表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

03

お読みいただきありがとうございます。

 美桜ちゃんは未だ震えていたが、ゆっくりと動き始めた。その目は不自然にお城へと向けられている。美桜ちゃんの不審な行動に疑問を抱えつつも、ようやく俺たちはこの遊園地から出ることになった。真ん中にそびえ立つお城を通り過ぎた時、ふと嫌な感覚が戻って来た。入り口で感じたものと同じ。薄気味悪い視線だ。ねっとりとした、絡みつくような気配。ゆっくりと振り向く。もちろん、誰もいない。これに似た経験は確か公安の連中との合同訓練で――

 やはりここは気味が悪い。さっさと出よう。だが念のため……。俺はスマホを取り出した。捜査一課の先輩に電話をかける。


「あ、先輩ですか? 今確か先輩の班って待機でしたよね?」


 警視庁の捜査一課は事件に備えて数班が本庁で待機するように作られている。


「そうだぞ。なんだ、事件か?」

「いえ、事件と言うほどではないんですが、少し調べていただきたいことがありまして」

「なんだ? ラーメン一杯でやってやる」

「わかりました。で、内容なんですが、神山市にある遊園地って知ってます?」

「ああ。確か何年か前に閉園した遊園地だったよな」

「ええ。誰も使ってはいないんですが、そこの管理者と管理の実態が気になるんです」

「で、俺にそれを調べろと」

「その通りです。お願いできますか?」

「ああ、事件さえ起きなければやってやるよ。だが、なんでこんなことお前が調べてるんだ?」

「それは……事情がありまして。次会った時にお話しします」

「何だか嫌な予感がするぜ。まあいい、何かわかったら連絡する」

「ありがとうございます。では」


 電話を切った。あの人は優秀だし、何かしら調べがつくだろう。


「すまん、待たせた」


 車の前で待っていた三人に走り寄る。運転席に座ると、車を出した。車内は暗い雰囲気に包まれている。


「美桜ちゃんはどこで降ろせばいい?」

「渋谷駅でお願いします」

「わかった。じゃあ美桜ちゃんが一番だな」


 後ろに重い空気の女の子を乗せたまま、制限速度を少し上回る速度で走り続ける。


「さあ、そろそろだぞ」

「はい」


 渋谷駅の近くまで着くと、美桜ちゃんは降りる準備を始めた。バックミラーでその様子をちらちらと眺める。


「おつかれさまでした」

「おう、おつかれ。気をつけろよ」


 手を振って見送ろうとしたが、美桜ちゃんが急に俺の耳に口を近づけた。香水の匂いを気にする前に、不吉な言葉が囁かれた。


「先輩、気をつけてくださいね」


 美桜ちゃんはそんな不吉なことを俺に囁くと車から出て行ってしまった。何を、という言葉が抜けた忠告。聞いていたのか。あの遊園地を調べること。

 幾分か軽くなった空気の中、夜の国道をゆっくりと走らせる。音楽をかける気分でもない。窓を開けると生ぬるい風が吹き込んできた。


「いつもあんな感じなのか?」

「いいえ。あんな風になったのは私も初めて見たわ。いったい何があったのかしら」

「最近、おかしなことはなかったか?」


 刑事の口調が戻る。ついきつく尋ねてしまった。


「そうね……特に気付かなかったわ。私もずっと一緒にいるわけじゃないし」

「そうだな。ありがとう。悠香も気にかけておいてくれ」

「ええ。私の大事な後輩ですからね」


 それから数分後、じきに悠香のアパートが見えてきた。前で車を停める。悠香に手を振って別れを告げた。


「さて、あとはお前だけだな。どっか行くか?」

「いや……」


 幾分か空気が軽くなったので俺は明るい声で助手席に座る真也に話しかけた。気分転換にどこか深夜営業のラーメン屋にでも行こうかと思ったのだ。しかし真也の反応は思ったより悪い。


「わりいけど今日は終わりにしてくれねえか。ちょっと気分悪くてさ」


 そんなことを言う真也に俺は若干の違和感を覚える。霊障があるとは思えないが、あの遊園地に行ったことで何かストレスがかかったのかもしれない。


「大丈夫か? 病院でも送ってくが……」

「いや、大丈夫だ。家で休むよ」


 そう言われると強要する理由もない。心因性のものなら真也の言うとおり休めば治るだろう。俺は予定通り車を真也のアパートへ向けた。


「それにしてもあの遊園地、どこで幽霊の噂が流れているんだろうな?」

「――――」


 真也の返事が聞こえない。ちょうど赤信号で止まった俺は横を見て息を呑む。真也の顔は暗く沈んでいた。


「真也!?」

「……あぁ、すまん。大丈夫だ。なんだったか?」

「本当に大丈夫か? どこで幽霊の噂が流れているのかってことだよ」

「さあな、どっかの巨大掲示板かSNSじゃないのか?」


 真也はいつもの調子に戻っていたが、その声はどこか慌てているように思えた。これが仕事なら聴取を続けているところだが、これはプライベートで、真也は友人だ。これ以上突っ込むのは良くないだろう。


「何かあれば言えよ」

「ああ。ありがとう」


 若干の不安を抱えたまま、車は真也の家に到着した。部屋に入るところまで見送って車に戻る。真也の様子は気になるが、あいつももう大人だ。言うべきと判断したら自分から言ってくるだろう。それに俺も疲れた。家に帰って寝るとしよう。

お読みいただきありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。


ブックマークや感想、評価をいただけると大変喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