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神の小鳥は遅れて集う  作者: 糸尾 文
1 晩夏の出会い
7/75

1-7

 晏珠の答えに、室内が大きくどよめく。


「……25だと? 御鳥児が?」

「そんな例は今までに聞いたことがないぞ」

「何故。そもそもあの娘、未婚なのか?」


 官吏や神官のざわめきが、晏珠の耳に届く。まあ、そうだろう。このくらいは想定内だ。自分だって驚いている。

 先触れを聞いて知っていたのだろう、王と王妃は落ち着いた様子だったが、静牙が「前衛的」と評する王太子はどこか愉しげに口角を上げている。面白いものを見つけた、とでも言わんばかりの表情だ。

 未だざわつく室内で、王がまた口を開いた。


「自ら名乗りを上げなかったのは、それが理由か?」

「……恐れながら。私自身、信じがたい気持ちが強くありましたゆえ」

「成程。静牙、どこで見つけた?」

「はい、陛下。都の外れの酒楼にて働いていたのを、偶然発見致しました」


 ――酒楼!


 神官たちがまたざわめいた。

 酒自体は、別に禁止されている飲み物ではない。天主様に捧げるための供え物に使われることもある。

 だが、酒楼という店に良い印象を持っていない人間はいた。単に酒や食事を提供するだけならば良いが、裏では娼婦を雇って客を取っている店も数多くあるからだ。清貧な生活を良しとする神官たちにしてみれば、酒楼で働いていたというだけで眉をひそめたくなるのだろう。


「酒楼働きの娘など……」

「まだ若いならいざ知らず、25だろう?」

「たとえ未婚だとしても、清らかな乙女と言っていいのか?」


 ――ああもう、だから嫌だったのに。


 ひそひそと聞こえてくる陰口に、晏珠はげんなりする。こうなることは目に見えていた。だから渋っていたのだ。

 天主様に誓って、自分はやましいことなど一つもしていない。が、酒楼で働く行き遅れの娘、というだけで世間の印象は悪いのである。本当は裏で客を取っているのではないか、だからこんな年まで嫁にも行かずにいるのではないか――と。

 勝手に決めつけられることも、蔑まれることにも慣れているが、気分が良いものでは決してない。


「御鳥児に相応しいという証を見せるべきではないか」

「そうだ。清らかな体であるという証を」


 聞こえてきた言葉に、晏珠はぎょっとする。まさか、体を調べられるというのか? そんな屈辱的な目に遭わなければならないのか。自分が望んだことでもないのに。

 静牙も聞こえていたのだろう。顔をしかめている。彼もここまでの事態になるとは思っていなかったに違いない。再び頭を下げて、口を開いた。


「陛下。羽の徴が出ている以上、天主様に選ばれたことは明白です。これ以上何を調べることがありましょうか」

「分かっている。皆、少し落ち着くがいい」


 王の言葉に、室内は水を打ったように静まり返る。


「皆が戸惑うのは理解しよう。だが、御鳥児が交代の時期に入っているのは事実だ。他に名乗り出てきた娘もおらぬ。羽の徴も間違いなく出ている。新たな御鳥児として認めるのに不足はないと考えるが、どうか?」


 威厳に満ちた声に、異を唱える者は誰もいない。晏珠は安堵の息を漏らした。王が話の分かる人で助かった、と思った時。

 怜悧な声が、室内の沈黙を破った。


「――恐れながら、陛下。発言をお許しください」

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