【四十二人目】 離れていった幼馴染みの心を取り戻すにはもう遅い……のか?
「ちょっといい加減にしてよ」
俺はただいま幼馴染みに怒られている。
何故かって?
それは彼女が今から言うよ。
「約束したでしょう? 今日は絶対に遅刻しないって」
分かった?
俺の怒られている理由。
それは俺がいつも遅刻していること。
今日は、彼女と一緒に映画を見ると約束していた。
俺はそんなことをすっかり忘れ、家で寝ていた。
彼女から何度か電話はきていたが、寝ていて気付かなかった。
そして彼女は待つことを諦め、俺の家に来ている。
「映画館で待ち合わせをするからだろう? 君が俺を迎えに来ればいいじゃん」
「だって私は用事があったの!」
「俺だって。寝るっていう用事があったんだよ」
「もう! いい加減にしてよ。私をバカにしているの?」
「バカにはしていないよ。ただ俺には待ち合わせは無理だって、君も知っているだろう?」
「そうね。あなたは直そうともしないのね。それならいいわ。もう、あなたなんて大嫌いよ」
彼女はそう言って俺の部屋から出ていった。
これもいつものこと。
彼女は怒って家へ帰るんだ。
だから次の日には。何もなかったように話すんだ。
◇
次の日、俺は学校を遅刻した。
遅刻の常習犯の俺だから、学校を遅刻するのは当たり前だと思っただろう?
残念。
俺は学校を遅刻したことがないんだ。
今日は遅刻したけど。
何故、遅刻しないのか。
それは幼馴染みの彼女が、いつも起こしに来てくれるからだ。
それなのに今日は来てくれなかった。
何でだよ。
いつもしていることを、いきなりしないというのはやめてほしいよ。
彼女のせいで遅刻したじゃん。
俺が学校に行ったのは、お昼過ぎだった。
「お前、遅いよ」
親友に話しかけられた。
「だって、あいつが起こしてくれなかったんだよ」
「お前はまだ、彼女に起こしてもらっていたのか?」
「うん。だって起きられないからね」
「彼女はお前のお母さんじゃねぇんだよ」
「お母さん? そんなこと思ったこともないけど?」
「お前はそうかもしれないけど、女子はそう思うって」
「何でお前が女子の気持ちを知っているんだよ?」
「それは、女子が彼女に言っていたのが聞こえたことがあるんだよ」
「へぇ~」
「お前も少しは考えろよな。あんなに可愛い幼馴染みを雑に扱うなよ」
親友はムッとした顔で言う。
羨ましいと思っているのだろう。
「あいつは俺の事を分かっているから大丈夫だよ」
「それならいいけど、気を付けろよ。彼女に目をつけている男の先輩がいるみたいだからな」
「俺には関係ないだろう?」
「でもさ、その先輩のいい噂なんて、聞いたことがないからさ」
「なんとなく気にしとく」
「本当、お前って最低だな」
親友は呆れた顔で言った。
だいたい彼女が、そんな変な男に引っ掛かるかよ。
彼女はそんなにバカじゃないんだよ。
そう思っていたのに、彼女はそのいい噂のない先輩と一緒にいた。
おいっ!
騙されているぞ、なんて俺は言わないからな。
だって学校を遅刻したあの日から俺は、毎日学校に遅刻してんだからな。
彼女は嬉しそうに笑っている。
俺は先生に毎日怒られて、頭がおかしくなりそうなのに。
何かムカつく。
それにあの日から、ケンカしたまま彼女とは一言も話をしていない。
彼女はそんなに怒っていたのか?
いいや、違うな。
男と遊ぶのに忙しいだけだよな?
◇◇
ある日の休日。
外は暗くなり、俺は親友の家から自分の家へ帰っていた。
「えっと、その無理です」
「いいじゃん。少しだけだから」
「えっと、怖いんです」
「大丈夫。優しくするから」
ホテル街の入口でカップルがもめている。
女の子が嫌がってるじゃん。
俺はそう思いながら二人の側を通る。
ん?
この香りは、何処かでいつも嗅ぐ香りだ。
香りの方に目を向けると、今にも泣きそうな彼女がいた。
さっきのカップルは彼女と、いい噂のない先輩だった。
何してんだよ。
嫌がるならこんな所に来るなよな。
しかし、この男はムカつくな。
俺の彼女を泣かそうとしてんのか?
泣かせていいのは俺だけなんだよ。
「何してんだよ。いくぞ!」
俺は彼女の手を取ってホテル街から離れる。
「嫌!」
彼女は俺の手を振りほどき立ち止まる。
「何? 先輩の所に戻りたい訳?」
俺が彼女を引っ張ってホテル街から離れた時、先輩は追いかけてはこなかった。
彼女はそんな先輩の所に戻りたいのか?
