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神の小鳥は遅れて集う  作者: 糸尾 文
2 立秋の憂い
13/75

2-2

 他の御鳥児や鳥番たちには、就任当日、静牙と泉玉の三人で挨拶回りに行き、顔を合わせている。



 春の御鳥児、花鴒こと(じゃく)桜喜(おうき)

 年は16で、昨年御鳥児になったばかりだという。ゆるいお下げ髪の可憐で優しげな少女だったが、どこかおどおどした印象も受けた。

 鳥番は()蒼雷(そうらい)という、端正な顔立ちをした少年だった。涼し気な目元は年頃の少女たちに人気がありそうだ。桜喜とは同い年だというが、こちらに向けてくる視線は鋭く、あまり愛想は良くない。後で泉玉に聞いたところによると、あれはあれで桜喜を守ろうとしているのだ、ということだったが。


 秋の御鳥児、風鴒こと(らん)翠芳(すいほう)

 年は18で、二年前から御鳥児を務めている。こちらは綺麗な真っ直ぐな髪をした少女で、表情も立ち振舞いも凛としており、いかにも真面目そうな印象を受けた。

 一方、鳥番の()柳星(りゅうせい)はと言うと、翠芳とは真逆だ。服を着崩し、癖の強い髪は伸ばしっぱなし。前髪だけ上で適当にまとめただけという出で立ちである。顔立ちは甘く優男と言っていい風貌だが、挨拶もかなり適当に済ませて翠芳に窘められていた。年も彼女より一つ下で、17だという。


 そして、冬の御鳥児、雪鴒こと(はく)果耀(かよう)

 実は、彼女にはいまだに会えていない。


 果耀は14才らしいが、なんとこの三人の中ではもっとも経験が長く、既に四年目だというから驚きである。10才で徴が出て御鳥児に選ばれた、類稀なる歌声の持ち主だという。


「私も数えるほどしか会ったことがないけど、一度聞けば分かるわよ。あの子は特別。本当にすごいの。それしか言えなくなるわ」


 泉玉は果耀をそう評した。小柄な身体の控えめな少女だと言うが、その身体から発せられる歌声は圧巻の一言らしい。

 何かと厳しい神官長の朱角も、彼女に関してははっきりと特別扱いをしていると言う。居住する輝雪宮には厳重な警護を敷き、原則外に出ることを禁じている。導きの儀を行う時は天聴宮まで出向いてくるが、それ以外はまず会えない、と泉玉は話した。


 果耀の鳥番はと言うと、これまた若い少年だった。(ゆう)登毘(とび)という15才の少年で、肌の色が少し浅黒く、目が赤みを帯びている。聞けば異民族との混血だという。

 彼もまた11才という最年少で鳥番に選ばれた逸材らしいが、話してみると八重歯が覗く、ごく普通の無邪気な少年だった。とは言え、一番年上の静牙は現在28才だと言うから、相当な年の開きがある。


 登毘もまたできるだけ果耀の元を離れないよう命じられているため、あまり長く話はできなかったが、果耀も本当は会いたがっていた、と言う。いくら力が強すぎるとは言え、四年間ほぼ軟禁状態とあってはさぞかし気が滅入るだろう。

 それを命じているのがあの朱角だという事実もまた、晏珠にとっては気分が良くない。女官たちが神官に良い印象を持たないのも、何となく分かる気がした。今度何か差し入れよう、手紙でも添えて、と晏珠は考えていた。




 ――さあ、と泉玉が手を叩いて笑った。


「夕刻の祈りも無事終わったし、行きましょ。そろそろ夕餉の支度が始まる時間だわ」


 食事は女官たちが準備してくれるが、さすがは王宮と言うべきか、いつも食べきれないほどのおかずが用意されている。味付けも上品で、家の酒楼で準備していた庶民の料理とは全く違っていた。

 贅沢すぎやしないか、と晏珠は思うが、泉玉によればこれでもまだ質素な方だという。王族や五名家の食事はもっと豪華だというから、上には上がいるというものだ。

 しかし、晏珠としては少々不満がある。


「……正直、毒見なんていらないから、あったかいご飯が欲しいわ」

「何度も言っているが、それは無理だ」


 静牙の返事はにべもない。悪気がないのは分かっているが、それにしてもこの言葉の足らなさは何とかならないものか。晏珠は眉間にしわを寄せた。


 そう、毒見が入るせいで、必ずおかずが冷めてしまっているのだ。それならいっそ自分で作るから材料だけもらえないか、と訴えてみたが、これも却下された。御鳥児に料理をさせるなんてとんでもない、という理由と、作ったところで毒見はやはり必要、という理由だった。

 朱角の一件もあるので、晏珠も理解はしているものの。こういう融通の利かなさは、やはり御鳥児という立場の特殊性を感じさせる。


「まあまあ、晏珠。女官に頼んで、夕餉にちょっといいお酒を付けてもらえるよう言っておいたから。私の好きなお酒なの」

「え、泉玉のお勧め? それは楽しみだわ!」

「……飲みすぎるなよ、二人とも。節度は忘れるな」

「あのね、毎日言わなくたって分かってるわよ。兄様ったら、本当に頭が固いんだから」


 妹にぴしゃりと言い返されて、静牙は沈黙する。晏珠は思わず声を上げて笑いながら、ふと思った。


 ――そういえば、静牙は食事に酒が出ても、一口も飲まないわね。


 思い返してみると、最初に酒楼で出会った時も、「兄ちゃんも一杯どうよ」などと勧める常連客の申し出を固辞していた。

 自分は鳥番だから飲んで前後不覚になってはいけないと思っているのだろうか。だとしたら、いかにも彼らしい理由だが。まあいい、今度機会があれば聞いてみよう。

 足取りも軽く、晏珠は夕餉の匂いが漂い始めた陽光宮を進んで行った。

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