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【七十七人目】 沈黙が美少女の幼馴染みの心を不安にさせる。だから俺はやめられない

 俺の幼馴染みは怖がりだ。

 だから俺は彼女を怖がらせる。


「この前、友達が言っていたんだよ。誰もいない家から変な音が聞こえるから、その変な音の方へ行ったんだってさ。そしたら、、、」


 そして俺は、話の途中で沈黙する。


「また沈黙? それが怖いんだからやめてよね」


 彼女は怯えながら俺を見る。

 この顔が可愛いんだ。

 この顔を見たいんだ。


「その音は、、、野良猫が勝手に家に入って、部屋を荒らす音だったみたいなんだよ」

「何よ、そのオチは? 怖くないじゃない」


 彼女は呆れ顔で言った。


「誰が怖い話って言ったんだよ?」

「でも、あなたの話し方が怖い話のようだったわよ?」

「ごめん」


 俺はそう言って彼女の頭を撫でる。

 彼女は、いつもあなたは謝って頭を撫でればいいと思っているんだからって言っているけど、顔は嬉しそうにしていた。


「明日は休みだから、友達とホラー映画を観に行くんだけど、君は来ないよね?」

「行く訳がないじゃないよ」

「だよな? 友達は恋人を連れて来るみたいだから、俺も他の女子を探そおうかな?」

「男子だけで行くんじゃないの?」

「ホラー映画は、女子と観に行くからいいんじゃん」


「もしかして、きゃ~怖いなんて言われて、抱き付かれることを妄想したりしてるの?」


 彼女は俺を睨むように見て言った。


「おっ、それはいいね」

「でもね、本当に怖かったらそんなことは出来ないわよ。それに声も出ないと思うわ」

「そうか? それなら、抱き付いてくるのは演技ってことなのかよ?」

「少しは怖いと思っているから演技と言えるかは分からないわね」

「なんか、そんなことを聞いたら、演技に反応するのは面倒だな」


 俺は、映画を観に行くことをやめようかと思っていた。


「私が一緒に行ってあげるわよ。目を閉じていれば大丈夫でしょう?」

「無理して来なくてもいいよ?」

「でも、もう約束したんでしょう? ドタキャンは嫌われるわよ?」

「でも、本当にいいのかよ?」

「うん」

「絶対に目を開けるなよ?」

「うん」



 そして次の日、隣の家に住んでいる、彼女を迎えに行く。

 彼女は淡い黄色のワンピースを着ていた。

 可愛い。

 彼女の白い肌に、よく似合っている。


「本当に今日は大丈夫なのか?」

「もう、来たんだから帰れないわよ。そんなに心配しないでよ」

「だって君は、誰よりも怖がりだからさ」

「それなら絶対に、私の隣から離れないでよ?」

「うん」


 俺は彼女から離れないことを心に決めて、映画館の中へ入る。

 席に座ると、友達は恋人とイチャイチャしている。

 恥ずかしくないのかよ?


「ねぇ、喉が渇いちゃった」

「それなら俺が買ってくるよ」

「いいの?」

「もうすぐ始まるから、急いで買ってくるよ」

「うん。でも、最初は怖いシーンなんてないでしょう?」


 彼女は呑気に言った。

 俺もそう思っていた。

 それに、すぐに戻ってこれると思っていた。


 近くの自動販売機で飲み物を買おうとしたら、故障中になっていた。

 だから、今の場所から一番近い自動販売機まで向かった。


 しかし、近くを見回しても自動販売機はない。

 やっと見つけた自動販売機の場所は、往復で十五分はかかった。

 急いで彼女の元へ戻る。


 彼女の隣に座って飲み物を渡すが、彼女は受け取らない。

 俺は暗い中、彼女の顔を覗き込む。

 彼女は目を閉じて泣いていた。

 声も出さず一人で震えていた。


 さっき、彼女が言っていたことを思い出した。

 本当に怖いと、声も出ないと言っていた彼女は、今まさに、その状態だ。


 最初に怖いシーンがあったみたいだ。

 俺は、怖くて力の入っている彼女の手を握った。

 彼女はビクッとしたが、俺の方を見て手の力を少しだけ抜いた。


「出ようか?」

「大丈夫」

「大丈夫そうには見えないけど?」

「大丈夫」

「何で大丈夫なんて言えるんだよ?」

「大丈夫」


 彼女は大丈夫としか言わない。

 怖いくせに、強がっている。

 震えているくせに。


 俺は彼女の手を引いて、急いで映画館から出た。

 明るい場所に出ると彼女は、少しホッとしているように見えた。


 俺は彼女の涙を拭った。

 彼女は俺を見てまた涙を流す。

 せっかく拭ったのに、何で俺を見て泣くんだよ?


