【六十八人目】 雲を見ると思い出すと言う美女は婚約破棄をされた経験がある
俺と彼女が出会ったのは、夕暮れのオレンジ色に染まった空に、オレンジ色に染まった雲が、横一直線に横断している日だった。
ただなんとなく空が見たくて高台に行った。
そこで彼女は、静かに涙を流して空を見ていた。
とても綺麗で見惚れてしまった。
彼女は俺に気付くと涙を拭いて、その場を離れようとしていた。
俺はまだ彼女を見ていたくて、彼女に声をかけていた。
「俺は空を見に来たんです」
そう言って 空を見上げた。
まるであなたなんて見ていませんよと言うように。
「私もです」
彼女もそう言って空を見上げた。
彼女の頬を流れる涙は本当に綺麗だった。
どうしてこんな綺麗な涙を流す彼女は、泣いているのか気になってしまった。
「俺は最近、全てに疲れたんでしょうね。こんな所に来るなんて」
「私もそうなのかもしれません」
彼女も疲れて泣いていたのかな?
「だから婚約破棄なんてされたのかもしれません」
「えっ」
俺は驚いて彼女を見る。
彼女は空を見上げたままだ。
「私が忙し過ぎて、彼の相手をしていなかったから、彼は他の女の人に頼ったのね」
「それは、あなたのせいではなくて、その彼が寂しいなら寂しいと言わなかったからではないですか?」
「でも、全て彼が悪いって思ってもいいのでしょうか? 彼だけを悪者にしてもいいのでしょうか?」
「それは人それぞれです。その傷ついた人が、どうやって乗り越えられるのかによって違うと思います」
「私は後悔しています。どうして、もっと彼のことを考えてあげられなかったのか、彼の変化にどうして気付いてあげられなかったのか、考えると悔しくて涙が出ます」
彼女は空を見上げたまま、泣くのを我慢しているようだった。
「それなら全てを彼のせいにしましょうよ」
「どうしてですか?」
「彼のせいにしてしまえば怒りが沸き起こってきませんか? 今度はいい人を見つけるんだってなりませんか?」
「彼よりもいい人を見つけて、彼を後悔させたくなりますね」
「今はその方法で乗り越えればいいのではないですか? あなたの涙も止まっていますよ」
「えっ」
彼女は、自分の涙が止まっていることに驚いているようだった。
「実を言うと、婚約破棄をされたのは、最近の話じゃないんです」
「えっ」
「少し前の話で、このオレンジ色の雲が見えていた時に、彼に言われたのが、今でも鮮明に頭に浮かんできて消えないんです」
「それなら早く忘れて、次に進まないと、君にはもったいないです。こんなに綺麗なのに」
「綺麗?」
「あっ、はい。そうですね。君は綺麗で美しいです」
「ありがとうございます。なんだか照れます」
彼女は空を見上げていた顔を、次は地面に向けた。
「次はいい人を見つけて幸せになって下さいね」
「えっ」
彼女は驚き俺を見た。
俺、変なことを言ったかな?
「あっ、いやっ、君が幸せじゃないなんて思っていませんよ? ただ君には、また恋愛をして欲しいと思います。もったいないですから」
「もったいないって何がもったいないんですか?」
「えっ、その、君の美貌が?」
「美貌って、もったいないってなるんですか?」
「俺みたいな普通の奴には、君みたいな高嶺の花はいつでも笑っていてほしいんです」
「高嶺の花?」
「そうですよ」
俺がそう言うと彼女は笑い出した。
何が面白いのだろうか?
まあいい。
泣いていた彼女が笑ったのだから。
「聞いてくれます?」
「はい。なんですか?」
「私、いい人見つけました」
「えっ」
「その人のことは、まだ全然知りません。でも一つだけは分かります。あなたは優しい心の持ち主なんだって」
「おっ、俺?」
「あなたはいい人です」
「まあ、よくいい人って言われるけど、それでその後、音信不通とかよくありますよ?」
「ふふっ。あなたは面白い人でもありますね」
彼女は笑いながらそう言った。
彼女の笑いのツボは浅いみたいだ。
「それなら、オレンジ色の雲を見ても思い出すことはないですか?」
「それは思い出します」
「えっ、まだ傷は癒えていないですか?」
「いいえ。あなたを思い出します」
「俺ですか?」
「優しくて面白くて普通の人を思い出します」
「普通の人って。まあ自分でそう言ったけど、、」
「ふふっ」
彼女はまた笑った。
でも今回の笑いは、俺を見て嬉しそうに笑ったんだ。
俺と出会えたことが嬉しかったのか、それとも彼のことを忘れられて嬉しかったのかは分からない。
でも高嶺の花の彼女の笑顔を見られたから、俺は満足だ。
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次のお話は、社会人の主人公に幼馴染みの女子高生は、友達が簡単に、結婚をすると口にしないでほしいと悩みを言います。
口にするくらい、いいのではと思ってしまう主人公は、彼女を落ち着かせる為に飴をあげます。




