猫の村の、とある農民。
日名森青戸としての初投稿作品です。なお、この作品はイメージが湧いたものであります。
さっくり、さっくり。鍬を振るって畑を耕す。
すっぽり、すっぽり。雑草を抜く。
ざーざー、ざーざー。水を撒く。
「うん。これでこの畑の分は終わりっと」
一仕事を終えた三毛猫の三毛さんが、腰を逸らして伸びをする。ふかふかの土で盛り上げた畝から伸びる植物は、新年を迎えた後には立派なホウレンソウやタアサイとなるだろう。けど彼にはまだ次は右隣の畑に生るラディッシュの収穫が残っている。
「三毛さーん」
仕事合間の休憩を終えて、ラディッシュの収穫に行こうとした時だった。遠方からの声に振り返る。呼んだ相手は向かいに住むらぐどんさんだ。
「らぐどんさん、釣りのお帰りですか?」
「ええまあ。成果も上々ですよ」
らぐどんさんは肩に掛けたクーラーボックスの中身を見せる。解放された冷気にぶるりと身を震わせながら覗くと釣りたてのワカサギ十数匹がクーラーボックスの中に鎮座していた。夕方にはらぐどんさんの台所で、こんがり揚げられて彼の今日の夕食になるだろう。想像していた三毛さんの口から涎が垂れる。
「どれ、一緒に昼食でも?」
「ええ。ご一緒します」
らぐどんさんと一緒に昼食を取る三毛さん。早速手頃な石に腰かけ、畑の景色を眺めながら昼食のおにぎりをひとつ頬張った。朝早くから握った鰹節のおにぎりは三毛さんの好物だ。
「すっかり成長しましたねぇ。あなたも、この畑も」
「ええ。まったく」
冬の風になびく青野菜を見て声を漏らす。かつては手を付けられていない畑が、これほどまでに実りを与えるようになったのは、ひとえに数年前にこの村に迷い込んだ三毛さんの手腕と、彼に農業を教えたらぐどんさんの教えによるところもある。
「さて、じゃあ私はそろそろ収穫に。後でお届けしますね」
「それはありがたい。漬物にしたらお裾分けしますよ」
「漬物?株と勘違いしてません?」
軽い冗談から、三毛さんとらぐどんさんの笑いが和やかな空気を作った。
また一つ、一陣の風が畑の青菜をふわっと撫でた。
ここは日本のどこかにある猫の村。人間の街では、迷い猫がたまに迷い込んでしまいまうと言われています。その猫は村民から手ほどきを教わり、やがてその猫は住民になる――。
そんな噂が、人間の街で囁かれているのです。
一応付け加えておく補足。
猫の村:日本のどこかにある猫だけの村。なぜか人間は立ち入ることはできず、時折人間の街から猫が迷い込む。数日で二足歩行ができるようになり、言葉も1週間で普通に喋れるようになる。
農村であり、猫元来の気まぐれ気質はそのままなので内政は平和そのもの。時間は猫の1年基準で動いている為に、時間の進みに差がある。
例:猫の村での1年=人間の街での1ヶ月
また、住民は某猫の〇返しのように二足歩行の猫。
三毛さん:本作の主人公的存在。数年前に猫の村に迷い込み、らぐどんさんの教えで農業を始めた三毛猫。人間の街では野良猫であり、気まぐれの散歩でこの地に迷い込んだ。猫年齢4年。
らぐどんさん:三毛さんより長く猫の村に住むラグドールの猫。三毛さんの向かいの家に住んでいる。迷い込んだ三毛さんに農業とかいろいろ教えた猫。釣りが趣味。猫年齢7年。