動き出し
今回は、ザックの視点で話が進みます。
エセル達が法の神殿に滞在していた頃——————かつて魔族の長だった魔王が住んでいたとされる魔王城では、その配下たる魔族達の巣窟となっていた。
「始末した娘が、生きていた…ですって…?」
配下からの報告を受けていた四天王の一人・眩惑のイルジオが、目を大きく開いて驚いていた。
「イルジオ様のお力で人間に擬態し潜入していた教育機関にて、くしくも魔族の存在に勘付いた娘がおりました。特になんて事のない普通の学生だったので、事故に見せかけて始末したはずなのですが…」
「生きていた…。という事は、その教育機関の外で見かけたという事ですか?」
「はい…。先日、アザークス様の元配下だったカルラが人族の冒険者共に討ち取られましたが…その数いる冒険者の中に、件の娘はおりました。…雰囲気が、学院にいた頃とはだいぶ異なりますが…」
「そうですか…」
話の一部始終を聞いたイルジオは、その場で腕を組んで考える。
「…最近は、エルフやドワーフ共も妙な動きをしているという報告を受けています。引き続き、人族の動向を探ってください。我らの魔王様完全復活のために…」
「…御意」
イルジオは指示を出してそれに同意した部下の魔族は、一瞬にして姿を消した。
静まり返ったその場には、イルジオだけが立っている。
「近年、人族で多く出現している“異界からの来訪者”とやらか…?まぁ、その方が魔族の悲願達成のためには都合がいいですがね…」
独り呟くイルジオは、不気味な微笑みを浮かべていたのであった。
「法の神殿経由で、同胞から依頼の手紙が届いたわ」
過去世の鏡がある部屋での一幕終わった翌日、手紙を手にしたスルタンが法の神殿内にある客室に入ってきた。
その台詞を聞いた俺——————ザックは、スルタンが手にしている手紙を一緒に覗き込む。
…そうか、エルフ語は只人の言語と違うんだったか…。全然読めねぇや…
しかし、俺は手紙を覗き込んだ事をすぐに後悔していた。
「そうそう。ワシらドワーフやエルフの言語は、お主ら只人と異なるからの。読んでもわからんじゃろ」
「…はは…」
「ザックってば、高等学院でもその話は習ったでしょうに」
マリアーノに突っ込まれた苦笑いし、エセルの一言で高等学院時代に習った事を思い出した俺は、恥ずかしくて頬が真っ赤に染まっていたのである。
スルタンが読み上げた手紙の内容とは、端的にいうと二つの依頼をこなした後にエルフの里へ来てほしいという内容だ。
「一つ目は、塔の形をした遺跡の探索…。これは、音楽関係の遺跡ね。二つ目は…ムジカ・デラフィーネを作曲した作曲家の故郷である村を捜して訪れること…!!?」
「なっ…!!?」
スルタンが読み上げた事で、俺達は目を見開いて驚く。
それと同時にエセルが軽く詠唱し、以前にも使っていた音が聴こえにくくなる結界魔法を部屋全体にかけていた。
「高等学院時代に噂で聞いた事あるんだけど、“その作曲家の故郷の村”は外界から場所を悟られないように特殊な結界魔法で目隠しをしているらしいわよ」
「あぁ、俺もその噂は聞いたことがある」
手紙の内容について、エセルや俺が語る。
「エセルが遮断する魔法かけてくれたから話せるけど…。ここだけの話、私達エルフの先祖は、その村を訪れたことあるそうよ」
「では、その結界魔法とやらを解除する術も知っておると…?」
「ううん。スルタン世代から見た先祖だから…まだ、村の人々が目隠しの魔法を使用していない頃らしいわ。ただ…」
「ただ…?」
スルタンとマリアーノの会話の中に、俺も入り込んでいく。
「具体的な“正解”は知らないらしいけど…おそらく、私達の音感が試されるような気がするの」
「??」
次の目的地が決まった俺達は、大司教ら神殿の連中に挨拶をし、法の神殿及びその街をあとにした。
別の街へ移動する馬車に乗せてもらい、最初の目的地付近で降ろしてもらってから徒歩で向かうことになる。こなす依頼の順番としては先に遺跡を探索し、その後に“あの曲”の作曲家が生まれ育ったという村へ向かう。そうしてどちらも終えた後に、スルタンの故郷でもあるエルフの里へと向かおうという結論に至った。
すっかり、馬車での移動も慣れたな…
あぁ、雪斗も剣士として、だいぶこの世界に馴染んできたな
馬車で移動中に心の中で呟いていると、雪斗の中にいる“本来のザック”が反応する。
思えばこの貴族令息に転生して以来、ザック本人との対話も慣れてきたものだ。
以前、複数の徒党と組んで魔族と魔物の討伐があった際に思い出したことだが…
すると、ザックが不意に話を切り出す。
彼が言うには、以前戦ったカルラを従えていた魔族の四天王と呼ばれる大魔族。内二人は勇者によって倒された話は有名だが、魔王が倒されてからも未だに行方不明の四天王が二人いるという。その内の一人・眩惑のイルジオについて語っていた。
