【七十三人目】 「好きだよ」その言葉を聞いても嬉しくないのは美少女は俺に言っていないから
好きと言われて嬉しくない奴はいるのだろうか?
モテる人は、たくさんの人に言われるから、嬉しくない奴もいるかもしれない。
それでも、伝えてくれてありがとうと感謝をするはずだ。
それが好きと伝えてくれた相手への、礼儀だと俺は思っている。
そんな俺でも、その感謝の気持ちを言わない人がいる。
彼女は俺に好きだと言うが、それは俺に対してではないからだ。
「その顔がいいのよ。好きよ」
「あっそ。いい加減見るのはやめてくれるかな?」
「だってあなたの顔が好きなのよ」
「俺じゃなくて、兄貴の顔だろう?」
「もう! また、そんなことを人前で言わないでよね」
クラスメイトがいる教室で、俺が兄貴のことを言うと、彼女は頬を膨らませて拗ねる。
彼女は俺の顔が好きと言うが、本当は俺にそっくりな俺の一つ上の兄貴のことが好きなんだ。
俺達兄弟は双子でもないのに顔がそっくりだ。
違うのは性格くらいだと思う。
◇
彼女と出会ったのは入学式の日だ。
彼女が教室に入ると、クラスメイト達が彼女を見て驚いている。
仕方がない。
彼女は美少女だったからだ。
俺も驚いた一人だ。
彼女は見られていることを気にせず、自分の席へ座った。
俺の隣の席だ。
「あれ? あなた、さっき渡り廊下を歩いていたわよね?」
彼女は俺に驚いて言った。
俺は登校してから、ずっとこの席に座っている。
それなら渡り廊下を歩いていたのは誰だ?
「俺の兄貴だよ」
「本当? でも、あなたそっくりだったよ? 双子なの?」
「俺の一つ上の兄貴だよ。双子のように似ているってよく言われるよ」
「そうなの? なんか不思議な体験をした気分ね」
彼女はそう言って俺に笑いかけた。
その時、周りのクラスメイトから彼女は、注目を浴びた。
彼女の笑顔を見て男子達は、彼女の笑顔に釘付けになったからだ。
俺もまたその中の一人だ。
しかし、渡り廊下ですれ違っただけで、人の顔を覚えているものだろうか?
俺だったら顔も見ていないと思う。
それなのに彼女は顔を覚えていた。
もしかして彼女は、兄貴の事が気になって見ていたのかもしれない。
もしかして好きになったのかな?
俺はそんなことを考えながら、隣の席の彼女と話す頻度が増え、仲良くなっていった。
そんなある日、彼女は教室に入ってきて、俺に駆け寄った。
「また、あなたのお兄さんを渡り廊下で見たの。すっごくドキドキしちゃった」
彼女は登校したばかりの俺に、興奮しながら言った。
この様子で彼女が兄貴を好きなのが分かった。
同じ顔でも彼女は兄貴が好きなんだ。
「だから兄貴の顔を初めて見た時、覚えていたんだね?」
「そうよ。好きな顔なのよ」
彼女は頬を赤く染め、小さな声で、俺にだけ聞こえるように言った。
やっぱり彼女は兄貴に恋をしている。
今の俺は、彼女にとって兄貴の代わりなんだろうな。
それから彼女は、俺の顔を見るようになった。
授業中の彼女の視線。
休み時間中の彼女の視線。
彼女はずっと見ている訳ではなく、俺が彼女を見ると目が合う感じだった。
体育祭の時は、俺の出番の時は目を離さなかった。
俺が走り終わった後、俺以上に一位を喜んでいた。
◇◇
彼女が兄貴を好きだということに俺が気付いてから、彼女は俺の顔が好きと言うことが多くなった。
俺が兄貴に伝えてあげてもいいが、それは彼女から伝えてほしいと言われた時に伝えることに決めている。
「ねぇ最近、お兄さんを見ないんだけど、何かあったの?」
彼女は登校したばかりの俺に言った。
「最近、起きるのが遅くて、朝は俺より遅く出てるからじゃないかな?」
「そうなんだ」
