エルフの里からドワーフの村へ
「すまんかったの、エセル。楽器練習とやらが、延期となってしまって…」
「ううん、大丈夫!純粋に、ドワーフの村もどんな場所か興味あったしね!」
そんな会話をしながら、私とマリアーノはエルフの使い先導の下で、来た道を戻っていた。
エルフの里を訪れてまだ1日しか経っていないが、私達2人だけ外へ出ようとしているのには訳があった。
今から、1時間程前―――――――――
「どうやら、ワシの身内が倒れたらしい」
「えっ…!!?」
エルフの少女から受け取った手紙を読んだマリアーノが、その内容を私達に教えてくれた。
そのあまり穏やかではない内容に対し、私・ザック・スルタンは目を見開いて驚く。
「命に別状はないないようじゃが、ワシよりも高齢じゃからな…。できれば、一度見舞いがてら村に戻ってきてほしいと、手紙には書かれておった」
「ご両親とか…?」
「そうか、お主らには話しておらんかったな」
手紙の内容を語るマリアーノに対し、私は恐る恐る“誰が倒れたのか”を声に出してみる。
すると、彼は思い出したかのように自身の事を語りだす。
マリアーノは、幼い頃に両親を亡くしている。何でも、叔父夫婦のいる村に手伝い等をするため独りで出かけていた間に、故郷の村が魔族や魔物に襲われて滅ぼされたという。
祖父母といった他の身内も殺されてしまったため、唯一の身内である叔父夫婦の住む村で暮らすようになったのだ。そして、今回の手紙には彼の叔母が倒れたと書かれていたらしい。
「幸い、ワシの住む村はこの里から割と近い。すぐ行って、なるべく早く戻ろうかの…」
「里の領域を出るまでなら、同胞に送らせるけど…。その後は、独りになるけど大丈夫?」
「まぁ、単独は久しぶりじゃが、何とかなるじゃろう」
「…だったら、俺辺りが一緒に行こうか?」
この後の動き出しについてマリアーノやスルタンが話していると、そこにザックが会話に入ってくる。
「スルタンは今日から数日缶詰だろうから、里を出るわけにはいかないし…」
「…気持ちはありがたいが、前衛2人が抜けると何かあった時にどうなるかわからん」
「じゃあ、私がドワーフの村に同行したい!」
ザックの申し出に対し、マリアーノはありがたいと感じつつも丁重に断ろうとしていた。
「それならば」と思い立った私が、マリアーノに同行を申し出る。
私がマリアーノと一緒に行けば、前衛のザックは里に残れる。…万が一はないと思うけど、前衛2人がいなくなるよりはましよね…!
私は、ないだろうとは思いつつも、もしも魔族や魔物がエルフの里を襲撃してきた時の事を考えながら会話の中に混ざっていたのである。
そんなやり取りを経て、私とマリアーノは徒歩で移動していた。
この後の道筋としては、エルフの里の周囲は迷いの森となっていて2人だけど絶対迷うので、里の領域を出るまでは必ず里に住む者に先導してもらわないと外へ出ることも叶わない。私達を先導してくれているエルフの男性は、必要最低限の事以外はほとんどこちらに話しかけてこなかった。
…まぁ、送っていく対象が異種族じゃあ、話す気にもなれないよね…
私は、そんな事を考えながら足を進める。
先導してくれているエルフの男性は、昨日私達を迎えに来てくれた人物とはまた異なる者だが、エルフは元より他種族とは必要最低限しか交流しないため、あまり好ましくない感情を持っているようだ。
「では、わたしはこれにて。再びこの地へ戻る際は、そなたらの仲間だという我が同胞に文を出すといい。…そこのドワーフならば、それが可能であろう?」
「うむ、そうじゃな。では、戻る算段がついた暁には、スルタンに文を飛ばそう」
「了解した」
エルフの男性とマリアーノは、この後戻ってくる時の話を一通り終えた後、その場で別れた。
件の男性は、私達に背を向けて歩き出したが、1分くらい経過すると一気にその姿が見えなくなったのである。おそらくは、森を見守る精霊の仕業だろう。
「…よし、面倒な輩が去ったところでワシの村へと向かおうかの…!」
「因みに、マリアーノ。“村まで割と近い”とは言っていたけど、少し歩けば着く…。なんて、そんなに近い訳ではないよね?」
使いの男性が去り、マリアーノは清々したような表情をしながら口を開く。
言い方が穏やかではないけど、そこはスルーしとこ…
私は、何気にマリアーノがエルフの男性に対して嫌味を口にしていた事に気づいたが、あまりそこは追及せずに次の話題へと移っていた。
「うむ、そろそろ来る頃合いじゃろうか…」
「…?」
私の問いかけを待ってましたと言わんばかりに口調で、彼は答える。
同時に、周囲を見渡していた。
「え…!!?」
すると、少し離れた場所から轟音ともいえる、何かが押し寄せてきそうな音が響き始める。
思わず「何事!!?」と声を荒げてしまったが、彼曰く「迎えが来た」ということらしい。
大きな音が次第にこちらへ近づいてきた後、私達の前に現れたのは、地面に長い手綱のような物を引っ張るドワーフの男性だった。
