エセルと転生者・寛
たまには、煎餅とか食べたいな…
教室の窓から見える外の景色を横目で見ながら、私はそんな事を考える。
私―———————エセル・サラ・ウィザースは、ウィザース侯爵家の次女という貴族家系の人間だ。この王立ガファイ高等学院の2年生で、どこにでもいる貴族の子女というのが、“現在の私”だ。
今日の学食は、何が出るかな…。あー、早く18歳になってお酒飲みたいよー…
生徒達が座る座席の一番前で、教師が講義をしている。しかし、お昼前で空腹な私は、ほとんど話半分状態で聞いているだけでとても頭に入るような状態ではない。
そして、見た目が16歳の私だが、中身は何と30代半ばの日本人。つまるところ、よく漫画や小説に出てくる“転生者”という奴だ。
前世である地球にてどうやって死んだのかは覚えていないが、今はこうして日本でいうところの高校生みたいな生活を送っている。
この世界はどこかのゲームやら小説の世界とかではないようだが、元々地球からの転生者が多く現れると“彼女”は言っていた。どういった原理で起きている現象かは不明らしいが、かつて生きてきた地球と異なるのは、剣や魔法が存在し、魔族や魔物といった“倒すべき敵”がいるといった所か。
加えて私は、他の転生者と比べて「何故自分がこの世界に転生することになったのか」をはっきりと聞いている。そうやって転生する直前に話す事ができる魂は、私が初めてだったという。
今から1週間くらい前―——————
『…という訳で、貴女には貴女より前に転生した3人の元地球人を捜してほしいのですよ』
「…一度死んでしまったけど、今はまだ寛っていう名前あるんだけどなー…」
過去・現在・未来が同時に存在する不思議な空間にて、私は運命の女神・ウルヴェルドと会話をしていた。
ウルヴェルドは、この世界における運命の女神。そのため、地球から現れる転生者の扱いも彼女の管轄だという。
本来、ウルヴェルドが転生前に該当する魂の前に姿を現す事はやらない――――というより、物理的にできないらしい。
『最初に言った通り、神々はそなた達地球の魂がこの世界へ転生するために魂を導く事はできるが、“何に転生するか”を定める事はできません。普通の魂ならば特に気にする必要はないのですが、寛を含む4人の元地球人には“果たしてほしい使命”があります』
神様にも、できない事ってあるんだなー…
この時の私は、そんな事を考えていた。
曰く、使命のために導いた魂は無事に転生を果たしたものの、転生前の記憶が戻っていないためどこにいるかウルヴェルドにもわからないらしい。一方、同じ転生者同士は魂の質とやらが同等のため、記憶が戻っていなくてもお互いが転生者である事に気が付きやすいようだ。
「音楽の知識を必要とする世界…か。とすると、その3人の転生者は地球にいた頃、何かしら音楽経験があるという事だよね?」
『えぇ。詳細までは覚えていませんが、使命のためにも必要なスキルですので』
私の問いかけに対し、ウルヴェルドは首を縦に頷きながら答える。
そんな会話を交わした後、寛だった私の魂はこのエセルの身体に転生を果たしたのである。
あれから講義が終わってお昼休みになったため、私は食堂を訪れていた。
ガファイ高等学院は“平等”を謳っている教育機関なだけあって、学院に通う生徒は貴族の子息子女だけではなく、平民の男女も多い。そのため、身分を越えた交流は可能だ。
しかし、それでも王族辺りが学院にいると周囲が気を使ったり、“婚約者のいる男性にはみだりに近づいてはいけない”という貴族社会にありそうな暗黙のルールはどうしても存在するのが現状だ。
それでも、身分の事をひけらかして貴族の子息子女が平民を傷つけたりしたら、即退学もしくは休学になる校則となっているから…。この中世っぽい時代においては、すごく近代的な仕組みでいいよなー
私が転生してから最初気になったのが、身分の高い人間が平民の生徒に対して嫌がらせ等をやっていないかという心配だった。
フィクションの世界では、いわゆる“悪役令嬢”が平民の“ヒロイン”を虐めるなんて光景もあるらしい。私の心配は、そこから起因している。
ある程度の学費はかかるものの、貴族から平民まで色々な立場の人間がこの学院に通うのは、やはり社交性や社会性。そして、座学や魔法使い・僧侶・戦士といった職へつくためのあらゆる技術が学べる事が大きいだろう。
