【二十一人目】 大きな俺は小さな幼馴染みに勝てません~小さな彼女は小さな体で大きな俺を守る~
俺は昔から気弱な性格で、人に頼まれると断れない人間だ。
だからいつも嫌なことを任される。
今日もみんなが嫌がる、授業準備係を任された。
休み時間に授業の準備をするから、休み時間がなくなる。
それが、みんなの嫌がる理由だ。
「また、嫌な係りになったわね」
幼馴染みの可愛い彼女が、係りが決まった俺に言ってきた。
「うん。みんながしたくないなら俺がすればいいんだよ」
「何でそうなるの? したくないなら、したくないって言わなきゃ!」
「俺は言えないからいいんだよ」
「もう! あなたを見てるとイライラするわ」
「俺は君を見ているとスッキリするよ」
「それは私が言いたいことを言っているからでしょう?」
「そうだね」
「もう! しっかりしてよ。昔とは違って、あなたは大きくなったんだから」
彼女はそう言って俺の背中を優しく叩く。
「それは体だけが大きくなったんだよ」
「見た目は強そうなのに。中身は気弱で見た目詐欺ね」
「見た目詐欺ってなんだよ?」
「だって身長が190センチあるのに、気が弱くて何も言えないのよ? 見た目は巨人なのに中身は小動物みたいに臆病でしょう?」
「仕方ないじゃん。中身は変わらないんだよ。それに君も見た目詐欺じゃん」
「私の何処が見た目詐欺なのよ」
彼女はプンプンと怒りながら言った。
「君は身長が150センチで可愛らしいのに、中身は男のように強くて勇ましいじゃん」
「なっ、何で女の子にそんなことを言うのよ?」
「それなら君も、男に小動物みたいに臆病なんて言わないでほしいよ」
「もう! あなたなんて嫌いよ」
「俺だって嫌いだよ」
そしていつものように彼女とケンカをする。
俺達はこうやって、いつも見た目と中身の違いでケンカをする。
昔は違った。
昔の彼女は俺より少し身長が高く見た目は今と逆だった。
昔の俺達は、大きい者が小さい者を守るのが当たり前だと、その当時は思っていた。
しかし、成長していくと、当たり前が当たり前じゃなくなった。
彼女に守られるということが恥ずかしくなった。
それは俺と彼女の身長の差が大きくなると同時に、恥ずかしさも大きくなった。
そして俺達の心も離れていった。
◇
「さっきは嫌いって言ってごめんね」
彼女が昼休みに、俺に謝ってきた。
彼女が謝るということは、俺は今から彼女にお願いをされるんだ。
「だからお願い。チョココロネを買ってきて」
「またかよ」
「だって大きいあなたの方が買えるんだもん」
「分かったよ」
「やったぁ。ありがとう」
彼女は嬉しそうに笑った。
俺が彼女に、チョココロネをお願いされる理由は、身長の高い俺は、他の人よりも腕が長く、人混みの中でも人気のチョココロネを、簡単にお店で買えるからだ。
「ほら、買ってきたよ」
「ありがとう。私の大好きなチョココロネだ」
彼女は嬉しそうにチョココロネを撫でている。
「はい、最後」
彼女はそう言ってチョココロネの最後の、少しチョコクリームがついた部分を俺に渡してきた。
「ありがとう」
俺はお礼を言って、チョココロネの最後の部分を口に入れる。
俺はチョココロネの最後の部分が好きなんだ。
それを知っている彼女は、その部分を俺に毎回くれる。
彼女は手間賃だと言うが、本当は最後の部分が嫌いなんだと思う。
だって彼女が一度、最後までチョコクリームが入っていなくて、怒っていた時があったからだ。
◇◇
ある日の昼休み。
「お~い。バスケの助っ人に入ってくれ」
俺はクラスの友達に言われた。
まただ。
身長が高いだけで、バスケチームの助っ人に誘われる。
特に上手い訳でもないのに。
「ダメ」
俺がいいよと言いかけたとき、彼女が友達に言った。
「また保護者かよ」
彼女に友達がそう言った。
「保護者じゃないわよ。彼は昨日、助っ人をしたでしょう? だから今日はお休みよ」
「保護者はうるせぇんだよ。小さいくせに」
「小さいは余計よ」
彼女は怒りながら睨んでいた。
俺の保護者とか、小さいとか言われても、彼女は気にしていないようで、すぐに言われたことを忘れる。
「ありがとう」
「チョココロネのお礼よ」
俺がお礼を言うと、彼女はウインクをして言った。
◇◇◇
ある日の放課後。
俺は友達と教室に残って話をしていた。
「しっかし、お前の保護者には困るよ」
「えっ、彼女のこと?」
「そうだよ。なんでも保護者が決めてんじゃん」
「それは俺が悪いんだよ」
「それでもお前にくっつき過ぎだろう?」
「そうか? 幼馴染みだから普通だろう?」
「お前達って付き合ってたりしないよな?」
「付き合ってないよ。俺と彼女は男の友情って感じかな?」
「友情なんだってよ。保護者」
「えっ」
俺は友達が叫んだ方を見た。
そこには傷ついた顔をしている彼女が立っていた。
何でいるんだよ?
