【二十九人目】 好きになったのは悪役令嬢のようなワガママ社長令嬢
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俺の学校には悪役令嬢がいる。
彼女がそう言われる理由は、彼女のワガママっぷりが凄いからだ。
彼女は欲しい物は全て手に入れている。
どんな力を使ってもだ。
親の力を使い、自分の社長令嬢という肩書きを使い、お金をたくさん使い、全てを手に入れていた。
そんな彼女の性格も最悪だ。
自己中心的で、クラスメイト達を見下したように話す。
彼女は嫌われ者だ。
しかし、そんな彼女に歯向かう者はいない。
彼女に嫌われ何かされたら怖いからだ。
俺は好きか嫌いかと聞かれたら、どちらでもないと答える。
彼女に興味などないんだ。
俺は一人でいられるならそれでいい。
そんな彼女には最近、欲しくてたまらないモノがあるようだ。
彼女の親や彼女の肩書き、お金を使っても手に入らないモノ。
それは、、、。
◇
【言いたいことを言えばいいじゃん。心に箱を作るのはやめようよ】
俺は屋上で一人、唄を歌う。
それが俺の一日の楽しみだった。
『ガチャ』
いきなり屋上のドアが開く。
誰もくるはずのない屋上に誰かが来たんだ。
俺は屋上に出てきた相手を見た。
「ねぇ、さっきの唄って私の好きな歌手の唄でしょう? あなたも好きなの?」
屋上に出てきたのは、あの悪役令嬢のような社長令嬢の彼女だった。
彼女の好きな歌手とは、謎が多く、顔も年齢も分からない、最近人気の歌手だ。
彼女は、俺が携帯電話から唄を流していると思っているようだ。
「はい。好きです」
「でも、いつもの声と違ったの。何か悲しそうな声だったよ?」
「彼も人間なので毎回、同じようには歌えないですよ」
「そうなのかな? もう一度さっきの唄を流してよ。どこが違うのか確認をしたいの」
彼女にそう言われて、俺は困る。
だって、俺が彼女の前で歌ってしまったら、俺が彼女の好きな歌手だってバレてしまう。
「えっと、あの。今度、聴かせますね」
「今度? 今がいいの」
「明日、必ず聴かせますから。今日は時間がないので」
「ダメ。私は今、聴きたいの。私には時間はたくさんあるわ」
彼女のワガママがでてきた。
仕方ない。
【言いたいことを言えばいいじゃん。心に箱を作るのはやめようよ。心に箱を作るくらいなら俺に言ってよ。助けてって】
彼女は俺の唄を聴いて泣いていた。
彼女の涙を見たら、何故か彼女が震えているように見えて、体が勝手に動いて彼女を抱き締めていた。
彼女の体はビクッとなって力が入ったが、俺の腕を振り払うことはしなかった。
彼女を抱き締めていると、彼女が俺を見上げた。
そんな彼女の可愛い上目遣いを見て、俺は惚れた後、気付く。
ヤバイ。
彼女の機嫌が悪かったら俺は地獄行きだ。
すぐに彼女から離れる。
「すっすみません」
「どうして謝るの?」
「えっ勝手に触れたりしたので」
「怒っていないわよ?」
「それは良かったです」
うん。
良かった。
それじゃあ俺は教室に戻ろう。
「それでは俺は教室に戻りますね」
「何を言っているの?」
「えっ」
「さっきの唄は何? 誰の唄なの?」
「さっきの唄は、最近人気の謎が多い歌手の唄ですよ?」
「違うわよ」
「えっ」
「助けてなんて歌詞はないわよ」
「えっ」
俺、助けてなんて歌詞を言ったのかな?
