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ラスト2話です!
俺はそう言って先輩の目を見つめる。ここまで言ったら先輩も気付くだろう。
「遊園地の噂を流したから、か」
「その通りです。あの遊園地を拠点にしていた殺人鬼は真也の噂によって訪れる人間が増えたことに気付いた。初めのうちはそれらの人間を殺害していたのでしょうが、人数が増えるとそれも追いつかなくなってきた。廃墟にやってくる人間が増えると注目を集め、マスコミや警察がやってくるかもしれない。そう考えたあいつは真也を殺すことに決めたんです」
「そしてやってきた川本を脅し、入川を連れてこさせた」
「恐らく美桜ちゃんは真也を脅したんでしょう。匿名掲示板でコンタクトを取り、『管理人があなたの噂で迷惑がかかっていると文句を言ってきた。訴えられたくなければ一緒に遊園地に来い』、とね」
「なるほど」
そう。だからこそ真也は乗り気ではなく、俺がこういうのが好きなのかと問いかけたときも、逃げるように会話をやめたのだ。そして同時に観覧車の謎も解ける。あの時ゴンドラの中で扉に最も近かったのは真也だ。俺たちが入った後、真也は後ろ手で鍵をかけた。動機はこれ以上この遊園地に滞在したくなかったため。後ろ暗い事情がある真也は一刻も早く遊園地から出たかった。しかし肝試しは始まったばかりでそのままだと帰られそうにない。だがそこで肝試しを続けられないような事件が起きたらどうだろうか。恐らくは中止して帰ろうとなるはずだ。事実あの時、俺たちは観覧車の事件を理由に肝試しを中止した。これが観覧車に閉じ込められた事件の真相だ。気付いてしまえばなんてことはない。あの殺人鬼とはほとんど関係なかったのだ。
「一回目の訪問で失敗したあいつは美桜ちゃんを使うことを諦めた。美桜ちゃんから情報を聞き出して、真也と美桜ちゃんの二人を直接拉致したんでしょう」
「だからお前が行ったとき、入川の部屋の鍵が開いていたのか」
「ええ。あのまま俺が行かなければ二人とも殺害されていたに違いありません」
「これで全ての謎が解けたよ。流石だな」
「いえ、先輩ほどじゃありませんよ」
「謙遜するな。こうして全員無事なのはお前のおかげだ」
「それに関してはよかったと思っています。そう言えばあいつはどうなったんですか」
「あの殺人鬼か? あいつなら今本庁の留置場にいるよ。余罪が多くてな。当分は取り調べが続くだろう。もはや世に出てこられるとは思えんが」
「そうですか。なんとか全員分、立証できればいいんですがね……」
「難しいだろうな。遺体が残っていないものに関しては特に」
俺たちはため息をつく。殺人事件を担当する捜査一課の刑事として、立証の難しさは身をもって知っている。捜査は難航するだろう。
「悪かったな。押しかけて」
先輩がそう言って立ち上がる。慌てて姿勢を正そうとした俺を先輩の腕が止める。
「いいさ、ゆっくりしとけ。この仕事でここまで休める時なんてそうねえぞ」
ニヤリと笑って先輩は病室の扉に手をかけた。
「あ、そうだ。サイドテーブルにお見舞いを置いといてやった。ありがたく食えよ」
そう言って先輩は今度こそ病室を後にした。俺一人が残される。俺は先輩の置いていったお見舞いの袋を開けて苦笑する。
「ったく。どこの世界にカップラーメンをお見舞いに持ってくるやつがいるんだっての」
それにしても、今回の事件はこたえたな。宗教団体で起きた殺人事件の捜査にけりが付いたと思ったらいつの間にか殺人鬼と死闘を繰り広げていたし、俺だけではなく、真也や美桜ちゃん、悠香まで巻き込まれてしまった。真也や美桜ちゃんに至っては事件の被害者でもあり、きっかけを作った人物でもある。やりきれないだろうな。
そういう意味では悠香だけが真の意味で巻き込まれてはいないと言える。幸運だった。ん? ふと何かが頭をよぎる。
「そう言えば俺を最初に遊園地に誘ってきたのは悠香だったな。あれはたまたまなんだろうか……」
俺はしばし思考を巡らせてから、スマホに『悠香』、『遊園地誘い』とだけメモすると、考えるのをやめた。先輩と話したことによって疲れが出てきたようだ。抗いがたい眠気が俺を襲う。俺はスマホをサイドテーブルに置き、横になる。睡魔は一瞬で訪れた。
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