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最終話

 月日が流れるのは早いもので、母が死んでからすでに十年と少しがたち、その間に色々なことがあった。大学受験、成人式、就職、結婚などなど……。今では母との思い出は、夢のように儚く消えてしまいそうである。

 それでも、たまにあの本を読むと懐かしい気持ちになる。そこには色あせないものがある。そう改めて確認すると、どんなに辛いことがあっても乗り越えられるような気がした。実際それで乗り越えてきたことが多かった。


 



 そして今の自分がいる。






——今といえば、今朝から妻と昨年生まれたばかりの娘を連れて実家に帰省している。

 俺は長時間の運転の後、実家のテーブルでぼうっとしていると、妻がコーヒーを持ってきてくれた。


「運転お疲れ様」

「ああ、ありがとう」

「どういたしまして」


 そう言って彼女は笑った。

俺は、しばらく作りたての温かいコーヒーを飲み、終えると、自分のことに気をかけてくれる妻に対してこう、しみじみと話す。


「俺は君と結婚できて本当に幸せだな」


 と。すると彼女は、


「またあ、褒めたってコーヒーのおかわり以外何も出ないよ」


 と言って、俺の肩にちょっと倒れかかってきた。


「じゃあ、後でそのおかわりをもらおうかな。でもさっきのはお世辞でもなくて本心だよ」

「もう、そんなの分かってるよ。でもありがとう」


 彼女はそう言うと、今度は目線を夕日の差し込む窓の方に移した。


「ねぇ、それはそうとお義父さん嬉しそうだね」


 俺が彼女の目線の先を追うとそこには父と娘の姿があった。そして、久しぶりに見る初孫の可愛い姿が待ち遠しかったのだろう、移動の疲れで寝ている娘の頭を優しく撫でて可愛がっている。俺はそんな姿を見てなんとも微笑ましい気持ちになった。


「ああ、そうだね」


 そう答えると、俺は昔の母を思い出して、こう心の中でつぶやいた。

 

 どうか、これからも家族のことを見守ってやってください、と。


 

 窓から差し込む夕日は、優しく家族を包み込むようであった。


             【完】

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