【一人目】 年を越してすぐに、幼馴染みが婚約破棄をされたようで俺の所へ逃げて来た
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
俺は一人で年を越した。
おめでとうと言いながら酒を飲む。
一人でも全然、寂しくない。
恋人なんてどのくらい、いないのだろう。
もう、一人に慣れてしまっている。
『ピンポーン』
インターホンが鳴ってほろ酔い気分でドアを開ける。
「久しぶり」
そう言ってキャリーケースを持った女がいた。
俺の幼馴染みだ。
「えっ、何時だと思ってんだよ?」
「何時だろう?」
「何? その荷物は?」
「帰る家がなくなったのよ」
「はぁ?」
「旅行に行って帰ったら私の部屋が解約されてて、家具とか全部なくなってたのよ」
「えっ、誰の仕業だよ?」
「婚約者よ」
「はあ?」
「だから家がないから住む家が決まるまで泊めてよ」
彼女は勝手に家の中へ入ってくる。
「ちょっと待てよ。そんな簡単に話されても俺は君に婚約者がいたのも知らないんだけど?」
「だって言ってないもん」
彼女は当たり前というように俺に言った。
「男と一緒に住んでるのも知らないんだけど?」
「言ってないもん」
「何で何も話してない俺の所に来たんだよ?」
「だって、あなたは昔から私の逃げ場だったでしょう?」
彼女は苦しそうな顔で言った。
彼女が苦しんでいるのは分かった。
でも連絡無しで来るか?
「あの時は、君が傷ついていたから守ったんだよ」
「だから今回も逃げて来たの。だから守ってよ」
彼女の逃げ場は俺の所だ。
学生の頃、彼女が親に怒られて俺の所に逃げて来たあの日から避難所になった。
彼女が恋人と別れた時。
彼女が友達とケンカした時。
彼女のおばあちゃんが亡くなった時。
彼女のペットが亡くなった時も、彼女は俺の所へ逃げてきた。
「部屋は空いているから泊まってもいいけど、ちゃんと婚約者とは話をしろよ」
「うん、ありがとう。ところで、お酒を飲んでるの?」
彼女は家を失ったというのに、落ち込んだ顔をしない。
俺の飲みかけのお酒を見て、欲しそうにしている。
「飲んでるけど?」
「私も飲んでいい?」
「新しい一年が始まったんだ。楽しまないともったいないよな?」
「そうよ」
そして俺達はお酒をたくさん飲んだ。
彼女はこんなにお酒を飲める人だったかな?
俺は気分が良くなると彼女の婚約者の話を聞きたくなった。
「君の婚約者はどんな人?」
「格好良くて、優しくて頼れる人よ」
彼女は思い出の中の元婚約者を思い出しながら言った。
「まだ好きなのか?」
「どうだろう? でも家を失っても彼にイラッとしただけで嫌いじゃないかも。だって五年も一緒にいたのよ?」
「そっか。婚約者には電話はしたのか?」
「したけど電話に出ないの」
「どうして俺の所に逃げて来たんだよ?」
「えっ」
「家を失ったら実家に帰ればいいだろう? 本当は、家を失ったからじゃないんだろう?」
「あなたにはお見通しなのね」
彼女は俺の言葉に驚くこともせず、俺が気付いていることを知っているようだ。
「俺は君と婚約者よりも長く一緒にいたんだよ? 気付かないわけがないだろう?」
「そうよね。でも私は、彼をまだ信じたいの。彼に嫌いになったって言われるまでは家族には言えないのよ」
「帰る家を失った時点で君は捨てられたんだよ」
「ヒドイことを言うのね」
「だって君の今まで愛した人達は、ヒドイ人ばかりだっただろう?」
「そうね」
彼女は男運がない。
一番最初の恋人は、中学生の頃だ。
修学旅行の時に彼女の恋人はバスガイドに恋をした。
次の恋人は彼女の友達が好きで彼女を使ってその友達に近づいたんだ。
そして次の恋人なんて、彼女の愚痴を母親に言っていたマザコン野郎だった。
そいつだけは本当に許せない。
だって彼女と別れ話をする時に母親をつれてきたんだ。
今回の男が一番、許せない。
いつも元気な彼女が落ち込んでいるのが分かるから。
俺は彼女の頬に触れる。
「君は何も悪くないんだ。悪いのは相手だよ。いつもそうだろう?」
「あなたは優しいのに、どうして恋人ができないの?」
「俺、恋人がいないって言ったか?」
「言ってないけど、年越しに一人でいるなんて恋人はいないでしょう?」
「まあ、そうだな」
「最悪な一年の始まりだよ」
彼女は悲しそうに言った。
「そんなふうに思うなよ。君は一人じゃないんだからまだマシだろう?」
「そうね。あなたも私が来なかったら一人だったから私が来て良かったでしょう?」
「俺は一人でも大丈夫だよ」
「私は一人は無理だよ。だから私をここに置いてくれてありがとう」
「俺はいつでも君の逃げ場だからな」
「うん」
それから彼女に俺のベッドを貸して、俺はソファで寝た。
俺は彼女が寝付くまでは起きていようと思った。
しかし、彼女の泣く声が聞こえ彼女の傷ついた心を思うと、寝付いた彼女を確認しても寝れなかった。
静かに彼女に近づいて、指で涙を拭ってあげた。
◇
俺はいい香りがして目を覚ました。
キッチンで彼女が朝ごはんを作っていた。
彼女を見ると少し目が腫れている。
でも、そこは触れないでおこう。
「おはよう」
「おはよう。お雑煮作ってるからできるまで待ってて」
「うん」
雑煮を自分で作ろうと材料は買っていた。
彼女はそれを見つけて作っているんだろう。
