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アポカリプスの影雄  作者: イズミ
第1章  影雄奇譚―始動―
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1.『ワタシ、キレイ?』

 気がつくと、知らない路地裏のようなところだった。

 空は赤く染まっており、夕暮れ時なのだと悟る。


「なんか……異世界って感じがしねえな」


 周辺の景色を見て最初に出てきた感想がこれだ。

 元から、俺がいたところとは似て非なる世界とは聞いていたとはいえ、目に映る風景はまんま日本である。

 俺は、とりあえず人通りが多そうなところを目指して辺りを散策することにした。


「にしても閻魔のやつめ……」


 俺は、ここに送り出される前の出来事を思い出し、閻魔に怒りを覚えていた――




『さて、やれるだけの準備はしたっす。あとは、瑛人さんの活躍に期待するっす』


『期待ってもな、俺、普通だったんだろ?』


『まあ、実力としてはあっちの世界の一般人に毛が生えたくらいの戦闘力っすね。ただ、瑛人さんの力は独特なものっすから使い方次第では化ける可能性はあるっす。あっちで色々試してみるといいっすよ』


『瑛人さん、最後にもう一度確認ですが――』


『あっちに着いたら、セイラさん――ですよね? レイラさんのお姉さんに会えばいいんですよね』


『はい。セイラは冒険者ギルドで働いていますので、中に入れば会えるはずです』


『ギルドの近くに転送するんで、すぐわかると思うっす』


『ギルドねえ。なんかそんなのが俺の世界と似たような世界にあるってのが未だに違和感感じるんだが』


『そんなこと言ったってあるもんはあるんだから仕方ないっす。前も説明したっすよね?』


『ダンジョンに魔獣だろ。なんか世界観に対してミスマッチしてる気もするが……まあ、少し楽しみではあるよ』


『そうっすね。やることはやってもらうっすけど、楽しんできてくださいっす』


 そう言って、閻魔が前方に手をかざすと、黒がかった紫の禍々しいオーラのようなもおのが渦巻くように現れた。


『それを潜れば、あっちの世界に着くっす。なるべく人目が着かないところに転送するんで、いきなり現れて変な目で見られるようなことはないはずっす。多分』


『おい、そこは確実にとか言ってくれよ。俺やだぞ。転生早々周りから変な目で見られるとか』


『安心してください。冗談っすよ』


『ならいいけどよ……』


『そろそろ時間です。あまり待たせると、セイラに申し訳ありません』


『では、瑛人さん、行ってきてください』


『ああ』


 俺は閻魔の出した禍々しいオーラの中へと脚を突っ込み、そのまま中へと踏み込んだ。

 すると、視界が徐々に薄れていき、閻魔たちの姿が見えなくなっていく。


『じゃあ頼――クシュン!』


 そして、途中まで何か言いかけてた閻魔の声が自らのクシャミで中断され――


『――あ、やば――』


『おい! 今やばって聞こえたぞ! 何だよ! 何があったんだよ!』


 俺の声は、閻魔には届かなかったのか返事が来ることはなく、気がついたら俺は先程の場所に立っていた。



 ――そして、現在に至る。


 あの野郎、ギルドの近くに送るって言ってたのに、それらしきものが一切見当たらない。

 しばらく、周りを見渡しながら歩いてみるが、人に会うどころかいるような気配すら感じられない。


「ん? あれは――」


 さらにしばらく歩いていくと、前方に商店街と書かれた門があるのを見つけた。

 あそこまで行けば、人がいるかもしれないと思った俺は少し早足でそこへと向かった。

 俺の現状はスマホもなければ、死んだときの下がグレーのスウェットに黒のパーカーを着た完全な家着の手ぶら状態。

 服に関しては、閻魔に言えばもう少しどうにかなったかもしれない。

 気を利かせてくれて、流石に靴はくれたし。

 だが、過ぎたことを言ってても仕方がない。

 今は、とにかくなんとしてもギルドに言ってレイラさんのお姉さんに会うこと。

 そうすれば、最低限の衣食住はどうにかなるとレイラさんが言っていた。

 人がいれば、ギルドの場所を教えてもらえるかもしれない。


 そんな期待を込めて、商店街の入口まで来た俺はその期待をすぐに打ち砕かれた。


「まじか……」


 その商店街に立ち並ぶ店は全てシャッターが降ろされていて、ここが商店街として廃れた場所であると瞬時に突きつけられた。

 当然、人の姿はなく俺だけがこの場所にいるのを強調するかのように、影が夕焼けでポツリと伸びていた。


「くそ、どうすっかな……」


 俺は、顎に手を当てて思考を巡らせる。


 ……待てよ? 商店街が廃れていくのって、確か近くに大型ショッピングモールとかが出来るのが原因の一つとかってなんかで見た気がするぞ。

 ってことは、この周辺をもう少し散策していけばショッピングモール的なもの……というか人気がある場所に出られるんじゃないか?


