ゴーレムとの戦いを経て
「俺が、敵の前に姿を現してから合図をする。そうしたら、二人は動いてくれ」
「了解」
敵の様子を伺っていた魔法剣士がザックやマリアーノに告げると、二人はすぐに同意した。
行く手を塞いでいる石人形を倒すべく、ザックは遺跡内にある楽器を使って敵に何かしらのダメージを与え、陽動として囮を引き受けてくれた魔法剣士を私・スルタン・男性魔法使いの3人で彼を援護する事になる。
「おい、デカブツ!!俺は、こっちだ…!!」
すぐに走り出した魔法剣士は敵の前に立ち、啖呵を切ると同時に炎をまとった斬撃を繰り出す。
こちらに視線を向けさせるための一発だったので、斬撃はゴーレムの肩辺りを掠っただけだった。それでも、壁に魔法剣による斬撃の跡ができているため、それだけ強力な魔法剣なのだと私は悟った。
「今だ、走れ…!!」
魔法剣を発動した直後、魔法剣士はザックとマリアーノに合図する。
それを聞き取った二人はすぐに走り出し、楽器が置いてある場所へと急ぐ。
「足元を崩せれば…と思いましたが、思うようにいきませんね」
その側では、風の刃を放つ魔法を放っていた男性魔法使いが呟く。
彼が放った魔法は敵の足元に放たれていたが、敵がそれだけ頑丈なのかもしれないが、あまり手ごたえがない。
「…もしかしたら、音魔法とかで頑丈にされているのかもね。エセル、何か視える…?」
「…!!やってみるね!!」
戦いのさ中であるせいか、すっかり女性の口調に戻ってしまったスルタンに促され、私は我に返る。
スルタンはきっと、私に“鑑定”スキルを使って敵がどんな防御魔法を使っているか視ろと言っているのね…!
その一言で何をすべきか察した私は、すぐに鑑定スキルを展開してゴーレムの全体像を見据える。ほんの3秒ほどの短い時間だったが、私達3人の間で沈黙が続く。
「スルタンの読み通り、ゴーレムの全身に今まで感知したことのない魔法が行使されているのが見えたかな」
「という事は、音魔法を利用した結界という事ですか?」
「そうね」
私は、口を動かしながら敵と戦う魔法剣士に防御魔法をかける。
その台詞にすぐ反応したのが、私と同じ職である男性魔法使いだった。
今回、魔法使いが一人増えたのは本当によかったな…
私は、会話のさなかでそんな思いが頭をよぎる。
魔法使いはその熟練度によって個人差はあるが、敵を目視する事でどのような魔法を行使しているかすぐにわかる場合がある。大抵の魔法は魔法使いが持つ資質次第で判明するが、音魔法の場合だとそう簡単にはいかない。
以前の合同作戦でも使われた音魔法は、魔法の歴史の中ではかなり古い魔法ではあるが、発見された時期が割と最近のため、実際に使用されている事例や使える魔法使いも少ない。そのため、音魔法が行使されている今回みたいな状況だと、“感知したことのない魔法”という曖昧な判断しかできないのだ。
「音魔法はあんたたち魔法使いの領分だから、私はわからないけど…。遺跡に古代楽器がある以上、音魔法の可能性が高いわ…ね!!」
スルタンも呪文の詠唱をして目くらましとなる閃光魔法を放ちながら、私達に対して呟く。
「えぇ。では、彼らの活躍に期待ですかね。…どうやら、用意が完了したみたいです」
男性魔法使いがそう述べながら、楽器を手にしながら何かを話していたザックとマリアーノの方を一瞥する。
何を話しているかは当然聴こえないが、マリアーノの口が早く動いているところを見ると、彰彦が“表”に出ているのだろう。楽器を演奏するという事は雪斗はともかく、マリアーノ本人には難しい。それ故の交代だろう。
「あ…」
すると、戦いによる轟音に交じって、ザックと彰彦による演奏が始まった。
コード表や楽譜もない初見な状態ではあるが、二人の演奏は本来の音源に合わせているのもあるだろうが、ずれもほとんど感じずにしっかりと響いていた。
ギターは、あまり詳しくないけど…。あの古代楽器の場合、アンプ繋げないでも音が響くということかな…?