しかし、俺のキッチンで俺以外の人が料理を作るのは初めてだ。
そして、親以外の手料理を食べるのも初めてだ。
「できたよ」
彼女はそう言って机に雑煮を置く。
俺の好きな材料だけを彼女は入れていた。
彼女は俺の好みをよく知っている。
好きな女の子のタイプ。
好きな曲。
好きな色。
彼女は今、俺の好きな彼女の仕草をした。
自分の髪の毛を束ね、後ろでポニーテールにするのだが、シュシュを髪の毛に通すのにモタモタする。
この彼女が可愛いんだ。
「ホラッ、やってあげるよ」
俺は彼女からシュシュを受け取り、つけてあげる。
その時の彼女はじっとして動かない。
俺に全てをあずけている。
ほとんど雑煮はできているのに、今ごろ髪を結ぶのは彼女が一人で結べない証拠だ。
俺を待っていたのだろう。
髪の毛から良い香りがして、うなじもセクシーで、そんな彼女を傷つける男にイライラした。
そんなことを思いながら俺はソファに座って雑煮が出来るのを待った。
「うまい!」
「良かった。たくさん作ったからたくさん食べてね」
「こんなにうまいと何杯でもいけるよ」
「もう。褒めすぎ」
彼女は照れて顔を赤くしていた。
「君もちゃんと料理ができるようになったんだね?」
「もしかして家庭科の授業の話を思い出してるの?」
「だって、だし巻き卵を焦がしてただろう?」
「あれは、友達と話をしていて忘れてたのよ」
「友達のせいにするのか?」
「もう! 今が良ければ昔のことなんて忘れてよ」
「忘れないよ。あの思い出も良い思い出だからな」
「私は嫌な思い出よ」
「でもこの雑煮はうまい!」
彼女は嬉しそうに笑って雑煮を食べていた。
俺は雑煮を三杯食べた。
「婚約者に電話しろよ」
「うん」
雑煮を食べ、片付けを終わらせ、二人でソファに座って俺は言った。
彼女は携帯電話を見て固まっていた。
「どうしたんだ?」
「彼から写真が送られてきてるの」
「どんな写真なんだ?」
「見てよ」
そして俺は写真を見て怒りがこみ上げた。
その写真は男と女が仲良く手を繋いで映っている。
そしてその写真の下に言葉が書いてある。
『君は俺を一人にし過ぎたんだ。だからごめん。君との思い出の物を全て捨てて彼女と幸せになるよ』
この言葉を読んで彼女はどんな表情をしているのか気になって彼女を見た。
彼女は泣いていた。
俺は怒りしかわかない。
彼女の思い出を全て捨てて?
彼女の家具や、彼女の家まで解約して、勝手過ぎだ。
彼女がそんな男のせいで泣いている。
「泣くな! あんな奴のせいで泣くな!」
俺は彼女を抱き締めていた。
どうすればいい?
彼女の涙を止めるには。
「俺が一生、君を守る」
「えっ」
彼女は涙目で俺を見上げた。
涙は止まったみたいだ。
「もう、君を泣かせない。俺なら君の逃げ場だから君が泣くことはないだろう?」
「どうして今そんなことを言うの?」
「君の涙を見たくないんだ。君には笑顔が似合っているからね」
「ねぇ。一生、守るってどういう意味なの?」
「そのままの意味」
「私が死ぬまで?」
「うん」
「私が死ぬまで私とあなたの関係は幼馴染み?」
「それは、、、」
俺達の関係なんて考えていなくて、答えに困った。
「今は婚約者?」
「えっ」
「だって一生、守るなんてプロポーズでしょう?」
「そうなのか?」
「あなたは私が好きなの?」
「君は?」
「質問を質問で返さないでよ」
彼女は頬を膨らませて言った。
「だって分からないんだよ」
「私も分からないよ」
「でも、君の雑煮は来年も食べたい」
「私もあなたと来年も一緒にお雑煮が食べたいよ」
「来年になれば俺達の関係が変わっているかもしれないな」
「そうね。それならまずは来年まで私を守ってよ。それからまた言ってよ。さっきのプロポーズモドキを」
「プロポーズモドキ?」
「うん。だって今はプロポーズかどうか分からないんだからプロポーズモドキでしょう?」
「そうかもな。しかし、まだ新しい一年が始まったばかりなのに、もう来年の話をするのかよ?」
「いいじゃない。来年が楽しみ」
「そうだな」
彼女はニコニコしながらシュシュを取る。
ポニーテールにしていたサラサラの髪が、彼女の肩へと落ちていく。
その時に彼女の良い香りが俺の鼻をくすぐる。
その時思った。
この香りをずっと隣で感じていたいと。
◇◇
「明けましておめでとう」
彼女が着物姿で俺に言う。
「明けましておめでとう」
俺達は二人で住んでいる家で年越しの挨拶をした。
あれから一年が過ぎた。
「俺は君を一生、守るよ」
「私はあなたに一生、守られるよ」
「好きだよ」
「私も大好きだよ」
そして俺は彼女の左手を握る。
彼女の左手の薬指には婚約指輪が光っている。
彼女は俺の婚約者。
彼女はもう傷つかない。
だって俺が守るから。
俺は彼女の逃げ場。
俺は彼女の安らぎの場。
いつまでもそうでありたい。
だって彼女には一番、、、
笑顔が似合うから。
笑っていてほしい。
お読みいただき誠に、ありがとうございます。
ブクマ登録や評価など誠にありがとうございます。
次のお話は、年を越した後に実家に帰ると妹の部屋に妹ではなく、お世話係りとして可愛い女の子がいた。
主人公は、妹の彼氏が主人公の親友だということも、その親友と旅行に行っていることも初耳だ。
しかし、可愛い女の子は何のお世話係りなのか?




