【二十五人目】 「結婚?」平凡な俺が社長令嬢の婚約者に選ばれた!
「お客さん。お金を入れて下さい」
「えっと、お金を持っていないんです」
俺はバスから降りようと男の人の後ろに並んだ。
それなのにその男の人はお金が無いと言う。
お金が無いのにバスに乗るってどんな大人だよ。
高校生の俺でもお金が無かったら、バスなんて乗らない。
俺の後ろに人の列ができる。
「おじさん。お金が無いなら俺が払うから、早くしてくれない? 後ろ詰まってるから」
「あっ、でも。お金は無いんだけど、、、」
「お金がないのは分かったから。いくら?」
「えっと、それがいくらかも分からなくて」
「はあ? 運転手さんいくらか分かりますか?」
俺は運転手さんに聞く。
「二百十円です」
「おじさんは早く降りてよ。俺が一緒に払うから」
そしておじさんは、申し訳なさそうにしながら降りていった。
俺はすぐにお金を払ってバスを降りた。
俺が降りるとぞろぞろと人が降りてきた。
どれだけ人が並んでいたのだろう?
俺はおじさんを睨んだ。
「おじさん。お金が無かったらバスに乗らないのは、小学生でも分かるよ」
「あっ、ごめんなさい」
おじさんは俺に頭を下げる。
「家はこの辺なの? もう、お金は使わないの?」
「あっ、えっと。ここからすぐだから歩いて帰れるよ」
「それならお金はいらないね。まさか、家が無いとか言わないよね?」
「それは大丈夫だよ。立派な家があるからね」
「立派な家なんだね。それは良かった」
「お金はお返しするから、連絡先を教えて頂けないかな?」
おじさんはメモとペンを取り出す。
「あのくらいの金額は返さなくてもいいよ。おじさんが家にちゃんと帰れるならそれでいいよ」
「君はどうしてそんなに親切なんだい?」
「俺より可哀想なおじさんだったから」
「えっ」
「今日、俺は良いことなんてない一日だったのに、それを越えるおじさんが現れたからね」
「僕はそんなに可哀想だったかい?」
「うん。俺の後ろから罵声がすごかったよ」
「あれにはちょっと傷ついたよ」
おじさんは苦笑いをしていた。
「気にすることないよ」
「ありがとう」
そしておじさんと別れ俺は、家へ帰った。
その日からおじさんに会うことはなかった。
お金を持っていないのだから、バスにも乗らないのだろう。
◇
ある日の放課後。
俺はある人に校舎裏へ呼び出された。
俺はその相手に会うために校舎裏へ行く。
相手はもう来ていた。
「ごめんなさい。遅れました」
「謝らないでよ。あなたは何も悪くないわよ」
俺はその相手に頭を下げて謝る。
何故その相手にそこまでするのか。
彼女は社長令嬢の大金持ちだ。
彼女の機嫌を悪くさせると、何をされるか分からない。
「あっ、でも。君みたいな人を待たせるなんて誰かに見られていたら、何を言われるか分からないですし」
「誰も見ていないわよ。だからここを選んだの」
「そうなんですね。ところで話とは?」
「話が長くなりそうだから簡単に言うと、私とあなたは結婚しなくちゃいけなくなったの」
「結婚?」
「そう。私のお父さんがあなたを婚約者にするって言っていたから、あなたは結婚しないって言ってほしいの」
「はい。分かりました」
「えっ、返事が早いわね?」
彼女は驚きながら言った。
「あなたが結婚したくないのであれば、俺は結婚しません」
「私が結婚したいって言ったらどうするの?」
「あなたがそう言うのであれば結婚します」
「あなたの気持ちはどうなるの?」
「仕方ないですよ」
「私が怖いの?」
「えっと、それは、、、」
彼女は悲しそうな顔をしてうつむいた。
あれ?
