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他の転生者と共にいざ、音楽の旅へ行きませう  作者: 皆麻 兎
諸国の旅路編

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古代楽器とその先に在るもの

「…じゃあ、吹くよ」


準備が整ったスルタンは、緊張した面持ちで楽器を構える。


遺跡で見つけた古代楽器は、ユーホニアムに似ているが、転生者達(わたしたち)がよく知る同名の楽器と多少形が異なる。そのため、スルタンが運指確認で一度楽器を手にした際は、少しだけ持ちにくそうにしていた。

スルタンの手で紡ぎだされる、楽器の音色。ただ適当に吹いている訳ではなく、何を吹くべきかというのが遺跡の扉にヒントが隠されていたのである。


 音階(スケール)、基礎練習の定番だったなぁ…


私は、古代楽器を奏でるスルタンの後ろ姿を見守りながら、そんな事を考えていた。

日本語で言う音階を、吹奏楽用語としてはスケールと呼ぶ。これはどの楽器においても基礎練習に取り入れられているような技術(もの)で、ドレミファソラシドの7音を低いドから高いドまで演奏し、逆に下りてくる—————これを実施する事をスケール練習というのだ。


「扉が…!!」


スルタンがスケールを吹き終えて一呼吸していると、扉から物凄い轟音が響く。

ザックが声を張り上げて驚いている中、轟音と共に固く閉ざされた扉が開く。


「見事じゃったぞ、スルタン。して、どうして扉を開けるのに必要な音がその複数の音だとわかったのじゃ?」


扉が開いた後、マリアーノがスルタンに問いかける。

一方で、ザックも不思議そうな表情をしている。

本来ならば、転生者である雪斗もすぐに答えがわかりそうなはずである。しかし、その考えが誤りである事に気づいた。


「あの扉の所々に、ちりばめられた文字から解ったの。扉には、“スケール 四分音符”という文字があったわ」

「スケール…?」

「またの名を、“音階”ともいうかな。ピアノや管楽器では、基礎練習でよくやる内容だけど…。ギターだと、あまりスケール練習はやらない?」

「…だな。スルタンが吹いた時に、そういう音を出している奴が昔いたようなくらいに思った程度かな」

「ともあれ、扉は開きました。皆さん、中へ入ってみましょうか」


スルタンの説明に対してザックが首を傾げた後、私が補足説明をした。

そうしてずっと見守っていたと思われる冒険者の女性が、後ろからしゃしゃり出てきたのである。ひとまず私達は、彼女の一言を皮切りに奥へと進んでいく。



奥へ進んでいくと、先程楽器演奏をした場所よりも更に広い空間が広がっていた。

そこから先へ続く扉がないところを見ると、この場所は遺跡の最深部なのだろう。


「あ…!」


視線の先に広がる物を見つけた私は、すぐさま駆け出す。

本当ならば罠がないか確認するところだが、冒険初心者の私はそういった行動に慣れていない。


「本当に罠がなかったから、よかったが…。一歩間違えれば、大けがしていたのかもしれんぞ」

「あはは、ごめんごめん」


その後、すぐに追いかけてきたマリアーノ達に私は注意された。


仲間達に謝った後、私はこの遺跡の宝と思われる物を手にする。

広間の中心に置かれていたのは、数冊の本が入っている小さめの本棚だった。中には、少し分厚いが転生前(いぜん)の世界におけるB5サイズくらいの本が4冊ほど収まっている。すると、スルタンがその1冊を取り出して本を開く。