「泣かないでよ」

「だって、あなたはこの映画を見たかったでしょう? それなのに、全然見ていないじゃない」

「いいんだよ、いつでも見られるからさ。だから泣かないでよ」

「うん」


 彼女は小さく頷いて涙を拭う。


「帰ろうか?」

「でも、お友達はいいの?」

「いいよ。連絡はしたからさ」

「そうなの? それなら帰っても大丈夫ね」


 そして俺達は歩く。

 手を繋いだまま。



 ん?

 手を繋ぐ?

 何でだよ。

 さっきは、彼女が怯えていたから手を繋いでいただけで、今は必要はないよな?


 でも、手を離すタイミングが分からない。

 そんなことを思いながら彼女を見ていると、彼女がいきなり笑い出した。


「どうしたの? 色んな顔をしているわよ?」

「えっ」


 俺の考えていることが顔に出ていたのか?

 それはまずい。


「ありがとう」

「えっ、何がだよ?」

「笑わせてくれて」

「不本意だけどな」

「あなたは、いつもそうやって私を安心させてくれるのよね。少し意地悪だけどね」

「意地悪は余計だよ」


「ねぇ」


 彼女はそう言って立ち止まり俺を見た。

 繋いでいる手に力が入っている。


「何?」

「私は、あなたがいないとダメみたいなの」

「何が?」

「さっきの映画館で、あなたに手を握られた時、ホッとしたのよ」

「そうなのか? それなら、また見る時は、隣から離れないからさ」

「違うの。映画館だけの話じゃないのよ」

「えっ」

「ずっと、あなたが傍にいてくれなきゃ、私はダメみたいなのよ」


 彼女はそう言って頬を赤くした。

 照れている彼女も可愛い。


「俺は、君の傍から離れるつもりはないけど?」

「えっ」


 俺はそう言って、彼女と手を繋いでいる手を恋人繋ぎにした。


「俺達はこれから、この関係でいいんじゃないのかな?」


 俺は恋人繋ぎをした手を彼女の目の前に持っていき、言った。


「うん」


 すると彼女は、嬉しそうに笑って言った。



「この前、友達が公衆電話を見ていたら、いきなり受話器が落ちたんだって、それで友達は気になって近づくと、、、」


 そして俺は沈黙する。

 それなのに彼女は、全然怯えていない。

 それどころか、ニコニコして聞いている。


「怖くないのかよ?」

「ううん。怖いよ」

「じゃあ、何で怯えないんだよ?」

「だって、あなたがいるからよ」

「もう、俺の話じゃ怯えないのかよ?」

「うん。でも、話の続きが気になるわ」


 彼女は、俺が話の続きをするのを、楽しみにしているようだ。


「そして友達が近づくと、そこには腰の曲がったおばあちゃんが、電話をしていたんだよ」

「どうしておばあちゃんが見えなかったの?」

「それは、公衆電話の前にタクシーが停まっていて、おばあちゃんがキレイに見えなかったんだよ」

「そのオチも面白いわ。あなたの優しさが詰まっているわね」


 彼女はそう言って笑った。

 分かっていたようだ。

 彼女が笑えるように、オチをちゃんと面白いものに変えていることを。


「今度さ、この前、映画館で観た映画を、家で見ようよ」

「えっ、それはまだ無理だよ」

「大丈夫。俺がいるからさ」

「そうね。ギュッと抱き締めて、手を繋いでくれたら、一緒に見てもいいわよ」

「そんなの簡単だよ。この前のリベンジだ!」


 俺はそう言って、彼女の手をギュッと握った。

 人前でハグはできないから、家で映画を観ている時にでもするよ。


 彼女がもういいよと言っても、俺が満足するまでするからな。

 覚悟してろよな。


 ホラー映画なんて怖くない。

 だって俺がいるから。

 もし、彼女が怖がっていたら、俺は言うよ。


「怖がっている君も可愛くて大好きだよ」


 俺の言葉を聞いて、彼女は照れるんだと思う。

 怖がっていたことも忘れて。

読んでいただき誠に、ありがとうございます。


次のお話は、妹の参観授業を見に行った主人公の物語。

そこで出会った綺麗な人。

その人は妹のクラスメイトの親ではなく、叔母だと言う。

綺麗な人に惹かれる彼。

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