【八十八人目】 二人はルームメイト~男同士だと思っていた~
俺は大学生になった。
ルームシェアをすれば、少しは良い部屋に住めるという甘い考えで、ルームメイトを探している物件を探した。
そして見つけた。
広い部屋なのに二人だけでシェアをするようだ。
一人は決まっていて、もう一人を探しているようだったから、すぐに電話をして契約は成立した。
それからすぐに引っ越しをした。
高層マンションの最上階だった。
それなのに安い家賃だった。
間違いではないのかと何度も住所を確認した。
最上階の部屋の前で、大きく深呼吸をしてインターホンを鳴らす。
すぐにドアが開いて、人が出てきた。
その人は、俺と同じ年頃の可愛い男の子だった。
男子には見えないほど可愛らしい容姿だが、男子の俺と一緒に住むのだから男子に間違いはない。
ルームシェアの条件も男子だけだと書いてあった。
顔は可愛いが、髪は短髪だし、化粧なんてしていないし、スカートではなくパンツ姿だし、男子に違いない。
「あっ、あなたがルームメイト? 宜しく」
「あっ、宜しく」
声が高いので一瞬、驚いてしまった。
見た目も声も女子の様だった。
「入って、僕も今来たところなんだ」
彼は自分のことを僕と呼んだ。
これで俺は確信した。
彼は男子だと。
「しかし、この部屋の家賃は安すぎじゃないのか?」
俺はこの部屋の隅々を見ながら言った。
「そうだよな。僕もこのマンションを見た時に思ったんだ」
「俺もだよ。ところで、君も大学生なの?」
「うん。大学から近いから、ここにしたんだ」
「俺は少し遠いけど、家賃の安さに負けてしまったよ」
「それでもいいじゃん。ルームメイトがあなたでよかったよ」
彼はそう言って笑ったんだ。
そんな男の笑顔に俺はドキッとしてしまった。
俺は男を恋愛対象としてみたことはない。
それなのに何でこいつにドキッとしたんだ?
「おっ、俺、荷物の整理があるから自分の部屋へ行くよ」
「そうだね。僕も整理しよう」
そして俺達はそれぞれの部屋へ入った。
俺達の部屋は向かい合っていた。
荷物は先に部屋へ届いていて、段ボールから出すだけになっていた。
すぐに終わった俺はリビングへ行き、備え付けのテレビを、備え付けのソファに座って見ていた。
そのうち、ウトウトしてきて俺は眠ってしまった。
すごくお腹が空く良い香りで目を覚ました。
俺には毛布がかけられていた。
良い香りのする方を見ると、彼がキッチンで何か料理をしている様だった。
「何、作ってんの?」
俺は彼の横に立ち、何をしているのか覗いた。
「今日の夜ご飯だよ。料理は得意だから任せてよ」
「えっ、いいのか? でも、いつもは任せられないから明日は俺がするよ」
「僕がするからいいよ。その代わり、あなたはお風呂掃除担当だから宜しく」
彼はそう言ってウインクをした。
何でこいつはこんなに可愛いのだろう?
こいつが女だったら良かったのに。
こいつが女なんてことはあり得ない。
こいつは男なんだからな。
俺は男を好きになんてならないんだよ。
彼のご飯は美味しかった。
俺の母親より美味しかったかもしれない。
いいお嫁さんになるぞ。
あっ、違った。
いい主夫になるぞ。
片付けは二人でやった。
あいつが食器を洗って俺が拭く。
なんだか、新婚さんみたいなことをしている様な感覚になった。
「ご飯も食べたし風呂でも入るか?」
「そうだね。もう、お風呂もできてるだろうし」
「シャワーで済ませたら早いのにな」
「シャワーじゃ疲れがとれないんだよ?」
「そうなんだな。それで、どっちが先に入るんだよ?」
「あなたが先でいいよ」
「分かったよ」
俺は、下着とバスタオルを持ってバスルームへ向かった。
ささっとシャワーで済ませて、少しだけ湯船に入った。
すぐに体が温まり風呂を出た。
簡単に体を拭き、下着姿にバスタオルを首にかけてリビングへ向かった。
「ちょっ、何で裸で来るんだよ?」
彼は顔を赤くして俺に言った。
同性なんだから気にしないだろう?