「これは……楽譜ね。歌か曲の弾き語り譜かしら」

「そうみたいね。…歌詞が少し書き込まれているし…」


本の中身を見るスルタンの横から覗き込み、私も彼に同調していた。


 他の3冊…。中身はあとで確認が必要だけど、今スルタンが読んでいる物と背表紙が似ているから、似たようなジャンルの本かもね…


私は、小さな本棚に収まっている残り3冊の本を一瞥しながら考え事をし始める。

しかし、ゆっくりと考える時間を取る事ができなかった。



「…どういうつもりですか」


その後、私は背後から感じた殺気に対して言葉を口にする。

他の3人が驚く中、私はゆっくりと本から視線を外し、後ろに迫っていた人影を見つめる。

視線の先には、私がこの遺跡へ入る時にかけた矢等の飛び道具を弾く結界魔法の光と、それに阻まれて動きが止まっている冒険者の女性がいた。

その女性の手には背中に背負っていた内1本の矢が握られており、表情から殺気が放たれている。

同時に、彼女が被っていた帽子が結界で起きた風圧で飛ばされたのか、地面に落ちている。そして、その頭の上には人族には絶対にない物体(もの)があった。


「角…!?もしや…!!」

「…エセルが結界魔法(これ)をかけてくれた時、無駄に終わらないかとも思ったけど…。まさか、矢で背後から刺そうとする奴がいるとは…ね」


女性の頭にある一本の細い角を目の当たりにしたザックは、目を見開いて驚いていた。

また、ようやく敵を視認したスルタンは、冷や汗をかいている。


「魔族か…。その帽子や弓矢はさしずめ、儂らより先に訪れた冒険者から奪った物だろう?」

「半分正解です。扉の謎が解けなかった冒険者の方から、貰ったのですよ。武器を装着していれば、誰もが冒険者と判断してくれると思ったので…」

「はっ!矢の使い方が解っていない所から察するに、冒険者を食べたついでに奪ったって所でしょう?…胸糞悪いわ!!」


敵を見据えたマリアーノは、斧を構えながら口を開く。

一角の魔族はもっともらしい台詞(ことば)を口にしていたが、嘘だと見抜いていたスルタンが鼻で笑っていた。


「ひとまず、遺跡の謎を解いてくださった事を感謝します。お礼に、一人残らず喉を切裂いて、美味しく頂いて差し上げましょう」

「…っ…!!」


一角の魔族は淡々と述べていただけだが、私は一瞬悪寒を感じた。


 魔族は人間を食べる…と知識では知っていたけど、こういう台詞を改めて聞くとおぞましさを感じるわね…


私は、冷や汗をかきながら、収納魔法で隠していた魔法使いの杖を取り出した。

一方、矢を手にしていた敵は、すぐにそれを投げ捨てて戦闘の構えをとる。鋭い爪が指から見えた事から、本来は爪や素手で戦う魔族なのだと私達は悟る。


「くっ…!!」


両者が一触即発だった中、敵は間合いを詰めてザックへと襲い掛かる。

彼は敵の爪を剣で弾くが、敵の猛攻は続く。


「ザック、伏せて!!」


敵の猛攻もあってか詠唱を終える事ができた私は、炎の魔法を敵にぶつけた。

私からの合図に気が付いたのか、ザックはすぐさま後ろへと数歩さがる。私が放った魔法は、あともう少しずれていなければ、敵に命中していたであろう。


「小娘が…っ!!」


すんでのところで躱したものの、敵の表情(かお)は悔しさと怒りが混ざった雰囲気だった。


 これなら…っ…!!


敵が私へ襲い掛かろうと迫ってくる事に気が付いた私は、咄嗟に空気の刃を放つ魔法を放った。


「…ぐっ…!!」


魔法は何とか発動し、目には見えにくい空気の刃が敵の身体に傷を入れていく。

しかし、咄嗟に唱えた魔法だったので、それ一つで倒せるほどの威力はない。敵を一撃で倒せるような魔法も使えるには使えるが、詠唱にある程度時間がかかる。今回のように動きが素早い敵を相手にしている場合、殺傷能力が低くても詠唱が短時間の魔法(もの)の方が大きな効果を発揮するのだ。


「がっ…」


その後の出来事は、一瞬だった。


おそらく、敵が私へ襲い掛かろうと方向を変えた辺りで動き出していたのだろう。魔法が命中し、一角の魔族が地面へ降り立ったのとほぼ同時にマリアーノが地面を蹴り、斧を振り上げていた。

そうして敵は、彼の一刀両断の元に倒れた。


「魔物と同じように、倒したら灰になる…。魔族の先祖が、魔物だからということか」


魔族の姿かたちが崩れて灰となって消滅する様を目にしたザックが、そう口にしながら剣を鞘に納める。


「ふぅー…。ひとまず、倒したわね」


戦いが終えたと判断したスルタンは、安堵したかのように大きく息をはいた。


「ひとまず、この本達(おたから)を運ばなくちゃね!…私の収納魔法、使う?」

「そうだな。この後、遺跡の外に迎えの馬車を連れてきてくれるという手筈になっているのだが…。貴重なお宝だ。遺跡を出るまでは、それがよいかもしれん」

「了解!」


私がお宝をどうするか相談したところ、マリアーノがすぐに答えてくれた。


具体的な仕組みは企業機密らしいので教えてもらえなかったが、ドワーフやエルフは離れた場所にいる同胞に対し、自分の居場所を知らせる手段を持っているらしい。転生前の日本みたいにスマートフォンなんて存在しないし、遠く離れた同胞を捜しに行く事も時折あるため、生まれた技術なのだろう。

