【六十四人目】 遠慮をしたら婚約破棄をされました。理由を知ったら納得しました。
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「あなたは遠慮し過ぎなのよ。そんなあなたと結婚しても私も一緒に損をしそうね。だから婚約はなかったことにしようかしら?」
俺の婚約者は、そんなことを結婚式の一週間前に言った。
婚約者はしっかりした女性だ。
そんな婚約者が、嫌だからという子供が言いそうな理由だけで、結婚を止めるなんて言うはずはない。
「えっ何それ? でも君がそう言うなら仕方ないよ」
でも婚約者が言うのだから、結婚をしたくないのだろう。
だから俺は彼女の言葉に反論はしない。
「また遠慮をしたわね。だから損をするのよ。レジで順番待ちをしていた時なんて、最初のおばあちゃんに譲ってからその後ろの人も譲って一番後ろになったこともあったでしょう?」
「そうだったかも」
「譲ることはいいことだけど限度があるわよ」
「そうだね。俺には限度が分からないんだよ」
「あなたは本当に、私と結婚がしたいの?」
「君とずっと一緒にいたいからプロポーズをしたんだよ?」
「分かったわ。それなら、あなたが少しでもいいから遠慮をしないようにしてくれれば、婚約破棄は撤回するわ」
「俺が変わればいいんだね? 分かったよ」
しかし、俺の何を変えればいいのか分からない。
遠慮をして、他人を優先してしまう俺がいけないのだろうか?
他人を優先して何が悪いのだろうか?
たった一週間で俺は変われるのだろうか?
「どうすればいいのか分からないって顔ね?」
彼女は俺の顔を見てそう言った。
出会った時から彼女は、俺の顔を見て俺の考えが分かっていた。
◇
二人の出会い。
桜の花びらが舞っている桜の木の下で、俺は大きな桜の木を時間も忘れて見ていた。
「綺麗な桜の木ね」
「えっ」
いきなり声が後ろからして、俺は驚き振り向いた。
そこには、桜の木の妖精なのかと思うほど、とても綺麗な女性が可愛らしい笑顔で立っていた。
「桜が綺麗なのは、儚いからなのかなぁ? すぐ桜の時期って終わってしまうからなのかなぁ?」
彼女は桜を見ながら言った。
その瞳に俺を映してほしいと思うほど、彼女の瞳は大きくキラキラ輝いている。
「桜を見たいなら、どうぞここへ。俺は邪魔なので帰りますよ」
そう俺が言うと彼女の瞳の中に俺は映る。
彼女が俺を目を見開いて見たから、そうだろう。
「ねぇ、誰が邪魔だって言ったの? あなたの顔はまだ桜を見ていたいって言っているわよ?」
「あっ、でも俺なんかがいたら、綺麗な桜が霞んで見えそうだからね」
「そんなことはないわ。私は、あなたとこの桜を見て、ここに足が向いたのよ?」
「俺と桜?」
「いつまでも桜を見ているあなたと、桜が会話をしているように見えたの。風が吹いて桜の花びらが舞うと、あなたは笑っているの。まるで会話を楽しんでいるように見えて私も混ざりたくなったのよ?」
彼女はそう言って桜の木に触れる。
そんな彼女はやっぱり、桜の木の妖精みたいに輝いて綺麗だ。
すると桜の木に少し強い風が吹いた。
桜の花びらが舞っていく。
彼女は少し乱れた髪の毛を耳にかけながら、舞っていく桜の花びらを見ていた。
そんな彼女は、少し寂しそうに桜の花びらを見ている。
俺は舞っている桜の花びらが地面に落ちる前に拾っていた。
取れたのは三枚の桜の花びらだった。
「これだけしか取れなかったけれど、これで寂しくないかな?」
「えっ」
「儚くて寂しいなら、なくなるその前まで触れていれば、少しは寂しい気持ちはなくなるかな?」
「子供みたいね」
彼女はクスクス笑って、桜の花びらを俺の手から受け取る。
「ねぇ、来年もこの桜を見ようよ」
「えっ」
「あなたとまた、来年も見られるなら寂しいなんて思わないわ」
「俺なんかでいいの?」
「あなたがいいから言っているのよ?」
彼女はそう言って可愛い笑顔を見せてくれた。
◇◇
それから俺達は恋人になり、あと残り一週間もすれば結婚式を挙げる仲になったのに、俺はそんな大事な彼女を失いそうになっている。
「もう! そんな顔をしないでよ」
「えっ」
「寂しいって顔をしているわよ?」
俺の思っていることは、彼女には何でもお見通しなんだと思う。
だから隠す必要なんてないんだ。
「そうだよ。君と結婚できないのは寂しいし、悲しいんだよ」
「結婚できないって決まった訳じゃないでしょう?」
「でも、俺よりも他人を優先してしまうのは、もう癖になっているんだよ」
「それならヒントをあげるわ」
「ヒント?」
「そうよ。ヒントは、私達がデートをしている時に起きたあなたの遠慮は何?」
「俺の遠慮は、、、」
思い出すとたくさんある。
それほど彼女とデートは何度もしているんだ。
最初のデートの時は、電車に乗る時だった。
ベビーカーが引っ掛かり、動けないママさんを助けてギリギリ電車に乗れなかった。
ベビーカーを押していた若いママさんは、ちゃっかり乗っていた。
その時の彼女は、あなたって優しいのねって笑って言っていた。
そのベビーカーを押している若いママさんを助けなかったら良かったのかな?