唄を発表する前の日まで助けてと好きだよの歌詞を迷っていたんだ。
その迷っていた歌詞で、選ばなかった助けてを歌ってしまったようだ。
「ねぇ、あなたは誰なの?」
「えっと、普通の高校生です」
「違うわよ。あなたの唄は彼と同じ。私の心を軽くしてくれるの」
「彼?」
「そうよ。私が欲しくても手に入らない、私の好きな歌手よ」
「俺はその歌手とは何も関係はないですよ?」
「それは良かった」
彼女はホッとした顔をしている。
「えっ」
「だってもし、あなたがあの歌手だったら、私には手に入らなかったからね」
「えっと、どういう意味でしょうか?」
「私はあなたが欲しいの。あなたはあの歌手ではないのでしょう? それなら、あなたは私のモノになってくれるわよね?」
彼女は俺が拒否なんてしないと思っているのか、自信満々な顔をして俺に言った。
「俺は誰のモノにもならないですよ?」
「何それ?」
「俺は一人が好きなので」
「私を誰だと思っているの?」
「お金で俺を買いますか?」
「なっ、何でそうなるの?」
「今まではそうしていたんですよね?」
「あなたは違うわ。あなたをお金では買わないわ」
彼女がいつもと違って見える。
いつもの自信満々の彼女は何処にもいなかった。
「それならどうやって俺を手に入れるんですか?」
「私にとってあなたがどんなに大切か伝えるわ」
「伝える?」
「そうよ。あなたの唄が、私の心にどれだけ影響を与えているのか伝えるよ。さっきも伝えたでしょう?」
「さっき?」
「さっき、あなたの唄を聴いて泣いちゃったでしょう?」
「涙を流すほどの影響を与えたってことですか?」
「そう。あなたは私の重い心を軽くしてくれるの」
「どうして心が重くなっているんですか?」
「私はずっと一人よ。本当は一人は嫌なのに、誰も私の気持ちなんて知らないから、、」
一人が嫌?
彼女の周りには、いつも誰かがいるのに一人?
「いつも周りに誰かいますよね?」
「いるけどいないのと同じなの。誰も私のことなんて見ていないの。みんなお金が目当てなのよ」
「それが分かっていて、どうしてみんなを追い払わないんですか?」
「できないからよ。私にはそんなことができなかったの。追い払ったら本当に私は一人になっちゃうから」
「ちゃんと、みんなと同じように悩んで迷いながら、一生懸命に生きている女子高生なんですね。可愛い」
俺の言った可愛いの言葉に、彼女は顔を赤くして照れている。
可愛いなんていつも言われていると思うんだけどな?
何で照れる訳?
でも、照れている顔も可愛い。
「そんな表情もするんですね?」
「えっ」
「自分で分かっていないんですか?」
「分からないよ。今までは本当の感情なんて顔に出さないようにしていたの。今は怒っている顔にして、今は自信満々の顔をするのよと、考えながら表情をつくっていたの」
「今は何も考えていないんですか?」
「うん。自然と出てしまうみたいね」
「色んな表情をすれば、周りの態度も変わるかもしれませんね」
「そうね。やってみるわ」
彼女はそう言って屋上のドアの方へ歩いていく。
「あっそうだった」
彼女はそう言って俺の方へ振り返る。
「私のモノになってくれるの?」
「えっ」
「まだよね? それじゃあ、また明日ここで会おうよ」
「いいですよ。ここには毎日、来ているので」
「決まりね。じゃあね」
彼女はそう言って屋上から出ていった。
明日、彼女に会ったら、少しは変わっているのかな?
一日じゃ変わらないかな?
◇◇
「ねぇ、聞いた? 社長令嬢ったら、一緒にいつもいる子達に、いらないって言ったみたいよ?」
「本当? 本格的に悪役令嬢になっているわね」
俺のクラスメイト達が、話をしているのが聞こえた。
彼女の今までの行いのせいだな。
仕方ない。
彼女は必ず落ち込んでいるはず。
俺は屋上へと向かった。
案の定、先客がいた。
「どうしたんですか?」
「ねぇ、唄を聴かせてよ」
「いいですけど、あの言葉はどちらがいいですか?」
「昨日と同じでいいわ」
あの言葉って言っただけで、何を言いたいのか分かる俺達って何?