彼女の傷つく顔を初めて見たかもしれない。
すると彼女は走って教室を出ていった。
俺は彼女を追いかけた。
「待って」
彼女と俺の歩幅は全然違うから、彼女にすぐに追い付いて彼女の腕を引っ張った。
「きゃっ」
彼女を引っ張り過ぎて、彼女はそのまま後ろ向きに倒れ、俺の腕の中におさまった。
「ごめん。引っ張り過ぎたみたいだね?」
俺がそう言っても、彼女は何も言わず、顔を両手で隠していた。
「何で顔を隠しているの?」
「見られたくないからよ」
「えっ、君の顔はいつも見てるよ?」
「そうね。それなら見飽きてるでしょう? だから見ないで」
「そんな風に隠していると見たくなるんだけど?」
「絶対ダメ」
俺は彼女の手を顔からどける。
彼女の手の力は弱かった。
こんなに弱かったかな?
そして俺は彼女の顔を見て固まってしまった。
「何で泣いているんだよ?」
「悲しいからよ」
「だって君は、どんなに嫌なことを言われても、泣かなかったじゃん」
「私だって泣く時はあるわよ」
「君が泣く姿は嫌な気分になるよ」
「だから見ないでって言ったのよ」
「でも、見てしまったんだから、もう無理だろう?」
彼女の泣く姿ではなく、笑顔を見たい。
彼女の笑顔を見る方法を俺は知っている。
彼女にちょっと待っててと言って俺はある場所へ走る。
ある場所へ行き、用事を済ませて彼女の元へ戻る。
彼女の涙は止まっていたが、まだ涙目だった。
「はいっ、これを君にあげるから、泣かないで」
「チョココロネ?」
「そうだよ。君はチョココロネがあれば笑ってくれるからね」
「もう! 私を子供扱いなんてしないでよね」
彼女はそう言いながら、チョココロネをしっかり受け取っていた。
「これはあなたが、私の気分を変えてくれたことへのご褒美よ」
「俺は知っているんだからな。君がチョココロネの、最後のクリームが入っていない部分が嫌いなことをね」
「私だって知っているのよ。あなたがチョココロネの、最後のクリームが入っていない部分が好きなのをね」
彼女も知っていたようだ。
チョココロネの、最後のクリームが入っていない部分は、ちゃんと必要とされていることを。
俺達は一緒にチョココロネを食べる。
彼女はチョコクリームがたっぷり入った部分を美味しそうに食べる。
「ところで何で隠れて、俺と友達の会話を聞いていたんだよ?」
「だって私は、あなたの保護者じゃないもの」
「うん。それは分かっているよ」
「じゃあ、私はあなたにとってどんな存在なの?」
彼女は俺を見上げ、首をかしげて言った。
彼女のそんな仕草が可愛く見えた。
「俺にとって君の存在は、こんな風にいつまでも、チョココロネを分けあえる二人でいたいと思っているよ」
「そんな答えじゃ分からないわ」
「そんなことを言われても、君は知っているはずだよ?」
「私は知っているの?」
彼女は考えだした。
彼女は知っている。
俺は彼女に言ったから。
俺が小さい者で、彼女が大きい者だった時に。
◇◇◇◇
あれは俺達がまだ幼い頃の話だ。
「またオモチャをとられたの?」
「うん」
幼い彼女が、泣きそうになっている幼い俺に、取り返してくれたオモチャを渡しながら言う。
「今は私があなたを守ってあげるけど、大きくなったらあなたが私を守るのよ?」
「どうして?」
「だってあなたは、大人になれば私より大きくなるからよ」
「僕が君より大きくなるのかな?」
「なるわよ。あなたは男の子なんだからね」
「それなら僕は君を守る王子様になるよ」
「あなたは王子様にはなれないわよ」
「僕はなるよ。だって王子様がお姫様を守るんだよ?」
「それなら約束よ」
幼い彼女が小指を立てて言う。
幼い俺も小指を立ててうんと言う。
そして俺達はゆびきりをして約束をした。
◇◇◇◇◇
「忘れたなら教えてあげるよ」
俺は大きく息を吸って彼女に教えてあげようと、口を開こうとした。
「僕は君の王子様になるからね。そしてお姫様の君をずっと守るからね」
彼女が俺が言う前にニコニコしながら言った。
「覚えていたんだね?」
「うん。今、思い出したよ」
「君はずっと前から、俺のお姫様なんだよ」
「ねぇ、どうしてお姫様を守るの?」
「だってお姫様が好きだからだよ」
「私も王子様が大好きよ。だから守ってね、大きな王子様」
「うん。守るよ小さなお姫様」
そして俺は少し屈んで彼女のほっぺにキスをした。
彼女は顔を真っ赤にして照れていた。
そんな仕草も可愛いお姫様。
俺達は、大きい者が小さい者を守るのが当たり前だと思っていた。
そしてそれは今でも変わらない。
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次のお話は、カードで占うと主人公の彼の大好きな幼馴染みの大切な相手は、彼だとでているのにそれを信じない彼女との物語です。