私は、二人の演奏姿に見入っていると、ゴーレムの方に変化が起きた事に気が付く。
「ゴーレムの全身を覆っていた防御魔法が、消滅していく…!!」
私は敵に視線を戻した直後、防御魔法が次第に弱まってきている事に気が付く。
誰も否定しなかったところを見ると、男性魔法使いも気が付いたようだ。
「演奏による音魔法で、敵の防御魔法を消し去ったのね…。今よ!!!」
「おう!!」
私の台詞を聞いたスルタンが、すぐに魔法剣士へ合図する。
「待っていました」と言わんばかりの明るげな声で、魔法剣士は返事を返す。
敵は攻撃は腕によるものが大半なので単純そうだが、図体の割に素早いようだ。そのため、魔法剣士も少し苦戦していたが、スルタンの合図によってしっかりとした攻撃が与えられると気づいたのだろう。すぐに、魔法剣の構えをとる。
「こいつを………食らいやがれ!!!」
そうして地面を蹴った魔法剣士は、空中に跳びあがった直後に剣を振り下ろす。
楽器演奏をするザックやマリアーノ。そして、後衛組が真剣な面持ちで見守る中、魔法剣士が放った斬撃がゴーレムの核へと直撃していく事となる。
「本当に、こちらの方が多くもらっちゃって大丈夫なの…?」
「あぁ。といっても、俺にとっての良い物もゲットできたしな…!」
ゴーレムを倒した後、2台目のエレベーターに乗った私達は、塔の遺跡の最上階にある部屋へたどり着く。
そこには、金銀財宝も少しあったが———古代の楽器や楽譜の方がたくさん置かれていた。中には私が転生前に使っていたアルトサックスのような古代楽器や、ギターやドラム。スルタンが経験しているユーホニアムもあった。
「わたしは既に持っているので…。ザックとマリアーノ。君らも、自分達が演奏できる楽器をエセルの収納魔法で収納してもらうといいんじゃないか…?」
「それは、わかったが…。スルタン、今更な気がするような…」
スルタンの提案に同意したものの、ザックは「今更男性口調で話しても遅いのでは」と言いたげな表情をしていた。
「でも、ごめん。ドラムは私の身体より大きな楽器だから、収納はできないんだ」
「…成程。収納魔法って、術者より大きい物や重い物は収納できないんだな!」
私が少し不満げな彰彦に謝っている側で話す魔法剣士の腕の中には、地球でいうところのオーボエが入ったケースがあった。
「嬢ちゃんがこの先も俺の旅に同行してくれるなら、もう少し欲張ろうかと思ったが…。そうもいかないし、お宝は持てる分だけにしておくよ。いずれにせよ、俺はオーボエ以外の楽譜は読めないし、ダブルリードだから併用もできないしな」
「…そっか」
魔法剣士は、少し遠い目をしながら語る。
それを聞いていた私は、ふとゴーレム戦より前から気になっていた事が頭をよぎる。
もしかしたら、この魔法剣士…。今は“元々の彼”だけど、転生者の魂が眠っている可能性があるかも…?
