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神の小鳥は遅れて集う  作者: 糸尾 文
4 冬の波紋
33/75

4-4

 翌日、晏珠は翠芳らと共に慶花宮を訪れた。

 桜喜は前日に倒れたばかりだ。断られるかもしれないと覚悟はしていたが、女官たちはすんなり通してくれた。


 応接間に通されて間もなく、桜喜が蒼雷を伴って現れた。晏珠たちの姿を認めると、深々と頭を下げる。


「昨日はお騒がせしまして、申し訳ありませんでした」

「気にしないで。桜喜、体調は大丈夫なの?」

「はい、おかげさまで。もうほとんど回復しております」


 翠芳の問いかけに桜喜は頷いたが、表情は固く、まだ顔色も良いとは言い難い。本調子でないことは明らかだった。


「病み上がりにごめんなさいね。少し、あなたとお話がしたくて。晏珠様と一緒にお邪魔させてもらったの」

「お話、ですか……?」

「ええ。ここで話しても良いのだけど……もしあなたが大丈夫なら、外に行かない? 今日はとても良いお天気だし」


 翠芳の誘いに桜喜が答えるより前に、蒼雷が反応した。


「あのさ。病み上がりって分かってるなら、連れ出そうとすんのやめてくれない?」

「……そ、蒼雷」

「話ならここですればいいだろ。外で何かあったらどうするわけ?」


 桜喜がか細い声で止めようとするが、蒼雷は顔をしかめて彼女の前に立ち塞がる。まるで毛を逆立てた猫のようだ。必死に守ろうとする姿は健気ではある。

 晏珠は内心苦笑しながら立ち上がり、桜喜をまっすぐに見つめて話しかけた。


「桜喜、あなたはどちらがいい? もちろん、身体が辛いなら無理にとは言わないわ、ここでも話はできるから」

「は?! あんた話聞いてた? だからやめろって……」

「私は桜喜に聞いているの。あなたの意見は分かったから、少しだけ待ってくれる?」


 口調は穏やかに、しかしはっきりと告げると、蒼雷は虚を衝かれたように口を噤んだ。

 桜喜は少し視線を彷徨わせたが、やがてこくりと頷いた。


「……外に、行きたいです」

「ちょっと、桜喜!」

「ありがとう、蒼雷。気遣ってくれて。でも……私、大丈夫だから。本当に」


 声こそ小さいものの、意思は思いの外しっかりしている。これならちゃんと話もできそうだ。晏珠は微笑んで答えた。


「そう。じゃあ、庭に出ましょう。少しでも具合が悪くなったらすぐに言ってね?」

「はい、分かりました」

「何だよそれ……だったら始めからここでいいだろ……」


 あからさまに不満げな蒼雷を気にしながらも、桜喜が意見を翻すことはなく。やり取りを見ていた翠芳が、ほっと息を吐いた。






 冬を迎えた庭の木々は葉を落としたものも多く、落ち葉が地面を覆っていた。風も徐々に冷たくなりつつあったが、日当たりの良い東屋を見つけて立ち寄ると、陽射しは十分に身体を暖めてくれた。


 桜喜を先に座らせて、晏珠と翠芳も腰を落ち着ける。鳥番の三人には席を外してもらい、近くで待機してもらっていた。

 蒼雷は大いに不服そうだったが、桜喜にも「そうしてほしい」と言われ、静牙と柳星に引っ張られるようにしてその場を離れていった。あの様子を見るに全く納得はしていなさそうだが、あとは同じ鳥番同士、上手くやってくれると信じたい。

 心配そうに鳥番を見送っていた桜喜に、晏珠は話しかけた。


「……本当にあなたのことが大事なのね、蒼雷は」

「えっ、えーと……その、すみません……」

「謝らなくていいのよ。幼馴染なんでしょう? 昔からああなの?」


 柳星が言っていた通り、随分と過保護だ。もちろん静牙も役目には忠実だが、蒼雷の言動はもはや雛鳥を守る親鳥のようだった。完全に庇護対象として扱っているように見える。


「……いえ。子供の頃は、こんなことはありませんでした。御鳥児と鳥番に選ばれてからです」

「そうなのね。責任感が強いのかしら、鳥番として役目を果たさないと、って」


 おそらくそれだけではないだろう、と予測した上で投げかけた質問に、案の定桜喜は弱々しく首を振った。


「それもあるでしょうが……多分、私のせいです」

「あなたの?」

「はい。私は……御鳥児として半人前なので。至らないところが多すぎて……蒼雷に、信頼してもらえないんです」


 やはりか。晏珠は眉を寄せた。

 蒼雷は桜喜を全力で守っているつもりなのだろう。だが、彼女は幼子ではない。いくら頼りなく見えても、蒼雷と同い年だ。先程のように彼女の意思を無視して話を進めるのは、明らかに行き過ぎである。桜喜からしてみれば、対等な人間として扱われていないのと同意義だろう。


 以前はそうでなかったのなら、御鳥児になった経緯に何かあるに違いない。蒼雷が、桜喜を過剰防衛するようになった原因が。

 沈んだ表情で語る桜喜に、翠芳が慌てたように声をかけた。


「半人前なんて……何を言ってるの、桜喜。至らないところなんて、私にだってたくさんあるわ」

「でも、私は導きの儀で、神官長様から直々に注意された未熟者です。それに……」


 桜喜は俯いて話す。朱角に叱責されたことは、やはり彼女に深い傷を残しているらしい。しかし、桜喜が卑下する理由は他にもあるようだった。


「私は……本来、御鳥児に選ばれるような器ではありませんでした。選ばれるべきは――姉だったんです」

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