俺じゃなくて彼女が凄いんだ。
【言いたいことを言えばいいじゃん。心の箱に入れるのはやめようよ。心の箱に入れるくらいなら俺に言ってよ。助けてって】
俺が歌い終わっても、彼女はフェンス越しから空を見ていた。
「せっかく、伝えたのに、、、」
「うん。それでいいんですよ」
「何がいいの? 私は一人になっちゃったんだよ?」
「俺がいますよ」
「えっ」
「俺が君の側にいます。だから俺に言ってよ」
「助けて」
「うん。良くできました」
彼女は振り返り、泣きそうな顔で俺に助けを求めたから、俺は彼女の頭をヨシヨシと撫でた。
「どうやって助けてくれるの?」
彼女は俺に頭を撫でられながら、少し上を向いて俺に言った。
「そうだね。行こうか?」
「えっ、何処に?」
「おいで」
俺が彼女の前に手を差し出すと、彼女は俺の手を握った。
そして俺達はある場所まで行く。
その途中、色んな生徒とすれ違い、俺達を見て驚いていた。
「放送室?」
「そう。鍵を閉めて、誰も入れないようにしてくれるかな?」
「ねぇ、何をするの?」
「君はそこにいてね」
「うん」
そして俺はマイクの前に座る。
「全校生徒の皆さん。俺は今から大切な人の為に歌います。唄を聴いて少し考えて下さい。そして言いたいことを言って下さい」
そして俺は彼女を見て歌う。
【言いたいことを言えばいいじゃん。心の箱に入れるのはやめようよ。心の箱に入れるくらいなら俺に言ってよ】
「やめて」
彼女は俺がサビを歌っている途中でそう言った。
だから唄が止まる。
「大丈夫だから最後まで聴いてよ」
「でも、あの言葉は言って欲しくないのよ」
「大丈夫だよ」
彼女は頷く。
そして俺はサビから歌う。
【言いたいことを言えばいいじゃん。心の箱に入れるのはやめようよ。心の箱に入れるくらいなら俺に言ってよ。好きだよって】
そして最後の部分を歌う。
問いかける部分を。
【箱はなくなった? 箱は作らなくなった? 君の箱がなくなるまで俺は言うよ何度でも。俺に言ってよって、、、】
歌い終わると、俺は全校生徒に言いたいことを言う。
「彼女は悪役令嬢でもないし、社長令嬢でもない。彼女は皆さんと同じでただの高校生です。そして俺もただの高校生です。どうか言いたいことは言って下さい。必ず誰かが受け止めてくれますよ」
そして俺達は放送室を出る。
さっき来た道を手を繋いで戻る。
俺達を見ている生徒達。
俺を見ている人の方が多いような気がする。
俺達は屋上へと戻ってきた。
「俺は君のモノになるよ」
「えっ、いいの?」
俺達は向き合って話す。
「君の好きな歌手じゃないけどね」
「まだ嘘をつくつもりなの?」
「えっ」
「私は最初から、あなたはあの歌手だって気付いていたわよ?」
「それなら言ってよ」
「だって私には、箱があったから言えなかったの」
「うまく、逃げたね」
「逃げてないよ。ちゃんと言えるもん」
彼女は頬を膨らませて拗ねている。
可愛い彼女にちょっとイタズラをしよう。
「それなら言ってよ」
「えっそれは、その、、、」
彼女は顔を真っ赤にして照れている。
【俺に言ってよ】
【好きだよって】
俺が歌うと、続きを彼女が歌った。
そして二人で笑った。
「唄にすると、こんなに簡単に言いたいことが言えるのね?」
「唄ってすごいんだ。歌っている俺が一番分かるんだ。泣いている子供が泣き止んだり、怒ってる人が怒りを忘れて笑っていたり、女の子が好きな人に告白する為に勇気を出せたりするんだ」
「すごいね」
「そして俺に、一人でいることが嫌だったことを気付かせてくれたりね」
「そうね。一人は寂しいからね」
「俺は君がいないとダメみたいなんだ」
「えっ」
「俺の隣にずっといてくれるかな?」
「うん。あなたの隣であなたの唄を、ずっと聴いていたいよ」
「これから俺は、君の為に歌い続けるんだと思う」
俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑って言ったんだ。
「あなたのその言葉を唄にしたら、あなたの唄を今よりもっと沢山の人が、好きになるかもね。でも、私が一番好きになると思うわ。だって私の為でしょう?」
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、いきなり婚約者ができたと親に言われた主人公の物語。
嫌だなんて言えないし、逃げることもできない。
ただ一度だけ逃げようとしたら、そこには彼と同じで、自分の運命から逃げてきた可愛い彼女がいた。