というのも、お馴染みである鑑定スキルと転生者としての直感から、魔法剣士が転生者である可能性を持っていた。
因みにダブルリードとは、オーボエで使われる吹く際に使用する木の板の用な物だ。私が経験しているアルトサックスもリード楽器だが、オーボエが使うものとは違い、シングルリードという単一で音を鳴らせる代物である。シングルリードの楽器はサックス以外だとクラリネットも該当しているため、サックス奏者がクラリネットを吹くことも、その逆も可能だ。
しかし、ダブルリード楽器であるオーボエの場合、併用して吹けるのはファゴットやイングリッシュホルンにあたるが———この宝物庫には、オーボエ以外のダブルリード楽器はないようだった。
仮に転生者だったとしても、ウルヴェルドや私達に関係がある人物ではなさそうだな…
塔の遺跡の入口へと降りていく途中、私はそう考えたことでこの魔法剣士の事を考えるのは止めることにしたのである。
「次の目的地へ、すぐにでも行きたいところじゃが…。町へ戻ってしまうと次に向かうのが大変じゃから、もう少し歩いたら今宵は野営だな…」
「…やはり、そうなるか」
塔の遺跡を出て二人の冒険者と別れた後、徒歩で進む中でマリアーノとザックは語る。
どこかで馬車を見つけて町まで乗せてもらうのも良いが、その場合は次の目的地よりも距離が開いてしまうようだ。とはいえ、夜の森や山を進み続けるのは危ないので、今宵は野宿になる予定だ。当然、野宿は冒険者として日常茶飯事な事である。
「…転生してから楽器演奏する暇なかったし、初見だったから疲れたでしょう。二人とも、お疲れ…!」
私は、今回頑張ったザックとマリアーノに対して、労いの言葉をかける。
「うむ。まぁ、今回の功労者はワシよりも彰彦じゃがな」
「…あぁ、サンキュ」
普通に笑みで返してくれたマリアーノに対し、ザックは少し照れているようだった。
中身も10代の若造だもんね。…可愛いものだわ
完全におばちゃん目線でなごみながら、私達は野営をする場所を探し始める。
時同じ頃———
「あれ…?」
私達と別れた魔法剣士は少しの間呆けていたようだが、我に返ったのか閉じていた口を開く。
周囲を見渡すと人の気配もなく、彼独りきりだ。
手元には遺跡で手に入れた財宝と、オーボエの入った楽器ケースが握られている。彼は、私達の徒党と別れた所までは覚えているが、今どうして一人で呆けていたのかが思い出せない。
「ひとまず、先へ進むか」
考えることを諦めた魔法剣士は、一人で森の中を進んでいく。
『……見事なものだ。“全ての記憶”ではなく、“自身と関わっていたという事実のみの記憶”だけ消したのだからな』
「…恐れ入ります」
魔法剣士がその場を去った後、森の茂みに隠れていた男性魔法使いは、魔晶石から聴こえる声の主と会話をしていた。
魔晶石とは、この世界で採れる鉱石に魔力を注いだ物質で、音や映像を記録したり、遠くにいる人と会話する事ができる代物だ。ただし、効果が様々な分作るのは容易ではないため、魔晶石に魔力をこめるのは私のような魔法使いの仕事である事が多い。
「して、先程お送り致しました石人形との戦いを映した映像…いかがでしたでしょうか?」
男性魔法使いは声の主に問いかけると、口を閉じることで相手の回答を待っていた。
その待っているほんの10秒ほどの間、男性魔法使いの姿がみるみる変貌し、二本の細長い角が生えた男性の姿———四天王と呼ばれる大魔族・眩惑のイルジオとなっていた。
『…あの娘で、間違いないようだ。娘の一行が向かった先に、心当たりは…?』
「はっきりとは申していませんでしたが…。確か、徒党の一人であるエルフの僧侶が“やること終わったら、ひとまず里帰りだ。面倒くさい”と呟いているのを聞きました。おそらく…“するべきこと”を終えたら、エルフ共の住む里へ向かうものかと思われます」
『…そうか。では、引き続きこの件はお前の指揮で動いてもらう』
「承知しました、魔王様…。それでは、進展がありましたら、また連絡致します」
イルジオが最後にそう告げると、魔晶石に宿っていた小さな光が消えて元の鉱石に戻る。
魔晶石を懐にしまったイルジオは、音もなくその場から瞬間魔法で立ち去るのであった。
いかがでしたでしょうか。
モブとはいえ、一緒に戦ってくれるキャラが増えると、バトル書くのも楽しいですね♪
さて、音楽的な要素でいうと楽器のリード楽器について。
大体はエセルが説明してしまったので追記はしませんが、クラリネットとアルトサックスのくだりは皆麻自身の経験談を元に書いていることや、実際にそういった事例が多いという事になりますね。
そんで、最後にはまさかの魔王登場(笑)
かつて勇者によって封印された魔王ですが、イルジオと会話しているということは、復活したのでしょう。しかし、封印がそう簡単に解けるものでしょうか?
その辺の謎は、今後の展開で判明していくかんじになりそうです。
次回もお楽しみ★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。