彼女は噂とは違う人なのかもしれない。
「俺は君をよく知らないんだ。だからまずは君を知ってから結婚の話は決めることにするよ」
「えっ」
彼女は驚き、顔を上げた。
「君はどうしたいの?」
「私は、、、結婚する相手は自分で決めたいよ」
「それなら、お互い知ることから始めようよ?」
「そうね」
彼女は可愛い笑顔で笑った。
彼女のあの噂がなければ彼女は美少女だ。
だから彼女の恋人になりたい人はたくさんいるはず。
彼女は社長令嬢と言う肩書きのせいで、身動きがとれないでいるのかもしれない。
自分の好きなように、できないのかもしれない。
◇◇
次の日、彼女が俺のクラスに来た。
彼女が来たことでクラスの空気が変わる。
それに気付いた彼女の顔は悲しそうだ。
今まで彼女の気持ちなんて考えていなかった俺だったら、彼女のこの表情には気付かなかったと思う。
「どうしたの?」
俺は彼女に対して友達に話しかけるように話しかけた。
クラスメイト達は俺を凝視する。
「今日のお昼休みに少し話をしたくて」
「うん。分かったよ」
「それだけだから」
彼女は言い終わるとすぐに教室を出ようとした。
「待って」
「えっ」
「これ、あげる」
俺は彼女に向けて飴を投げた。
彼女はしっかり受け取る。
「飴?」
「女の子は飴、好きでしょう?」
「うん」
彼女はそう言って笑った。
彼女は本当に嬉しそうに笑った。
彼女の笑顔で教室の空気が少し和んだ。
◇◇◇
「今日ね、クラスの女の子が消しゴムを落としたから、拾ってあげたの。そしたらありがとうって笑顔で言ってくれたの」
「そうなんだ。良かったね」
俺と彼女は屋上で話をしながら、弁当を食べている。
彼女が俺の教室で笑った日から、彼女を見る周りの目が変わった。
彼女は少しずつ同級生達と仲良くなってきている。
彼女のあの噂を言う人はもう、いない。
「それでね、連絡先交換したの」
「そうなんだ。良かったね」
「ねぇ、ちゃんと聞いているの?」
「聞いてるよ。君に友達ができたんでしょう?」
「そうなの。いいでしょう?」
「うん。良かったね」
彼女は嬉しそうに俺に友達の話をする。
彼女は最初に話をした日から、雰囲気が変わった。
まるで社長令嬢と言う肩書きを忘れて。
「あれ? 黒い車が何台か入って来たよ?」
俺は屋上のフェンス越しに校庭を見て言った。
「えっ」
彼女も校庭を見る。
「お父さんよ」
「何で君の父親が学校に来る訳?」
「もしかして結婚の話かも」
「それなら俺を探しに来たってこと?」
「うん」
「どうしたらいい? 会って結婚しないって言えばいい?」
「ううん。隠れて」
「何で?」
「お父さんには会わせないの。だからここにいて」
彼女はそう言って屋上を出ていった。
何で?
一言、結婚しないって言えば解決じゃん。
でも彼女に言われたからここで隠れていよう。
屋上で黒い車を見ていたら、一台また一台と出ていく。
残り後、一台。
「ごめんね」
彼女が屋上へ戻って来た。
俺は彼女の方を振り向く。
「大丈夫だった?」
「うん。お父さんには帰ってもらったからね」
「何て言ったの?」
「ん? 帰ってって言っただけよ」
「それで帰るんだね」
「うん。さあ、もうすぐお昼休みが終わるね」
「そうだね」
「教室に戻ろうか?」
「その前に言っておきたいことがあるんだ」
「ん? 何?」
「俺は君の婚約者になってもいいよ」
「えっ」
彼女は屋上から出ようと俺に背を向けていたが、俺の方を振り向いた。
「まだまだ君のことは知らないけれど、俺は君の隣にいて思ったんだ」
「何を思ったの?」
「君の笑顔をこれからもずっと、隣で見ていたいって」
「えっ」
「君は俺が婚約者になるのは嫌みたいだから、君が俺を好きになってくれるまで隣にいてもいいかな? 好きになることなんてないなら今、言ってほしい」
「何を言ってるの?」
彼女は怒りながら言った。
「怒る程、俺のことが嫌い?」
「だから何を言ってるの?」
「えっ、だから怒るってことは嫌いだからでしょう?」
「違うわよ。嫌いじゃないわよ」
「じゃあ、何で怒ってんの?」
「あなたが分かっていないからよ」
「分かっていない?」
「今まで一緒にいて気付かなかったの? 私があなたには何でも話をしていたのを」
「ん? そうなの?」
「もう、バカ」
彼女は俺の胸に飛び込んできた。
「おっと」
俺はバランスを崩しそうになりながら彼女を受け止める。
「私はあなたの婚約者になりたいけど、お父さんが決めてほしくなかったの」
「えっ」
「私達がちゃんと決めたかったの。二人で決めたかったの」