何で顔を赤くしてんだよ?
「あついからだよ」
「もう! 僕もお風呂に入るよ」
彼は少し怒りながらそう言って自分の部屋へ戻った。
何なんだよ。
もしかしてあいつって中身は女なのか?
だから顔を赤くしたのか?
「あっ、僕がお風呂に入っている間は、お風呂場に近づくのも入るのも禁止だからね」
「はいよ」
俺は適当に答えた。
やっぱりあいつは中身は女なんだと思う。
でも体は男なんだから、俺が見てもいいだろう?
俺と同じなんだから。
しかし、あいつの風呂は長い。
どれだけ入っているつもりなんだよ。
もう、三十分は経っている。
俺はバスルームへ様子を見に行った。
脱衣所のドアを開けると、俺とは違うシャンプーの良い香りがした。
「おーい、まだ上がらないのか?」
「えっ、入ってこないでって言ったじゃん」
「だって、あまりにも風呂が長いから、心配だったんだよ」
「早く出ていってよ。変態」
「変態って俺達は男だろう?」
「知らない!」
彼は、かなり怒っているようだ。
俺はあいつのパジャマを見つけた。
下着が少しだけ見えている。
ピンク色にレースのようなものが見える。
頭が混乱している。
だから、見なかったことにして脱衣所を出た。
あいつが風呂から上がって、ブツブツと俺に怒っていた。
今の俺はそんなことはどうでもいい。
こいつのあの下着が気になる。
下着が気になるのか、それとも彼が気になるのか。
どちらもだ。
こいつが女のように見えるからいけないんだ。
「ねぇ、聞いてる?」
肌がすべすべで長いまつ毛の、大きな目で可愛い彼の顔が目の前にあって俺は焦った。
「なっ、なんだよ」
「もう、聞いてなかったのかよ? 明日は学校だから、あなたが起きる時に僕も起こしてよ」
「はあ? 何で?」
「朝が苦手だから。お願い!」
彼は俺に両手を合わせてお願いをしてくる。
仕方がない。
「いいけど、俺に見返りは?」
「これでいいでしょう?」
彼はそう言って俺に握手をしてきた。
小さくて、柔らかくて、白くて、細い指が俺に触れてドキドキした。
こいつの手は男の手ではない。
まるで女だ。
「握手ってなんだよ?」
「僕がいなかったら、ここに住めないんだからさ。見返りは、僕っていうルームメイトだよ」
「そうだな。美味しいご飯も作ってくれるし、仕方がない。明日は起こしてやるよ」
「やったぁ~」
彼は俺の手を握り、ブンブンと上下に振る。
俺はそんな彼の手をウザイと言いながら振り払う。
しかし、本当は違う。
これ以上、彼に触れていたら、おかしくなりそうだった。
俺の頭は混乱していた。
こいつは男。
目の前の可愛い女みたいな奴は男なんだ。
◇
朝になったが、俺はまだ混乱したまま彼を起こしにドアをノックした。
起きていないことは分かっている。
目覚まし時計の大きな音が聞こえているからだ。
俺はドアを開けて中に入る。
彼はぐっすりと寝ていた。
俺は目覚まし時計を切り、彼を起こす。
「お~い、朝だぞ」
「ん~」
俺の声を聞きたくないのか、彼は顔を背けて寝返りをうつ。
「朝だって言ってるだろう? 起きろよ」
「嫌!」
嫌ってなんだよ?
お前が起こしてほしいって言ったんだろう?