文献によると、イルジオは幻影や縛魂。精神や肉体操作についての魔法のエキスパートだという。そのため、魔王が討伐された後も姿を変えて、どこかに潜伏しているのではというのがザックの見解だ。
エセルの事もある。…今後は、魔族達の動きも気を付けておいた方がいいだろうな…
…了解
ザックの意見に対して俺は同意し、“俺達”の会話はここで終了となる。
馬車を途中で降ろしてもらった後、俺達は徒歩で向かう。
スルタンの同胞によると、場所までは把握しているが塔の鍵が特殊で容易には開けられないらしい。扉の開け方は苦戦しそうだが、目的地の場所が判明しているのはとても有難かった。
「お…あれか…!」
森の中を進んでいくと、マリアーノが目的地である塔の遺跡を発見する。
幸い周囲に魔物の気配はなく、俺達はそのまま真っすぐと入口の扉へと足を進めた。
「これが、扉…。で、こちらが…」
扉を目の当たりにしたエセルが、巨大な扉及びその鍵穴があると思われる場所を見つめていた。
そんな俺達が目にした扉の鍵部分は、町などで見かける見知った鍵穴ではない。
アルファベッドの“P”と書かれたボタンと、その横にはボタンと同じくらいの大きさをした穴が二つある。その上には、“#”と“♭”の文字が彫られていた。
「これは確かに…。知らぬ者からすると、お手上げ状態じゃな」
「この2つの符合が刻まれているとなると…」
「あ…おい…!」
マリアーノが少し困惑した表情をしていたものの、スルタンが呟きながら何かしようとした。俺が止めようとしたが、時すでに遅く——————スルタンは、“P”と書かれたボタンを話しながら押していた。
「……何、この曲。不協和音…?」
スルタンがボタンを押すと、俺達の周囲で初めて聴くような曲が響いてくる。
しかし、音が外れているのか耳が痛くなるような旋律だったため、エセルが苦そうな表情を浮かべていた。
…音程は外れすぎて最悪だけど、リズムは一定だ。これって…
不快ともいえる曲を聴きながら、俺は何かを思いつく。同時に、この扉を開ける“鍵”になりうる物を仲間が所持している事を思い出した。
「なぁ、エセル」
「なに?」
俺は、片方の耳を塞いでいるエセルに声をかける。
「この扉を開ける方法…。それはおそらく、“この不協和音の音程を上げるか下げるかして、元の音程に戻す”ことをすれば開けられそうな気がするんだ。そして、その方法を実施するためのアイテムを、エセルが持っているはずなんだが…」
「…!!」
俺が途中で言葉を濁していると、何が言いたいか察したエセルは、すぐに自分のお財布にあたる革袋を取り出す。
「まさか、“あの時”見つけた鉱石が…」
驚きながらも、エセルの掌の中には——————以前訪れた洞窟で見つけた“♭”が刻まれた鉱石があった。
「それって、吸血蝙蝠が持っていたという石…?」
鉱石を目にしたスルタンがエセルに問いかけると、彼女は黙ったまま首を縦に頷いた。
「あとは、この彫られている文字そのままの穴に入れていいかどうかだけど…」
途中言いかけたエセルは、一度塞いでいた手を離して瞳を閉じる。
おそらくは、扉から流れている曲をじっくりと聴いているのだろう。スルタンやマリアーノもそうだと察したのか、俺達の間で少しだけ沈黙が続く。
「…うん、正解は“♭”で大丈夫そう」
一言呟いたエセルは、持っていた鉱石を“♭”と彫られたすぐ下にある穴に入れた。
「おぉ…!」
「ちゃんとした曲になったな…!」
鉱石を入れると、今まで不協和音でしかなかった曲が、ちゃんとした一つの曲として聴こえ始める。
それは、音楽の経験がないマリアーノでも容易に理解できた。
俺も一応相対音感はあるが…。やはり、やっている楽器の種類とキャリアの差かもな…
大きな轟音を立てて扉が開くのを垣間見た時、俺はエセルの凄さを改めて実感したのである。
因みに、彼女が何故”♭”の穴に入れたのか。その理由は、聴こえてきていた曲の音階が、実際の曲よりも半音高かったのだ。
エセル曰く、ピアノでいう”半音変わる”という事は、聴く人によっては不協和音となる可能性が高いらしい。単語としては知っていたが、流れてくる曲が半音高いか低いかの判断は俺にはできない。
「先へ進むか」
俺は皆にそう告げた後、扉の中へと進んでいく。
それに着いていくように、外の3人も扉の中へと入っていくのであった。
いかがでしたか。
この回から、新章スタート!
早速、以前に出てきた鉱物の伏線回収が来ましたね。あとは、以前から気になっていた視線の正体も…?
今後は色々と細かい内容に触れていくことになりそう…。
それと、途中の会話でこの章がどういったエピソードの順番になるか大体わかっていただけたかなと思います。
次回は、再びエセル視点に戻ります。
次回もお楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願いいたします<m(__)m>




