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2 strange 4 me  作者: 日下部素
5/11

5.且緩々2

休日。

サークルメンバーでボランティア活動のため海岸にいくこととなった俺ら。

杠葉先輩、西宮先輩、渡良瀬川先輩、奈々幸、白雪、俺の面子。同じ一年の久我山は欠席。

正直、大学入りたてで疲れていた俺はめんどくささの方が勝っており、体調不良を言い訳にして休むのもやぶさかではなかったがサークルに入って以来初めての社会奉仕活動ということもあり疲労気味の肉体に鞭を打って内心しぶしぶ参加しているわけである。

まぁ、杠葉先輩と一緒に過ごせるという口実ができたため参加したと言っていいだろう。

朝9時、大学正門前に集合とのことだったため、10分前に着くように家を出た俺だったがいざ着いてみると俺以外のメンバーがすでに到着していた。

「ロウ、遅いわよ」

「おはよう~」

奈々幸が開口一番、遅刻もしていない俺に悪態をついてきた。悪態も何もないのだが。

白雪がいつものようにポニーテールを揺らしこちらに手を振っていた。

「おはようございます、遅れちゃって」

「いやいや、9時集合だったからね。十分十分」

ハハハとどこかの貴族のおじさんみたいな笑い方をして朝から元気そうにしている西宮先輩。

「おはよう、朝から申し訳ないが一緒に荷物持ちを兼任してくれるかい?」

渡良瀬川先輩が俺にナイロン製のエコバックのようなものを手渡してきた。

「これは?」

「海岸でごみ拾いの時に使う道具とかかな」

「なるほど」

1年生、男、中肉中背の俺だが荷物持ちにはこれほどの人物はいないだろう。

やらせていただきますとも。

今日の一番の目的。輝く一等星。その方に会えるのであればなんのその。

「今日は頑張ろうね。ロウ君」

「……はい!」

杠葉先輩が最高の笑顔で俺を迎えてくれた。10人中9人はギリシャ神話に登場する女神に間違えるのではないかという彼女の微笑みが俺の疲れた心身に癒しをもたらす。

今日は白いワイシャツに7分丈のパンツ、スニーカーを履いて動きやすい格好をしていた。……素敵だ。

「……」

なんだろう。4月中旬も過ぎようとしていたが何か冷たさを感じる。肌寒い。

「ロウさん……ちょっと……」

白雪が俺のシャツを掴み、集まっていたチームメンバーから少し離された格好だ。

「どうした?」

白雪は眉をひそめて俺に小声で話しかけてきた。

「あまりだらしない顔はしないでください」

「え?俺なんかした?」

「……明らかに奈々幸さんの表情が曇っています」

奈々幸を一瞥する。……いたって普通に感じる。

「俺は晴れ晴れしてるが……」

「下心丸見えです」

いや、確かに杠葉先輩に会えてうれしさ元気100倍ではあるがそんな助平な表情をしただろうか……

「え!?別に俺は……ていうか他の人に対する態度まで影響を受けるの?」

「彼女の視界に、というか知覚の中に入っているときは細心の注意をした方がいいです」

「そんな~……」

しょぼくれる俺。

「……例えばですけど横断歩道を歩いている最中に彼女の体質の影響を受けて交通事故っていうことも十分に考えられます」

「杠葉先輩に会えることを今日最大の楽しみとしてきた俺に酷なことを……」

「せめて顔だけでも取り繕ってください!」

梅干しみたいに顔にしわを寄せた俺となだめていた白雪。

「あなたたち、何こそこそやってるの?」

怒気を帯びた低い声が真後ろで響いた。

「ひっ」

白雪が驚き小さな悲鳴を上げた。

いつのまにか奈々幸が俺らの真後ろに立っていたのである。

相変わらず整った顔立ちと虹色の瞳が異彩を放っているが少なからずとも穏やかではない。

「さっきからこっちの方見てこそこそ内緒話……私としては気分は良くないわね」

「あ、いや、これはだな……」