でも、彼女は笑っていたよね?
それが違うならあの日か?
彼女との距離がすごく近くなった頃のデートの日。
待ち合わせ場所に俺は、一時間くらい遅刻をした。
理由はたくさんある。
まずは、おばあちゃんが横断歩道をゆっくり歩いていたから、少し手をひきながら急いで渡った。
その後、迷子がいたから一緒にお母さんを探した。
まだあるんだ。
その後、人に道を聞かれ、その場所まで一緒に行った。
そして彼女の元へ向かったのは、約束の時間より五十分遅刻していた。
急いで走っていくと、彼女が心配している様子が遠くから見えた。
彼女に謝ると心配したんだからねって言われた。
ごめん。
次はもっと早く家を出るよ。
他のデートだと最近のことかな?
あの日は映画館に行ったんだ。
彼女が見たいっていう感動する話の映画で、席に座っていたけど、ポップコーンを買いに席を立った時。
彼女にはもうすぐ始まるよって言われたけれど、すぐに戻るよと言って席を離れた。
俺はすぐには戻れなかった。
泣いている子供二人を連れているママさんがいた。
俺は一人を抱っこして泣き止ませた。
すると、もう一人も抱っこしてほしいと手を出してくる。
そして二人の相手をしていると、映画が終わって人がぞろぞろと出てきた。
俺は急いで中に戻ると、彼女が泣いていた。
そんなに泣ける映画だったの? って俺が言うとそうよって怒ったように言った。
どこにヒントがある訳?
いつも通りのデートじゃん。
「もう! あなたは何も分かっていないわね」
「えっ」
「私達のデートはいつも中途半端なのよ」
「中途半端?」
「この前の映画館でのことは覚えてる?」
「うん。俺、映画の題名さえ知らないよ」
「そうね。私が一人で見たもの」
「あの時は本当にごめん」
「私があの時、泣いていた理由は、映画だって思っていたでしょう?」
彼女は苦笑いで俺に言ってきた。
「そうだと今も思っているよ?」
「本当は違うの。あの日は悔しくて泣いたのよ?」
「悔しい?」
「あなたは他人を優先して、私を優先してくれないじゃない?」
「あっ」
そういうことだったのか。
彼女が心配していたのは、俺が他人を優先して俺だけじゃなくて、彼女も損をするってことなんだ。
「分かってくれたみたいね」
また彼女は俺の顔を見て、俺の考えが分かっているようだ。
「それじゃあ俺と結婚をしてくれるかな?」
「いいよ。私はあなたとずっと一緒にいるって、あの桜の木の下で思ったもの」
「俺は何よりも君を一番に優先するよ」
「それは困るわ。私達に赤ちゃんができたらどうするの?」
「えっ、それは……どっちも一番?」
「あなたなら、そう言うと思ったわ」
彼女はそう言ってクスクスと笑った。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、中学生の幼馴染みをもつ、大学生の主人公の彼が困ってしまう物語。
それは中学生の彼女は私を大人にしてと言うから。
そんなことを言われても、そんな簡単なことじゃないことを彼は知っています。




