【四十人目】 願いは一つだけ。叶えてくれ俺の女神様
彼女を何かに例えるなら。
それは美しい女神様だ。
彼女は俺に優しく笑いかけるんだ。
彼女は俺に優しく接してくれるんだ。
彼女はこんな目立たない俺に、人間として対応してくれるんだ。
だから彼女は俺にとって女神様だ。
あっ、今日も女神様は俺に向かって、笑顔で手を振っている。
そんな女神様は美少女だ。
どうか美少女で女神様の彼女が、いつまでも俺に、優しく笑いかけてくれますように。
「何を拝んでいるの?」
女神様は俺を見て笑っている。
俺は女神様に向かって、手を重ね拝んでいた。
「君は女神様だからだよ」
「また何かのキャラクターを私に重ねているの?」
「そうだよ。今回は、俺が気に入っているゲームの、大人しい人見知りの女の子だよ」
「彼女はあなたとはどんな関係なの?」
「友達からいつかは、恋人になる予定の女の子だよ」
「その女の子とデートはするの?」
「するよ。デートで親密度を上げるんだ」
「そんなことをしなくても、現実は私と仲良くなっているのに。どうしてゲームの中で女の子と仲良くするの?」
女神様は少し拗ねたように言った。
「君は女神様だから、俺の相手をしてくれるけど、他のクラスメイトの女子達は、俺のことなんて無視だからね」
「それはあなたの事を知らないからよ」
「俺はそれでいいよ。ゲームの中で女の子とデートしている方が、俺の好みの女の子だし楽しいからね」
「ゲームの中の女の子にはこんな風に触れられないのに?」
女神様はそう言って、俺の制服の袖を引っ張った。
「それは俺に触れてる訳じゃなくて、俺の制服に触れてるだけじゃん」
「そっ、そうね」
女神様は顔を赤くして、俺の制服の袖から手を離した。
◇
さあ、今からゲームの中の彼女とデートだ。
今日は遊園地でデートみたいだ。
最後に観覧車に乗った。
彼女に手を繋ぎたいと言われたから、選択肢でいいよを選んだ。
彼女は嬉しそうに笑っている。
俺は今日の女神様の行動を思い出した。
画面の彼女と手を繋いでいるより、女神様が袖を引っ張った時の方が、何故かドキドキすると思ってしまった。
すると画面の中の彼女が、顔を赤くして拗ねるように言った。
『あなたは私以外の女の子とも、こんなことをするんでしょう? 私はあなたを好きなのに、あなたは違うんでしょう?』
俺がしているゲームは、色んな女の子の中から好きな子を最後に選ぶゲーム。
俺はこの女の子とはまだ親密度は低い。
しかし、女の子の言葉は女神様を思い出させた。
女神様が俺の袖を引っ張るあの場面を。
ドキドキしたあの場面を。
画面の中の彼女の顔を見て俺は、画面の中の彼女じゃなくて、女神様の気持ちを知りたくなった。
どんな想いで俺の袖を引っ張ったのか?
何を伝えたかったのか?
◇◇
「今から会える?」
俺は女神様に会いたくて、電話をした。
女神様は驚いていた。
俺が女神様に、近くの公園で会おうと言うと、女神様は今から行くよと言ってくれた。
俺はドキドキしながら公園へ向かう。
こんな気持ちは初めてだ。
緊張して、それでも女神様に会えることに心がワクワクして、不思議な感覚だ。
俺は先に公園に着いた。
あっ、女神様が笑顔で向こうから走って来る。
走らなくても俺は逃げないのに、と思いながら女神様が目の前に来るのを待った。
「ごめんね。待たせたかな?」
女神様は心配そうに俺に言った。
「大丈夫だよ。ところで、どうして走って来たの?」
「だってあなたに会いたくて」
「ねえ、どうして君は俺に優しいの?」
「えっ」
「どうして君は俺に笑顔で話しかけてくれるの?」
「えっと」
「どうして君は女神様なの?」
俺は女神様を見つめ言った。
「女神様は、あなたのゲームの中の、女の子のキャラでしょう?」
「違うよ。君は俺にとって女神様なんだ」
「それは私が、あなたのゲームの中にいる女神様ってことなの? あなたはそうやって、いつもゲームの中に逃げるのよ」
女神様は悲しそうな顔をして言った。
画面の中の彼女達はこんな顔をしない。
だって俺は、画面の中の彼女達の、喜ぶ選択肢をちゃんと知っているから。
でも女神様は違う。
どうすれば女神様が喜ぶのかなんて、俺は知らない。
だから女神様がしたかったことを、俺はするんだ。
それなら分かるから。
「えっ」
女神様は驚いている。
でもそれは、当たり前だと思う。
だって俺は女神様の手を握ったから。
女神様がしたかったのは、俺の袖に触れることじゃなくて、俺の手に触れること。
「俺は君としか仲良くならないよ」
「現実ではでしょう? ゲームの中の女の子とは仲良くなるでしょう?」
女神様は、また拗ねたように言った。
観覧車の中で見た、画面の中の彼女と似たような顔だ。
「ゲームの中に逃げることは、もうしないよ。だから俺は君だけだよ」
「えっ」
「君は俺だけじゃないの?」
「私はずっとあなただけが好きだよ」
「どうしてこんな俺が好きなの?」
「それはあなたが、泣いているクラスメイトの女子に、ハンカチを渡して、ハンカチは捨ててもらっていいからって言っていたのを見て、好きになったの」
「何それ? 君みたいな女神様なら、もっと運命を感じるような理由じゃないの?」
「その後の話があるの」
女神様はニコニコしながら言った。
「えっその後のことを知っているの?」
「その後すぐに女の子は、あなたのハンカチをゴミ箱に捨てたのよね? あなたの前では捨てなかったけどね」
「そう。ハンカチを捨てられた俺が、可哀想な話なだけじゃん」
「そんなことはないわ。だってその後あなたは言ったの。良かった、涙が止まってってね」
「えっ聞こえていたんだ?」
「うん。ちゃんと聞こえていたよ。あなたは微笑んでいたの。その顔を見て私は、あなたを好きになったんだよ」
女神様はあの時のことを思い出しているのか、微笑んでいる。
「君はやっぱり俺の女神様だ」
「それなら女神様からあなたへお願いがあるの」
「なんでしょうか?」
俺はふざけながら、女神様の前で片膝を地面につけ、女神様を見上げた。
「あなたは優しい人よ。だから明日から学校では、みんなにあなたのことを、知ってもらえる努力をしてくれるかしら?」
女神様は自分で想像し、女神様を演じてくれる。
「はい。それでは、次は俺から君にお願いをするよ」
俺は立ち上がり女神様を見つめる。
「どうしたの?」
俺が立ち上がったことにより女神様は俺を見上げる。
今度は俺が上から女神様に言う。
「願いは一つだけ。俺にずっと優しく笑いかけてくれないかな?」
女神様は俺の言葉に驚いている。
そしてその顔はすぐに笑顔になった。
「一生ならいいよ」
「女神様。君の笑顔は一生、俺のモノ」
「私はあなただけの女神様よ」
女神様はそう言って眩しい笑顔を見せてくれた。
俺の女神様。
俺の願いは一つだけ。
どうかいつまでも優しく笑っていてください。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。感謝です。
次のお話は、婚約破棄をされた主人公の彼は、何故かワンピースを泥だらけにした可愛い彼女と出会う。
彼女には何故か全てを話したくなる、そんな雰囲気があった。




