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【九十六人目】 闇夜に君は現れて俺の心を持ち去った

ブックマーク登録や評価など誠にありがとうございます。とても嬉しく思っております。

 今日は新月だ。

 月の明かりはなく闇夜だ。

 そんな暗い夜に彼女は現れる。


「今日も真っ暗ね」


 ほらっ、現れた。

 新月に必ず俺の部屋の窓からやってくる彼女。


「玄関から来いよ」

「だって怖いんだもん」

「二階の窓から二階の窓へ飛び移る方が怖いと思うんだけど?」

「暗闇の方が怖いわよ」

「変なやつだな。まあいい、あいつならさっき風呂から上がってたから、もう部屋にいると思うぞ」

「そう? ありがとう。それじゃあまたね」


 そう彼女は言って俺の部屋を出ていった。

 彼女とは誰なのか。

 それは俺と同じ歳の可愛い幼馴染み。


 彼女は何故か新月になると、隣の家の彼女の部屋の窓から俺の窓へ飛び移ってやってくる。

 しかし、彼女が来ているのは俺に会いにではない。


 彼女は俺の姉さんの部屋に行く為に、わざわざ俺の部屋を通っていく。

 そして、姉さんの部屋に泊まって朝に帰っていく。


 彼女に一度、どうして姉さんの部屋へ行くのか訊いたことがあるが、彼女は暗くて一人でいるのが怖いからと言うだけだった。


 しかし、彼女は怖くても一人で大丈夫な年齢だ。

 暗闇が怖いなんておかしい。

 他に理由があるはず。


 姉さんに訊いたことがあるが、姉さんも彼女と同じことを言うだけだった。

 二人で何かを隠しているみたいだ。

 本当は二人で、新月の日に俺に黙って何かをしているんだ。


『バンッ』


 いきなり俺の部屋のドアが勢いよく開き、俺は寝ていたのに驚き目を開けた。

 誰が開けたのかは分かっている

 幼馴染みの彼女だ。


「おっはよ~」

「朝から騒がしいんだよ」

「朝から元気にいこうよ」

「無理」

「ダメ、早く起きてよ」


 彼女はそう言って俺の腕を引っ張る。

 そんな弱い力で俺が起きると思うのか?

 俺はイタズラ心を我慢できず、彼女の腕を引っ張った。


 彼女は簡単に俺に引っ張られ、体勢を崩し俺に倒れ込んできた。

 俺の胸に飛び込んできたんだ。


「いった。鼻を打ったじゃないの」


 彼女はそう言って俺を見た。

 上目遣いになる彼女にドキッとした。


「もう帰るのか?」

「うん、今日は学校だからね」

「そうだな。それならこれを」


 俺はそう言って彼女を起き上がらせ、俺は机の上にある掌サイズのボールを彼女に渡した。


「また? これで何個目だと思ってるの?」

「君にはこれが必要なんだよ」

「私はボールを貰って嬉しい歳じゃないわよ?」

「必ず必要になる日が来るから」

「その日がいつ来るのか分からないけどね」


 彼女はそう言いながらボールを受け取る。

 彼女は自分の部屋へと帰っていった。

 彼女にあげるボールにはちゃんと意味がある。

 必要な時に必ず役に立つんだ。



「私の可愛い弟くん」


 ある日、姉さんが俺の部屋へいきなり入ってきて言った。


「なんだよ? その言い方は何か俺に頼むつもりだろう?」

「おっ、鋭いね」

「分かりやすいだけだよ」

「それじゃあ、仕方がないから教えてあげる」

「仕方がないの意味が分からねぇよ」

「今日は私の彼の誕生日だから、あの子のことよろしくね」

「あの子?」

「ほらっ、今日は新月でしょう?」

「えっ、俺があいつと一緒に寝るのかよ?」

「そうよ。あの子は一人じゃダメなんだから」

「あいつが何で闇夜が怖いのか教えてくれたら、あいつの面倒を見てもいいけど?」

「姉に交換条件を出すなんて、あんたも大きくなったわね」


 姉さんは感心したように言った。

 俺は、彼女が闇夜を怖がっている理由が知りたいだけだよ。


「どうする? 母さんに友達の家に泊まるって嘘ついてやってもいいけど?」

「もう! あんたってそんなにあの子のことが気になっていたのね?」


 姉さんはそう言って、彼女が闇夜を怖がっている理由を教えてくれた。



 彼女が闇夜を怖がる理由は、まだ彼女が小学生の頃の話だ。

 彼女は一人で学校から帰っていた時、暗くなった道を歩いていた。

 その時、知らない男の人に声をかけられ怖くて走って逃げた経験をしたようだ。


 その日は新月で月もなく暗かったようだ。

 ちょうど姉さんが逃げる彼女とはち合わせし、話を聞いて親に言ったみたいだ。


 それから彼女は新月に、姉さんの部屋に泊まるようになった。

 姉さんがいれば安心するのだろう。

 何で俺はいなかったのだろう?