彼女はうつむいたまま何も言わない。
「何? あの嫌がっていたのって演技なのかよ? それなら俺はお邪魔虫だった訳?」
俺の言葉に反応をして顔を上げた彼女は、俺の頬にビンタをした。
「いったぁ」
「本当あなたは最低よ。どうして分からないの?」
彼女は泣きながら俺に言った。
ビンタをされた俺は、彼女にイラッとしていた。
「それで何でビンタをするんだよ? 君が悪いんだろう? あんないい噂のない先輩なんかと付き合うから」
「あなたのせいよ」
「はあ? 何で俺のせいなんだよ」
「いつまでも変わらないあなたが悪いのよ」
「ちょっと待て。ここで話すのはやめよう。人が見ているからさ」
「うん」
ちょっとここは休戦して家へ帰る。
俺は彼女の手を引いて前を歩く。
彼女はうつむいたまま歩く。
二人で一緒に歩いて、一言も話さないのは初めてだ。
俺の家に着いて彼女と二人で俺の部屋に入る。
彼女はうつむいたまま立っている。
「ほらっ、いつもの場所に行きなよ」
彼女は小さくうなずいて俺のベッドに座った。
そして猫のクッションを抱き締めた。
俺はベッドを背もたれにしてベッドの下に座る。
「えっとそれで何を話していたかな?」
「あなたが悪いって所」
「そうだったな。それで? 何で俺が悪い訳?」
「遅刻ばっかりするからよ」
「俺が遅刻をしないことなんてあったか?」
「ない」
「それなら仕方ないのは分かるだろう?」
「分からない」
彼女は首を振りながら言った。
「何が分からないんだよ?」
「だって、私が起こせばちゃんと起きるじゃん。それなのに、私が起こさなかったら遅刻するのは何故なの?」
「それは、君が起こしてくれるからに決まってるじゃん」
「でもね目覚まし時計でも、携帯電話で私がモーニングコールをしても、あなたは起きないのよ? どうして私が直接起こした時にだけ起きるの?」
「何でだ?」
自分でもよく分からない。
「あなたはちゃんと起きられるのよ。私に甘えているだけよ。それなら私がいない方がいいでしょう?」
「それであの先輩と付き合ってる訳?」
「先輩とは付き合っていないよ」
「えっ」
「先輩が私に話しかけてくるだけだよ」
「えっ付き合っていないのに、ホテル街に行こうとした訳?」
「先輩に呼び出されて行ったら、あんなことになっちゃって」
「もう、先輩と話すのは禁止だからな」
「何であなたが決めるのよ?」
「俺が嫌だからだよ」
「勝手ね」
彼女はそう言った後、泣き出した。
俺が彼女の方を向くと、猫のクッションで顔を隠していた。
「そんなに先輩のことが好きな訳?」
「ちが……うよ。怖かった……の」
彼女は泣きながら言った。
その言葉を聞いた俺は、彼女を抱き締めていた。
俺は何で気付かなかったんだよ。
怖いに決まってる。
女の子が男の力に勝てる訳もなく、もしあいつに引っ張られていたら、彼女は負けていたと思う。
あの時、俺が通らなかったら、彼女はどうなっていたのか。
彼女は震えながら泣いている。
どうしたら彼女は安心するんだろう?
どんな言葉をかければ彼女は泣き止むのだろう?
「俺が君の側にずっといるから。もう、怖い思いはさせないから安心して」
彼女は小さくうなずいてくれた。
俺の言葉で涙が止まったのかは分からない。
だって彼女は猫のクッションで顔を隠していたから。
◇◇◇
「ほらっ、起きてよ。朝だよ」
昨日の泣いていた彼女は、何処に行ったのだろう?
朝から元気だ。
そんなに元気なら、ちょっとだけイタズラしてやろう。
「君が、俺と一緒に少しだけ寝てくれたら起きるよ」
彼女は絶対に困っている。
そう思って目を開けようとしたら、彼女が俺のベッドの中に入ってきた。
「少しだけだよ」
えっ。
入ってこないと思っていたのに。
俺は一瞬で目が覚めた。
そしてすぐにベッドから飛び出る。
「もう、起きたから」
「知ってるよ。私の勝ちね」
彼女はクスクスと笑いながら言った。
彼女も俺にイタズラをしたのか?
悔しい。
次は絶対に勝ってやる。
◇◇◇◇
「おはよう。今日も私より先に起きたの?」
「うん」
そして俺は彼女にキスをする。
俺と彼女は結婚をした。
すると俺は、遅刻なんてすることはなくなった。
それは彼女のお陰だ。
彼女が俺の隣で寝ているからなんだ。
いつも目が覚めるのは、朝の七時頃だ。
いつもの彼女の香りがすると、俺の頭は起きろと命令する。
そして、隣で寝ている彼女の寝顔を見ていると、彼女が目を覚ましておはようと言ってキスをする。
それが俺と彼女の日課だ。
俺の体内時計と俺の嗅覚は、すごいと思わないか?
彼女の顔を見たい。
彼女の声を聞きたい。
彼女に触れたい。
その想いが、俺の頭に命令をさせて、彼女より先に起きるのかもしれない。
俺は今日も誰よりも先に彼女の顔を見るんだ。
愛しい人の顔を。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
楽しく読んで頂けたら幸いです。
次のお話は、主人公の部下は完璧で可愛いけれど、そんな完璧な彼女が心配になった彼の物語。
彼女に大丈夫なのか聞いたら、彼女にゲームをしないかと提案さた。
そのゲームは彼にとっては、負けても嬉しい罰ゲームつきだった。




