【六十一人目】 アイドルが俺の目の前に現れました。俺はアイドルに君とは住む世界が違うんだと教えます
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最近とても人気な女の子のアイドルがいる。
彼女は歌も上手いしダンスだって踊れる。
顔だけで人気を勝ち取った訳ではない。
だから彼女は誰からも好かれるアイドルだ。
そんな話がテレビから聞こえた。
そのテレビを消して、俺はある場所へ向かう。
俺のお気に入りの場所だ。
俺は学校が休みの日に、図書館へと向かった。
図書館はほとんど人がいない為、ほとんど俺の貸し切り状態だ。
その図書館へ俺は本を読みに行く訳ではない。
俺は図書館の隅っこの、日が当たる席で寝るのが好きなんだ。
だからいつものように図書館の中へ入り、いつもの場所の席に座ろうと思った。
しかし俺はそれができなかった。
何故なら先客がいたんだ。
俺は、その場所は俺のだぞと言うように咳払いをした。
しかしその相手はピクリとも動かない。
どれだけ本に集中してるんだろうと思いながら、相手はどんな人なのか顔を覗こうと、机の前に立って俺は気付いた。
彼女は左手で頬杖をついて、本を読んでいるように顔を下に向けて寝ていたのだ。
俺と同じだ。
気持ちよさそうに寝ている彼女。
日差しに照らされているせいなのか、輝いてとても美しく見える。
目を閉じていても美人だから、目を開けたらもっと美人だろう。
そうだと長いまつ毛も俺に伝えている。
俺の場所だが、今日は彼女の為に諦めよう。
俺の場所なんて決まっていないのだが、俺しか使わないこの席は彼女に譲るよ。
そう思って帰ろうとした時だった。
最後に、彼女の綺麗な顔を見てから帰ろうと彼女を見た時、彼女の頬杖の左手から頬が離れ、机へと顔が落ちそうになっている。
これでは彼女は顔を机にぶつけそうだ。
俺はそう思ったら咄嗟に手が出ていた。
彼女の頬杖の代わりに、俺の手が彼女の頬を支えている。
俺の手は空中に浮いた状態だ。
そんな体勢はきつい。
俺は机を挟んで彼女の真正面に座り、彼女の頬の位置を少しずつ下げて、机の上に俺の手を置こうとした時、彼女が俺の手を両手で包み、そのまま机の上にたどり着き、俺の手は彼女の頬と手に挟まれてしまった。
身動きができない。
彼女は嬉しそうに笑って寝ている。
何かいい夢でも見ているのだろう。
可愛い彼女を、俺は見飽きることなく見ていた。
時間なんてどのくらい過ぎたのかも分からない。
この幸せな時間はなんだろう?
すごく癒される。
手は挟まれていて少し感覚がなくなってきているが、嫌なんて思うほどではない。
すると彼女のポケットからなのか、携帯電話のバイブの音がした。
その音に彼女はすぐに気付き、さっきまで寝ていたとは思えないほど早い動きで、携帯電話を取り出す。
それほど大事な電話を待っていたのだろうか?
俺のことなんて気付いてもいない。
彼女が携帯電話を確認している間に、俺は彼女から離れた。
彼女は携帯電話を確認した後、すぐに出ていった。
彼女がさっきまで座っていた俺の席へ俺は座る。
日差しはもうないのだが、俺の頬は熱を帯びていた。
俺は彼女の顔を見たことがあった。
それは今朝のテレビだ。
今朝の最近とても人気な女の子のアイドル。
それが彼女だった。
俺は彼女と会ったんだと、学校の友達や家族に言うことはしなかった。
俺と彼女だけの秘密だ。
違うか。
彼女は俺のことなんて気付いていなかったから、俺だけの秘密だ。
一週間後、次の休みの日に、また図書館へ向かった。
俺の場所には先客はいなかった。
彼女は忙しいのだからそんな毎回、この場所に来れる訳がない。
また会えると期待した俺がバカだ。
いつものように日差しを浴びながら眠りに落ちた。
ん?
