【五十三人目】 夢に出てきた美少女は現実では俺のことを全く知らない
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『私、あなたのことを知っているわ』
『俺も知っているよ』
美少女が、俺に困った顔で言っている。
俺も困った顔で言う。
『私はあなたにとってどんな存在なの?』
『君は俺の…………』
俺が言おうとしたら彼女が消えて、俺は暗闇にいて何も見えなくなった。
それから、目を閉じていると気付いて、ゆっくりと目を開けると、俺の部屋の天井が見えた。
俺は夢から目を覚ましたんだ。
まるで本当に彼女が目の前にいるようで不思議な夢だった。
俺は学校へ行く準備をする。
いつも通り。
いつもの朝ごはんのパンを食べる。
いつもの時間に家を出る。
いつもの電車に乗る。
全てがいつも通りに過ぎていく。
しかし、ただ一つだけ違うこと。
それは俺が美少女のことを気になっていることだ。
俺の学校には美少女がいる。
彼女は性格も顔も全てがパーフェクトなんだ。
女子にも男子にも人気の彼女は、俺のことなんて知らない。
でも俺は、彼女のことをよく知っている。
彼女は少しおっちょこちょいだ。
彼女は少し雨が嫌いだ。
彼女は少し泣き虫だ。
そんな彼女が、俺の夢に出てくるなんて、俺はそれほど彼女が好きなんだと思う。
幸せな夢をみたからなのか、今日は良い一日になるだろうと思った。
それなのに今日は晴れる予報が大ハズレ。
傘なんて持ってきていない。
学校で雨が弱くなるのを待った。
何処か暇つぶしができるような所を探すことにした。
そうだ。
俺の好きなあの場所へ行こう。
俺が好きな場所。
それは多目的室の一番後ろの、窓から近くの家が見える。
その家から、いつも猫が窓側で、日向ぼっこをしているのが見えるんだ。
俺は猫が好きだから、その場所を聖地と呼ぶ。
しかし、その聖地に先客がいた。
しかも聖地に相応しい人だ。
横顔を見たが嬉しそうに笑っている。
猫が好きみたいだ。
そして聖地に相応しいと思った一番の理由は、彼女は美しく綺麗で、しかも猫耳としっぽが見えたからだ。
実際には猫耳もしっぽもない。
だが俺には確かに見えたんだ。
猫達を見て、あなたの仲間だよなんて思いながら見ている彼女の姿が。
そんな彼女を見ると、俺は迷いもなく窓際に立っている彼女の横に立った。
「猫達が君を見ているよ」
「えっ」
彼女は俺の声に驚き俺を見た。
彼女は驚いた顔も可愛い。
「私、あなたを知っているわ」
彼女は俺を見るとすぐにそう言った。
今日見た夢のように困った顔で。
「俺も知っているよ」
彼女が困った顔で見るからなのか、俺も困ってしまって同じ表情で返す。
これはまさしく正夢だ。
しかしこの後、彼女は何も言わない。
まだ夢には続きがあるのに。
彼女は、俺が知っていると答えると、返事に満足したのか、また猫達を見ている。
「あなたも猫ちゃんが好きなの?」
「うん。いつもあの場所で、日向ぼっこをしている猫を見ると癒されるんだよ」
「そうなんだね。私の前世は猫ちゃんだったんだと思うの。だから猫ちゃんみたいに水が苦手だし、野良猫ちゃんだって、私にすり寄ってきてくれるんだと思うの」
「そうだね。君は雨が嫌いだよね?」
「どうして知っているの?」
彼女はまた驚いて俺を見上げる。
「俺は、君が子猫を抱えて、雨宿りをしているのを見たことがあるんだ」
「えっ、もしかして全部見ていたの?」
「うん。君は母猫の所に行こうとしているけど、少し雨粒が靴に落ちるだけで、君は驚いていたのが気になったんだ」
「何か恥ずかしいわ」
彼女は赤くなった頬を両手で包み、恥ずかしいのを隠すように、猫達の方に顔を向けて見ている。
「母猫が近くで、子猫を抱えている君を見ていたよね?」
「そうなの。私達がいる反対側の道で、母猫は心配そうに子猫を見ていたの。でも、猫は水が苦手だから雨の中に飛び込むことができなくて、ただ見ることしかできなかったのよ」
「そんな猫達を見て君は、苦手な雨に濡れながら勇気を振り絞って、母猫の所へ子猫を連れて行ったんだよね?」
「そうよ。子猫が濡れないように、ハンカチをかけてあげてね」
「そうそう。そのハンカチが猫柄で可愛かったんだよ。その後、君は嫌そうな顔で、雨を払ってたのが俺には可愛く見えたんだ」
「そんな所まで見ていたの?」
彼女は猫を見ている目を俺に向けて、驚いている表情を見せた。
彼女はさっきから、よく驚いている。
「そう。だから俺は、前から君を知っていたんだよ」
「あっ」
彼女がいきなり思い出したように叫んだ。
「何? どうしたの?」
「思い出したのよ」
「何を?」
「あなたのことを」
「俺? でも君は、俺のことを知っているって言ったよね? 思い出して言ってたんじゃないの?」
「なんとなく、見たことがあって言ったのよ」
なんとなく見たことがあるから答えた?
