ」
「エセル・サラ・ウィザースです、はじめまして」
パウラが私達を招き入れてから2時間程経過し、仕事で出かけていた彼女の夫でマリアーノの叔父にあたるホルディが帰ってきた。
その頃には夕飯の支度が整っていたので、食事を頂きながらお互いの自己紹介をする。
「いつも、マリアーノがお世話になってます。すごく可愛らしい娘さんね」
「おぉ、ワシから見たらエセルとザックは可愛いらしいもんよ!」
パウラやマリアーノが、お肉をたくさん食べながら私の話をする。
中身はアラサーだから、決して「可愛い」といえる年頃ではないけど…。まぁ、”マリアーノ本人“は寛とほぼ同年代だから、言われても嫌なかんじはしないかな
私は、珍しく少し照れながら咀嚼をしていた。
その後、食事をしながら近況報告等の色々な話題が飛び交う。話を聞く限り、パウラが貧血でふらついて座り込んでいたところを他のドワーフが発見し、マリアーノへ文を書く際に少し大げさに書いてしまったらしい。
ともあれ、唯一の身内が無事とわかったことで、マリアーノはとても安堵していたようだ。
「そういえば…」
食事がかなり進んできた辺りで、私は視線を下に落としながら口を開く。
「村の敷地内でも見かけたんですが、地面で動き回る小人さんって…?」
「ほぉ、嬢ちゃんは土の精霊が見えるんじゃな!」
私が問いかけると、ホルディが感心しながら答える。
「ワシらドワーフが古くから親交のある、土の精霊。精霊は大地の神・ニルズの子じゃが、気まぐれでよく人前で姿を現すことがあるそうじゃ。その姿形は小人であり、ワシらドワーフの先祖とも云われておる」
「私達ドワーフは皆視えるけど…稀に、貴女のような“精霊が視える目”を持つ人族がいるのよね」
「“精霊が視える目”…」
土の精霊についてホルディが説明をし、パウラがそれに補足をする。
あれ…?何か、身体が一瞬震えた…?
話を聞いていただけにも関わらず自身の身体に起きた事に対し、私は違和感を覚えていた。
「…パウラが息災と解った以上、翌日には村を退散しようかのぅ…」
「あら、マリアーノ。もう村を出てしまうのかい?」
「今、お主は確か耳長族の男と徒党を組んでいると聞いたが…。そんなに急いで戻らなくてはいけないのか?」
頃合いを見計らってマリアーノが今後の話を切り出したが、オチョア夫妻から問い詰められてしまう。
…これって、エルフの元へ行かせたくないってところかな?ただ、スルタンが今やっている楽譜解読。最低でも、終わるまで2・3日くらいかかるって言っていたような…
私は、ドワーフ達の会話を聞き入りながら考え事をしていた。
「ねぇ、マリアーノ」
「おぉ、エセル。なんじゃ?」
「あちらの楽譜解読、確か2・3日くらいはかかる…とか言ってなかったっけ?だとしたら、せめて明日1日くらいはこの村でゆっくりしてから、二人に文を送ってもいいんじゃないかな?」
「むむ…」
私がマリアーノに提案すると、彼は少し戸惑ったような表情になる。
一方で、オチョア夫妻の表情は頭上に光でも差し込んだような明るいものになっていた。
「そうじゃ、そうしろマリアーノ!この嬢ちゃんにも、村を案内してやってほしいしな…!」
「…わかった」
ホルディが満面の笑みを浮かべながら、マリアーノの背中を数回強くたたく。
マリアーノは、渋々と私の提案を受け入れてくれたのである。
そして、翌日———
「エセルちゃん、ちょいといいかい?」
「はい、パウラさん。なんですか?」
パウラに声をかけられた私は、彼女の元へと駆け出す。
すると、彼女は台所に置いてあった弁当箱を入れた紙袋を手に取る。
「すまないが、うちの旦那にお昼ごはんを届けてやってくれないかい?」
「全然大丈夫ですが…只人の私が、旦那さんの仕事場入っても大丈夫なんですか?」
「あぁ、全然問題ないよ。ただ、女の子一人でというのもなんだし…」
その場で一瞬考えたパウラの目の前に、ちょうど居間へ戻ってきていたマリアーノが目に入る。
「マリアーノ!その娘と一緒に、あの人んところに弁当届けてくれないかい?」
「おぉ、構わんよ」
パウラからホルディの弁当を受け取ったマリアーノは、私と一緒に夫妻の家を出る。
因みに、ホルディは朝一番から仕事で洞窟の方へ向かっていた。
「まだお昼まで一時間以上はあるじゃろう?せっかく戻ってきたのだから、武器屋で斧の調子を見てもらいに行ってもいいかの?」
「うん、メンテナンスは必要だもんね!了解!」
「メンテナンス…?」
村の敷地内を歩いている途中、マリアーノが武器屋に寄りたい旨を私に伝えてくる。
私はそれをすぐに了承したが、その後発した台詞に対して彼が首を傾げたため、「しまった」と内心ですぐに思った。
