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これから毎日投稿します。


ぜひ最後までお付き合いください。

 大学のサークルで仲の良かった朝霧悠香あさぎりゆうかがその遊園地に行こうと言い出したのは先月の日曜日のことだった。なんでもその遊園地には幽霊が出るという。俺は馬鹿馬鹿しいと却下した。普段精神をすり減らすような仕事をしてるのに、なんで好き好んでそんなとこに行かなきゃならんのか。俺の職業を知っている悠香もその時は納得し、引き下がった。忙しいことに定評がある俺の職場だ。それ以降俺はすっかりそのことを忘れていた。

 だが、昨日になって事態が変わった。大学の後輩と行くことになったからついて来てほしいという。決意は固そうだし、後輩ちゃんとの面識もないので、説得は諦めた。入川真也いりかわしんやという俺の友人も同行するらしい。向こうも警察官がいると心強いということらしいので仕方なく俺も行くことにした。ちょうど俺の方も担当していた殺人事件が一段落し、あとはガサ入れを待つのみ、という状態になったのだ。しかし俺は一つ大切なことを忘れていた。


「というか、不法侵入は犯罪だぞ。閉園した遊園地だって私有地だろうから、警察官としてそれを見逃すわけにはいかないんだが?」


 そう。廃墟のほとんどは私有地であり、野放しのように見えて、誰かが管理している。つまりそこに許可なく入るのは不法侵入になるのだ。


「それは大丈夫。そこの管理人さんが、肝試しにでも使えるようにって開放してくれてるらしいの。もちろん怪我とかは自己責任だけどね」

「そうなのか。変な管理人もいたもんだな」


 後から考えれば俺はこの時おかしいと思うべきだったのだ。疑うのが、刑事の仕事だというのに……。


「あ、そこの交差点を左です」


 後部座席から身を乗り出した女の子が左を指差した。今回の首謀者、川本美桜かわもとみおちゃんだ。自分から言いだした割に、楽しそうには見えない。怖がりのくせに肝試しが好きなタイプなのだろうか。俺は指示されたとおりウインカーを出し、左折する。遠くに観覧車の姿が見えた。どうやら目的の遊園地はもうすぐらしい。

 観覧車が見えてから五分後、俺は車を止め、地面に足を付けた。錆びた文字で名前が記されている看板は心なしか傾いているように見えた。確かに門は開放されている。


「じゃあ行きますか。よろしくお願いします」


 のんきに話しているが、時刻は夜中の一時。あたりはすっかり寝静まっている。ただ、遊園地からは明かりや声が漏れてきている。俺たち以外にも来ているやつがいるのか。だが、中を覗き込むとふと寒気が襲った。今からこの中に入るのか。ぞっとしない。


「なあ、本当に行くのか?」


 その寒気に思わず弱音をこぼしてしまった。


「あはは、大丈夫だって、怖がりだなぁ。刑事のくせに」

「もし危なかったら先輩が守ってくれるんですよね?」


 美桜ちゃんがなぜか期待を込めた目で俺を見る。だがそれどころじゃない。ここには何か触れてはいけないものがある気がする。それは刑事が殺害現場などで感じる感覚に似ていた。非番だから拳銃を持っていないのは仕方がないのだが、それが心細く感じた。LEDライトは全員に持たせているし、俺はこっそり特殊警棒を持っては来ているが、どうも気がすすまない。だが、悠香は何も感じないようだ。行くしかないか。俺も覚悟を決めた。美桜ちゃんが先頭で、俺と真也がしんがりだ。


「そういや真也ってこういうの好きだったか?」


 俺は真也に問いかける。あまり興味がないように思っていたが。


「まあ、割とな。お前こそ珍しいじゃないか」


 真也は俺の疑問をその一言で切り上げると、逆に聞き返してきた。確かに俺が参加する方がまれだろうな、こういう遊びには。少なくとも俺が警察官になってからは行った記憶が無い。


「いやあ、行く気は無かったんだがな。お前らが行くって言うから」

「ま、そんなことだと思ったよ」

「何話してんですか。ほら、行きますよ」


 美桜ちゃんがこちらを振り返った。茶色の髪が生暖かい風に吹かれて揺れる。すでに帰りたいのだが、どこから回るつもりだろうか。


「観覧車とかどうでしょう。定番ですし」


 美桜ちゃんがそう提案する。悠香がわずかに目を細めるが、すぐに頷いた。真也も同意する。そもそも希望なんてないのだ。


「じゃあ早速観覧車に行きましょう!」


 美桜ちゃんは足早に観覧車へ向かった。ほんとに元気だ。だが俺には空元気であるように見えて仕方がない。


「あの子、大丈夫か?」


 真也が少し困惑したように囁く。こいつも大学時代は結構遊びまくっていた方だと思っていたのだが。ちなみに俺はこいつらを引き留める係だった。羊飼いかよ。


「うーん。なんかやけにハイテンションだな。まあいざとなったら真也、任せたぞ」

「お、おいっ! 俺に期待するなよ。俺、ああいうタイプ一番苦手なんだよ」


 そうだった。こいつ、やることは大胆なくせに、女には弱いんだったな。二年の時サークルの先輩に連れられて……やめとこう。これは俺の名誉にも関わってくる。


「仕方ない。俺が引きずってでも連れて帰るさ」


 どちらにせよ三人に同行すると決めたときからそのつもりだ。

ありがとうございました。

明日もよろしくお願いします。


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