彼女は少し落ち込んでいる。
「俺がいるからいいじゃん」
「えっ」
彼女は顔を赤くしてうつむいた。
「そんなに兄貴の顔にそっくりなのか?」
「だから、そんなことを人前で言わないでよ」
彼女はすぐに顔を上げ、頬を膨らませて拗ねながら言った。
さっきの照れた顔は一瞬でなくなった。
可愛かったのに。
彼女が、朝の渡り廊下で兄貴を見ることがなくなって、二週間が経った。
それでも彼女は、兄貴が現れないかと待っている様だった。
だから俺は、兄貴の代わりに渡り廊下を渡ろうと思った。
彼女が会いたがっている兄貴に似ている俺なら、彼女は嬉しいはず。
そして俺はいつもより早く学校へ向かった。
渡り廊下を見ると、彼女が渡り廊下の近くの手洗い場で、兄貴を待っているのか、キョロキョロとしていた。
俺は、いつもはボサボサの髪の毛を、兄貴のようにちゃんとセットをして、兄貴だと思われるようにしている。
そして渡り廊下を歩く。
すると彼女が、俺に気付いて顔を赤くしていた。
兄貴だと思っているようだ。
俺は、彼女の視線には気付いていない風に渡り廊下を歩き、彼女の前を通り過ぎた。
すぐに髪の毛をいつもの様にボサボサにして教室へ戻ると、彼女は自分の席に座っていた。
「おはよう」
「おはよう。おバカさん」
「えっ」
彼女は俺をバカだと言った。
俺、何かバカなことをしたのか?
「そんなことをして、私が喜ぶとでも思ったの?」
「えっと何が?」
「私が気付かないとでも思ったの?」
「えっと、その」
彼女にはバレたみたいだ。
似ているってあんなに言われるのに、彼女にはバレるなんてどうしてなんだ?
「私は好きだってずっと言ってるでしょう?」
「それは俺の顔だろう? 違うな。俺の兄貴の顔だろう?」
「何でそうなるの? 私は、あなたにずっと言っていたのよ?」
「俺に?」
「あなたの顔が好きなの。お兄さんは、あなたに似ているから、あなたが学校に来るまで待てなくて、見ていただけよ」
「えっ」
訳が分からない。
俺の顔が好きで、俺の兄貴の顔を見ていた?
「それなら最初に出会った時に、兄貴の顔を覚えていた理由は?」
「最初? 最初に見た顔はあなただからよ」
「俺?」
「街で偶然あなたを見かけたの。あなたは女の子と一緒に、お母さんを探していたわ。泣く女の子の頭を撫でながら、大丈夫だよって言っていたの」
「そんなことあったかも、、、」
「そんなあなたを見て私は、顔をちゃんと覚えて今度会ったら、話しかけようって思っていたの」
「それって兄貴じゃなくて、俺の顔が好きだってこと?」
「そう言ってるじゃない。あなたはおバカさんなんだから困るわ」
「兄貴じゃなくて俺だったのか?」
「その顔を、また見たかったの。嬉しそうに笑うあなたの顔をね」
彼女はそう言って俺に笑いかけた。
入学式の日に見たあの笑顔よりも、断然こっちの笑顔のほうが可愛くて好きだ。
「ねぇ、これからも早く来てよね」
「どうして?」
「あなたの顔を早く見たいからだよ」
「兄貴じゃなくてだろう?」
「もう! また人前で言わないでよ」
彼女はいつもの様に頬を膨らませて拗ねる。
彼女が拗ねるのは、もしかしたら誰にも勘違いしてほしくはなかったのかもしれない。
彼女が好きなのは兄貴じゃなくて、俺だとみんなに知ってほしかったのかもしれない。
だって彼女は、今日もクラスの男子を釘付けにしている。
そんな彼女は俺の恋人になった。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、孤独に生きる大学生の主人公の物語。
そんな彼に、妹の友達の女子高生が話し掛けてきて、彼の世界に色んな色をつけた。