「ほらっ、起きろって」
「嫌だ!」
俺が彼の頭を起こそうと手を後頭部にやった時に、彼は俺に抱き付いてきた。
俺の首に彼の細い腕が絡まる。
何だよ。
こいつは男なのに、何ドキドキしてんだよ。
力の弱いこいつ。
華奢なこいつ。
良い香りがするこいつ。
可愛いこいつ。
何なんだよ。
こいつは女にしか見えない。
そう思ったら俺は彼の耳元に唇を寄せた。
「早く起きないなら、俺が着替えさせてやろうか?」
「えっ」
俺の一言で彼は起きた。
「なっ、何で覆い被さってるんだよ?」
「お前が抱き付いてきたんだよ」
「あっ、ごめん。朝は寝ぼけてて、何をするか分かんないんだよ」
そう言いながら、彼は俺から離れる。
俺は何も言わず部屋を出た。
俺はもう、あいつを男として見れなくなっていた。
ダメだ。
なんだあの柔らかい生き物は。
あいつは太っていないし、逆に華奢でゴツゴツしてそうだ。
手だってゴツゴツしていないし、細くて長いからピアノでもしていたのだろうか?
俺は気になってあいつの部屋に向かった。
確認してやる。
あいつが男なのか女なのか。
「おいっ」
俺はノックもせずに彼の部屋に入った。
「きゃっ」
俺はすぐにドアを閉めた。
ヤバい。
あいつの着替えを見てしまった。
そしてあいつの答えを知ってしまった。
あいつは、、、女だ。
「お前は女なのか?」
俺はドア越しに言った。
「そうだと言ったら、僕とのルームシェアをやめるでしょう?」
「やめるって言ったら?」
「男だって答えるよ」
「何でそこまでルームシェアにこだわる訳?」
「ここから見えるの」
「何が?」
「お母さんが大好きだった教会の鐘が」
「鐘?」
「うん、ちょっと来てよ」
彼? 彼女? はそう言って部屋のドアを開けて俺の手を握り、リビングへ向かいそれからベランダへ出る。
そして静かに何処か遠くを指差した。
そこには周りをマンションで囲まれた、小さな教会があった。
教会の上には鐘がある。
「ここじゃなくても、あの周りのマンションに住めば良かったじゃん」
「空いてなかったの」
「だからここなんだね?」
「ルームメイトは男の人だけだって条件だったから、私も男の人として引っ越してきたの」
彼女はもう、女であることを隠すつもりはないみたいだ。
「俺じゃなくて他の男だったら危なかったと思うよ? それを分かっていたの?」
「うん」
「これを最後にしてほしい」
「うん」
「俺はここから出ていかないから」
「うん、、、えっ」
「君がここに住みたいなら俺はここに住むよ」
「いいの?」
「うん。その代わり、君は女の子だってことをちゃんと自覚してほしい」
「は~い」
彼女は分かっているのだろうか?
自分が可愛いことに。
男子になんてなれる訳がない。
どう見ても彼女は女子だ。
「これからも朝は、あなたが起こしてね」
「それじゃあ、君はご飯担当だよ。俺も手伝えるところは手伝うけどね」
「これって婚前契約っていうやつかしら?」
彼女は顔を真っ赤にして言っている。
「そうだよ」
「本当? 嬉しい。でも今絶対、顔が真っ赤だよ。恥ずかしい」
彼女はそう言って俺の胸に顔を埋めた。
予想していない彼女の行動に、俺はドキッとした。
「あれ? 心臓の音が速いよ。もしかして私にドキドキしてるの?」
彼女はそう言いながら俺を見上げた。
その上目遣いに俺の心臓はまた速くなった。
「なんか嬉しいな」
「えっ」
「私にドキドキしてくれるなんて」
「君は、俺を最初からドキドキさせてるよ?」
俺がそう言うと彼女はまた俺の胸に顔を埋めた。
耳まで真っ赤だった。
俺達は、管理人に説明をした。
管理人は、彼女の事情を知ると泣きながら、契約はそのままでいいと言ってくれた。
俺達は二人で助け合いながらルームシェアをする。
苦手なところはお互いが補い、笑顔の絶えない毎日を過ごす。
朝は俺が彼女を起こして、彼女はご飯を作ってくれる。
たまには二人で料理をして、二人で思い出を作る。
これが俺と彼女の婚前契約かな?
読んで頂き誠にありがとうございます。
楽しく読んで頂けたら幸いです。
次のお話は、恋人にフラれた幼馴染みが、ざまぁをするのを隣で見守る主人公の物語。
そんな幼馴染みのざまぁは成功したのだが、幼馴染みは元恋人を選ばなかった。
それは何故?