 俺がいればそんな怖い思いはしなかったのに。


 この話のあと姉さんは、彼女には話をしたことは秘密だと言われた。

 彼女には、俺にこの話はするなと言われているみたいだ。


 そんな話を聞いた俺は、彼女のことが心配で仕方がなくなった。




「また来たよ」


 俺がベッドに横になりながら、彼女のことを考えていると、彼女が窓から入ってきた。

 もう、そんな時間だったのか?


「今日はあいつはいないよ」

「えっ、そうなの? どうしよう?」

「俺の部屋で寝るか?」

「えっ、でも、布団がないでしょう?」

「姉さんの布団を持ってくるよ」

「そんなことしなくていいよ。私は帰るから」

「一人で大丈夫なのか?」


 俺は帰ろうとする彼女の腕を掴んで言った。


「えっ」

「あっ、いやっ、闇夜が怖いから泊まりに来てるんだろう?」

「あっ、うん」

「待ってろ」


 俺はそう言って、姉さんの布団を俺のベッドの横に敷いた。


「ありがとう」


 彼女はそう言って布団に入る。

 姉さんの香りがすると嬉しそうに言っていた。

 俺じゃなくて姉さんがいいのだろう。

 助けてくれた姉さんが。


「灯りは消さない方がいいだろう?」

「私、明るい所じゃ寝れないのよ」


 灯りを点けたまま寝れば闇夜は怖くないはずなのに、いつも一人で寝られないのは明るいと眠れないからなんだな。


「灯りを消すぞ」

「うん」


 灯りを消すと彼女は大きく深呼吸をした。

 怖いのだろうか?


「姉さんとはいつもこんな風に寝るのか?」

「手を握ってくれたり、ギュッてしてくれるよ」

「そんなに怖いのか?」

「怖くないよって言いたいけどやっぱり少し怖いよ」


 彼女は小さな声で怖がっているように聞こえた。


「手、握ってやろうか?」

「そんなことしなくていいよ。あなたは嫌でしょう?」

「嫌じゃないよ。君が落ち着くなら俺は握ってあげたいよ」

「本当?」

「本当」

「それならお願いしてもいい?」

「うん」


 闇夜に慣れた俺の目は、彼女の出した手をしっかりと握った。


「全然、違うね」

「何が?」

「手の大きさや柔らかさだよ」

「まあ、俺は男だからね」

「柔らかい手も好きだけど、大きくてゴツゴツした手も安心できて好きだよ」


 彼女の好きだよという言葉に俺はドキッとする。

 彼女のことが俺は好きなんだと思う。

 だってこんなに心臓がバクバクいっている。


 好きだと伝えるように彼女の手をギュッと握った。

 彼女もギュッと握り返してくれた。

 そのまま俺は目を閉じた。




「おはよう」


 俺は優しい彼女の声で目が覚めた。

 彼女の可愛い顔が目の前にある。

 近すぎる。


「おはよう。近すぎるんだけど?」

「あっ、ごめんね。あなたの長い睫毛を見てたのよ」

「君の方が長いよ」

「本当? 嬉しい」


 彼女は本当に嬉しそうに笑っている。

 もう恐怖はないようだ。

 まあ、朝だからな。


 それから彼女は窓から帰っていった。

 昨日は、彼女の恐怖が少しでもなくなったのならいいのだが。

 でも、姉さんには勝てそうにない気がする。



「梅雨の時期になったね」


 彼女は梅雨に入り、そう言った。


「じめじめの時期だから嫌だよな」

「そうね。それもだけど夜が、、、」

「えっ梅雨は毎年、大丈夫だろう?」

「雨が降ってるからね」

「雨?」

「雨音が好きだから闇夜でも私は大丈夫なの」

「曇りだったらダメだってこと?」

「そうね」


 去年の梅雨の時期を思い出す。

 夜も雨の日が多いが、夜に曇りの時もあった。

 思い出すと、部屋で彼女は寝ていなかった日があった。


「そう言えば、梅雨の時期はたまに部屋で寝てなかったよね?」

「うん、お母さんと寝てたんだ」

「何で姉さんと寝ないわけ?」

「新月だけにしてたの。迷惑でしょう?」

「姉さんは迷惑なんて思わないと思うよ?」

「そうね。でも、窓から入れないでしょう? 濡れてるし」

「あっ、そうだね」


 今年も曇り空の夜は、母親と一緒に寝るのだろう。

 そんなに怖いんだ。

 どうすれば彼女をその恐怖から救えるのだろうか?