白雪にバトンを渡そうと試みたが咄嗟に俺の後ろに隠れなぜかおびえた様子だった。おいおい組織の人間なんだろ。なんで俺の後ろに隠れてるんだよ。……いい香りがする。

「ずいぶん仲良かったのね。あなたたち」

「……いや~実は俺が奈々幸となかなかうまく話せないから白雪が気を使ってくれて話しやすいように汲んでくれたってわけ」

「……じゃあ、彼女はなんでそんなに怯えているのかしら?」

「そらぁ、奈々幸が後ろからいきなり声をかけたからだよ。なぁ白雪」

「ははは……びっくりしちゃってすいません……」

笑ってごまかす白雪。

窮俺、奈々幸をはぐらかす。窮鼠猫を嚙むの俺バージョン。

口下手だと思っていたが案外、回るときは回るものである。

「……別に私は話しにくいとも思ってないし、そんな気を使わなくてもいいわよ」

目をつむってぷいっと明後日の方向に顔をやる奈々幸。

これが世に言うツンデレというやつかと感心して見ていた。

「おーい、そろそろ出発するぞー」

西宮先輩が少し離れた俺らにアナウンスしてくれた。

「じゃあ、行くとしますか」



徒歩で最寄りの駅まで行き藤沢まで出てワンマン電車に乗り換える。

休日ということもあって観光客などで車内は混んでいた。

初めて乗ってみたが乗り方はいつも使ってる鉄道と大差なかった。

面白かったのは町中に列車が走っていくため家との距離がかなり近い。テレビなんかで取り上げられたときにその様子を見ていたが実際に乗ってみると物珍しく車窓を眺めてしまうものである。

街並みはレトロな雰囲気があり、列車の外に目が自然といってしまう。

ふと横を見ると奈々幸が俺と同じように興味深そうに外を眺めていた。

「……なんか面白いな」

奈々幸は気が緩んでいたのか俺の声にハっとした様子だった。

「……私、いままで習い事とか勉強で忙しかったからこういう外に出て何かするっていうことが少なかったから……学校も校則が厳しいところだったし……」

「お嬢様学校だったのか?」

「そうね、そんなところ。親の決められたことに従ってきた自分が嫌になってここへ来たってこともあってね……」

俺が茶化す気持ちでしゃべったつもりだったのだが存外外れてもいなかったようだった。

「そうか。……まぁ大学生活もこれから長いしまだまだいろいろあるだろうから楽しみにしとけよ」

「そうね……ってなんでロウにそんな上から言われなきゃならないのよ」

「はは」

「何よ」

「いやなんでもない」

俺がふくんだ笑いをしたのが気に食わなかったらしく、そこから奈々幸はじっと車窓を眺めていた。

この時初めて奈々幸の心に触れた感じがした。深窓の令嬢の心の発露。そんな大層なものではないが奈々幸の一面を知ることができた。

混雑した車内で小声でそんなやり取りをした。ちょっと青春を取り戻した気分だった。



ぼうっと外を眺めているとぐいっと服を引っ張られた。俺は急な出来事に驚いた。

「奈々幸さんといい感じですね」

杠葉先輩が俺の耳元で囁く。俺は顔がかっと熱くなる。

「いや、そんな、世間話ですよ」

焦って早口で取り繕う。

「うらやましいな~。私もキラキラした出来事に出会わないかな~」

「……杠葉先輩は気になっている人とかいないんですか?」

焦っていた俺だったが何を聞いているんだと心底、後悔した。

「私?いや~今は忙しくてなかなかそういったことがなくてちょっと寂しいかな」

よくやった俺。聞いてみるものである。これは彼氏や気になる異性はいないと考えて差し支えないだろう。しばらくの間は杠葉先輩と甘い学生生活を過ごせるだろう。そしてゆくゆくは……

ぎゅう~

「いっ!」

脇腹に鋭い痛みが走る。

何が起こったか変わらずにいた俺は混みあった車内を見渡すと後ろに白雪が素知らぬ顔で反対側の窓を覗いていた。犯人は白雪だろう。どうやら俺はだらしない顔をしていたのを見かねて白雪がつねってきたようだった。