「えっと、それはどういうことなのかな?」
「本当にあなたはバカなの?」
「だって君から聞きたい言葉を聞いていないからね」
「えっ」
「俺は君のことが好きだよ。君は?」
「あなたのことが大好きよ」
彼女は俺を見上げて笑顔で言った。
可愛い彼女にキスをしたくなった。
俺達は見つめ合う。
俺は顔を近づける。
もう少しでキスができる。
彼女は目を閉じている。
「それなら話は早いじゃないか」
屋上の出入口から人が現れた。
俺はその人を見て驚いた。
「おじさん? 何でここに?」
「おじさん? この人は私のお父さんよ」
「えっ」
彼女の言葉に俺は固まってしまった。
彼女のお父さんをおじさんと呼び、それも大事な娘にキスをしようとしているんだ。
冷や汗が出る。
「お父さん。帰ったんじゃないの?」
「娘の好きな人を見たかったんだよ」
「もう少し待っててって言ったじゃない」
「待てなかったんだよ」
「もう」
彼女は頬を膨らまして怒っている。
そんな彼女も可愛い。
「それで、僕の決めた婚約者は、娘の婚約者になるのかい?」
「それは、、、」
俺は彼女を見つめる。
彼女も俺を見つめる。
「お父さんの決めた娘さんとは結婚しません」
俺は彼女のお父さんを見て言った。
「おっ、どうして?」
「俺は、俺達は自分で決めた相手と結婚します」
そして俺は彼女を見る。
「俺は君と結婚がしたいんだ」
「うん。私もあなたと結婚がしたいよ」
彼女は嬉しそうに笑って言った。
それを見ていた彼女のお父さんは、微笑んでいた。
「ねぇ、お父さん」
彼女はお父さんを見る。
「なんだい?」
「お父さんにとって、あの日の二百十円をくれた人ってどんな人だったの?」
「お父さんの大事なモノも預けることができる程の、親切な青年だよ」
「優しくて、思いやりがあって、誰よりもお父さんの大事な私を、大事に大切にしてくれる人でしょう?」
彼女は俺に向かって言った。
「二百十円で君が俺のモノになるなんて、俺ってラッキーだな」
「二百十円をバカにしないでよ」
「してないよ。あの日の二百十円は、俺にとってどんなモノにも代えられないほどの価値なんだから」
「二百十円から始まった恋ね」
「二百十円の恋」
「それは本当に恋が二百十円の価値みたいじゃない?」
「そうだね」
俺達はそう言って笑った。
これから先も笑顔の絶えない日々を過ごしたい。
彼女の隣で。
◇◇◇◇
最後に何故、彼女のお父さんがバスに乗ってお金が無かったのかを話そう。
「社長。車の故障で動きません」
「そう。それならバスに乗って帰るよ」
「バスの乗り方はお分かりですか?」
「ん? 側面についてるドアから乗ればいいんだろう?」
「そうですが、、、」
「あっ、バスが来たから乗るよ」
「えっ、社長。お金、、、」
そしてお金が無いのにバスに乗ったと、運転手さんが教えてくれた。
あの時、財布は持っていたけど、カードしかなくて払えなかったみたいだ。
その後の俺達の話も少しだけしよう。
「お父さん。これは何?」
「ん? 可愛い娘の為に、クマさんのぬいぐるみを買って来たよ」
「お父さん。私はもう大人よ?」
「父親の娘はいつまでも子供なんだよ。君は分かるだろう?」
彼女とお父さんが言い合いをしているのを俺が見ていると、お父さんが俺に助けを求めてきた。
「俺が父親になった時は、お父さんと同じだと思います」
「えっ」
「えっ」
親子が一緒に驚いた。
「もう、子供の話かい?」
「ちょっとお父さんは黙ってて」
彼女は俺に近づく。
「あなたは父親になりたいの?」
「それはいつかは、なれたらいいなと思ってるよ」
「それなら早く結婚しなきゃ」
「えっ」
「私、子供が大好きなの。ずっと欲しいって思っていたの」
「ちょっと、待ってよ」
「欲しいの」
「分かったから。それにはまず必要なことがあるでしょう?」
「何?」
俺は近くの机の引き出しから、ある物を出して彼女に見せる。
「俺と結婚して下さい」
「えっ、嘘」
「返事は?」
「喜んで」
彼女はそう言って俺に抱き付いた。
俺は彼女を抱き締めた。
その後、しっかり彼女の左手の薬指に、指輪をはめた。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
ブックマーク登録や評価、感想など執筆の励みになっております。
次のお話は、お見合いをすることになった主人公の物語。
彼女なんていらないし、結婚なんて興味ない。
そんな主人公と出会ったのは二人の可愛い女の子だった。