 その日の夜は大雨だった。

 今夜は雨だから、彼女はちゃんと眠れると思った。

 それなのに、彼女が寝る頃に雨は止んだ。


 彼女は母親と一緒に寝るのだろうと思った。

 しかし、彼女が窓を開けて俺の部屋の窓をノックした。


「どうした?」

「今日、お母さんが疲れて、、、」


 彼女が話をしている時にいきなり灯りが消えた。

 俺の家と彼女の家。

 それから周りの家もだ。


「停電だな」

「う、うん」


 彼女が怖がっているのが分かる。

 暗闇に目が慣れると、彼女は不安そうな顔をしていた。

 そして俺はアレを思い出す。


「なあ、俺があげたボールはいつもの棚の上にあるのか?」

「ぼっ、ボール? えっと、その」


 彼女は恐怖で何も考えられないようだ。


「窓から離れて屈んで目を閉じて。俺がいいって言うまでそのままで」

「えっ、でも」

「大丈夫だから、早く」

「うん」


 彼女は窓から離れて屈んだ。

 目を閉じているのかは確認できなかったが仕方がない。


 俺は机の上に置いてある彼女にあげる為の掌サイズのボールを持ち、棚の上にあるはずのボールに向かって投げた。


「きゃっ」


 彼女は音に驚き声をあげた。


「目を開けて」


 俺がそういうと彼女は立ち上がり俺を見た。


「俺じゃなくて自分の部屋を見て」

「あっ」


 彼女はすぐに部屋を見る。


「何これ? キレイ」

「だろう?」


 彼女の部屋は俺のあげたボールでキラキラと輝いている。

 俺があげたボールは、衝撃を与えると光る仕組みになっている。


 色とりどりと光るボールは、まるでイルミネーションのようだ。

 その部屋の中にいる彼女も、色とりどりに輝き綺麗だ。


 俺はそんな彼女に見惚れていた。

 目が離せない。

 頭に焼き付けるように彼女を見続けた。


「そんなに見ないでよ」

「えっ、あっ、ごめん」


 彼女は恥ずかしそうに言って、俺は焦ったように言った。


「あっ、一つ消えたよ。また消えてる」


 彼女はまた暗闇が訪れることが怖いのか焦りだした。


「ボールを投げたらまた光るよ」

「あっ、そうだね」


 彼女はそう言って光を失ったボールを投げて光らせていく。

 しかし、それでは疲れる。


「俺がそっちに行こうか?」

「えっでも、濡れてるから危ないよ?」

「俺、ジャンプには自信があるから大丈夫だよ」

「気を付けてよ」

「うん」


 そして俺は、彼女の部屋の窓へジャンプをして入った。


「あなたが私の部屋に来てどうするの?」

「灯りがつくまでは隣にいるよ」

「隣にいるだけなの?」

「何? 手でも握ってほしいわけ?」

「うん」


 彼女は恐怖を感じてそう言っているんだと思う。

 彼女が落ち着けるなら俺は何でもするよ。


 下の階で彼女の母親が大丈夫なのか聞いている。

 彼女は大丈夫だと言ってこのまま寝ると言った。

 それなら彼女が寝るまで隣で手を握ってあげようと俺は思った。


「ベッドに入りなよ」

「うん」


 彼女はベッドに入った。

 その間も彼女とは手を繋いだままだ。


「ねぇ、どうして暗闇が怖いのか訊かないの?」

「だって暗いのは誰でも怖いだろう?」

「そうね」


 彼女はそう言って目を閉じた。

 少し、沈黙が続く。


「本当は知ってるんでしょう?」

「えっ」

「私が暗闇を怖がっている理由よ」

「あっ、うん」

「あなたのせいじゃないからね」

「俺?」

「あの日、あなたとケンカをして、私は怒って教室で拗ねてたでしょう?」

「えっ、あの日って、君がどうしても欲しいモノがあるのにそれを言わなかったから、俺が呆れて先に帰ったあの日?」

「そうよ。私は言いたいけど言えなかったの」

「言えないってなんだよ? 俺に隠し事なんかするなよな」


 あの日のように俺は、彼女にきつく言ってしまった。


「あなたは、ちっとも私のことなんか心配していないのね」

「何でそうなるんだよ?」

「だってそうでしょう? 私が暗闇を怖がるのは、私が悪いからって思っているんでしょう?」

「何でそうなるわけ? 俺は君の為に、どうすれば暗闇を怖がらないのか考えているのに? それを心配していないって言うのか?」

「だって、あなたは私のことなんか見ていないでしょう?」


 彼女は手を繋いだまま俺に背を向けた。


「見てるよ。ずっと見てるよ」

「それなら私が言いたいことって何か分かるの?」

「言いたいこと?」

「私の欲しいモノが何か分かるの?」

「えっと、それは、、、。あっ、暗闇の中でも明るいボール」

「だからあなたはボールをくれてたのよね? それもいいけどもっと素敵なモノ。それがあれば私はもう、怖いモノなんてなくなると思うわ」


 彼女の欲しいモノ。

 彼女の言いたくても言えないモノとは?

