【七十六人目】 楽しいと感じるのは一人でいることが当たり前だと思っていたから
一人で学校へ行く。
一人で休み時間を過ごす。
一人で弁当を食べる。
一人で家へ帰る。
俺の毎日の行動は全て一人だ。
それが当たり前だから何も気にならない。
それに誰も気にしないだろうし。
それでいいんだ。
◇
「今日から宜しくお願いします」
今日は転校生が来た。
可愛い女子だ。
男子が恋人がいるのか聞いている。
先生が、そんな質問はダメだと言ってその答えを聞けなかった。
彼女は俺の隣の席になった。
可愛い彼女には休み時間になると、クラスの男子が集まる。
彼女は迷惑そうな顔なんてしておらず、ずっとニコニコとしていた。
俺はそんな彼女を横目でチラチラと見ていた。
クラスの男子は俺が邪魔なのか、舌打ちなんてしてくる。
仕方がない。
どこかに行ってやるよ。
俺は自分の席を立つ。
その瞬間、俺の席に男子が座る。
何か一言でも言えよと思ったが、面倒だから言わない。
それから授業が始まる頃に戻った。
彼女は俺の隣の席にはいなかった。
何処に行ったのだろう?
トイレにでも行ったのだろか?
すぐに彼女は帰ってきた。
彼女は席に座ると窓の外を見ていた。
俺はそんな彼女を横目でチラチラと見ていた。
彼女の顔は全然見えない。
◇
それから昼休みは自分の席から離れ、時間潰しの場所を転々とした。
やはり一人がいいからだ。
今日は、図書室の誰にも見えないような場所で本を読む。
「ここにいたのね」
俺は声がしたから顔を上げた。
そこには隣の席の彼女がいた。
何で俺に話しかけるんだよ?
「君は俺を探していたのか?」
「そうよ。ずっとあなたに言いたかったのよ。離れないで」
「えっ」
「自分の席から離れないでよ」
離れないでってそういうことかよ。
彼女から離れるなって意味かと思ったよ。
「でも、クラスの男子は俺がいない方がいいだろう?」
「私はいてほしいのよ」
「俺が隣にいて何の役に立つ訳?」
「隣にいてくれるだけで安心できるの。クラスの男子達は、私のことばかり聞くから少し怖くて。私にもプライバシーがあるからね」
彼女はそう言って苦笑いをした。
「言えばいいじゃん」
「あなたは私の立ち場を分かっていないの?」
「立ち場?」
「そうよ。私は転校生でクラスに馴染まなきゃならないの。それなのに嫌なんて言ったら、仲良くできないでしょう?」
「あっそ」
「何よ、その興味なさそうな態度は?」
「だって、それは俺に関係ないことだからさ」
「えっ」
「俺は一人が好きだから、君の気持ちは分からないし、分かろうとも思わないね」
「一人は寂しくないの?」
「寂しいなんて思ったことはないよ。君を見ていると大変そうだなって思うし」
「だから、いつも私を心配そうに見ているのね?」
彼女は納得したように言った。
俺が彼女を心配している?
俺は、ただ彼女を興味本位で見ているだけなのに?
「そんな顔を俺がしている訳がないよ」
「しているわよ。だって、あなたが心配してくれているから大丈夫って思っていたのに、あなたが最近いなくなって、また男子が怖くなってきたのよ?」
「何で大丈夫だって思える訳?」
「誰かに心配されていると思うと、頑張ろうって思わない? 心配させているから心配させないように頑張るの」
「頑張るのも面倒だな?」
「それなら、あなたが私ならどうするの?」
「ここに来る」
「図書室に?」
「休み時間は無理でも、昼休みはここでいいじゃん」
「そうね。それなら、そうするわ」
彼女はそう言って、俺の前に座って俺を見ている。
「何?」
「本を読むあなたを見ているのよ」
「何で?」
「いつも、あなたに見られていたからそのお返しよ」
「君の顔は見ていて飽きないけど、俺の顔は一瞬で飽きるだろう?」
「そんなことはないわよ。本の表紙の向こう側のあなたを見ていると、真剣な目で読んでいて、あなたは二重なんだって気付けて楽しいわ」
「俺は一人がいいんだよ」
「それなら私のことは気にしないで」
彼女はクスクスと笑いながら言った。
◇
それから俺と彼女は、昼休みになると図書室で過ごすようになった。
彼女と話すのは楽しくて、俺は毎日が楽しくなっていた。
いつもと同じはずの家から学校への道。
いつもと同じはずの休み時間。
いつもと同じはずの弁当を食べる。
いつもと同じはずの学校から家への道。
彼女のことを想いながら過ごす俺。
俺ってもしかして、彼女のことが好きなのか?