 そう考えた俺は、早速この商店街を通り抜けようと歩き始めた。


 そして、商店街の中心部辺りまで歩を進めたところで、前方から誰かが歩いて来るのが見えた。


 ――あの人に訊いてみるか。


 ギルドの場所がわかれば万々歳だし、そうでなくともこの辺りに何があるうかくらいは訊き出せるだろう。

 そう思い、前方の人に近づいて輪郭がはっきり見える位置まで近づいたところで、俺は思わず立ち止まった。


 ……なんだろう、すごく嫌な感じだ。

 本能が近づくなと言っているかのような感覚。


 というか、よく見ればめちゃくちゃ怪しい。

 手入れがされていないのか、ボサボサの長い髪をたなびかせ、赤いロングコートを纏った女性らしき人物。

 顔は俯いているのでよくわからないが、猫背の姿勢で横に肩を揺らしながらゆったりと歩く姿は不審者そのもので、俺が立ち止まるのと同時にその人物も立ち止まった。


 俺とそいつの距離はおよそ十メートル程といったところだろうか。

 そいつが顔を上げた瞬間、俺は背筋がゾッとした。

 切れ長の目に、目から下を全て覆い尽くすような大きな白いマスク。

 子供の頃に、それを知ってからはしばらくの間登下校は人気のないところはよく避けていた。


 だが、俺は大人だ。

 いくら異世界だからといって、そんな都市伝説的な……いや、餓者髑髏ってのがいる時点でそんなことを考えるのは野暮か。

 それに……俺の気のせいでなければ……。


「ねえ……」


 俺が固まって動けないでいると、そいつが声を掛けてきた。

 多分、次の言葉はこうだ。


「ワタシ、キレイ?」


 その言葉を言い終わると同時に、俺は背を向けて全速力で走り出した。

 見た目、今の言動、そして、あるはずの()()()()()()()ことといい、あれ、絶対そうじゃん!


「マアアアテエエエエ!!」


 俺が駆け出して、すぐにそいつは俺を追いかけてくる。

 後ろを振り向くと、そいつはマスクを顎まで下げ、その耳元まで裂けた大きな口を開けてすごい形相だった。


 口裂け女。

 俺の世界では、有名な都市伝説だったが、この世界ではどうやら実在するらしい。

 人影が見えない時点でもう人外だとわかっていたのに、すぐに逃げ出せなかった。


「はあ、はあ……!」


 今までに味わったことのない類の緊張感からか、いつもより息切れが早い。

 そして、五十メートルを六秒後半(測定時高三)で走る俺に全く距離を離されることなく追いかけてくる口裂け女。

 どうやら、都市伝説に違わぬ俊足の持ち主らしい。

 というかやばい。なんか徐々に距離を詰められてる気が……!


 口裂け女の弱点ってなんだっけ……確かべっこうあめが好物だっけ。

 けど、そんなもん持ってねえし……そうだ!


「ポマードポマードポマードポマードポマードポマード!!!」


 口裂け女はポマードが口に出すだけで嫌がる程苦手だったはず!

 これなら……!


「テメエエエエ、よくもそれを口に出したなっ!! ぶっ殺してやる!!!」


「うおおおおおおおお!!」


 めっちゃ怒ってる!

 話と違うじゃねえか!


 怒りの形相で顔が恐ろしく恐ろしいことになっている口裂け女は、さらに走る速度を上げて俺との距離を詰めてきた。


 なら……!


 俺はわざと走る速度を緩めた。

 そして、口裂け女との距離が二メートル程になったところで、俺は体勢を低くして踵を切り返し、伸ばしてきた口裂け女の手をかわした。


「なっ!」


 口裂け女が呆気に取られている隙に、そのまま逆走して、手頃な電柱に目をつけた。


 まだ使うのは慣れてないが、そんなこと言ってる場合じゃねえ!


『いいすか? 自分の体の一部と思うことっす』


 閻魔の言葉を思い出しながら、俺はこの世界で初めて能力を使った。


「”影鞭(シャドーウィップ)”!」


 俺がそう叫び、右手をかざすと袖の中から一本の影が鞭のように繰り出され、電柱の中段くらいの高さのところで巻き付かせた。

 そして、影が縮むイメージを頭の中ですると、それに合わせて実際の影鞭(シャドーウィップ)も縮んでいき、俺を電柱の巻き付けたところまで引き寄せ、そのまま電柱の足場に片足を乗せて、片手で掴む格好でしがみついた。


 口裂け女は、能力を使った俺を見て、驚いた表情を一瞬見せ、立ち尽くしていた。


「ふう……」


 なんとか上手くいった。

 あとは、電柱から屋根を伝って逃げていけば、どうにかなりそうだ。

 口裂け女がここまですぐに追いつける方法はないはず――。


 そう思って、すぐに逃げようとすると、口裂け女が懐からおもむろに何かを取り出してきた。


「何だあれ……?」


 空が、夕焼けのの赤と夜の黒が混じり合って徐々に暗くなってきているため、一瞬では何かわからなかったが、口裂け女がそれを大きく振りかぶったところで、それが何なのか察しがついた。


「鎌!?」


 それは、草取りなんかでよく使われるような鎌だった。


 まさかあれを投げる気か!?

 あんなの食らったらひとたまりもないわ!


 そう思い即座に屋根に飛び移ろうとした瞬間だった。


「”鎌鼬(かまいたち)”!」


 口裂け女が鎌を空で斜めに振り下ろした刹那、俺の登っていた電柱が真っ二つに切れた。


「嘘だろ!」


 俺は電柱とともに、地面に落ちていき、電柱の鋭い切り口が地面に刺さると同時に全身に衝撃が走る。


「ってえ……!」


 衝撃で電柱から落ちた俺は、バチバチと漏電している電線にビビりながら辺りを見渡す。


 くそ、これ弁償しろとか言われないよな。

 てか、あんなんありかよ。


 そう、口裂け女が使ったであろうあの謎の斬撃。

 ”鎌鼬”って言ってたところから察するに、風の刃とかそんな感じのやつだよな。

 異世界の妖怪、めちゃくちゃじゃねえか!


 って、そんなこと考えてる場合じゃねえ。


「早くこっから――」


 逃げないと。

 それを口に出す前に、俺は固まってしまった。

 俺の目と鼻の先に、見下すように佇む口裂け女。


 口裂け女はニヤリと笑みを浮かべると、再び問いかけてきた。


「ねえ、ワタシ、キレイ?」

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