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32:公爵令嬢はペリヤに到着する




 ベスティエ領の中央に位置する、ベスティエで一番大きな城塞都市ペリヤ。

 主な産業は大森林で採れる豊富な木材を使用した建材の加工と木工家具。

 ベスティエの人口の半分以上がこの街で暮らしを営んでおり、国の中央への流通も必ずこの街を通して行われている、ベスティエの主要都市である。


 街の歴史はフィオーレ王国建国初期まで遡る。

 当時国としての成長の真っ只中だったフィオーレの人口は増加の一途を辿り、領地を広げるにあたってこの辺境に開拓民が派遣されてきた。

 その頃の大森林はこの周辺まで広がっており、伐採拠点として出来た環濠集落がペリヤの始まりといわれている。


 それから長い時間をかけて魔物の侵攻に対抗できる城壁が築かれ、街の中は発展を遂げ今に至る。


 ――以上が、ペリヤに来られることが決まってからベスティエ城の蔵書室で学んだペリヤの成り立ちと現在だ。


 エーピオス家の邸に住んでいた頃も、グランツ公爵家の邸で世話になっていた頃も、ほとんど外に出た事はなかった。

 目の事もあり、どこに何があるか把握していない場所を歩くには、周囲に迷惑をかけると思っていたから。


 けれど今日は。ロクトがエスコートして案内してくれるという。初めての経験に胸が躍り、つい口角が上がってしまうのを抑えられない。


「ペリヤに到着しましたよ」


 馬車が停まり、御者席の方からロクトの側近であるツェルが、到着を告げた。


 ツェルのエスコートでエリザベスとキャサリンが先に馬車を降り、その後にロクトが降りてから、つい先ほどまで繋がれていた手を再度差し出して、己の降車を手伝ってくれた。


「ようこそ、城塞都市ペリヤへ!」


 馬車を降りてすぐ、街の入り口の詰所から元気のよい兵の声がかけられた。

 ロクトがそちらの方に軽く手を挙げれば、兵はぺこりと頭を下げる。


「お疲れ様。事前に通達されてると思うが今日は公式の訪問じゃない。街の中で俺を見かけても挨拶は不要だと改めて皆に伝えておいてくれ」

「了解です!ところでロクト様……お連れの超絶美女はどなたです!?もしかして、ついに!?」


 そう言って、兵はこちらをじっと見ている気がする。

 まさか、己の事を言っているのだろうか?


 はっきりと人の顔を認識した機会は数えるほどしかないけれど、超絶美女というのはロクトの母であるセントラのような容貌を言うのでないだろうか。

 セントラはいつも距離が近く、視力の弱い己にもよく顔を見せてくれるから。あの美しい顔が近くにあるとなんだかドキドキして、少し恥ずかしくなってしまうのだ。


 そんなことを考えながら少し赤らめてしまった頬をあいている方の手の指の背で押さえていると、繋いでいる方の手がぐいと引かれ、兵の姿はロクトの大きな背中によって見えなくなった。


「いずれ皆に紹介する機会が訪れるといいと考えている。だからそんなにジロジロ見るんじゃない」


 確かに今の己に紹介できる真名はない。

 その辺りの話は王都にいるグランツ公爵がベスティエを訪れてから話し合いの機会を設けていただけるそうだ。


「えーと、お嬢様?おそらく今の正しく伝わってなさそうなので一応補足しておくとですね。ロクト様はお嬢様をいずれ辺境伯夫人として領民皆に紹介したいと思ってるって事ですよ!」


 いつの間にかすぐ隣にいたエリザベスが、そう耳元で囁いた。先ほどの言葉にそんな意味が含まれていたとは。気恥ずかしさはあるが、素直に嬉しい。


 しかし急に声がかけられた為に驚いて身を竦ませてしまった。繋いだ手からその動揺を感じ取ったロクトがこちらを振り向いて口を開いた。


「気配を消すのは結構だが、彼女を脅かすな」

「私が注意散漫だったのです。教えてくれてありがとう、リザ」

「いいえ!今日は私たち出来る限り空気になりますから!お嬢様はロクト様とデートのおつもりで楽しんでくださいね!」

「え!?デ、なぜそんな、急に……!?」


 エリザベスの私()()という言葉に、慌てて助けを求めるようにキャサリンの方に視線を移せば。


「お嬢様が困るような状況には決していたしませんのでご安心を。気兼ねなくペリヤの散策を楽しんでいただければよろしいのです。きっとロクト様がしっかりとエスコートしてくださいますから」

「その通り」


 ロクトはそう言って微笑むと、隣に並んで手を握りなおした。

 指と指を絡ませて、まるで、恋人同士がするみたいに。


「決してはぐれませんように」

「は、はい……!」


 そう返事をしてみたものの、自分で分かるくらい顔が熱い。こんな時に自然に隠せるレースがないなんて。

 出来る限りロクトから見えないように下を向いて、あいている手で帽子の鍔を引き下げた。


 帽子の上の方で小さく笑った声がして、ロクトはゆっくり歩きだす。


「ではさっそく一か所目、ずっとお連れしたかった店に参りましょう。きっと喜んでいただけるはずです。お楽しみに」

「まあ、何のお店でしょうか。楽しみです!」


 初めての街歩き。隣にはロクト。

 ドキドキとうるさいくらいの鼓動と赤く火照った頬を隠して、ペリヤの門をくぐるのだった。




ここまで読んでくださりありがとうございます。

書き溜めストックがなくなりましたので毎日更新はストップします。

続きは今後週一ペースで続けられればいいなと思っていますがお約束はできません。

とりあえず次回は6/8更新します。

逆に筆が進んでストック増えたらまたペース上がるかもしれません。

ご了承くださいませ。

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