だから彼女は困った顔をしていたんだ。
「どんなことを思い出したの?」
「これは夢よ。私が小さな時から見る夢なの」
「夢?」
「いつも、あなたは私の頭を撫でて言ってくれるの。君は可愛いねって」
「それが俺?」
「分かんないけど、あなただと思うの。だってあなたの顔を見てこの夢を思い出したんだもの」
「夢はそれだけで終わりなの?」
「そうね、小さな時はそうだったけど、最近は違うの」
「違う?」
彼女は窓枠に顎を乗せ、猫を見ながら言う。
「あなたは私にとってどんな存在なの? って聞くとあなたは、君のご主人様だよって言って、私は猫になってあなたに頭を撫でられるの」
彼女は不思議そうな顔をして俺を見る。
「あなたって私のご主人様なの?」
彼女は初めて会った俺に、そんなことを聞いた。
そんなことを言われても、普通に考えたら違うに決まっている。
どう見ても彼女も俺も人間で、猫なんかじゃない。
だからご主人様な訳がない。
そんなの彼女だって分かっているはず。
でも、どうして俺にそんな質問をしたのか?
俺に何て言って欲しいのか?
「そういえば君って、前世は猫だと思っているんだよね?」
「そうよ」
「だったら前世の君は、俺に飼われていたのかもしれないね。だから俺はご主人様なんだよ」
「だからあなたの夢を見るのかなぁ?」
「そうかもしれないね」
そして彼女は考え込んだ後、俺を見つめてきた。
「なっ、何?」
「あなたは私みたいな夢は見ないの?」
「君は夢に出てくるよ。でも君は、猫なんかじゃなかったよ」
「それなら私は、あなたにはどんな風に見えていたの?」
俺は夢の中の彼女を思い出す。
夢の中の彼女は困った顔しかしていない。
夢はいつも途中で終わる。
だからその後の彼女なんて知らない。
俺が黙っているからなのか、彼女は困った顔をしている。
夢と同じだ。
何故、彼女はそんなに困った顔をするのか?
「どうして君はそんなに困った顔をするの?」
「だって私は、あなたの事を何も知らないからよ。顔は知っていても、あなたが何を考えて、何を思っているのかなんて分からないもの」
そういうことか。
彼女が困っているのは、俺を知らないからなんだ。
それなら彼女に教えてあげよう。
「俺は君のご主人様じゃないけど、君を大切に思っているのは確かだよ」
「それってどういう意味なの?」
「君はまだ分からないと思うよ。だからこれからお互いを知っていこうよ。そして、また俺に聞いてよ。俺にとって君はどんな存在なのかをね」
「分かったわ。それならまずは、あの猫ちゃんの可愛いと思う所を教えてよ。私は顔を洗う所が好きなの」
彼女は嬉しそうに顔を洗う猫を見て言った。
少しずつでいい。
お互いを知っていけば何かが変わる。
何かが…………。
◇
「私はあなたにとってどんな存在なの?」
「君は、俺の大切で手放したくない、俺の愛している人だよ」
「知っていたよ。私もあなたと同じだもん」
彼女はそう言って俺にだけ見える猫耳としっぽをつけて笑っていた。
そんな彼女の頭を撫でる俺は、前世は彼女のご主人様だったかもしれない。
俺は、彼女の頭を撫でながら癒され、俺に撫でられる彼女も癒されるから。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、幼馴染みの彼女は幼い頃から何かあると、主人公の彼の手を必要とする。
手を握ったり、頭を撫でたりすると喜ぶ彼女は、美少女で可愛い。
そんな二人の物語。