その後、私の収納魔法で本を一旦消失させ、遺跡の出入口へと戻った。因みに、私が使える収納魔法は、自身よりも小さくて軽い物であれば何個でも収納が可能だ。逆にいうと、自分よりも大きいか重い物に関しては、収納できないという事になる。



「…結局、そのピックは使わなかったわね」

「あぁ…。わかっていたとはいえ、世の中には屑に等しい奴らっているもんだなー…」


遺跡の外へ出た後、私達を迎えてくれたのは依頼を持ってきたドワーフも同乗して来た馬車だった。

辺境の街まで送って行ってくれるらしく、今の会話はゆっくりと進む馬車の中でザックと交わした会話だ。私の台詞(ことば)に対し、ザックはため息交じりで答える。

最初、マリアーノが依頼人から受け取ったギター用のピック。今回訪れた遺跡で発見された物だったが、結局あったのはユーホニアムに似た古代楽器で、ギターはなかった。

しかし、古代楽器を出現させたボタンの近くに、実は楽器を立てかけられそうな凹凸が壁に沿ってあったことが遺跡を出る時に判明する。

                     

「まぁ、扉の仕掛けもわからない。でも、楽器と思われる代物はある…。古代楽器って、何気に売ればそこそこの値がつくからね。きっと、奥へ進むのを諦めた冒険者が、悔し紛れにギターを持ち出したんでしょうよ」


私とザックの向いに座るスルタンが、皮肉めいた口調で話す。


「角の魔族は、お宝を狙う人族を食うために冒険者のふりをして遺跡に棲みついていたのか。あるいは、誰かが扉の謎を解いたらそのお宝を独り占めするつもりだったのか…。今となってはわからんが、無事に宝を得られてよかったな」


スルタンの横に座るマリアーノは、そう口にしながら何かを飲んでいた。


「マリアーノ…。それってもしや、お酒…?」

「おうとも。一仕事終えた後の酒は、やはり美味いなぁー!」


彼が持つ容器からアルコールの臭いがするので問いかけたところ、大正解だったようだ。


 マリアーノがお酒好きなのは、初めて会った時に教えてもらったけど…。よく、空腹時にお酒飲んで酔わないなぁー…


私は、半分呆れて半分感心したような表情(かお)で、酒を飲むマリアーノを見守っていた。


 とはいえ、エセルも18歳になったので、ようやくお酒飲めるのよね♪


一方で、私も街へ戻ったら食事と一緒にお酒が飲みたいと考えていた。

因みに、今私達4人の中で、酒に強いのが私とマリアーノ。スルタンが普通で、ザックがお酒に弱い体質だ。寛だった頃もお酒が好きだったのもあって、エセルもたくさん飲めそうな体質で良かったなと心底安心したことがある。

一方、ザックも貴族令息だったのもあって体質的にはそこまで弱くないようだが、雪斗だった頃がまだ未成年だったという事実もあって、お酒は受け付けないらしい。

転生前(いぜん)の両親がお酒弱かったので、自分も弱い可能性が高い」と言い張って、お酒を口にしたくないらしい。


 まぁ、食の好みも色々よね…


私は、ザックが学院時代に教えてくれたお酒の話を思い出しながら、そんな事を考えていたのである。

こうして、辺境の街まで馬車で送ってもらった後、お宝である本を依頼人に渡して依頼達成という事になるのであった。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          


いかがでしたか。

まさかの、ギターの登場なしというオチでしたね(笑)

執筆時、最初は扉を開ける音を奏でるのをギターにしようかとも考えていたのですが、まだギターの活躍は見れると思い、今回はスルタンの活躍できるユーホニアムにした次第だす。

魔族登場によって、今後はバトルの雰囲気が加速するかも?

この遺跡の話は今回で終わりますが、この章はまだ続きます。

さて、次はどんな所に行く事になるのか?

次回もお楽しみに★


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します<(_ _)>


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