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三題噺もどき3

起床

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくろくじゅうはち。

 


 廊下に響く足音で目が覚めた。


 手にはスマホを持ったまま、いつの間にか寝落ちしていたらしい。

 最近はトンとなくなったのに、珍しいことをしたものだ。

「……」

 スマホを持っていた手を動かした拍子に、画面が明るくなり時間を伝える。

 ……この時間なら、丁度母が起きたくらいだろうか。あいた戸は両親の寝室で、廊下を歩いたのは母の足音だろう。そのうち妹二人の戸も開くだろう。

 まだ私が起きるには早い。まぁ、仕事もしてないのだから、早いも遅いもなんだけど。

「……」

 視力が悪いせいで、ぼんやりと輪郭のはっきりしない視界の中は、深海のように暗い青が包んでいる。紺色の薄いカーテンは、そのフィルターを通して部屋を海に沈める。

 私はこの色が好きだ。実際に深海に行ったことがあるわけではないし、テレビで見てももっと暗いことは分かっている。でも、浅瀬よりはもっと暗い、濃い青色のこの部屋が好きだ。最近それに気づいた。床もそれに合わせてマットを敷いたから、尚この部屋が好きになった。おかげで部屋から出たくない。

「……」

 きっと夜明けは訪れているものの、まだ少し光は弱いのかもしれない。いつもより暗い気がする。もう少し日が昇ってくればもっと明るい紺色になる。しかし、この時間って、日が昇ってどれくらい時間が経っているのかも分からない。案外まだ日の出すら迎えてないかもしれないな。

「……」

 毛布の中に入り込んでいた腕を抜くと、冷えた空気が肌に触れる。

 この寒さも相まって、尚更深海って感じがしていいかもしれない。

 まぁ、寒いのは勘弁なので、さっさと毛布に仕舞い込んだけれど。

「……」

 しっかし寒いなぁ。まだ割と昼間は風がなければ温かいことがあるんだけど、さすがに朝晩はしっかりと冷え込んできた。そろそろパジャマも変えた方がいいだろうか。

 それはそれで逆に暑くなりそうな気もするんだけど……服装が難しいなあ。

 ちなみに今は、毛布と掛け布団をしっかりと被ったうえで、半そでハーパンという夏の服装をしている。今はこれがちょうどいい。

「……」

 おかげで、朝は寒くて布団から出られないんだけど。

 出る必要もないので、まだ出ない。

 いっそ、寝直そうかとも思ったが、意識がほとんど覚醒に向かっていたため、寝れそうにない。脳内BGMがしっかりと主張をしてきた。今日はあるリズムゲームの収録曲だ。昨日寝る前にしたからな。

「……」

 ならいっそ起きて動こうかとも思ったが、それはそれで。

 朝この時間に起きていくと、母が絡んできそうで面倒だ。

 なんというか、いつもと違うことをやってみたりすると、物珍しそうに絡んできて揶揄ってくるから嫌いといか不愉快なのだ。私が色々とできないのは案外そのせいもあるかもしれない。

「……」

 両親にそんなつもりはなくとも。

 何か普段しないことをやってみようと動いた矢先に、あれ?何してるの?珍しい(笑)みたいなこと言われて、嬉しい人はあまりいないと思う。

「……」

 ……朝から嫌な思考に走ってしまった。

 そんなことは朝から考えることではない。何か意識をそらすものでもしてみよう。

 手元に丁度いいものがあるじゃないか。スマホが。

「……」

 充電されていなかったので、まずは充電器に刺さなければ。

 コンセントに充電器は刺されているので、それをスマホにしっかりとさし……充電しながらでもいじれる。あまり良くないらしいが、めったにしないので今日今だけは許してほしい。

「……」

 そうと決め込み、毛布に潜りながらスマホをいじりだすと、隣の部屋からアラームが鳴った。

 妹のスマホの音だろう。結構な音量で設定しているので、私もしっかりと起きる。うるさい。

 それでも、何分も起きないんだから、素直に凄いと思ってしまう。

「……」

 今日もすぐには起きないようだ。何分で止めるだろうか……止めるまで鳴り続けてるのだから、ホントにうるさい。さっさととめて起きてしまえばいいのに。

 起きないといけない本人は起きないのに、関係ない私が起こされるのはほんとに意味が分からない。

「……」

 さっさと起きて、制服をきて、楽しくもない授業を受けに行けばいいのに。

 あぁ、でも今週はテスト期間かなにかといってただろうか……午前中で帰ってくるのかな。まぁでも部活もあると言っていたし、はて。どうなのだろう。関係はないからどうでもいいのだけど。

「……」

「……」

「……」

 さっさと起きて止めろっての。







 お題:制服・深海・夜明け

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― 新着の感想 ―
銀河の戻れないくらい深い部分まで沈んでしまっているとでも思いたくなるような、世界観です。夢と現実の間に生まれた良い意味で光の当たらない場所を思わせてくれる情景が浮かびました。
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