マリアーノと転生者・彰彦
今回は、マリアーノの視点で話が進みます。
この兄ちゃんと姉ちゃん、相対音感とか絶対音感持っているのかな…?
この心の中の呟きは、ワシ―———————マリアーノ・カチョの肉体に転生してきた少年・彰彦のものだ。
確か王都のギルドで、エセルやスルタンに初めて会った際に呟いていたと記憶している。
今では他の3人も知っている事だが、儂の中にいる彰彦とは意思の疎通が取れる。加えて、好きなタイミングでお互いが「表」に出る事ができるのだ。それは、転生前の魂と意思疎通が取れないエセルやスルタンにとっては、目を見開いて驚くくらいの事実らしい。
「…ギルドの依頼を受けるのは、久しいのぉー…」
「以前受けた時は、まだあんたと二人旅していたものね」
ある日の昼間、街の中を歩きながらワシとスルタンが語る。
同胞からの依頼を達成したワシ等は、遺跡からほど近い辺境の街から移動し、隣国にある国境沿いの街にたどり着いていた。今は、この国にもあるギルドへと徒歩で向かっている。
「それにしても…違う国に行っても、その国のギルドで依頼を請ける事ができるのって、不思議なかんじよね」
「あぁ…。転生前の国だったら、あまり考えられない事だしな…」
すると、今日の行き先についてエセルやザックも語る。
本来、ギルドの依頼を請けなくても冒険はできる。しかし、旅には何かとお金が入用―————————という事で、路銀を稼ぐためにギルドの依頼を一つ請けようという話になったのだ。
……外国に入るのに、入国審査的なのもだいぶ緩いよなー…
それをワシに言われてものぉ…
すると、ワシの脳裏に彰彦の呟きが響く。それに対してワシは、心の中で呟く事で彼の呟きに応えた。
初めてワシと意思疎通ができた時、「自分は他の奴らと話すために“表”には出たくない」と彰彦から言われていたので、現在もこの肉体を動かしているのは“本来のマリアーノ”だ。彰彦は以前生きてきた世界では15歳と、まだかなり幼かったらしい。そのため、思春期の子供ならではの我儘かと最初は思っていたが、想像よりも重い現実が彼を内向的にしていたようだ。
他の3人もそうらしいが、転生者が自身の肉体に宿った際は転生者の記憶を垣間見る事ができる。ワシが見た彰彦の記憶とは―――――――――――――中学校という学び舎にて他の者からいじめを受け、ついには精神を病んで自ら死を選んだ最期の記憶だ。
他者から虐げられるような生活が続けば、精神は病むし他人を信じられなくなってしまうだろう。もしくは、いじめが原因で他者と関わる事が億劫になっているのか。
いずれにせよ、基本的に表にはワシが出るという彼の提案を受け入れるのが最善だと感じていた。
「ん…?」
足を進めたワシらがギルドの扉を開いて入ると、何やら一部の受付がかなり混雑しているのを目にした。
ギルドの中は人の往来が多いからざわついているのは日常茶飯事だが、平常時と何か異なる雰囲気を感じ取ったのか、ザックは首を傾げていた。
「魔族の討伐依頼。もう少しで締め切りますが、まだ参加頂ける徒党の方はいらっしゃいませんかー??」
すると、受付付近に立っていた受付嬢の声が響く。
「…どうやら、複数の冒険者が参加必須の依頼が急遽出ているようじゃな」
「こなすのが私達だけじゃない分、難易度も少しは低いだろうし…。エセルとザック、滅多にない機会だから経験してみる?」
ギルドの状況から大規模な依頼が出ている事を察したワシとスルタンは、まだ他の徒党と組む依頼を請けた事のないエセルとザックに問いかける。
「そうね、経験に勝る知識はなし…っていうし、請けれそうならいいかも!」
「俺も賛成だ。自分よりも強い剣士とかがいたら、参考にしたいしな」
すると、若造二人はすぐに快諾してくれた。
「嬢ちゃん、ワシらの徒党も請けられるならば請けたいのじゃが…。いかんせん、今ギルドに到着したばかりなので、依頼の概要を教えてはくれんかね」
「ありがとうございます!はい、ではご説明しますね」