「ごめん、“メンテナンス”は転生前の世界で使っていた言葉なんだ。ひとまず、それについてはおいといて…。この村って、魔法具とか売っているお店はあるのかな?」
「うーむ。大きな街ではないので専門店はないが…確か、道具屋に行けば武器防具以外の冒険必需品は揃っておる…はず」
“メンテナンス”が地球の単語であると聞いて理解したのか、マリアーノはその単語について追及はせず、ただ私の質問に答えてくれた。
「じゃあ、ホルディさんにお弁当を渡し終えたら、その道具屋に行ってもいいかな?」
「うむ、何か掘り出し物が見つかるかもしれんな」
そんな会話を続けながら、私達はホルディの仕事場がある村の洞窟へと足を踏み入れることになる。
それから数分後、洞窟内のとある一画で作業をするホルディを発見する。
「おや、マリアーノ!それに嬢ちゃんも…!こんな場所まで来て、どうしたんじゃ?」
「どうしたもこうしたもないじゃろ、ホルディ。お前さんが弁当を忘れたからって、パウラから預かったんじゃよ!」
彼を見つけるなりマリアーノは、不満そうな表情をしながらパウラから預かった弁当を渡す。
その会話を、私は顔が少しはにかみながら見守っていた。
ホルディは、同胞達が掘り出した鉱物を目で確認し、使える鉱石かガラクタかを見極める仕事をしている。元々、金銀銅といった様々な鉱物がこの洞窟内には古くから発見されやすいらしく、この洞窟を中心に村が造られたという。ホルディも若い頃はツルハシ等を使って掘る仕事もやっていたそうだが、歳を重ねるにつれて難しくなってきたため、今は目利きような仕事をしているという具合だ。
洞窟といったら、ダンジョンというイメージ強かったから…。こうして人が武器を持たずに出入りしているのって、新鮮だな…
私は、ホルディやその周囲で仕事をするドワーフ達を見つめながら、考え事をしていた。
「よし、一旦昼飯を食べに家へ戻るかの。道具屋への案内は、その後でよいな?」
「もちろん!」
ホルディと一旦別れて洞窟を出た後、陽がだいぶ高くまで上っていた。
お互いに空腹になってきた私達は、夫妻の家へ戻る。
その後は昼食をご馳走になり、マリアーノは私を道具屋に案内してから手入れを依頼していた斧を取りに武器屋へと往復して過ごしていた。
私も、道具屋には魔法使いがよく使う魔法具はあまりなかったが、街のお店ではお目にかかれないような物を見つけたりと、とても穏やかで充実した時間を過ごしていたのである。
「エセル!迎えに来たぞい」
「マリアーノ」
時間はすっかり夕刻となり、迎えに来てくれたマリアーノと帰路についた際は陽が沈みかけていた。
「…久しぶりの里帰り、ゆっくりできた?」
「うむ。おかげさまで、旧友らとも会えたよい日じゃったよ」
私とマリアーノは、夫妻の家へ戻りながら何気ない会話をしていた。
もう少しでザック達と合流し、スルタンの楽譜解読が終わったらまた冒険再開だろうから…。こうやってゆっくりできるのは、今だけかもしれないな…
夕陽の光を浴びながら、私はふと物思いにふけっていた。
「日中、スルタンらに文を出すのをうっかり忘れてしまってな…。明朝、出すことにするわい」
「あはは…」
マリアーノは割と大雑把な所があるので、「そんな予感はしていたな」と内心で思いながら、歩いていたその時だった。
「…っ…!!?」
突然、村のあちこちから木の板が重なって出るような大きな音が響いてくる。
「あ、マリアーノ!!?」
気が付くと、すぐ隣にいたマリアーノが走り出していた。
「このままでは見失う」と思った私は、すぐに彼を追いかける。
「今の音は…!!?」
「今の音は、敵が侵入してきた合図じゃ!!この村の四方八方に鳴子が設置してあり、精霊の加護によって、魔族や魔物が村の敷地に侵入した際に鳴子が鳴るようにできておる!!」
「それが鳴ったということは…!!」
私達二人は、村の入口方面へ走りながら早口で話す。
魔族や魔物が、ドワーフの村にどういうつもりで現れたの…!!?
私は、敵の目的を考えながら、マリアーノと共に走っていく。
「ぎゃぁぁぁっ!!!」
「なっ…!!?」
村の入口付近に到達すると、私達は目を丸くして驚く。
そこには、門の見張りをしていたドワーフを剣一つで串刺しにし、他の剣で村民を何人か斬り殺していた魔族がいた。
その魔族は、4本の腕に3本の剣を得物とし、下半身が蛇という人とはかけ離れた姿を持つ異形の存在がその場に立っていたのである。
いかがでしたか。
今回、タイトルにあった通り穏やかでのんびりした回だったかなぁと(笑)
音楽の話題、今回もなかったですが…この回の後半や次回から、一気に物語が加速します!
突如とした魔族の襲撃。それが意味するものとは?
次回もお楽しみ★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




