彼女はずっと、
彼女はずっと、俺の光だった。
ずっと当たり前に傍にいた。
家族だから。
でも俺はずっと負い目のようなものを感じていた。
俺が、彼女から母さんを奪ったから。
母さんと彼女は恋人同士だった。
なのに、一度別れた。
その間に、母さんは彼氏を作った。
そして復縁した。
でもその時すでに俺は母さんのおなかの中に居た。
きちんと避妊をしているつもりでも、間違いは起こる。
きっと母さんと彼氏は避妊に失敗したんだろう。
彼女は間違いなく、とても苦しかったはずだ。
だって愛してる人が、絶対に自分があげられない子種を
他の男から受けたことを、
他の男の染色体をもつ子が愛している人の胎のなかにいることを、
受け止めなければならなかったのだから。
でも、彼女は産もう、と言ったらしい。
母さんも彼女に言い辛かったのだけれど、俺を堕胎することは考えられなかったらしい。
こっそり見つけて読んだ母さんの手帳に書いてあった。
母さんはこの時本当に悩んだみたいで、
彼女を巻き込むわけにはいかないから、離れようかと迷っていたらしかった。
そうして母さんは死んだ。
俺の生とともに。
……難産の上、産後の肥立ちが悪く、そのまま日和見感染症にかかって亡くなったのだという。
俺は彼女の寝息を確認して、本当にきちんと眠っていることを確認してから、
涙の跡をそっとなぞって、小鳥のように、と例えられるようなくちづけを落とした。
俺の初めては彼女にあげた。
とんでもなく罪なことだとは分かっていたけれど、
後悔はなかった。
彼女は彼の気配が完全に無くなったことを確認してから、
その長い睫毛を動かした。
「……どうして」
その瞳に宿っていた色は、後悔と困惑と悲が混じった、昏沌な色だった。