私が担当の受付嬢に声をかけると、その娘は笑顔で説明してくれた。
今回の依頼は、一言で言うならば魔族と魔物の討伐だ。
今から2・3日程前、街からほど近い近隣の村にて、狼の姿をした魔物数十匹ほど引き連れた魔族が現れ、村は一日にして滅ぼされたらしい。人食いの魔族もいるため、村人の死体の回収は難しいが、敵はその村を根城にしているらしい。
村からこの街までの距離も徒歩で2時間弱くらいの距離なので、今後街に襲い掛かって来ないという保証はない。元々、狼の魔物が村近辺に棲みついていたため、家畜等の被害はあったという。しかし今回、この国の公爵令嬢が周遊で村を訪れた時に魔物達の襲撃に遭ってしまい、公爵は激怒。国に兵を出して殲滅するよう打診するが、その公爵が嫌われているのか詳細は不明だが、国は兵を出せないという話らしい。そのため、冒険者が集うギルドに依頼を持ちかけたと受付嬢が語る。
「魔物単体だと、そこまで驚異的な魔物ではないんですが…。従えている魔族が、かつて魔王軍の四天王に仕えていた魔族らしいんです。そのため、今回はギルドの全レベル対象ではあるのですが、まだ冒険者登録して間もない新人さんが集まる徒党はお断りさせています」
「成程な…。うむ、では諸々の書類をもらおうかの」
受付嬢からの説明を受けて、ワシは改めて参加しても大丈夫だと確信する。
その後、スルタンも加わって今回の依頼を請ける手続きを進めるのであった。
ギルドの依頼を請ける手続きを終えた後、すっかり外が暗くなってきたので、ワシ等は翌日に備えて一泊の宿をとった。
「急な依頼なのに、討伐作戦開始が翌日なんだね」
「狼の魔物の場合、夜行性の可能性が高いんじゃ。冒険者側も準備が必要だし、此度は村を根城にして一か所に留まっている。故に、大至急でなくてもよいのじゃろうよ」
「成程…」
宿屋の一室にて、ワシとエセルが明日の討伐作戦について語る。
「剣士に戦士。魔法使い、僧侶、弓闘士…。成程、一通りいるから作戦も練る事ができそうね」
「ところで、こういう複数の徒党が一緒に請ける依頼の場合、指示系統は誰が担うんだ…?」
「そうね。基本は、メンバーの中で最も冒険者としてのレベルが高い者になるわ。なので、この紙にちゃんと指示を出す人族の名前が記載されているのよ」
スルタンやザックも会話に加わり、今回のような大規模依頼を初めて請けるザックはスルタンに問いかける。
すると耳長坊主は、ザックに明日の集合場所等が書かれた紙を手渡しながら答えた。因みに、ワシらドワーフは、エルフの事を“耳長”と呼ぶ事が多い。スルタンは中身こそ女子だが、肉体は男のエルフなので、坊主呼びがちょうどいい。とはいえ、本当の所はワシの方がスルタンよりも生きた年数は短い。エルフは歳をとっていても男女共に端正な顔立ちの物が多い。そのため、髭を生やすワシは外見だけ見ると自分の方が老けて見えてしまうという損な外見でもある。
そうして明日に関する話を終了して、各自就寝前の何かをしようとした時だった。
「…いい機会だから、皆にも訊いておこうかと思って。それでさ、マリアーノ。あのさ…」
「エセル、どうしたのじゃ?」
少し黙っていたエセルが違う話題を切り出し、途中で少ししどろもどろになりながらワシに視線を向けていた。
ワシは、彼女から何を言われるのかが判らず首を傾げる。
「マリアーノの“中”にいる“彼”…。彰彦に“表”へ出てきてもらおうことはできるかな?」
「……話の内容によると思うがな」
エセルによる予想外の台詞に驚きつつも、ワシは一呼吸おいてから返事をした。
その後、彼女は言いにくそうだったのかワシの耳元でこっそりと教えてくれた。それをワシは、彰彦にも大事な事であろうと思い、その提案を受け入れた。
なんで、そんな事を言わなきゃいけねぇんだよ!!
まぁまぁ…。お主がどのくらい話せるかはわからんが、今のお主は転生者という特殊な状況だ。何か起きてしまった場合でも対処できるよう、今からできることはしておいた方がお主のためでは?