「おぉ、マリアーノ!久しいな…!」
「うむ、お迎えごくろうじゃな!」
マリアーノは、迎えに来てくれた同胞に対し、腕相撲をするように手と手を握手するような姿勢をとっていた。
後で知ることになるが、この仕草はドワーフ同士の挨拶のような習慣らしい。
「おや、そこの嬢ちゃんは…?」
「あ…すみません、マリアーノと徒党を組んでいるエセルと申します!」
迎えのドワーフが私をまじまじと見ていたので、思わず挙動不審になりながら自身の名前を名乗った。
「…ワシは単独でも大丈夫だったのじゃが、この娘が”ドワーフの村を見てみたい“と申していたからな。…同行しても、かまわんか?」
「おぉ、もちろん!ワシらドワーフに興味を持ってくれるなら、どんな種族でも大歓迎さ!!…まぁ、耳長族は流石にお断りだけど…」
「はは…」
マリアーノがお伺いを立てたようだが、反対されることもなく歓迎してくれるようだ。
一方で、「エルフは絶対に嫌だ」という意思表示を聞いた私は、苦笑いをしながら相槌を打つ。
…今回は楽譜解読があったから、来られなかったけど…。スルタン、こちらに来なくてよかったかもね
私は、不意にそんな事を考えていた。
「よし!村へ戻るので、ワシの後ろに立ってくれるかい?」
「…?あ、はい…」
「あぁ、エセルは“これ”に乗るのは初めてじゃろうから、客人用の背もたれを引き出した方がよいかもな!」
「おぉ、そうだったな!」
使いのドワーフに後ろへ立つよう促されたものの、マリアーノが何かを使うべきとそのドワーフに提案する。
「あ、成程…!」
よくわからないので成り行きを見守っていると、手綱を持つドワーフから少し後ろへ下がった場所に鞄の持ち手みたいな形をした部分があり、マリアーノがそれを手で握って上に持ち上げると、背もたれらしき物体が現れた。
「…マリアーノは、立ったままでも大丈夫なの…?」
「おぉ、ワシらドワーフは“これ”には乗り慣れておるからな!」
私は、背もたれによっかかる形でその場に座り込む。
座った際の地面の感触は、土みたいな色はしているがツルツルした素材感を感じていた。
とはいえ、あまり広さがある訳でもないため、私が足を曲げて座ったすぐ前にマリアーノが立つ状態となる。
「よし、乗ったな?では、出発じゃ!」
私とマリアーノが“乗った”のを確認すると、迎えのドワーフは手綱を思いっきり引っ張り出した。
「え…わっ…!!?」
すると、私達3人がいる周囲が急に動き出し、移動を開始した。
その後響いてくる音は、最初に聞いた轟音とほぼ一致している。
「ドワーフは、土の精霊と親交があってな。地中に棲む生き物…例えば、モグラとかじゃな。我々が精霊にお願いをすると、こういった地中を進む生き物に精霊の力が宿り、人や物を運ぶことができるんじゃ」
「な、成程…」
「お主ら只人にとって馴染み深い、馬車と似たような乗り物じゃな。まぁ、“これ”を操れるのはワシらドワーフのみじゃが…」
周囲の景色が見えづらくなるくらい速く移動する中、マリアーノが今乗っている物に対する説明をしてくれた。
また、彼曰く、今回私達を乗せてくれている乗り物は対人用だという。そのため、大きな荷物運搬用のかなりでかい物や、一人乗りするための小さな物と大小様々なようだ。
確かに、私のように初めて乗る人族にとっては、座って背もたれによっかかれたほうが有難いな…
私は、目の前に立っているマリアーノや、手綱を握るドワーフに視線を向けながら、考え事をしていた。
というのも、この“乗り物”は地球でいうところのシートベルトがないため、それなりに揺れる。それを、立ったまま微動だにしないでいられるのは、“これ”に乗り慣れたドワーフや、マリアーノのように戦士として足腰を鍛えている者だけだろう。
ともあれ、転生前に乗っていた車みたいに結構スピード出ているから、これであっという間にドワーフの村へ着きそうだ♪
同時に、エルフの里へ向かっていた時と比べて楽に到着できそうな現状を嬉しいと感じた私は、ドワーフの村がどんな所か考えながら外の景色を眺めているのであった。
いかがでしたでしょうか。
少し短かったかもしれないですが、次の展開や区切りを考慮してここで一旦終わったという事なのでご容赦を。。
今回は、音楽的要素はなし。その代わり、ちょっと面白い乗り物が出てきましたねwww
ドワーフは炭鉱夫だったり、土に関わりが深いから”土の精霊と親交がある”のは連載開始前から考えていた設定ですが、この不思議な乗り物はこの回書くにあたって思いつきました★
この世界は車やバスなんてある訳ないし、物語の進行上、移動に数日かかってしまうのは正直よくないので、乗り物で早く到着!としました。
今回はだいぶ穏やかな回でしたが、今後いろいろバタつく展開が待っていますので次回もお楽しみに!
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