今日も、いつものように図書室で彼女と本を読んでいた。
彼女は最近、俺の前で本を読みだした。
彼女の本を読む姿をチラチラと見た。
彼女の長い睫毛が文字を読む度に上下している。
可愛いクリッとした目は文字に夢中だ。
そんな彼女に俺は夢中だ。
「おっ、ここにいたんだ?」
いきなり彼女の後ろから声がした。
クラスメイトの男子が一人、彼女の後ろに立っていた。
彼女は驚いて振り向いている。
「この前、言ってたから来てみた」
「えっ、あれは、、聞かなかったことにしてって言ったわよね?」
「そんなこと言ったか?」
彼女は、この場所をこいつに言ったのか?
彼女は、こいつらから逃げる為に、ここに来ているのに、、。
そっか。
彼女にとって、ここでの俺との時間は、こいつらと一緒なんだな。
仲良くしなければいけない。
そう思っているんだろう?
いいよ。
それなら俺は、彼女なんていらない。
一人でいいんだ。
「俺は教室に戻るからここに座れば?」
「ラッキー」
そいつは俺が立つと、すぐに座って彼女を見ている。
彼女は嫌そうな顔をしていたが、俺には関係ない。
だって、彼女がみんなと仲良くしたいんだから。
◇
休み時間も昼休みの時間も、彼女と一緒にいることをやめた。
彼女は俺なんて必要ないんだ。
だから昼休みになると、俺は席を立つ。
するとクラスメイトの男子は、俺の席にすぐ座る。
「ごめんね。私、行かなくちゃならない所があるの」
彼女はそう言って、俺を抜いて先に教室から出て行った。
今日は何処で暇潰しをしようか悩む。
教室を出てから廊下を歩いて階段を上ろうとした時、俺は誰かに袖を掴まれた。
そして引っ張られ階段を上る。
その相手は、教室から先に出た彼女だった。
彼女に引っ張られて、図書室の誰からも見えない場所に来た。
「なっ、なんだよ?」
「どうして、ここに来てくれないの?」
彼女は少し怒っているようだった。
「だって俺は、邪魔だろう?」
「この場所は、私達が仲良くなれる場所じゃないの?」
「そうかもしれないけど、この場所は俺達の場所じゃなくなったじゃないか」
「彼には、ここにはもう来ないでって言ったわよ?」
「君が言うからいけないんだ」
「私のせい? 言った私が悪いけど、それは彼が私を騙して言わせたのよ?」
「でも君はこの場所を人に言ったんだ」
「それはあなたのせいよ」
彼女は完全に怒っている。
逆ギレなのか?
「何で俺のせいなんだよ?」
「あなたが好きだからよ」
「えっ」
「私はあなたの悪口を聞きたくないの。彼はずっと、あなたの悪口を言っていたわ。気持ち悪いとか、存在感無いとか色々ね」
俺の悪口の内容は言わなくてもいいと思うんだが?
俺も人間だから傷つくんだよ。
「それで? どうして、ここの場所を教えたんだよ?」
「彼に、あなたのことを知ってほしくて教えたけど、すぐに間違いだって気付いたの。彼はここに来たら、必ずあなたを私の前でバカにするってね」
「簡単に言えば、君は俺が好きってこと?」
「そうよ」
「それなら良かった」
「えっ」
「俺も君が好きだから」
俺の言葉を聞いて、彼女は花が咲いたように笑った。
◇
今日も彼女は、俺の前で本を読んでいる?
彼女の顔を見ると、頬杖をついて目を閉じている。
「仕方がないな」
俺はそう言って彼女の隣に座り、そっと彼女の頭に手を添えて、俺の肩に乗せる。
彼女を見ると子供のようにスヤスヤと眠っている。
そんな可愛い彼女を見るのが俺の日課になった。
俺は一人でいることがなくなった。
だって、一人でいることが寂しいと思うようになったから。
そして、そんな寂しい思いを彼女にはさせたくないから。
読んでいただき、ありがとうございます。
次のお話は、怖がりの幼馴染みを怖がらせて楽しむ主人公の物語。
彼が幼馴染みの彼女を怖がらせるのには理由がある。それは彼女の怯える顔が可愛いから。




