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05

いつもありがとうございます。

 俺たちがあの遊園地を訪ねてから三日後、俺がデスクで書類を作っていると先輩に肩を叩かれた。刑事は意外と書類仕事が多いのだ。俺は後ろを振り向く。


「おい、ちょっと付き合えよ」


 連れていかれたのはラーメン屋。時刻は夜の十一時になるが、今日は俺も先輩も勤務中だから、酒は飲めない。


「先輩、ここのおすすめは何ですか?」


 行ったことがあるらしい先輩におすすめを尋ねた。俺は初めてのラーメン屋では店員か知人のイチオシを頼むことにしている。判断力がないからじゃない。その方が当たりやすいからだ。塩ラーメンを推している店で、メニューの端にしか載っていない味噌ラーメンを頼むやつを俺はラーメン好きとは認めていない。


「ん、そうだな。俺はこの塩ラーメンチャーシュー増しがいいと思うぞ。ここのチャーシューは柔らかくてな、スープによく合うんだ」

「へえ、じゃあ俺はそれで」

「すんません、塩ラーメンチャーシュー増し二つお願いします」

「はいよ」


 スープが煮込まれているであろう鍋からはもうもうと湯気が立ち上がっているが、机や椅子も触り心地がよく、全体的にオシャレな雰囲気だ。ラーメン屋らしくない。


「でも驚きましたよ。先輩がこんなオシャレな店をご存知だったなんて」

「馬鹿にするなよ、俺はな本社(警視庁)の近くだけじゃなくて東京中を回ってるんだ」

「それは羨ましいですね。で、どうでしたか? 結果わかったんでしょう?」

「まあそう急かすなよ。色々興味深いことがわかった。これが資料だ」


 そう言って手渡されたのは茶色の封筒だった。中には印刷された用紙が数枚入っている


「あの遊園地を管理しているのは不動産管理会社の武口正幸という男だ。だが、そいつは親から受け継いだだけで、ろくな仕事をしていない。実質あの遊園地を管理しているものはいないということだ」

「でも変ですね。俺が悠香から聞いた情報では肝試し用に開放しているって……」

「そう、そこが奇妙なんだ」

「謎ですね……」

「まあ、それはひとまず置いておこう。もう一枚の方を見てくれ」


 封筒の中のもう一枚を手に取った。英字や数字の羅列が目に入る。何かの記録のようだ。


「俺も気になって個人的にもう少し調べてみたんだ。確か幽霊が出るっていう噂が流れたのは閉園してしばらく経ってからだろう?」

「ええ。そのようですね」

「だから、その噂の原点を探したんだ」

「でも、ブログとかならともかく、匿名の掲示板なら追跡できないんじゃあ」

「俺を誰だと思ってる? サイバー犯罪対策課の友人に頼んでIPアドレスを追跡してもらった」

「流石ですね、先輩」

「おだてても何も出ないぞ。ここはお前のおごりだし。で、噂を流していたやつは何人かいたが、大元はこいつだった」


 そう言って俺が持つ紙の一部分をトントンと叩く。そこにはIPアドレスから特定された住所の他に、名前が記されていた。目でたどる。思わぬ名前を目にして、俺は目を見張った。


「入川……真也! なんであいつが!」

「なんだ、知り合いか」

「俺の大学時代の友人です! いったいなぜ!」

「落ち着け。ラーメンが来た。話は食べてからにしよう」


 仕方なく紙をしまい、ラーメンに向き直った。先輩が言うように柔らかいチャーシューで、俺は一時真也の事を忘れて夢中で貪った。スープもくどくなく、最後まで飲み干すと、ある種の達成感が感じられた。ラーメンを食べた時によくある現象だ。


「美味しかったです。俺のラーメンランキングトップスリーには入りますね」

「そうだろう。俺のイチオシだからな」

「見直しましたよ。で、どういうことですかこれは」

「俺にもわからんよ。だが、その入川というやつが噂の大元だということは間違いない」

「ちょっと電話してみます」


 俺は外に出てスマホを取り出した。真也の番号をコールする。無機質なコール音の後、留守番電話に繋がった。嫌な予感が増してくる。


「くそっ!」

「大丈夫か?」


 店から先輩が心配そうに顔を出した。こう見えて先輩は後輩思いだ。


「すみません。これから真也の家に行ってみます」

「なら、俺も……」

「いえ大丈夫です。先輩は本庁に戻ってください。後でまた頼みごとをするかもしれませんから!」

「そうか。ならそうするが、一人で突っ走るなよ。係長には俺から言っといてやる」

「ありがとうございます!」


 会話もそこそこに俺は走り出した。駐車場までダッシュで戻ると、自分の車に飛び乗った。サイレンを鳴らしたいくらいだが、公務ではないし、この車にはサイレンは付いていない。その代わり国道を三十キロオーバーで走り抜けた。この時間なので、取り締まりもほとんどやっていない。やっていたとしても、警察手帳で強引に切り抜けるつもりだったが。

 飛ばした甲斐があって、普段なら三十分かかるところを、十分で到着した。深夜だというのも関係していたのかもしれない。真也の住むアパートはいくつかの部屋に電気が付いていたが、全体的に暗い雰囲気だ。真也の部屋は暗いまま。焦燥感に駆られ、俺は階段を一段抜かしで駆け上がった。金属の階段はカンカンと不吉な音を立てる。日頃の成果か、息を切らすことなく部屋までたどり着いた。

お読みいただきありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。


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