なんだろう?
心地いい。
そう思ったら目が覚めた。
目を開けて俺は固まってしまった。
それは彼女が俺の頭を撫でていたからだ。
驚き過ぎて言葉が出ない。
「あっ、起きたの?」
彼女はそう言いながら、まだ頭を撫でている。
俺は猫にでもなった気分だ。
「えっと、何故?」
「何故ってあなたでしょう? この前、私にいい夢を見せてくれたのは?」
「俺が?」
「あれ? 違ったかな?」
彼女はそう言いながら俺の手を握る。
「これよ。この手だと思うんだけど。このゴツゴツした感じとか長い指とか。この手の甲の傷も同じよ」
彼女に手を握られていると思うと顔が赤くなる。
「何で覚えているの?」
「だって、本当にいい夢を見たの。その夢の中で私は握っていたのよ。この手を」
彼女はそう言って、俺の手に彼女の頬を当てる。
「そういうのはやめてくれる?」
俺はそう言って彼女の手を振りほどいた。
「あっ、ごめんなさい。あなたは迷惑よね?」
彼女は傷ついた顔で言っている。
どうしてそんな顔をするのだろう。
俺なんかの手よりも、君には相応しい手があるはずだ。
イケメン俳優やイケメンアイドルなんて、彼女の周りにはたくさんいるはずだから。
「俺は君を知っているよ」
「そうなの? それならここには、もう来れないわね」
「どうして?」
「だってあなたは、友達や家族に言ったでしょう?」
「言わないよ」
「えっ」
彼女は驚いて俺を見る。
「言う必要はないからね。それに、ここであったことは俺と君の秘密だからね」
「私達の秘密?」
「二人だけの秘密って良いと思わない? アイドルの君がこの図書館に来て、寝てるなんて俺しか知らないんだよ?」
「あなたって変な人ね」
「それは褒め言葉なのかな?」
「褒め言葉よ」
彼女はそう言って微笑んだ。
その後すぐに、携帯電話のバイブが鳴って、彼女はその電話を出るのに迷っている。
「電話、出ないの?」
「出たくないの」
「この前はすぐに出ていたのに?」
「私がここに来た理由が、逃げてきたって言ったらどうする?」
「戻った方がいいよって言うよ」
「どうして?」
「君と俺の住む世界は違うんだ。この図書館は俺の世界だよ。君の世界は光輝く舞台の上だよ」
「私とあなたの世界の何処が違うの?」
「違うよ。君はいつも真ん中にいて、スポットライトを浴びているじゃないか」
「住む世界が違うのにどうして私はここにいるの?」
「君は迷いこんだんだよ」
「違うよ。私はあなたに会う為に来たのよ?」
「俺に会いに?」
「アイドルになって人気になって、すると私は眠ることができなくなったの。いつでも誰かの目を気にして、それに忙しかったのもあるわ」
彼女の顔をよく見ると疲れているように見える。
俺は彼女をちゃんと見ていなかったみたいだ。
「俺の手でぐっすり眠れたってことかな?」
「そうよ。だからあなたが必要なの」
「それならいつでもここにおいでよ。俺が君を眠らせてあげるよ。その代わり電話には出てよ。君はみんなのアイドルなんだからね」
「そうね。あなたがいれば何でもできそうよ」
彼女はアイドル。
俺は普通の高校生。
二人の住む世界は違っても、この図書館では同じ世界にいる。
でもいつか、彼女と俺の世界が重なって同じ世界になれば、二人には幸せしかないのだと思うことにするよ。
だって彼女も俺もお互いの存在が必要だから。
「ねぇ手を貸してよ」
「いいよ。安心して眠っていいよ」
「うん。おやすみ。私の大切な人」
彼女は最近、そう言って眠る。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、可愛い幼馴染みの上目遣いを見ながら、彼女の質問に答える彼の物語。
素直な彼女には素直な言葉を伝えたいと思う彼。