 あの日のことを思い出す。

 彼女はどうしてあんなに拗ねたのか。



「なあ、俺の友達が君を可愛いって言ってたよ?」

「私が? それって冗談なの?」

「マジな顔して言ってたんだ」

「私がその話を聞いてもいいの?」

「友達に伝えてほしいって言われたんだよ」

「何それ? どうして自分で言わないの?」

「俺が君に一番近い相手だからだよ」

「一番近い?」

「そう。俺が言えば、君は俺の友達のことを好きになるんだと言ってんだよ」

「何それ? 私はあなたの何?」


 彼女は悲しそうな顔をして俺に訊いてきた。

 どうしてそんな顔をするんだ?


「俺達は一番近い存在だろう?」

「何それ? それなら私の欲しいモノは知ってるの?」

「欲しいモノ?」

「そうだよ。言いたいけど言えない欲しいモノ」

「言いたいなら言えばいいじゃん。めんどくさいやつだなあ」

「めんどくさい? ヒドイ」

「はあ? だってそうだろう? 君も友達も言いたいなら言えばいいんだよ」

「それが言えないのよ。どうして分からないの?」


 彼女は頬を膨らまし拗ねている。

 こうなった彼女は面倒だ。


「俺、先に帰るから」


 そして俺は、拗ねた彼女を教室に置いて家へ帰った。

 次の日、彼女に謝ろうとしたが、彼女は俺を避けるようになった。



 彼女の態度の変化はあったんだ。

 何で俺は気づかなかったんだ?

 彼女は一人で苦しんでいたのに。


「ごめん。怖い思いをしたよね?」

「えっ」


 俺は、背中を向ける彼女を後ろから抱き締めた。


「俺がもう少し大人だったら。俺がもう少し君の気持ちに気づいてあげていたら」

「今なら私の気持ちが分かるの?」

「いいや」

「えっ、分からないの?」

「いいや、違うんだ。君と同じで言いたいけど言えないんだ」

「どうして?」

「だって俺が先に伝えたいから」

「先?」

「そう。俺は君が好きだよ。俺の欲しいモノは君の心だよ」

「嘘よ」


 彼女はそう言って振り向く。

 抱き合って向き合う俺達は、すぐに気まずくなり離れる。


「嘘じゃないよ。俺は君が好きだよ」

「だってあなたは、私とは一番近い存在だと言ったけど、好きとは言ってくれなかったじゃない? 私を兄妹のように見ていたのよね?」

「そうだと思っていたけど、それは俺が子供だったからだよ」

「それじゃあ今は、、、」

「君が好きだ。君の心が欲しいよ」


 俺は彼女の代わりに言った。

 彼女への想いを乗せて。


「バカ」

「えっ」

「あなたはバカよ」

「え?」

「私がずっと言いたかったことを簡単に言うんだもん。あなたはバカだから言えるのよ」

「そんなにバカって言わなくてもいいじゃん」


 彼女はバカバカと言っているが、それは泣いていることを隠す為だと分かっている。

 俺は彼女の顔の前で光るボールに衝撃を与え、光らせた。


「やっぱり泣いてた」

「もう! 気づかないフリをしてよね」

「無理。俺はもう、君を悲しませたくないんだ」

「バカね。私は悲しんでなんかないわよ? 嬉しいのよ」

「えっ」

「私の想いがあなたに伝わって嬉しいの」


 そして彼女は微笑んだ。

 暗闇の中でボールがひかり、その光で彼女の微笑みは美しく見えた。


「とても綺麗だ」


 俺の心からの言葉に彼女の顔は照れて赤くなったのか、それとも色とりどりに光る、ボールのせいなのかは分からない。


 でも彼女は小さな声で、好きよと言ったからボールの光のせいではない。




 それから彼女は闇夜を怖がることはなくなった。

 何故かって?

 それはいつも俺が彼女の隣にいるからだ。

読んでいただき、誠にありがとうございます。

読んで良かったと思っていただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 来留美 様 ひかるボールを、こんな使い方をするなんて、素敵ですね。 イルミネーションのようにひかるボール綺麗ですね。
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