甘いひと時からすぐさま現実に戻される。忙しい。

『次は鵠沼~』

車内のアナウンスが流れる。

「あ、次だね。降りる準備しないと」



車両から駅のホームに降りる。

この駅から海岸を目指す。

駅前の商店街から街並みを縫うようにして6人で歩き始める。

10分ほど歩くと海浜公園へとたどり着いた。広々とした広場は作られてから月日は流れていたが綺麗に整備されている。

広場を抜けるとすぐそこは広大な海原が広がっていた。

本日は快晴。雲一つなく、突き抜けるような青い空と青い海が得も言われぬ気持にさせてくれた。

受験から解放されて、初めて来た観光地ではあったがそれほど人は多くなく開放的な気分にさせてくれた。程よい日光の暖かさが身を包んでくれた。

「私、運営の人に話してくるよ」

海に着いた余韻もなく西宮先輩が到着したとたんどこかに飛んで行っていしまった。サークルの元気印。行動力も抜群である。

「ロウ君、さっきのエコバッグ、貸してくれるかい」

渡良瀬川先輩がこちらに話しかけてきた。俺はすぐに持っていたバッグを手渡した。

渡良瀬川先輩は袋を広げて各々に軍手やごみ袋を手渡してきた。

「西宮先輩が返ってきたらすぐに始まると思うから今のうちに準備しちゃおう」

「俺、こういうの初めてで勝手がよくわからなくて……」

「それも西宮先輩が帰ってきたら改めて説明してくれるから一旦待機で」

5分くらい待っていると西宮先輩が帰ってきた。

「それじゃあ始めるとしようか」

そう言って西宮先輩が具体的なごみ拾いのやり方を一年生の俺らを中心に教えてくれた。

何のことはなくごみを分別して入れていく。概ね1~2時間の予定で行うそうである。

サークルメンバー6人で海岸を歩きまわる。

到着した当初は綺麗な海岸に見えたがいざ始めてみるとタバコ、ペットボトルや得体のしれないごみがぽつんぽつんと落ちていた。それらをごみ袋に入れて、また探しての繰り返しである。単調ではあるがさして難しいことはなかった。

しばらく歩いていると杠葉先輩の方に目がいった。朝の時は気が付かなかったが彼女は左足に何かつけていた。

俺はやや飽き始めていたため先行していた杠葉先輩に後ろから声をかける。

「先輩、足に何つけてるんですか?」

「ああ、これ?ミサンガだよ。かわいいでしょ」

「ミサンガっておまじないみたいな、あれですか?」

「うん。どっちかっていうとお願い事かな?」

「へーどんなことですか?」

杠葉先輩はこちらに向き直して口角を上げた。

「ひ・み・つ」

にっこりを笑い白い歯をのぞかせていた。天使かな?



「ロウさん!」

「え?」

「大丈夫ですか?」

「何が?」

「……今何があったか覚えていますか?」

白雪がいきなり俺に声をかけてきた。俺はあたりを見回す。先ほど杠葉先輩と話していた場所から若干離れた場所にいた。やや遠くにほかのメンバーがいたが引き続きごみ拾いをしていた。

「……何かあったのか?」

「奈々幸さんがロウさんと何かをしゃべっていました。それからロウさんが立ち尽くしていたのでもしかしたらと思って……彼女と何を話したか覚えていますか?」

「……いや。どのくらい前のことだ?」

「おそらくほんの十数秒です。……今日はもう引き上げましょう。放出者の影響を受けています」

俺は何が起こっていたかわからなかった。

十数秒……これまでで一番の長い記憶の忘却だ。今までは長くて数秒程度だったが極端に長くなった。

「大丈夫だろ。ここで抜けたらもっと厄介にならないか?俺自身は体調に問題はない」

「今、奈々幸さんと話すと辻褄が合わなくなります。今日は体調不良ということで撤退しましょう」

「心配しすぎだって。大丈夫大丈夫。奈々幸とは今日のところはもうしゃべらないようにするから」

白雪の心配をいさめるようにしてその場を離れてごみ拾いをつづけた。内心、気持ち悪さがあった。それは気分ではなく、もはや以前とは違い明確に自分で影響を周囲の状況から認識できるレベルの放出を受けていた事によるものだったからだ。

そこからはしばらくしてごみ拾いは終了した。集めたごみを運営に持っていきスタッフの人から飲み物をもらったが正直心ここにあらずだった。

その後、残った6人で喫茶店に行き、昼食をとった。談笑しながら昼食をとっていたが気が気じゃなかったというのが正直なところだ。

その日は藤沢まで戻り解散となったが心配していた白雪が最寄り駅まで俺についてきてくれた。

白雪とたわいのない会話をしていたがいまいち覚えていない。

「できる限り安静にしていてくださいね」

そう言って白雪と別れた。



そして、あの奇妙で不気味なゴールデンウィークに迷い込んでいくこととなる。


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作者の励みになります。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


これからもよろしくお願い申し上げます!

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