因みに私は、卒業後は冒険者になり各地を旅する予定だ。上に兄がいるので跡継ぎ問題もなく、姉も今の家に相応しい相手の元へ嫁ぐことも確定している。よって、一応貴族である私は、自由に進路を決めることができる立場なのだ。
冒険者になると始めから決めているため、2年生となって選択できる科目が増えた現在は、魔法使いを目指すために必要な科目を履修している。
「…ウィザース。少しいいか」
「え…。あ、どうぞ…」
食堂にてランチと座る席を確保して食べ始めようとした矢先、私に一人の青年が声をかけてくる。
碧い瞳と紺色の髪を持つ青年の名は、ザック・キャンベル・オーウェン。
私と同じ学年で、オーウェン伯爵家の三男。同じ冒険者志望ではあるが、彼は剣士を志しているらしい。ただし、1年生の頃の必修科目や、今履修しているある科目で同じ講義もあるため知り合った友人だ。
「八分音符と、十六分音符がだな…」
相席でお昼ご飯を共に食べながら、私は彼から講義の内容について聞かれる事が多い。
ザックと同じ科目というのが、日本でいうところの“音楽”だ。
転生前の私は、学生時代にアルトサックスやピアノをやっていた。そのため、音楽に関する座学やその2つに関する演奏技術にはある程度自信がある。しかし、冒険者を目指す私達が音楽を履修するにも理由があった。
「冒険者になったら、遺跡や洞窟で財宝探索とかする時に必要だからな。座学くらいは剣士であろうと覚えておかなくてはな…」
「この世界を創った神様は、どんな心持だったのかな…」
「……何か呟いたか?」
「ううん、別にー!」
ザックの呟きに対し、私もボソリと呟く。
特に何も考えなしに呟いていたので、私は慌ててごまかした。
私がいるこの世界は、かつては魔王率いる魔族との大戦争があり、魔王が封印されたとかでひとまずの平和を享受しているらしい。その大戦争が終わった辺りから、各地の洞窟や遺跡で音符の読み方といった財宝を見つけるための暗号やトラップなんかに音楽の知識がないと解けない代物が見つかり始めたという。ここまでは、ウルヴェルドから聞いた話だ。
かつては吟遊詩人しか楽器を奏で楽譜を読める人間はいなかったため、世界的に音楽をよく知る知識人がいないのだ。そのため、現在は古代文献を読み解く事で音楽に関する知識を得て、各国の教育機関にはこうして音楽を学ぶ機会を得られるようにしている。
…ともあれ、ザックがこの国で出逢うであろう“捜している転生者”の一人目だといいんだけどなー…
ランチのパンを口に頬張りながら、私は考える。
というのも、私が転生したこのエセルという女子生徒。どうやら、“鑑定”というスキルを持っているようだ。
このスキルも、今いる世界独特のもので、生まれながらにスキルは持っているらしい。当然個々人によって得られるスキルは多彩で、扱えるレベルも個人差がある。
その中で、エセルは真ん中ぐらいかな?ザックが転生者というのは、エセルの鑑定スキルとウルヴェルドの言っていた“魂の質が一緒なのでお互いが転生者と解りやすい”ということで、中にいる魂も元地球人なのは確実だろうし…
相手が転生者だとわかっていても、流石に「私と共に使命を果たすために旅をしませんか」なんて唐突にお誘いする訳にもいかない。それは勿論、“まだザックが転生前の記憶を思い出したかどうかが不明”だからだ。
そして、この世界が地球からの転生者が多いという観点からも、全く自分には関係のない転生者という可能性も捨てきれない。
向うから切り出してくれたらありがたいけど…。さて、どうしたもんかな…
私は、ザックと共にお昼ご飯を食べながらそんな事を考えるのであった。
いかがでしたか!
序章であるこの章では、エセル達の学院生活が描かれます!
彼女はまだ確信持ててないですが、ザックが一人目の“捜している転生者”なのは確定なんです。(お気づきの方もいるかもですが)
後々旅に出るのですが、仲間の一人であるザックとの交流や学院での出来事が描かれる事になるかな。
まだ序盤でちんぷんかんぷんかもしれませんが、お付き合い戴けると幸いです。
ご意見・ご感想があれば宜しくお願い致します。