一回り以上歳の差があるワシと彰彦の“中”での会話は、スルタン達には聞こえない。だからなのか、彰彦はワシの脳裏でブツブツと文句を垂らしながら渋々了承してくれたのであった。
「…で?マリアーノに交代してもらって、エセルは私達に何を訊きたいの?」
「……変な内容だったら、あとで怒るからな」
スルタンはエセルの方を向きながら話し、“ワシ”もエセルの方を睨み付けるように見ていた。
因みに、ワシが引っ込んで彰彦が“表”へ出た際、マリアーノの身体の中から窓のような物体を通して、“表”にいる彼らの姿や声を見たり聴いたりすることが可能だ。
「今の間は独りごとを言っても、誰にも聞かれる心配はないな」
ワシは、思った事を声に出していた。
当然、今のワシの周りには誰一人とて人影はない。そのため、この場所で何を言っても、“表”にいる彼らに聴かれる事はないという事になる。
「この世界に転生して、少し経った時に思ったんだけど…。皆は、前世の自分が死んだ時の記憶って……ある?」
「…っ…!!」
エセルが少し気まずそうな表情をしながら、皆に訊きたかった質問を口にする。
それを聞いた彰彦は、明らかに動揺している声が出たようだ。
「随分、センセーショナルな内容ね。…一応あるわ。詳細は、言わなくていいわよね?」
「う、うん!もちろんよ!!」
スルタンが、皮肉めいた笑みを浮かべながら答える。
流石のエセルも、前世の彼らが味わった死の詳細まで訊こうとは思っていないだろう。結果としては、彰彦を含む3人の若造らは覚えていたらしい。
「そうなんだ…。前も少し話したかもしれないんだけど、私…。どうやって死んでからウルヴェルドに呼ばれたのかが、全く覚えていないのよ」
「…何か衝撃的な事があって、精神が傷つかないよう本能的に記憶が消えるよう仕向けたのかもな」
「俺!!…も、少し気になっていたことが…ある…」
エセルが自身の事を話し、それにザックが同調する。
すると、黙っていた彰彦が割り込むように会話に入ってくる。
自分が発言するタイミングが上手く調整できないのは、まだ若い証拠だな…
彼らの会話を聞きながら、ワシはそんな事を考えていた。
「彰彦…だっけ?気になっている事って、なに?」
少年の台詞に反応した耳長坊主が、視線をそちらに向ける。
他人と話すのが苦手な彰彦は、しどろもどろになりながら話す。
「俺やスルタンは、ザックが前世を思い出した後…連鎖的に思い出したってマリアーノも言って…いた。ウルヴェルドに詳細を聞かされていたエセル…はともかく、俺達3人は何故…今の身体に転生しても、転生前の記憶が…目覚めなかったんだろう…って……」
「…!!!」
彰彦の台詞を聞いた他の3人は、目を見開いて驚く。
「…転生してから色々あったから、そんな事考える余裕もなかったな…」
「私も…」
そう口にしながら、美都紀と雪斗は腕を組んで考える。
「…何者かの妨害が、あったのかもしれない…」
「エセル…?」
すると突然、話を聞いていた寛が呟く。
しかし、瞳が虚ろになっていた彼女の表情は、いつもの明るい彼女のものではない事をワシは気付く。
「……あれ?」
しかし、すぐに虚ろな表情は消え、普段の彼女に戻る。
「私…何か変な事口にしていなかった…?」
「思いっきり…」
「…“もしかして、本来のエセルが言葉を発したのかもしれん”と、マリアーノが言ってたよ…!!」
皆が動揺する中、エセルは自分の意志とは関係ない事を口にした自覚はあったようだ。
スルタンや彰彦は、冷や汗をかきながらその現象について口にする。
その後、この“転生前の話題はひとまず終了となり、翌日に備えて就寝することとなる。
布団に入る前、彰彦からワシに戻っていた。
今まで意思疎通が取れなかったという、“本来のエセル”の魂…。何故、あの一瞬だけ言葉を発したのだろうか…?
ワシは、先程エセル本人が述べていた台詞の意味を考えながら、眠りにつくのであった。
いかがでしたか。
今回は、次のギルド依頼を請ける前の一休み的回。
そのため、音楽要素はなし。むしろ、物語の根っこに纏わることがチラホラ。
因みに、この「複数の徒党が1つの依頼を請ける」というやり方は、ラノベ原作の「ゴブリンスレイヤー」を参考にさせてもらっています。
魔族の四天王という新しいワードが出てきましたが、これについては今後解説かな?
魔王直属の部下とだけ、書いときます。勇者との戦いで敗れた奴もいますかね。
こういった魔族の存在については漫画「葬送のフリーレン」を参考にさせてもらっています。
さて、次回は本格的な作戦スタートです。
どんな展開が待っているのか?
次回をお楽しみに★
ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します<(_ _)>




